もう少し真面目に合同で章(アキ&ブリザラ)編 10 愛を知る者と知らざる者
ガイアスの世界
支援を司る創造主の情報の改ざん
自我を持つ伝説の本、ビショップによって支援を司る創造主の情報は改ざんされ他の自我を持つ伝説の武具達は、創造主の情報を宿すロンキに対し嫌悪や敵対の意思を見せるようになってしまった。
これは以前、ビショップがキング達に宣戦布告したことが発端となっている。だが自分を作りだした創造主の情報を安易に改ざんすることなどできるのだろうか?
キング達は、ビショップの能力ならば出来ると考えているようだが真実は創造主とビショップにしか分からない。
もう少し真面目で合同で章(アキ&ブリザラ編)10 愛を知る者と知らざる者
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
アキが放った『闇』の力は轟音を立てながら大空を突き抜けていく。周囲にいた者達は勿論、ガウルド中の人々がこの黒い光を目撃していた。そ当然の中にはヒトクイの王、ヒラキ王の姿もあった。
― ヒトクイ ガウルド ガウルド城 王の寝室 ―
「……縛り付けるのも限界か……誰かいないか?」
寝室の窓から天を貫く『闇』の力を見つめていたヒラキ王はそう呟くと、寝室の扉の前に立つ兵に声を
かけた。
「入ります!」
威勢のいい声で入室を宣言するヒトクイの兵士はヒラキ王がいる寝室の扉を開けた。
「うむ」
ヒラキ王が頷くと扉の前に立っていたヒトクイの兵士は一歩前に足を出し寝室へと入る。
「耳を」
そう言いながらヒラキ王は自分の前に直立不動で立つ若いヒトクイ兵士を手招きする。
「あ……はい……」
まだ若く、兵士としての職務にも慣れていない若いヒトクイ兵士はヒラキ王のその言葉に緊張しながらゆっくりと近づいていく。椅子に座るヒラキ王の高さに合わせ膝をつき耳を傾ける若いヒトクイの兵士。
「……」
若いヒトクイの兵士の耳に顔を近づけ囁くヒラキ王。
「……ハッ! 分かりました、失礼します」
何かの指示を受けた若いヒトクイ兵士は、ヒラキ王に敬礼をすると即座に寝室出て行く。
「……少し時間はかかったがお前の片割れとは接触できたようだ……あとは彼らの好きにさせる……それでいいのだろう? 創造主……」
若いヒトクイの兵士が寝室を去った後、視線を再び窓の外に向けるヒラキ王は、まるで友人と話すように呟いた。
― ガウルド 中央街 旅支度通り ―
アキの放った『闇』の力は周囲に地響きを起こす程の衝撃を広げていた。もしアキの放った『闇』の力が上空に放たれずそのままブリザラへと向けられていたら、今この一帯は黒い炎によって焼き尽くされていたことだろう。
「……はぁ……」
その威力を知っているブリザラは攻撃の軌道が逸れたことに安堵する。
「……おい、クソメイド……お前……」
何か言いたいことがあるのかアキは自分の前に立つピーランを睨みつける。
「……二度目は無い……」
「ッ!」
アキの胸ぐらをつかみ自分に引き寄せたピーランはアキの耳元でボソリとそう呟くと、まるで汚い物でも触るように即座にアキを突き飛ばした。
「その……ピーラン、ゴルルドに行く方法があるってどういうこと?」
二人の行動に疑問を持ちながらもピーランの言葉の真意を尋ねるブリザラ。
「……言葉通りです」
ブリザラの問に対し、何事も無かったように答えるピーラン。
「……」
そんなピーランの姿をじっと見つめるアキ。
(……あいつ……黒竜を纏ったあの攻撃の軌道を上にずらしやがった……)
一見、ただその場に立っていただけのように見えるピーラン。しかしその実は常人では捉えることが出来ない速度で黒竜の力を纏った攻撃の軌道を逸らしていたピーランのその動きに表情には現さないが内心驚くアキ。
《……ありえない、本調子では無いとはいえ黒竜の力を纏ったあの攻撃の軌道を逸らすなど、ただの人間に出来る芸当ではありません……》
ピーランの動きに驚いていたのはアキだけでは無い。アキの体に纏われている自我を持つ伝説の防具クイーンもであった。
負の感情を糧にして力とする黒竜に怒りを吸われ理性を失いかけていたアキの攻撃は本調子では無いにしても旅支度通り一帯を一瞬にして消し炭にする程の威力は有している。それを防げるのは、既に人間とは言えない力を持つ強者と呼ばれる存在か、自我を持つ伝説の盾キングぐらいである。
故にピーランの行動はアキやクイーンにとって驚きでしかなかったのだ。
「私の故郷……忍が使う抜け道があります……」
驚きを隠すアキとクイーンを横目にブリザラの問に対してそう答えるピーラン。
「……忍……ピーランの本当の戦闘職……ヒトクイの隠密部隊……」
ピーランの言葉に僅かに表情に影が落ちるブリザラ。
ブリザラが忍という存在を知ったのは、ピーランがブリザラのお付兼護衛の役目になった頃だった。自分の命を救ったブリザラに対して、ピーランは忍のことについて包み隠すことなく全て話していた。
ヒラキ王によって統一が成されたヒトクイ。争いは無くなりヒトクイはガイアスで1、2を争う程の平和な国と言われる程になった。だが未来永劫に続く平和は存在しない。平和が続くことは無いと考えていたヒラキ王は、その平和を守る為、平和という光の裏に一滴の影を落とした。例えそれが平和とはかけ離れた行為だとしてもヒラキ王は光の裏に堕ち影となった彼らにヒトクイの平和の裏の部分を託したのだ。それがヒトクイの影に身を堕とした一族、ピーランの戦闘職でもある忍の使命であるとブリザラはピーランから聞かされていた。
「はい、我々忍が人の目から逃れ任務をこなす時に使う隠し通路、その通路ならばヒトクイの兵達の監視を欺き、町の外に出ることが可能です」
淡々と忍が持つ隠し通路の事をブリザラに話すピーラン。
「……」
そんなピーランの姿に複雑な表情を浮かべるブリザラ。
人目に触れることも称賛されることも無く、粛々と汚れ仕事をこなす一族に疑問を抱き、死を覚悟して忍の里を抜け出し今に至るピーラン。その心境を聞かされて知っていたからこそ、ブリザラは淡々と隠し通路について話すピーランを心配していた。
「……その通路を使えば……この町を出られるんだな……」
不安げな表情でじっと黙りこむブリザラに変わりピーランに最終確認をするアキ。しかしその表情は到底何かを人に聞くと言ったものでは無い。明らかにピーランに対してアキは強烈な戦意を向けていた。
ムハード砂漠の地下にあるダンジョンで、アキと戦うべく創造主によってその力を引き出されたピーラン。その力は彼女自身の未来の可能性であり、いわば十数年か数十年後に彼女が持つだろう力の可能性であった。創造主によってその未来の可能性を前借する形で、ピーランは現在サイデリーの最上級盾士、ガリデウスを凌ぐ力を得たと考えていたアキ。そればかりか人間と『闇』の混血であるランギューニュに迫る力を持っていると推測したアキは、ピーランを強者と認めざるおえなかった。しかしアキが強者と認めたのはあくまで人間の領域の話。本調子では無いとはいえ、人にはどうすることも出来ない災害とも言える力を持つ黒竜を相手にした場合の話では無い。
だがピーランは、そんな災害と言ってもいい黒竜の力を軽々と逸らしたのだ。災害を前にしても対等以上に渡りあえるピーランは既に人間の域を超えた力と言ってもいい。ただの人間であるガリデウスや人間と『闇』の混血であるランギューニュよりも遥かに強い力を隠し持っていたピーランに対してアキは計り知れない感情を抱いていた。
「ああ、町の外に出ることは可能だ」
アキが相手ということでかなり適当に答えるピーラン。
「ま、待って……ピーラン、その……本当に大丈夫なの? ……里の人とかに鉢合わせしたりしない?」
忍が使う隠し通路、当然、任務に向かう為に隠し通路を利用する忍に出くわす可能性はあると考えたブリザラはその事をピーランに尋ねた。
「……ああ……忍は情報収集の為、日夜ヒトクイ中を飛び回っているから鉢合わせする可能性はある……でも大丈夫だ」
その表情を見ればブリザラが何を言いたいのか分かるピーランは、ブリザラを安心させようと笑みを浮かべそう答えた。
「……もし里の人達と鉢合わせになったら、ピーランは里の人達に追われることになるんだよ?」
何がおかしいのかとブリザラは真剣な表情で笑みを零すピーランに食い下がる。
「……ああ、そうなるな……でも大丈夫……ブリザラ、お前も見えていたんだろ? 私が道化を演じている間にあの男の攻撃を逸らしたことを……」
そう言いながらその視線をアキに向けるピーラン。
「……」
そこには不服そうにピーランを見つめるアキの姿があった。
ブリザラは目がいい。未だその力が何であるのかははっきりとしないが、ブリザラの目には何かとてつもない力が宿っていることに気付いていたピーラン。当然自分の動きがブリザラに丸見えになっていることは分かっていた。
「……黒竜の力を纏ったあの男の攻撃を逸らすだけの実力が今の私にはある、今の私なら例え父上やおじいさまが私の前に現れたとしても、私は負ける気がしない」
不服そうに自分を見つめるアキから視線を外しもう一度ブリザラに視線を向けたピーランの目には絶対的な自信がみなぎっていた。
「駄目ッ! ……絶対にピーランは一族……家族と戦っては駄目ッ!」
黒竜の力を逸らす程の実力を持つピーランは確かに忍を纏める一族の長である父親や祖父よりも上なのだろうと思うブリザラ。その自信に満ちたピーランの目を危うく感じるブリザラ。
自分の為ならば今のピーランは躊躇なく家族も殺めるだろうことはこれまでの行動で何となくブリザラは察していた。だが自分の為にピーランが人を殺めることをブリザラは望んでいない。それが家族ともなれば尚更だ。ピーランが肉親を殺す姿などブリザラは見たくもない。
「……ブリザラ……」
「……家族は仲良くしなきゃ駄目……戦ったり、殺し合ったりしちゃ駄目……」
平然としているピーランの代わりとでも言うようにブリザラは自分の胸に走る痛みを抱えながらピーランがやろうとしている事を否定する。
「……はぁ……流石、砂糖よりも甘い国のオウサマのお言葉……反吐がでる……お前の理想が通じるのはお前の国だけだ」
黙ってブリザラの言葉を聞いていたアキは呆れたようにため息を吐くとそう吐き捨てる
「……いい加減、現実を見ろ!」
国の全て人々が家族であると思い今まで過ごしてきたブリザラとは対象的に、物心ついた時には飲んだくれの老人が唯一の家族であったアキ。だが唯一の家族であったその老人にも裏切られたアキにとって家族とは他人と変わらない。ブリザラが想う理想は所詮サイデリーだけでしか通用しないのだとアキはブリザラに現実を突きつけた。
「それでも! 私は家族には仲良くあって欲しい……私はそんな現実がそんな世界がいい!」
だがアキの言葉にブリザラは怯まない。今までにない程の強い口調でそれでもとアキの言葉に反論するブリザラ。
「……ちょ、ちょっとまて……あれ? 今は私の一族や家族の話をしていたんじゃないのか? どうして話がそんなに大きくなる!」
自分の家族の話をしていたはずがなぜここまで大きく逸れたのか理解に苦しむピーランは、言い合う二人の間に割って入った。
「……私は自分の理想を諦めない!」
「勝手に自分の理想を他人に押し付けるな!」
理想と現実、相反する考え。大きな家族の愛を知るブリザラと家族一人の愛すら知らないアキの考えは平行線のまま交わることは無い。アキとブリザラは互いを睨みつけると顔を見たくないというように顔を逸らした。
「えーと……と、とりあえず……隠し通路に向かうってことでいいのかな? ……」
これまでアキが不機嫌であった事は多くあるが、ブリザラがここまで不機嫌になったことは無く、どうしていいか分からなくなったピーランは、当初の目的であるゴルルドへと繋がる隠し通路がある場所へ向かうということでいいのかと二人に尋ねた。
「……」
「……」
しかしアキもブリザラもピーランの言葉に答える様子は無い。
「えー」
本当にどうしていいのか分からないピーランは二人の様子を観察する。
「……」「……」
ふて腐れながらもブリザラとアキはピーランの後ろに移動する。
「……はぁ……なんやかんやで頑固なところは似ているなこの二人……」
どうやら隠し通路へ向かう意思はあるようだと理解したピーランは何ともいたたまれない表情を浮かべながらゴルルドへ通じる隠し通路がある場所へと歩き出すのだった。
ガイアスの世界
忍の専用通路
ヒトクイの国専属職に認定されている忍。その存在は極秘とされ、ヒトクイに住む者達ですら知っている者は少ない。
その仕事柄、人目に付く事を嫌う忍はヒトクイのあらゆる場所に秘密の通路を持っている。数百年かけて作られたと言われるその通路は、忍の極秘の一つとされ門外不出とされている。その為その通路の存在はヒラキ王ですら知らない。と、忍達は思っているようだ。