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もう少し真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)7 鍛冶師の執念

ガイアスの世界


 猫病


 ガイアス全土に広がる奇病、猫病。


 発生源は猫や猫獣人で、その症状は猫のことしか考えられなくなるというもの。症状には段階があり、最初は過度な接触、最後は猫のことしか考えられなくなる思考停止状態。

 しかし一部ではこれは病気では無く単なる猫好きの奇行だという意見もありはっきりしたことは分かっていない。

 命に関わる病気では無く酷い実害もそれほどない為に、この病気にかかった者は放っておくことが多いようだ。

 一番の被害者は猫や猫獣人で彼らは猫病にかかった人間に苦笑いだと言う。






  もう少し真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)7 鍛冶師の執念




 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




「そんなに驚くことないニャ!」


アキとキングの驚きの声に猫獣人特有の両耳を塞いだロンキは、なぜそこまで驚くのかと抗議する。


「私は鍛冶師、そこに手入れや破損している武具があれば、手入れしたい、修理したいと思うのは性なのニャ!」


ロンキは自分の言動の意味を語り、それが鍛冶師としての性だと言い切った。


『そ、そんな清い理由なはずがない! 毛玉、あなたからはおぞましさを感じます! あなだか私達にしようとしている事は大体見当がつきます!』


『そうだ! 我々に一体何をする気だ毛玉!』


ロンキが発するおぞましい気配の正体が、鍛冶師が持つ武具に対しての探求心であることを理解したクイーンとキングは、自分達が手入れ修理されるだけで済むはずがないとその本心をロンキに問い質した。


「……確かに下心が無いと言えば嘘になるニャ、自分が作った以上の武具を前にしたら当然その武具をいじってみたくなるのも鍛冶師の性ニャ」


モジモジと恥ずかしがりながらそう自分の下心を白状するロンキ。


『い、イジるだと……ええい! 我々をいじるなど言語道断! 王よすぐここから立ち去るのだ!』


『マスター、今だけは黒竜ダークドラゴンの力を解放する事を許可します! 邪悪な気配が漂うこの場所を黒竜ダークドラゴンの炎で塵一つ残さずに消滅させてください!』


ロンキのイジるという言葉に過敏に反応を示すキングとクイーンは、興奮したようにそれぞれ自分の所有者へ自分の思いのたけをぶちまける。


「……」


先程までロンキの言葉に一緒に驚いていたアキは、過敏に反応するキングとクイーンの言葉に先程とは逆にやけに冷静な表情を浮かべていた。


「ふ、二人とも落ち着いて、特にクイーンさんは言い過ぎです!」


それとは対象的にブリザラは興奮するキングとクイーンを必至でなだめた。


『いいや、クイーンの言葉はやり過ぎなどでは無い! 私も許す小僧! 思う存分黒竜ダークドラゴンの力を使ってこの毛玉を消し炭にしろ!』


『マスター! 私は絶対にこんなどこの馬の骨とも分からない毛玉に触れられるのは嫌です、お願いです私達を守ってください!』


しかしブリザラのなだめに一切耳を貸さないキングとクイーンは、興奮したようにロンキから自分達を遠ざけるよう懇願した。それほどまでにキングとクイーンはロンキという存在を恐れているようだった。


「私は馬じゃないニャ、猫ニャ」


「猫ッ! 猫ッ!」


クイーンの言葉に今はどうでもいい事を挟むロンキ。それに反応するように猫病を患い、ブリザラのお付兼護衛役が今は見る影もないピーランが大いにはしゃぐ。


「……お前の言い分は分かった、だが解せない事がある……俺やそこのオウ……女が持つ武具は確かにお前が作る武具よりも遥かに性能が高い、なんなら伝説と呼ばれる類の武具だ」


騒ぎ立てるキングやクイーン、ピーランを横にアキは冷静な口調でロンキに話しかけた。


「……そんな代物をお前が修復出来のか?」


 ガイアスに現存する古の時代に作られた伝説と名の付く武具。現代では再現不可能な技術で作りだされたとする伝説の武具は当然、修理にもその再現不可能な技術を用いなければならず、完全な修理、修復を行うのは現代では極めて難しいとされている。その為伝説の武具を持つ冒険者や戦闘職は、伝説の武具を維持するのに苦労している者もいるようだ。

 しかし実際の所、ガイアスに出回る伝説の武具の殆どが通常世に出回っている武具の十倍近くの強度を持つ為、殆ど手入れをする必要が無いというのが実情で、伝説の武具の維持に苦労している者がいるとすれば、それは運が悪いかその伝説の武具が偽物であるかの二択しかない。

 そんな伝説と名の付く武具事情を知るアキは、目の前で大口を叩くロンキにそんな代物を手入れ修理できるのかと尋ねた。


『そ、そうだ! 小僧の言う通り、伝説の武具と言われる我々をたかが毛玉の鍛冶師が手入れ修理できるはずがない!』


アキの意見に同調するキング。巷に存在する伝説と名の付く武具でも手入れ修復することは難しいのに、それ以上のの価値を持つ自我を持つ伝説の武具である自分達をロンキが修理できるはずがないと言い切った。


『そうです! それにそもそも私達は手入れ修理されるような状態にはありません、あなたは本当に一流の鍛冶師ですか?』


そもそも自分達は手入れ修理されるような状態には無いと言い切るクイーンは、鍛冶師と自称するロンキの目を疑う。


「……」


クイーンの言葉に僅かに目を細めるアキ。


「ふふふ、私を舐めてもらっては困るニャ」


だが鍛冶師としての意地なのか、それとも性なのか、あれこれ言われたにも関わらず怖気づく気配の無いロンキは不敵に笑みを浮かべ目を輝かせた。


「伝説、しかも君達が所有している自我を持つ武具を私は一度手入れ修理したことがあるニャ」


そう自信満々に言い切るロンキ。例えそれが嘘偽りだとしてもお宝を前にした今のロンキには関係のないこと。


『『「「なっ! 何ィ!」」』』 「猫ッ!」


ピーランを除くその場にいたアキやブリザラ、自我を持つ伝説の武具キングやクイーンはロンキの発言に驚きの言葉を上げる。


『いつだ! いつその自我を持つ武具と出会った!』


驚きの余韻が残ったままキングは手入れ修理したという自我を持つ武具にロンキがいつ出会ったのか尋ねた。


「えーと、うーん、二、三週間前だと思うニャ……」


日付や時間などあまり気にしないロンキはうる覚えにそう語る。


『待ってキング、冷静になって……私達を手入れ修理することが出来る存在なんて今のガイアスには存在しないはず』


自分達を手入れ修理できる存在など現在には存在しないと分かっているクイーンは、当然ロンキの発言を疑わしく思い、冷静さを失っているキングを止める。


『た、確かにそうだ……』


クイーンになだめられ冷静さを取り戻すキング。


『……もしあなたの言葉が正しいと言うのなら、その自我を持った武具が何だったのか言ってみなさい』


現在ガイアスに存在する自我を持つ武具は、防具、盾、本、武器の四つ。この中で鍛冶師と縁の無い本を除外すれば残るのは武器のみ。もしここでロンキが武器以外のものを口にすれば、その発言が偽りであることが証明される。そう思ったクイーンはロンキにどんな武具を手入れ修理したのか尋ねた。


「武器だニャ! 拳士の青年が持っていた打撃用手甲バトルガントレットだったニャ!」


『『なッ!』』


クイーンの思惑を裏切るように即答するロンキはしかも正解を引き当てた。その言葉に驚きの声をあげるクイーンとキング。


「……武器か……クイーンどうなんだ?」


クイーンやキングの様子で大体の答えは想像できるアキは一応念のために尋ねた。


『……間違いない……私達の同胞です……』


嘘偽りだと思っていたロンキの言動。しかしそれが事実だということにショックが隠しきれないクイーン。


『で、でも、もしそれが本当なら私達と同様にポーンもこの毛玉の気配を嫌ったはず』


納得せざる負えない状況、しかしそれでもその状況を受け入れられないクイーンは自分達と同様にロンキから放たれる気配を感じていただろう同胞ポーンが手入れ修理を受け入れるはずがないと主張した。


「ああ、うん、最初相当に嫌がられたニャ! でも拳士の青年の説得で修理の約束をしたニャ!」


「ん?」


ロンキの言葉に疑問を抱くブリザラ。


『……何とポーンの所有者は非道なんだ』


『酷い、酷すぎる』


嫌がるポーンの意思を無視し手入れ修理を行わせた所有者の所業に憤りを感じるキングとクイーン。


「酷いって、酷いニャ……ちゃんとするニャ!」


なぜここまで自分の鍛冶師の腕を疑われているのか理解できないロンキはキングやクーンの言動に抗議した。


「……ねぇ、ちょっと待って!」


キングとクイーンとロンキのやり取りについていけず今までずっと話を聞くことしか出来なかったブリザラが突然声をあげた。


「何にゃ?」


色々と酷いことを言われてきたがキングやクイーンを手中に収める、いや手入れや修理をすることが出来るようになるまであと一押しと考えていたロンキは、表情をだらしなく緩めながら突然声をあげたブリザラに視線を向けた。


「……最初、自我を持つ武具を手入れ修理したってロンキさんは言っていたけれど……話を聞く限りだと約束を取り付けただけで、手入れ修理はしていないような感じに私はきこえたのだけど……」


「あ……」


意図としない声が漏れ思わず口を両手で塞ぐロンキ。

 ブリザラは炉ロンキの言葉の矛盾に気付いていた。そうロンキはこの場にいる者達に嘘を付いていた。確かに自我を持つ武具、伝説の武器ポーンに出会っていたロンキ。手入れ修理の約束はしたものの、実際に手入れ修理はまだしていなかったのだ。


「……ほほう、俺達に嘘を付いたのか?」


そう言いながら悪い表情でロンキを見つめるアキ。


「い、いや、その、これは……そ、そう! ガイアス一の鍛冶師が手入れ修理の約束を取り付けたとなればそれはもう手入れ修理をしたも同義ニャ! う、嘘はついて無いニャ!」


どう聞いても苦しい言い訳でしかない言い訳を口にするロンキ。


「はぁ……」


ロンキの言い訳にもなっていない発言に呆れるアキ。


「まぁ、兎に角だ、クイーン達のお仲間がこの猫獣人と接触していたことは確かのようだ……クイーン、消息を絶っていたお仲間が健在でよかったな」


呆れた視線をロンキに向けていたアキはその視線を同胞の消息を心配していた自分が纏うクイーンに向けると僅かに優しい口調でそう言った。


『は、はい……でずか依然彼の反応はありません……』


しかしアキの言葉に対して少し暗い声が返答するクイーン。ポーンの消息が分かったことは嬉しかったが、同胞が放つ特有の気配を未だに感じ取れないでいたからだ。


『おい、毛玉、ポー……いや我々の同胞が何処に行ったか分かるか?』


ロンキの発言の半分が正しいと分かったキングは、未だ消息が分からない同胞の行方を尋ねた。


「うーん、確か月が赤く染まる前だったから……ニャァァァ……」


そこまで口にしてロンキの口が吊り上がる。


「……教えてもいいけど、それ相応の対価を私は要求するニャ……」


『なっ!』


『まだ言うか、この毛玉……』


キングやクイーンからみれば、それはおぞましい表情を浮かべているように見えるロンキ。そのロンキの執念と言えばいいのか、鍛冶師としての貪欲さにキングとクイーンは呆れた。


「どうだろう、君達が欲している情報を私が提供する代わりに、君達の武具さん達をイジ……手入れ修理させてくれないかニャ?」


キングやクイーンに直接言っても自分の意見は通らないと考えたロンキは、交渉相手を所二人の所有者であるアキとブリザラに変えた。


『王よ話に乗るな!』


『マスター! 交渉に乗っては駄目です!』


自分達の同胞であるポーンの所在は気になるが、それ以上に自分達の体を触られる事を拒むキングとクイーンは、交渉に乗るなとアキとブリザラを止める。


「……」


口を閉ざしたまま、じっとロンキを見つめるブリザラ。


『な、何を考え込んでいる王よ、もしこの毛玉にいいようにいじられて我々の目的が果たせなくなったらどうするんだ!』


 目の前のロンキの交渉に乗り、ポーンの所在を掴めたとしても、自分達がボロボロになれば、試練は愚かその先に待つビショップやその所有者の野望を止めることが出来なくなると言い聞かせるキング。


「……キング、本当にそれでいいの?」


『ああ、構わない、ポーンの所在は分からなくとも生存していることは確認できた、それだけで十分だ! この毛玉と交渉する必要は無い』


ブリザラの問に対し再度ロンキとの交渉を拒むキング。


「お前はどうなんだクイーン? 仲間の所在が分からなくてもいいのか?」


『私もキングと同意見です……連絡は付きませんが、ポーンは自分の成す事はしっかりと理解しているはずです、交渉は不要です』


自分が成すべき事を理解しているはずとポーンを信じるクイーンはキングと同様にロンキとの交渉を拒んだ。


「だ、そうだ……猫獣人……いつも冷静なこの二人がここまで取り乱している……それだけお前には信用が置けないってことだろう、そんな訳でお前との交渉は決裂だ」


クイーンを尊重するようにアキは交渉を受けない意思をロンキに伝えた。


「……はい、私もキングの意思を尊重しようと思います……猫さん、ごめんなさい」


律儀に頭をさげロンキに謝るブリザラ。


「……残念だニャ……でもここまで拒絶されちゃ仕方ないニャ……諦めるニャ……」


残念そうに肩を落とすロンキ。


「よし、もうここに用は無い、行くぞオウ……ブリ……女ッ!」


ロンキが居る手前、ブリザラを何と呼んでいいか分からず呼び方に戸惑うアキはそう言うと店の扉へと向かって行く。


「あ、ハイ、それじゃお邪魔しました」


そう言いながらブリザラは猫病にかかったままのピーランを引っ張りアキの後を追う。


「ああ、そうニャ……出会った記念に最後サービスで一つだけ情報を教えるニャ……どうやらゴルルドに何かがあるようだニャ……」


そう言いながら店の奥へと消えていくロンキ。


「はぁ! ありがとうごさいます」


店の奥へと消えていったロンキに深々と頭を下げるブリザラ。


「チィ……結局言うんだったら最初から言えばいいものを……」


猫獣人の特性である気まぐれ気分屋の一面を見たアキは面倒臭いという表情を浮かべ悪態をついた。


『ゴルルド……山岳地帯の町か……』


『……キング! あの近くにはポーンが隠されていたダンジョンが!』


何かに気付いたようにキングとクイーンはゴルルドやその近くにあるダンジョンの話を始める。


「おーお、猫自獣人が離れたら元気になりやがって……」


自分達には感じとれない禍々しい雰囲気を本当にあの猫獣人から感じ取っていたのだと二人の白熱する会話から感じ取るアキは、ロンキが向かった店内の奥を見つめる。


「……?」


すると店内の奥、薄暗い場所から光る二つの物体が見えた。それはまるで視線のようにこちらを見ているようにも感じるアキ。


「は、ははは……まさかな……」


僅かにキングやクイーンが抱いていた禍々しさを感じたような気がしたアキは、苦笑いを浮かべながら店を出て行く。


「やっぱりあの猫さん、いい人だったな」


今までずっと頭を下げていたブリザラは顔を上げるとどこか満足そうにそう言いアキの後を追うようにしてピーランを引っ張りながら店を後にするのだった。



 人気の無くなった日々平穏、旧本店店内に再び姿を現すロンキ。


「……私は諦めないニャ……」


そう言いながら再び暗い店の奥へ姿を消していくロンキ。その言葉には鍛冶師としての執着、執念、武具に対しての探求心が全て籠っているようだった。






ガイアスの世界


 鍛冶師の探求心


 商人職でありながら戦闘職としての一面も持つ鍛冶師。自らダンジョンへと潜ることも多い鍛冶師は冒険者と肩を並べる探求心を持っている者が多い。しかしその探求心が向けられるのは冒険では無く、ダンジョン内にある鉱石。

 ダンジョンの奥に何が待っているかなどはどうでもよく兎に角、どれだけ珍しい鉱石、使いやすい鉱石が手に入るかということに神経をとがらせている。

 鍛冶師の探求心は鉱石以外に、他の鍛冶師が作った武具にも向けられる。自分よりも高い技術が使われた武具、自分の発想には無かった仕組みを持つ武具。そんなものを目にすると鍛冶師は探求心を燃やし、その技術や仕組みを解明しないではいられなくなるようだ。

 そのためしばしば周囲のことがおろそかになり暴走する者達もいるようで、度々鍛冶師の間では度を越えた喧嘩が繰り広げられたりもする。




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