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もう少し真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)6 変態鍛冶師の思惑

 ガイアスの世界


 日々平穏本店の店員


  世界中に支店がある日々平穏。人気有名店である為、ガウルド本店には毎日千人以上の客が訪れる。そんな多くのお客に対応するべく、本店の店員は店内店外問わず様々な武具の情報を頭に叩き込んでおりお客のどんな事にも対応できるようになっているそうだ。

 接客も丁寧かつ明瞭に子供から老人、新米から熟練まで全ての人々に対応できるよう訓練されている。しかし本店の店員が本当に凄い所はここては無い。

 武具を取り扱う店なのだから当然店員もその武具を扱えなければならない。という考えから、本店の店員の半分以上は現役もしくは元冒険者、戦闘職になっている。

 実戦を経験している店員自らが武具の良し悪しを直接伝えてくれるようだ。

現役もしくは元冒険者、戦闘職の店員が居る為防犯も万全で、今までに起きた強盗や窃盗は全て撃退されているという話だ。

 その中でも本店店長、日々平穏の事実上のトップであるイーヤンと在庫整理兼用心棒であるドンメスは日々平穏の最強店員である。


 





もう少し真面目で章(アキ&ブリザラ編)6 変態鍛冶師の思惑




 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 ガウルド中央街の最北に位置する旅支度通り。旅に出る前の冒険者や戦闘職が旅をする前に立ち寄ることが多いことからそう呼ばれるようになった旅支度通りは、本来ならば人の往来が激しい。店の店主と少しでも安く商品を手に入れようとする冒険者や戦闘職の声が、通りに賑わいをもたらすのだ。しかし今アキが立つそこは、賑わいなど嘘であるように静寂に包まれている。そればかりか旅支度通り自体が幻であったかのように店や人々の姿は無く更地になっており唯一あるものと言えば、ガウルドに立つ建物や旅支度通りに並ぶ店と少し違う雰囲気を持った小さな建物がポツリとアキの前に立っているだけであった。

 今まで旅支度通りに居たのにも関わらず、まるで別の場所に飛ばされたような感覚。アキが感じたその感覚は、何者かが展開した結界による認識阻害による影響であった。

 何のために旅支度通り全体に認識阻害を与える結界を展開したのか、理由は定かではないが、突然目の前に姿を現した建物の中にその答えがある事を確信しているアキは、躊躇することなくその建物へと向かって行く。


「……日々平穏?」


アキが向かった物の玄関先には防具屋と書かれた看板が立てかけられており、日々平穏と店名が記されていた。

 日々平穏と言えば世界各地に支店が存在する武具を取り扱う名店である。そんな名店がガウルドの中央通りのような人々の行き来が激しい場所に店を構えるならともかく、周囲は更地で、人々の往来は愚か気配すら無いこんな場所に店が存在していることに疑問を抱くアキ。だがアキの疑問はそれだけでは無い。日々平穏は、武器と防具の両方を取り扱う武具屋のはずである。しかしその建物の玄関先に立てかけられた看板には防具屋と書かれている。認識阻害を発生させる結界を抜けた先にある場所というだけでも疑わしいのに看板に書かれた文字によって更に疑わしさは倍増する。普通ならばここまでの怪しさ、疑わしさが漂っていればどけだけ好奇心旺盛な者であっても立ち止まり警戒するはずである。だが見るからに怪しい雰囲気を持った建物へ躊躇なく向かって行くアキは玄関の扉に手をかけた。


『マスター!』


一切の警戒を見せないアキに対してクイーンが警告する。


「……」


しかしアキはクイーンの言葉を無視してその建物の扉を勢いよく開けた。


「……」


掃除がされていないのかアキが扉を勢いよく開けた所為で店内には大量の埃が舞った。


(……?)


 アキは舞う埃を気にすることなく店内に入ると周囲を見渡した。本来なら商品のはずの防具が乱雑に置かれており場所によっては防具が山のようにうず高く積まれお世辞にも店とは言えない店内は、倉庫であると言われた方がしっくりくる程に酷い有様であった。


「あ! アキさん!」


「肉球!」


そんな酷い有様な場所に似つかわしくない無垢で無邪気な声がアキの名を呼ぶ。


「……何してんだ、お前……」


アキがこの場所へ向かうことになった目的、突然疾走した少女、ブリザラがそこにはいた。想像していたものと全く違う状況にアキの表情が一気に不機嫌になる。


「何って……猫獣人さんをモフモフしてました」


「耳、モフモフ!」


そう言いながらブリザラは目の前に座っている猫獣人の耳を心地よさそうにモフモフと触る。


「……お前……」


少女の言葉にアキの表情から感情が失われていく。


「アキさん?」


黙りこむアキに首を傾げるブリザラ。


「……お前は……いい加減、自分の立場を理解しろ!」


「ッ!」


アキのいつも雰囲気が違う激昂にブリザラは肩を跳ね上げた。


「ど、どうし……」


「アッ……うぅぅもういい、帰る」


まるで自分が口にした言葉が信じられないというような表情を一瞬浮かべたアキは、その表情を隠すように俯くとまるで駄々をこねる少年のように踵を返し店の扉の方を向いた。


「……ふーむ、お嬢ちゃんが言っていた男とはこの漆黒の全身防具フルアーマーを纏った者かニャ」


自分の耳を触る手が硬直しているブリザラの様子を見ながら、猫獣人、ロンキは口を開いた。


「ああ? ……何だお前……?」


そう言いながら扉に向けていた視線をロンキに向けるアキ。


「おお、怖いニャ、そんな目で私を見つめないでくれニャ」


まるで小動物を狩ろうとする肉食獣のようなアキの視線に怯えた声をあげるロンキ。しかし言葉とは裏腹にブリザラよりも一回り小さいロンキの体は、自分よりも遥かに大きなアキの下へと向かって行く。


「……お前何者だ?」


自分の下へ向かって来る毛玉、ロンキを見下ろしながらそう尋ねるアキ。


「……私はガイアス一の鍛冶師、日々平穏の創設者のロンキニャ!」


アキの圧にも屈せず余裕を持った表情で自己紹介を始めるロンキ。


「はぁ? 鍛冶師?」


《ま、マスターこの猫獣人からはおぞましい気配を感じます、気を付けてください》


目の前のロンキという人物に対して怯えた様子のクイーン。


「はぁ?」


確かに目の前の猫獣人からは妙な気配は感じるアキ。しかしクイーンが言うおぞましさを目の前のロンキから一切感じないアキは、珍しく怯えた様子のクイーンに首を傾げた。


「……兎に角だ、その自称世界一の鍛冶師であるあんたが……そこのオウ……ブリ……少女? ……ああ面倒だなたくッ! その女を攫ったのは何でだ?」


 現状、目の前の猫獣人鍛冶師であるという証拠は無く、ブリザラの正体を探る輩かもしれないと考えているアキは、僅かに混乱しながらもブリザラを攫った目的をロンキに問い詰めた。


「攫ったは人聞きが悪いニャ……うーん、逃げてきた! いやいやこれも言葉が悪い……うーん、ああそうそう彼女達を招待したニャ!」


攫ってなどいないと否定するロンキはあくまで正体と主張する。


「招待?」


「猫! 猫ぉ!」


招待というロンキの言葉に疑問を感じているのか少し複雑な表情を浮かべるブリザラ。


「……おい、お前はどうか知らんが、そこの女はお前の言葉に疑問を抱いているぞ?」


ブリザラのそんな微妙な表情を見逃さないアキは、ロンキの主張に不備があることを見抜いた。


「それは無いニャ! さっきからずっと私の耳をモフモフしていた仲じゃないかニャ!」


疑問を抱くブリザラに対し慌ててそう主張するロンキ。確かに攫われた状況化に置いて、自分を攫った相手の耳をモフモフするのはどう考えてもおかしい。


「それは……」


「ねっこねこ!」


しかしブリザラは歯切れ悪く言葉を濁す。


「そ、そんな! 酷いニャ!」


モフモフを強要されていたともとれるブリザラの様子にロンキは悲鳴を上げた。


「はぁ……正直モフモフとかそこら辺はどうでもいい……それよりもだ、お前、どうやってこの女を日々平穏本店からこの場所に攫ったんだ?」


 正直、猫の耳をモフモフしたかどうかなど僅かも興味が無いアキは、ロンキがブリザラを攫った方法が気になっていた。

 現状、目の前のロンキがブリザラの正体を探っている輩の可能性は高いがブリザラを攫った方法によっては別の可能性も出てくると考えるアキはその方法を尋ねた。


「だから攫ってないニャ! ……現本店からこの旧本店の移動手段は、私の簡易転移魔法を使ったからニャ」


「簡易転移魔法?」


「そうにゃ、現本店の関係者スタッフ専用出入り口とこの場所を魔法で繋いでいるのニャ、だから瞬時に行き来することが可能なんだニャ!」


ブリザラの反応が忽然と消え、中央街最北に飛んだ理由を説明するロンキ。


《……利便性は失いますが行き来する場所を固定することで転移を簡略化した転移魔法のことです……ですがそれでも高度な魔法……それを鍛冶師が扱えるなど異常としか……》


ロンキの説明に補足を入れるクイーン。その声はやはり怯えている。


「ふーん、なるほど……ただの鍛冶師には大それた代物だな……何でそんな事がお前に出来る?」


クイーンの補足によりアキが抱いていたロンキの正体のもう一つの可能性が大きくなる。ロンキは確実に自分達をヒトクイに転移させた創造主の関係者だと確信するアキ。


「それは……私が常に探求心を忘れない鍛冶師だからニャ!」


ロンキはキメ顔でそう言った。


「凄い! ロンキさんは何で出来るんですね!」


「猫! 猫ぉおおおおおおおおおおお!」

 

「ぐぅ……おい! 本当にどうでもいいが、そこの馬鹿顔のクソメイドはどうした? お前ら気にならないのか様子がおかしいぞ?」


店内に入ってからチラチラとアキの視界の隅に入って入っていたピーラン。様子がおかしいことにはすぐに気付いたアキだったが触れると面倒だとピーランの事には触れないでいた。しかし常に一緒にいるブリザラすらピーランの存在について一切触れない状況に痺れを切らしたアキは、本当は触れたくはないがピーランの状況を尋ねた。


「そ、それは……」


ロンキの言葉に感心していたはずのブリザラは、ピーランの話を振られると俯くように視線を床に落とした。


「おいおい、お前達は仲良しこよしの大親友じゃなかったのか!」


ブリザラのあまりにも豹変した態度に思わずなれないツッコミを入れてしまうアキ。


「ああ、そのお姉さんは……所謂、猫病というやつニャ……ときたま猫が好きすぎてかかる病気ニャ、命に関わるものじゃないからほっとくニャ」


ただの軽い病だとピーランの現状を纏めるロンキ。


「チィ……お前らがそう言う態度なら俺はもう知らん」


そう言いながらアキは自分の意識や視界から無理矢理ピーランの存在を消した。


「それよりも青年、面白い防具を纏っているニャ」


「……ッ!」


ロンキがそう答えた瞬間山のように積み上げられた防具がアキの右腕によって吹き飛んだ。


「……何が目的だ?」


いつの間にか自分との距離を縮めていたロンキに対して初めて本気の警戒心を抱くアキは、まるで小動物を威嚇する肉食獣のような鋭い視線を向ける。


「……目的かニャ?」


先程までの緩かった空気が一瞬にして緊張を纏ったものに包まれる。だが空気が変わろうとも平然としているロンキ。目の前の小動物、ロンキにアキの威嚇は効かないようだった。

 平然とした態度でまるでアキを挑発するような様子でロンキはアキの足に触れた。


「触るなッ!」


アキは自分の足に触れたロンキを振り払うように足に力を入れる。


「なっ!」


だがおかしい。確かにアキの脳は、ロンキを振り払う為に蹴り上げるよう足へ命令を伝達したはずだった。だがその指示を無視するようにアキの足はピクリとも動かない。


「……ふむ、珍しい状態ニャ……肉体と防具が繋がっている……いや混ざっていると言ったほうがいいかニャ……」


まるでアキとクイーンの状態を観察するようにそう呟くとロンキは無遠慮にアキとアキが纏う全身防具フルアーマーを見つめ続ける。


「……ふむふむ、なるほどニャ、肉体だけかと思えば、お前さん、この防具に命を繋ぎ止められているようだニャ……何とも珍しく美しい状態ニャ……」


目を輝かせながらアキの後ろへと回るロンキ。


「あッ……」


 アキがその気になれば目の前のロンキなど一瞬で塵にすることが出来る。しかし現状は小動物が肉食獣を翻弄するそんな逆転した展開に二人の様子を見ていたブリザラは唖然とするしか無かった。


「……だが残念ニャ……確かに私が求める条件は満たしているが、人間と混ざり合っている防具にゃんて、専門外過ぎるニャ……」


そう言いながらお手上げというように両腕を振るロンキ。


「それに……自分の命を繋ぎ止めた防具に感謝出来ない奴は大嫌いニャ」


そう言うとロンキは軽くアキの背に触れる。


「……がぁ!」


背中をロンキに触れられた瞬間、アキの体には何かが駆け巡る。その異様な感覚に目を見開くアキ。するとアキの顔から血の気が引いていきどんどんと顔色が悪くなって行く。


「あ、はぁ……はぁ……お前……何……をした……」


呼吸が荒くなるアキは胸に手を当てながら自分に何をしたのかロンキに問い質した。しかしそう言い終えると立つこともままならないのか地面に膝をついた。


「アキさん!」


様子がおかしいアキに駆け寄るブリザラ。


「ち……近……寄るな!」


心配で駆け寄ってきたブリザラを追い払おうとするアキ。しかしその腕に力は無くブリザラに手を握られてしまう。


「どうしたんですか、アキさん」


アキの様子に焦るブリザラ。その表情に先程までの無垢で無邪気さは無い。


「お前……何を……した!」


たがブリザラの表情を見ている暇はないアキは、消え入るような声で自分を苦しめるロンキを再度問い質した。


「……なーに……お前さんが纏っている防具の機能を一時的に停止しただけニャ」


「なッ! 何だと……クイーン……おいクイーン!」


ロンキの言葉に驚いたアキはすぐさま自分の防具、クイーンに呼びかけた。


『……』


しかしアキの呼びかけにクイーンからの返答はない。


「ふふふ、やっぱりそうだったニャ……お前さんの防具……そしてお嬢ちゃんの盾には自我があるニャ」


確信するようにロンキはそう言うとニタリと裂けた口を吊り上げる。


「ロンキさん、アキさんを助けてください! 助けてくれるのなら私何でもします!」


「ば、馬鹿!」


『止めるんだ王よ!』


ブリザラの言葉にアキとキングの言葉が重なる。


「ふふふ、だんまりを決め込んでいたお嬢さんの盾も自我を現したかニャ……いや、本当に今日は楽しい日にゃ」


『ぐぅ!」


思わず声を上げてしまったキングは自分の突発的な行動に苦悶した声を上げる。


「お嬢ちゃん、この青年を助けるのではあれば何でもすると言ったニャ? ……ふふふ、良いニャ……お嬢ちゃんが私の願いを聞いてくれるなら……このこの青年を助けてやるニャ……」


「はい、何でもします!」


そう即答するブリザラはロンキの両手を握りしめた。


「馬鹿……止めろそいつの口車に乗せられるな……」


『駄目だ、王よその毛玉の言うことを聞いてはならん!』


アキとキングの声が店内に響く。


「さあ、何が望みですか……」


アキとキングの訴えも空しく、ブリザラは真っ直ぐにロンキの目を見つめながら何が望みなのかと尋ねた。


「馬鹿止めろ!」


『止めるんだ王よ!』


もうこうなってはブリザラを止めることは出来ないと分かっているアキとキングはそれでも声をあげる。


「ふふふ、それじゃ遠慮なく望みを言うニャ……私の望み……それは……」


「……それは?」


一瞬静寂に包まれる店内。


「お嬢ちゃんの盾と青年の防具を修理させてほしいニャ」


「……」


「……」


『あッ! ……あ?』


ロンキの言葉に固まるアキとブリザラ。そしてキングは首を傾げたような声を挙げた。


「二人ともちゃんと自分の武具の手入れはしているかニャ? お嬢さんの方はまだいいとしても、青年! お前さんは自分の身を守ってくれている防具の手入れを一切していないだろう? だから私が代わりに手入れ、修理してやるニャ!」


『「はぁぁぁあ?」』


予想の斜め上を行くロンキの発言に理解が追い付かないアキとキングの怒号が店内に響き渡った。



ガイアスの世界


本店と旧本店を繋ぐ通路


 日々平穏本店にある関係者スタッフ専用出入り口は距離が離れた旧本店と繋がっているようだ。その仕組みは簡易転移と魔法を使ったものである。簡易と付いているが相当に複雑な魔法で簡単に扱うことが出来ない魔法である。

 その為この簡易転移を使い本店と旧本店を行き来することが出来るのは簡易転移を扱える創設者ロンキだけである。なぜ鍛冶師であるロンキがそんな高度な魔法を扱えるか、それは最高の武具を作りだす為と冗談交じりで本人は語っているが本当の所は明らかになっていない。



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