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集合で章 4 裏切り者の宣戦布告

 ガイアスの世界


 世界の外


 ガイアスに存在する知性を持った生物達は、自分達が大きな球体の中で生きているということを知らない。

 星という存在は知っているが、それはただ夜空に輝く太陽の親戚みたいなものという解釈でしかなく自分達がその星の中で生きているとは思っていない。それ故にガイアスの空の向こうに暗黒の空間、宇宙が存在していることを知っている者は……多分いない。






 集合で章 4 裏切り者の宣戦布告




 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 ガイアスにある文明技術では造ることが出来ない建造物がガイアスの遥か上空、音も大気も無い闇が広がる空間に漂っている。それをガイアスから認識している者は当然おらず、その建造物は孤独にその暗黒の空間を漂っているのだ。しかしその建造物は自分の存在が誰に知られていないことが分かっていてもはまるで別の世界からガイアスという世界を見下ろしているように見つめ続けているのである。

 その建造物の内部には数えきれない程の部屋が存在する。まるで多くの人がそこで暮らしていけるかのような状態であるのだが、そこに人は愚か生命の気配すらない。しかし人の気配は無いもののしっかりと手入れはされているようで、建造物の内部には埃一つ見当たらない。そんな生命の気配すら感じられない建造物の内部で今、唯一人と思しき気配が存在する場所があった。

 壁一面がガラスで覆われ、まるで夜空のような暗黒の空間を一望できるその場所は、球体に近い形をしたガイアスを見下ろすことが出来る。人が100人は入ることが出来る広いその場所の中心には円卓がポツリと置かれその円卓を囲むようにして四つの椅子が置かれている。その一つに漂々とした表情をしている若い青年が一人座っていた。


「お前!」


明らかな敵意、いや殺意を含んだ怒鳴り声でその広間にある扉から入ってきた女性は、迷うことなく鋭い眼光を円卓の席に座る青年に向けた。


「……はぁ……相変わらずド派手な恰好、目のやり場に困りますね」


怒鳴り込んできた女性が自分に向ける殺意を漂々と受け流す青年は、その女性の露出度の高い派手な姿に対して少し呆れたような言葉を返した。


「……何の用だ?」


殺意を隠すこともせずむき出しにする女性とは正反対に冷静な様子の初老の男が一人、女性の横に立っていた。初老の男は一目みて誰もが王だと想像する姿をしておりその声も威厳に満ちている。そんな低く威厳のある声で初老の男は青年に対し何用かと尋ねた。


「……何の用だとは酷い、私もここに来る権利はあると思いますが?」


「ふざけた事を言うな! お前がここに来る資格は無い!」


青年の漂々とした物言いに異議を唱える女性。


「……クイーンの言う通り、大罪を犯したお前がこの場所に来る資格は無い」


冷静ながらも女性クイーンの意見に賛同する初老の男は、大罪を犯した青年がこの場所へ入る権利は無いと言い切る。


「キング……またそれですか……」


何度も聞かされたと言うように初老の男キングの言葉に呆れる青年は円卓がある広間の高い天井を眺めた。


「……我々を生み出した創造主を私が殺したという……父殺しの大罪……」


どういう経緯があったかは分からないが青年は自分を生み出した父親とも言える存在、創造主と呼ばれる人物を殺害したらしく、キングとクイーンからは相当な恨みを買っているようであった。


「それ本当に事実なんですか?」


しかし青年は自分は無実だと言うようにキングとクイーンに尋ねた。


「何を今更! お前が創造主を殺めた所は私がはっきりと目撃している、そしてお前は目撃した私を見てあろうことか笑みを浮かべその場から逃げ去ったでしょう!」


創造主の殺害現場を目撃してたクイーンはその当時の記憶を思い出し怒りで体が震えだす。


「……うーん、でもおかしいですね? ……私の調査によれば先日、お二人は私が殺したはずの創造主に再会したようですが?」


天井を見つめながら首を捻る青年は、何かを思い出したように言葉を続けた。


「ッ! ……なぜそれをお前が知っているビショップ?」


冷静を保っていたキングの表情が驚きに歪む。それはキングの横に立つ冷静を失っていたクイーンも同様であった。


「……なぜって、そんな愚問を今更、私は知識を司る本を元に作られた伝説武具ジョブシリーズなんですよ、ガイアスのことなら何でも知っているのは当たり前じゃないですか」


何を今更と天井から二人へ視線を向けたビショップは驚くキングとクイーンを嘲笑した。


 ガイアスの遥か上空、生命が感じられない漆黒の闇の中に浮かぶ建造物。その建造物の中にある円卓が置かれた広間に集った彼らの正体は、ガイアスでは自我を持つ伝説の武具と呼ばれる盾や防具、本の自我と呼ばれる部分であった。どんな原理で武具にある自我が人の姿をしているのかは謎であるが、この場所では彼らは人の姿でいられるようであった。


「……それにしても、ポーンさんはまた欠席ですか? 」


広い円卓の広間を見渡しながら、この場にはいない者の名を口にするビショップ。


「……私の茶番には付き合いきれない……いやいや……《絶対王命令キングオブオーダー》もまだまだということですかね……」


そう言ってワザと臭く困った表情を浮かべるビショップ。

 自我を持つ伝説の武具達の行動を半ば強制的に縛ることが出来る《絶対王命令キングオブオーダー》。その名の通りこの力は本来キングにしか扱うことが出来ない。だがビショップは《絶対王命令キングオブオーダー》を発動しキング達をこの場に呼び寄せた。

 キングにしか扱えない力をビショップがどうして扱うことが出来たのか、それは伝説の本である彼自身が持つ能力の一つに理由があった。ビショップはキングが持つ《絶対王命令キングオブオーダー》を複製コピーしたからだ。

 ビショップが持つ複製コピーは物体に限らず、あらゆる物、それが形を成さない力や能力の類であっても複製することができる能力である。

 所有者が超絶な力を持つユウトである為にビショップが持つその能力は霞んで見えるが実際の所、相手の隠し持っている力すら一瞬にして自分のものに出来る能力は最強の一つといえる代物と言っていい。しかし強力な能力にも思える複製コピーにも弱点がある。それは本物オリジナルよりも能力が劣ってしまう所だ。

 本物オリジナルが物体であればそこまで問題では無いが、形を成さない物、力や能力というものに関して言えば、その能力が高ければ高い程、その再現は難しく複製コピーできても本物オリジナルよりも能力が劣化してしまうのである。

 その為唯一無であり強力な能力である《絶対王命令キングオブオーダーをビショップは複製コピーしたもののその本来の能力が発揮されることは無く自我を持つ伝説の武器ポーンを呼び寄せることが叶わなかった。それがこの場にポーンが居ない理由の一つであった。

 しかし複製コピーした《絶対王命令キングオブオーダー》が不完全な物であることは本人であるビショップが一番理解している。そしてキングやクイーンも《絶対王命令キングオブオーダー》がビショップの複製コピーによるものであることは理解しそれが自分達を誘い出す為の餌であることも分かっていた。

 本人がワザとらしく茶番と漏らしたようにそれがビショップによる誘いであることを十分に理解したうえでキングとクイーンはその茶番の裏に隠された真意を探る為にこの場にやってきたのだ。


「……おっと申し訳ない、話がそれてしまいましたね、えーと、なぜお二人が創造主に再会したことを私が知っているか……でしたね、お二人には今更な話ではあると思いますが、もう一度お話しましょう」


ワザと臭い様子で話が脱線したことを詫びたビショップはなぜ自分がキングやクイーンしか知らない創造主との再会について知っているのか、その口をゆっくりと開いた。


「先程も言いましたが、私は知識を司る本を元に作られた伝説武具ジョブシリーズ。本来はこのガイアスという世界を記録する為に生まれた存在です……従い私は記録する為に今ガイアスで起っている全ての事象を観測することができる……」


 ビショップが伝説の武具の中で最強と言われる由縁、それは複製コピーを使えることでも所有者が選択した道筋に合わせた能力へと変化していくことでも無い。ガイアスという世界で今起っている全ての出来事を観測することが出来る世界情報ワールドデータという能力を持っているからだ。 

 現実時間リアルタイムにガイアスの全てを観測することが可能であるということは、その先に起る事象を想像すること、疑似的な近い未来を予測することが可能ということになる。そしてガイアスという世界全てを観測するということは、そこに生きる生物も対象になる。世界情報ワールドデータは生物一個体、人間個人の事象を観測することも可能である。ビショップはガイアスという世界に置いて、事象を予測するということに関しては神に等しい力を持った存在と言っても過言では無い。よって神に等しい存在であるビショップに対してキングやクイーンが何かを仕掛けようとしても全て予測され無力化されてしまうのである。それが伝説武具ジョブシリーズの中でビショップが最強と言われる由縁の一つであった。


「そう、だからお二人がこれから自分達の所有者に何をさせようとも当然私はそれを無力化することが出来ます……はっきりいいましょう、お二人の行動は無意味です……大人しく坊ちゃんが選択するガイアスの未来を見守ってください」


キングやクイーンがこれから何をしようともその全てを潰すことが出来る自信があるビショップは二人の行動を無意味と言い切った。


「くぅ! それでも私は、創造主を殺したお前を許さない! 必ずお前を止めてみせる!」


長らく記憶の隅に追いやっていたビショップの記憶が思い起こされたクイーンは、自分が無力であることを理解して尚、絶対的な立場にあるビショップに対して牙を剥く。


「ふふふ……何もしなければこちらも手を出さないでおこうと思いましたが、いいでしょう、そのお気持ち受け取りました」


自分達の行動が見透かされている事を理解して尚、自分に歯向かおうとするクイーンに対し何やら楽しそうなビショップ。


「ならば、これからは戦いです……お二人に、いやポーンさんを含めた三人に宣戦布告することにしましょう」


今まで傍観の姿勢をとっていたビショップがキングやクイーン、この場にはいないポーンに対して宣戦布告を言い放つ。


「いつ何時、私が邪魔をしても文句は言わないでくださいね……」


宣戦布告を言い放ったとは思えない程に軽い口調でそう忠告するビショップ。


「……ビショップ……一ついいか?」


 怒りを纏ったクイーンの表情とは対照的に何処か本気では無い漂々とした様子のビショップの表情が印象的な中、黙ったまま冷静さを保つ表情のキングが口を開いた。


「なんでしょう?」


自分の名を呼ばれ、キングに顔を向けるビショップ。


「……あまり自分の能力を過信するな……これは元仲間としての忠告だ」


「あっハハハ! キングからの貴重なアドバイス、しっかりと心に刻んでおくことにしますよ……それではそろそろ時間なので失礼します」


口ではそう言いつつも全くキングの言葉が心に響いていない様子のビショップは自分の背後にある扉へと踵を返す。


「……ああ、そうだ、私からも一つ忠告を……笑う男には注意してください、彼は『闇』よりも深い闇ですから……」


キングとクイーンにそう忠告を残したビショップは円卓の平間にある扉を開くとその場から消えるようにして去って行った。


「……」


「……」


ビショップが去った後、しばらく無言の時間が二人の間には流れた。


「……キング、ごめんなさい……もっと冷静に話を進めるべきだったわ……」


自分の行動を振り返りあまりにも怒りに任せた言動の所為で事態が悪化したと思ったと反省するクイーンは、ビショップが去って行った扉を見つめ続けるキングに謝った。


「いや、構わない……クイーンの言葉がなければ奴の行動は明確にはならなかっただろう、これで奴の行動は定着する、ならばあとは一刻も早く我々の所有者達を鍛え上げ奴の能力を打ち破る力を得るだけだ」


クイーンの怒りに任せた行動を否定するどころか肯定するキング。


「で、でも……ビショップが私達の行動は無駄だって……」


自分の行動が全てビショップには筒抜けである事に諦めの色がチラつくクイーンの言葉は弱々しい。


「……いや、手段はある……」


しかし全ての行動が観測され予測されている状況にあるにも関わらずキングはそれを打開する手立てがあると口にした。


「悪手である可能性もあるが……」


しかしその後に僅かに暗い表情をしながらそう呟くキング。


「その……悪手って?」


悪手と言い換えたキングの言葉に一抹の不安が過るクイーン。


「……お互い……いや特に小僧には苦労をかけることになる……」


ビショップの能力、世界情報ワールドデータを打開する方法、悪手になりかねないその手段を話しだすキング。




「……そんな……」


全てを聞き終えたクイーンの表情は血の気が引くように真っ青になっていった。


「そんなこと、私は受け入れられない……誰も……あなたの所有者だって受け入れない! それは……それだけは……」


キングが述べた方法がアキにとってアキと関わる周囲の者にとって過酷で残酷であったのかはクイーンの顔色を見れば一目瞭然であった。その瞳から一筋の涙が流れるクイーン。


「……ああ、分かっている、だが私は……例えクイーン、お前に恨まれようとも、そして我所有者である王に恨まれようと……この決断をすることにした……異議は認めない」


それはただの言葉であるにも関わらず、キングが持つ《絶対王命令キングオブオーダー》と同等の重みがある言葉であった。


「……」


その重みを理解したからこそ、クイーンは言葉を失い俯くことしか出来なかった。





 ガイアスの世界


伝説武具ジョブシリーズに施された封印プロテクト


伝説武具ジョブシリーズであるキング、ポーン、クイーン、ビショップには、封印が施されている。

 その封印プロテクトの一段階目を解除した者が所有者となる権利を得るのだが、それぞれ難易度が高く一段階目の封印プロテクトを解除できたとしても扱えるようになるかはまた別の話である。

 その為、手に持つこと、持ち運びはできたがその能力を僅かも発揮できることは無く、人から人へと流れていくこともあったようだ。しかし最後には決まって自分達が元々封印プロテクトされていた場所へと戻って行くようであった。

 基本的に四つの伝説武具ジョブシリーズが同じ時代に封印プロテクトが解除されることは今までなく、今回のような状況は本当に珍しいようだ。

 現在の所有者の前に伝説武具ジョブシリーズを扱えた者達がいた者も何人かいたようだが、伝説と呼ばれる武具は以外と多く、伝説武具ジョブシリーズを所有していた者かどうかを特定するのは難しいと言われている。直接伝説武具ジョブシリーズに聞くという手段はあるが、基本的には教えられないと言われてお終いである。

 ただガイアスに残る数々の伝説や英雄と言われる者の中に伝説武具ジョブシリーズを扱っていた者は確かに存在していたようだ。

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