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真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)3 他人の空似

 ガイアスの世界


 

先代のサイデリー王とヒラキ王の関係


 国同士で友好関係を結んでいるヒトクイとサイデリー。関係は良好で頻繁な交流もされているようだ。


 そんなサイデリーとヒトクイ両国の王の関係はどうだったのかと言えば、公の場以外では名前で呼び合う程には仲が良かったようである。

 先代のサイデリー王は自分の娘、ブリザラが生まれるとすぐにそのことをヒラキ王に報告、色々な事情の為すぐに行くことは叶わなかったが、ヒトクイへ訪問した際はブリザラを同行させヒラキ王に自慢したという話もある。


 





 もう少し真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)3 他人の空似




 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 ガウルド城の地下には罪人を収監する施設が二層に渡って存在する。上層は地上に近いことから、刑が確定していない者や、窃盗などの軽罪を犯した者が収監され、下層は軽罪以上の罪を犯した者達が収監される場所になっている。下層は重罪を犯した者が多いからなのか、上層と比べると雰囲気が重く新人の看守はその場に居るだけで足が竦んでしまうと言われている。

 下層に比べればまだ雰囲気が軽い上層。しかしその場にいる者の大半は何かしらの罪を犯した者達であり下層の重い雰囲気はそこまで無いがガラの悪い者達が多く騒がしいことが多い。兎に角何が言いたいのかと言えば上層も下層も本来は落ち着いて談笑や会談、立ち話ができるような場所では無いと言う所だ。

 それにも関わらず、現在上層の入口付近では明らかにその場には不釣り合いな二人が鉄格子を間に挟んで立ち話をしていた。一人はヒトクイの王ヒラキ。そしてもう一人はフルード大陸の大国サイデリー王国の王ブリザラであった。

 本来この場に居ること事体がおかしい二人の王の出現に、牢屋の罪人たちは静まり返っていた。王という存在の登場に言葉を失っているのか、それとも王二人の会話に聞き耳を立てているのかそれは分からないが、上層から本来の騒がしさが失っていた。

 

「お、王……」


静まる上層の罪人たちの雰囲気を悟り、会話を続けている二人の王の間に口を挟むヒトクイ兵士。


「なんだ?」


この場にはそぐわない優しい笑顔をブリザラに笑顔を向けていたヒラキ王は、自分達の会話に水を差さしたヒトクイ兵士に顔を向けた。


「あ、その……王、そのお方とお話をお続けになるのなら、もっと相応しい場所でお話をしてはどうでしようか?」


 仮にもヒラキとブリザラは一国を背負う王である。その会話は例え他愛無い昔話であったとしても、罪人が聞き耳を立てている場所でするものではない。立場ある者、それこそ一国を背負う王同士が顔を突き合わせて会話をするとなれば両国にとって重要な話題が上がる可能性も出てくる。そんな重要な会話を罪人に聞かせる訳にはいかないと考えたヒトクイ兵士は、二人の会話を止めてでもこの場から移動する提案をするほかなかった。


「……ああ……そうか……ブリザラ王、ここはいささか話を続けるには不味い、一旦場所を移すのはどうだろう?」


一瞬ポカンとした表情を浮かべたヒラキ王は、今自分がいる場所が何処であるかを思い出しヒトクイ兵士の提案をそのままブリザラに伝えた。


「……あ、はい……」


ヒラキ王と同様に顔をポカンとさせていたブリザラも自分が居る場所が何処かを思い思い出したのか、その提案を受け入れ顔を立てに振った。


「牢を開けろ、このお方たちを丁重にガウルド城へお通しするのだ」


ブリザラの同意を受けたヒラキ王はすぐにヒトクイ兵士に牢屋の鍵を開けるよう指示を出す。するとヒトクイ兵士の一人は大急ぎでブリザラと唖然とし言葉を失っていたピーランの牢屋の鍵を開けた。


「それではブリザラ王、足元に気を付けて」


薄暗い牢屋の足元に注意をするようブリザラにそう声をかけたヒラキ王の表情は何処までも柔らかく優しいものであった。



― ガウルド城 王の間 ―



「アキさん!」


 天井が高く、幾本もの太い柱がその高い天井を支える大広間。広間の中心には王が座る玉座があるが、そこに王の姿は無い。玉座から少し離れた場所に設置されたゴザというカーペットのような敷物の上にヒラキ王は腰を下ろしていた。ヒラキに向かい合うようにしてそのゴザに座っていたアキの後ろ姿を見つけたブリザラは思わず名を呼ぶ。


「……」


ヒラキ王が前に居るからなのか、それとも単に喋りたくないからなのかアキは黙ったまま視線をブリザラに向けた。


「お座り下さい、ブリザラ王」


ゴザが敷かれた床に座るようブリザラ達を促すヒラキ王。


「はい」


ヒトクイ王に習って履いていた靴を脱いだブリザラはアキの隣に腰を下ろした。


「いや、申し訳ない、本来なら王を床に座らせるなど無礼極まりないのだが、この方が話やすいのでな」


ヒトクイは他の国々と違い部屋の中では靴を脱ぐ習慣がある。他国との交流も増えた為、街並みや城の作りなどは大陸様式になってはいるが、今も古いヒトクイの文化は生きており、ヒラキ王も古いヒトクイ文化を愛している様子で自分の都合に巻き込んだブリザラに謝罪した。


「いえ、私は気にしないので大丈夫です、それにこのゴザという敷物、とても肌触りがいいですね」


床に敷かれたゴザの肌触りを確かめるブリザラは、床に座らせられたことなど全く気にすることなくニコニコと微笑むヒラキ王に顔を向けた。


「改めて、こちらの不手際を謝罪します」


そう言うと頭を下げるヒラキ王。


「いえいえ、こちらの方こそ、色々ご迷惑を……」


頭を下げるヒラキ王の姿に慌てて自分も頭を下げるブリザラ。


「そして、先代のサイデリー王の亡き後、葬儀に参列出来なかったこと、即位されたブリザラ王に祝いの言葉しか送れなかったことも続いて謝罪します、あの当時少し忙しくて国を離れることがどうしてもできなく、祝いの席に向かうことが叶いませんでした」


続けざまに先代のサイデリー王の葬儀に参列できなかったこと、そしてブリザラがサイデリーの王に即位した時の祝いの席に出席出来なかった事を詫びるヒラキ王。


「いえいえ、それもお気持ちだけで十分です……おとう……父もヒラキ王の気持ちは理解していると思いますから」


殆ど記憶には無いが、先代のサイデリー王とヒラキ王が王という間柄を度外視にして親しい関係にあった事を知っているブリザラは、ヒラキ王の謝罪の気持ちに対し先代になり代わって礼を述べた。


「……さて、積もる話はまだまだありますが、その前に早速本題に入りたい……」


 今までニコニコとしていたヒラキ王の表情がスッとヒトクイ王の物に変わる。それに答えるようにブリザラも表情を引き締めた。


「一応、そちらの武人にも話を伺ったのですが、一言も話してはくれなくて……」


 黙ったまま無表情なアキに一度視線を向けたヒラキはその視線を再びブリザラに向ける。


「ブリザラ王も理解しているとは思いますが……一国の王が他国へ行くことは行く側も迎える側も色々と準備が必要になってきます、事前に向かう意思を伝えるのは当然の礼儀といます、ですが今回あなたはその礼儀を通すことなく突然ヒトクイに来訪した、その理由を伺いたいのです?」


 一国の王が他国に出向くという状況は殆ど例外なく外交という形になる。その為他国へ出向く方は何の目的でそちらに向かうのか事前に伝えておく必要がある。それを受けた相手側の国はまず王がやってくることに承諾するかしないかを決めなければならない。決めた後は自国に来訪する王をもてなす為に色々な準備をしなければならない。ここで不手際を起こせば外交問題になりかねないからだ。

 しかし今回ブリザラは事前の申し出も無く突然ヒトクイにやってきた。その理由を説明して欲しいとヒラキは尋ねたのだ。


「……突然の訪問に関しては本当にすみません……実は信じてもらえないかもしれませんが……」


 ブリザラはヒラキ王に対し自分達の無礼を詫び、そして自分達がどうしてヒトクイにやってきたのか、その経緯と目的を簡単に説明した。


「……ふふふ、なるほど、それではしょうがない」


「信じてもらえるのですか?」


 一応自分の身に起った事が常識として突拍子もないことはブリザラも理解している。陸路を行く馬車や海を渡る船、空を行く飛竜ワイバーンなど色々な移動手段は存在しているガイアスではあるが、ムハード大陸から一瞬にしてヒトクイへ行く手段など本来ならありはしないからだ。しかしそんな突拍子もない自分の言葉を笑いながらも信じるヒラキ王に驚きの表情を浮かべるブリザラ。


「ええ、創造主は相変わらず自由気ままにやっているようですね」


ブリザラの話を聞いたヒラキ王は何処か懐かしむように創造主の名を口にすると再び笑みを漏らす。


「ッ! ヒラキ王は創造主の事を知っているのですか?」


ヒラキ王の口ぶりに驚くブリザラは、創造主という人物と知りなのか尋ねた。


「ええ、随分昔ですが、一時期彼はこのヒトクイに居ました……彼との約束で詳しい事は話せませんが、彼は私の力になってくれた」


そう言いながら当時の事を思いだしているのか、懐かしさでヒラキの表情は緩んでいた。


「……確かに世界を破壊しようとしているかもしれない自我を持つ伝説の本を持つ謎の人物に対抗する力は急務と言える、ブリザラ王達の目的を素早く行う為には、普通に手続きしていては時間がかかるでしょう……きっと彼はそのあたりの事を考え私がどう動くのかも分かっていたのでしょう……彼の実力と性格ならば、こんな強引な手段をとってもおかしくはない」


 ブリザラがただの少女であれば、港で入国審査をするだけでヒトクイに入ることはできただろう。しかしブリザラはサイデリーの王である。他国の王を自国に迎え入れるには色々な準備や手続きが必要になってくる。その準備や手続きを待っていては時間がかかりすぎると判断した創造主の少し乱暴な行動だったのだろうと、創造主の意図を汲むヒラキ王。


「……分かりました、我々ヒトクイはブリザラ王の目的を後押しすることを誓います」


「はぁ! ありがとうございます」


創造主の思惑が見事にはまりトントン拍子に話が進んでいくことにブリザラは驚きつつヒラキ王に感謝を伝えた。


「……所で、先程の話を聞いていてどうにも気になっているのですが、自我を持つ伝説の武具、是非私も彼らと会話をしてみたいのですが?」


元からそこまで堅い空気では無かったが一応の決着がつきその場の雰囲気が軟化すると、ヒラキ王はブリザラとアキが所有する自我を持つ伝説の武具と話してみたいと申し出た。


「あ、ハイ……キング……」


ヒラキ王の希望を叶える為、背負ったままの特大盾、自我を持つ伝説の盾キングに話しかけるブリザラ。


「キング?」


しかしブリザラが話しかけてもキングは答えない。ブリザラは自分の横に座る同じく自我を持つ伝説の武具の所有者であるアキに視線を向けた。


「……はぁ……駄目だ、クイーンも答えない」


今まで沈黙を守っていたアキはブリザラの訴えるような目にため息を吐くと自分が纏う漆黒の全身防具フルアーマー、自我を持つ伝説の防具クイーンも返事が無いことを伝える。


「そんな……どうして……」


「大体の見当はつく、なによりこいつらは重要な時に黙りこむ癖がある、諦めろ」


クイーンやキングが黙りこんだ理由に思い当たる節があるアキはブリザラに諦めろと言う。その諦めろという言葉はブリザラだけでは無く遠まわしにヒラキ王に向けられているものでもあった。


「……ご機嫌斜めですか……それならば仕方がない、今回は諦めることにしましょう……さて突然の事で色々とお疲れでしょう、一度城の部屋で休まれてはいかがでしょうかブリザラ王?」


遠まわしのアキの言葉を受け取り一応納得した様子のヒラキ王は、疲れているだろうブリザラ達にガウルド城にある客室で休むことを勧めた。


「はい、ありがとうございます、そして本当に申し訳ありません、キング……彼らが口を開いたらすぐにでもヒラキ王にお伝えします」


ヒラキ王の提案を受け入れ休むことにしたブリザラは、キング達の沈黙が解け話すことができるようになったらすぐにその事を伝えるに来ることを約束し立ち上がろうとする。


「あ! ブリザラ王そんな急に立ち上がっては!」


正座というヒトクイ特有の座り方をしていたヒラキ王は自分のその姿を真似て正座をしていたブリザラに忠告する。


「あれ?」


しかしヒラキ王の忠告も空しく急に立ち上がったブリザラは突然両足に走る痺れに首を傾げた。


「おっと、あぶねぇな」


足の痺れで倒れそうになるブリザラを支えるアキ。


「アキ……さん」


自分の体を支えるアキの顔を見上げるブリザラ。自分を見上げるブリザラに視線を向けるアキ。時間にしてみれば一秒にも満たない間。だがその間の中見つめ合う二人の空気感はガウルド城では無く別の何処かに飛ばされたような雰囲気を醸し出す。


「どっせいッ!」


しかしその雰囲気を打ち破る野太い声が王の間に響いたかと思うとアキに支えられていたブリザラの体は僅かに宙を舞い、ゴザには座らず立っていたピーランの腕の中に納まった。


「王、正座という座り方は慣れない者が行うと立ち上がった時に足に痺れが伴うことがあります、なので立ち上がる時はゆっくりと立ち上がってください」


ブリザラを御姫様抱っこしたピーランは正座に対しての注意点を告げるとアキに敵意むき出しの視線を向ける。


「……」


本来ならばそのピーランの敵意むき出しの視線に対して何かしらの反応を見せるはずのアキもやはりヒラキ王の前なのか不機嫌な表情はとりつつもそれ以上の行動を起こすことは無かった。


「ああ、そうなんですね、ありがとうピーラン」


自分の体を気遣いすぐに対処してくれたピーランに例を言うブリザラ。


「ははは、一瞬ヒヤッとしましたよ……」


御姫様抱っこされるブリザラを見ながら安堵した表情をするヒラキ王。


「……こんな無礼な姿ではありますが、我々は一度この場から退席いたします」


ブリザラに代わり、この場から退席する意思を伝えるピーラン。


「……うむ……ん? 失礼だが……そなた、前に何処かであったことは無いか?」


退席する意思を伝えたピーランに対して首を傾げるヒラキ王。


「い、いえ……私のような者がヒラキ王様にお会いしたことなど一度もありません……そ、それでは失礼します」


自分に向けられた突然のヒラキ王の言葉に動揺したのか少し口ごもったピーランは、会ったことは無いと断言するとブリザラを御姫様抱っこしたまま王の間を退出していく。


「そうか……」


ピーランの後ろ姿を見つめながらそう呟くヒラキ王。


「それでは俺……私も……」


ピーランの後を追うようにしてアキも王の間から退出しようとする。


「……アキ殿……」


「なんだ……何ですか?」


身分の高い者に今まで殆ど接してこなかったアキは、敬語に苦戦しながら自分を呼び止めたヒラキ王に答えた。


「いや……こうも他人の空似とは多いものかと思ってな……私の記憶が確かならば、貴殿の顔もどこかで……」


「……? ……いや、あんた……王様と俺……私は初対面です……それでは……」


何かを含んだような物言いをするヒラキ王。しかし全く見当もつかないアキは首を傾げながら自分とヒラキが初対面であることを告げると素っ気なくその場を立ち去って行った。


「……そうか……本当に他人の空似か……」


出て行ったアキとピーランを思うヒラキ王。その胸中には様々な思いが渦巻いているようであった。



ガイアスの世界


 ガウルド城地下にある罪人収容施設


 ガルウド城の地下には上層と下層に別れた罪人収容施設がある。


 上層はまだ罪が確定していない者、軽罪を犯した者が収容され、下層は殺人などの重罪を犯した者達が収容されている。大まかな区切りとして軽罪と重罪で別れている為、上層と下層ではその場に漂う雰囲気が違う。

 軽罪を犯した者達などを収容している上層は、自分の刑に対し不満を持つ者や喧嘩などで捕まったチンピラまがいの者などが騒いでいることが多い。それとは逆に下層は殆どの罪人が殺人などで収監されている為に異様な雰囲気を持っており、新人看守は下層に入っただけで足が竦むと言われている。

 噂話でしかないが、ガウルド城地下にある罪人収容施設の下層の下にもう一層、収容施設があるというものがある。

 そこには殺人以上の重罪を犯した者、危険人物が収容されているというが定かでは無い。







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