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もう少し真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)2 遠い日より変わらぬ笑顔

ガイアスの世界


 移動手段


 旅や冒険をするうえで重要になってくる移動手段。当然路銀が無い場合は徒歩での移動となるが、少し路銀に余裕がある冒険者や戦闘職は借り馬車や借り馬を使って移動するようになる。

 更に一流になると自分の馬や馬車を手に入れるようだ。特に馬車は荷物の積載や野宿をする時の寝床替わりにもなる為人気が高い。

 海を渡り別の大陸に行く場合は当然船を使うことになるが、飛竜ワイバーンを使った上空から海を渡る手段もガイアスには存在している。

 





もう少し真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)2 遠い日より変わらぬ笑顔




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 外からの光は遮断され風通しも悪くカビ臭いその場所は物理的にも精神的にも暗い雰囲気を醸し出している。辛うじてその場には蝋燭の光が灯っているが全て使い古しの残りカスである為、今にもかき消えそうであった。

 そんな暗い雰囲気を持ったその場所には幾つもの小部屋が連なっている。人が一人過ごせる程の広さしか無く小部屋の入口は全て鉄格子になっており、外からしか解錠できない鍵がかけられていた。

小さな島国ヒトクイの首都、ガウルドにしてヒトクイという国の象徴であるガウルド城の地下にあるその場所は罪を犯した者を収監する牢屋であった。


「……どうしてこうなった」


 連なる牢屋の一つから今自分が置かれている状況が呑み込めないというような悲痛な呟きが漏れる。その声の主ピーランは自分が収監された牢屋の隅っこで普通の者ならびくともしないだろう頑丈な鉄格子を見つめる。


「これなら……」


ピーランの頭に過る脱獄の文字。今のピーランの実力ならば目の前の鉄格子など難なく壊すことが出来る。


「……いやいや、そんな事をすれば更に自分達の状況が悪くなる……まずは冷静になって事の状況を整理しよう」


 一瞬過った邪な考えを振り払おうと頭を左右に振るピーランは冷静に今自分が何でこんな状況になっているのか状況整理を始めた。

 事の発端は創造主と名乗る何とも胡散臭い人物がピーラン達をムハードからヒトクイへ転送したことから始まった。

 しかし元々ブリザラと共にヒトクイへ行く予定があったため長い船での移動が省略できると転送されたこと事体にピーランは何の問題もないと思っていた。しかし転送された直後、ピーランはそう思った自分を軽く後悔した。

 よくよく考えれば創造主が行った転送はあまりにも唐突で強制的であり遠出する準備も出来なかったピーラン。路銀も無くその日止まる宿屋すら借りられない状況に、ピーランは創造主の突然の転送に怒りを抱いた程だった。

 しかし遠出する準備や路銀が些細な問題でしかないことに直ぐに気付くピーランはヒトクイへ転送された自分達がもっと大きな問題を抱えていることに気付いたのだ。

 当然ではあるが国から国へ移動する場合、陸路ならば国境沿いにある関所、船での移動ならば港で入国審査を受けなければならない。もしこの入国審査を受けずにその国に一歩でも足を踏み入れれば殆どの場合、不法入国者として罪に捕らわれることになる。国が国ならば即刻指名手配、命を問わない攻撃対象になったりもする。

 そう、創造主のご都合主義とも言える力の一つ、転送によってムハードからヒトクイへと飛ばされたピーランとブリザラは、自分の意思とは関係無く不法入国者にさせられてしまったのである。

 ヒトクイに転送させられ自分達が不法入国していることに気付いたピーランは、まずブリザラの立場を考えた。

 サイデリー王国の王であるブリザラがヒトクイへと不法入国したとなれば不法入国者所の騒ぎでは無くなる。一国の王が無断で他国の土地を踏めばそれは宣戦布告、侵略とみなされる可能性があるからだ。国 サイデリー王国とヒトクイは数十年間友好国にあり例えブリザラが無許可でヒトクイの地に足を踏み入れてもそこまで大事にはならないだろうが、それを知った者達はどんな理由があろうと非常識な王だとブリザラを批難するだろう。サイデリー王のお付兼護衛役を任されているピーランの立場としてはブリザラの名誉は何としても守り抜かねばならなかった。

 更に言えばこの転送は創造主が仕掛けた罠である可能性もあると考えるピーラン。ムハード砂漠の地下で出会った時から何処か胡散臭く創造主という存在を信じることが出来ないピーランは、ヒトクイの首都であるガウルドに転送されてからの僅かな時間でそこまで考え、これから何が起こるか分からないと細心の注意を払おうとしていたのだ。

 しかしピーランが細心の注意を払う前に事態は動いてしまった。しかもそのきっかけを作ったのはピーランやブリザラと共に転送に巻き込まれたアキであった。

 普段から目立つ全身防具フルアーマーを纏っているアキはそれだけで目立つというのにガイアスの人間の深層心理に刷り込まれた恐怖を駆り立てる漆黒色も相まって、その場を丁度巡回していたヒトクイ兵士の目に留まってしまったのだ。不運としか言いようがない。

 だがその不運に拍車をかけ事態を大きくしたのは、ピーランがその立場を守ろうとしていたブリザラだったのである。その結果ピーランはガウルドの牢屋に収監されることになった。


「私は……あの時、あの男を囮にして兵達の目を掻い潜りブリザラと共に逃げようとしたはずなのに……なぜ今私は牢屋にいる」


それは一瞬のひらめきだった。ヒトクイ兵達に見つかるきっかけを作ったアキを囮にしてブリザラと共にその場から逃げる策を考えたピーランは、ブリザラの手を掴みその場から逃げようとしたのだ。だが結果自分は牢屋の中。自分の今の状況が信じられないと頭を抱えるピーラン。


「へぇー ヒトクイの牢屋はサイデリーと違って暖かいんだね」


すると牢屋の中頭を抱えるているピーランの苦労にまったく気付いていない呑気な声が隣の牢屋から聞こえてきた。


「……はぁ……」


牢屋の中だというのにまるで観光気分のようなその声からは不安や恐怖は感じられず、その声を聞いたピーランは呆れてため息を吐く。


「ブリザラ……状況を考えろ」


ピーランが収監されている牢屋の隣から聞こえる声の正体は自分達の状況を悪化させた張本人であるブリザラであった。ブリザラもピーランと同様にガウルド城の地下にある牢屋に収監されていたのだ。


「はぁ……ガリデウスがこの状況を知ったらどんなことになるか……」


現在のサイデリー王、即ちブリザラの右腕、頭脳にしてサイデリーの国専属職、盾士を纏め上げる最上級盾士であるガリデウスのことを想像し更にため息を吐くピーラン。

 血縁関係は無いものの、ブリザラにとっては祖父のような存在、時によっては父親な存在であるガリデウス。当然ブリザラが牢屋にいるなどと知れば、ブリザラが大目玉を喰うのは目に見えている。それだけならばいいが、厳しくブリザラを指導してきた反面、実は極度の親馬鹿孫馬鹿であることが先日発覚したガリデウスならば、国の理念やヒトクイの友好関係を反故にしてでもブリザラを取り返しにくるかもしれないと後半は少々飛躍しすぎた考えを頭に思い浮かべてしまうピーラン。


「大丈夫、ガリデウスは今頃海の上だから」


「それの何処が大丈夫なんだ?」


ガリデウスが今海の上であろうと自分達の今の状況が知られるのは時間の問題、遅いか早いかの違いでしかない。


「……そもそも何であの状況であんな事を言った? ヒトクイの兵士に自分はサイデリーの王ですなんて言ってもただの戯言で済まされるのは明らかだっただろう?」


 ブリザラはヒトクイ兵士達に囲まれた時、偽ることをせず自分がサイデリーの王であることを打ち明けた。


「うーん、例えあの場から逃げる為でも自分を偽りたくなかったから……かな?」


自分を偽らず正直である、これは万人に共通する美徳と言える。サイデリーという鳥籠から巣立ち、外の世界に触れて尚、純粋無垢であり続けるブリザラは自分に正直でありたいと願い偽ることを嫌ったのだ。


「はぁ……分かった、お前の気持ちはわかった、だがなブリザラ……時と場合ってもんがある」


 ブリザラという人物はピーランにとってお付兼護衛だけの関係だけではない。二人の関係は心を許し合った友人でもある。純粋無垢で疑うことを知らず、常に正直で偽ることをしないそんなブリザラにピーランは惹かれてもいた。お付兼護衛役を任され友人関係にもなったブリザラはピーランにとって同性を超えた存在と言ってもいい。しかしそれはそれこれはこれ。ある意味危機的状況の中選択を誤ったブリザラを叱るピーラン。


「へへへ……」


「……はぁ……」


何故か叱られ笑みを零すブリザラ。自分の苦労はブリザラには理解されていないようだったと思うピーランは消え入りそうなため息を吐いた。


「……ねぇピーラン、アキさんは大丈夫かな?」


先程まで呑気に話していた時よりも少し強張った声でそうピーランに尋ねるブリザラ。

 呑気に牢屋生活を満喫するような様子を見せているそんなブリザラにも心配事はあった。それは自分達とは別の場所へ連れていかれたアキのことだ。

 ヒトクイ兵士の目を留めるきっかけを作ったアキは職務質問を受けても一切その態度を変えず答をしなかった。そんなアキの態度にヒトクイ兵士達の心象が悪くなったのは言うまでもない。それが原因なのか、それとも別の理由があったのか分からないが、アキはヒトクイ兵士に連れられブリザラやピーランとは別の場所へと連行されていた。


「はぁ……あの男の身を案じているなら全く心配する必要は無い」


アキという人物はピーランにとって敵視の対象であった。一度は理解できそうな場面もあったが強者を目指すアキのその姿勢は、狂気に満ちている。そんなアキに危険や恐怖を感じることすらあるピーランはいずれブリザラにもその狂気がふりかかるのではないかと危険視しているのだ。事実その片鱗が見えたことは幾度もある。だからこそヒトクイ兵士達に目をつけられたアキをピーランは即座に切り捨て囮として使おうとしたのだ。


「……そんな事よりも、あの男がこれ以上事態を悪化させないかが心配だ……」


アキ自身のことは一切心配していないピーランであったが、アキが今の状況を悪化させるのではないかという心配はあった。

 アキはその身に自我を持つ伝説の防具を纏っている。それに加え今では強者として様々な力、それこそ人間を超えた力を持っている。そんなアキに対してヒトクイ兵士が一人二人、いや百人束になった所でアキの身に危険が及ぶことは無いと確信しているピーラン。それよりもピーランはアキが怒り狂いその力でガウルドを火の海にしないかが心配でならなかった。


「大丈夫だよ、アキさんは優しい人だから」


「はぁ? あの男の何処を見ればそう思えるんだ?」


ブリザラの目は節穴なのではないかと思うピーラン。しかしブリザラの境遇を考えればアキのことを優しい人間だと感じてしまうのも仕方のない事だとも思うピーラン。

 他国に比べ王族と国の人々の距離感が極端に近いサイデリー王国という特殊な環境で育ったブリザラ。国の人々はブリザラを我子のように思い、ブリザラもまた国の人々を家族のように思い慕っている。決して甘やかされて育った訳では無いが、ブリザラを疑い嫌う者はおらず自分自身も他人を嫌うことも疑うことをせず育ってきた。その為ブリザラは極度の世間知らず、国規模の箱入り娘と言ってもいい。

 しかしムハード大陸という外の世界の厳しい現実に触れることでブリザラは世界が優しさだけで出来ている訳では無いことを知った。疑いや嘘、時として人は何処までも非道になれる事をブリザラは知った。しかしそれを知っても尚ブリザラの持つ価値観は変わらなかった。人を信じ人を疑わない心は変わらなかったのだ。だが王という立場を脱げばブリザラも年頃の少女。純真無垢な少女の心にある変化が起きた。

 それは今まで大多数の者達に向けられた想いであったが、その想いはすこしずつ本人が気付かない程度にとある人物に対して向けられるようになっていった。他人が気付く程であるにも関わらず本人の自覚が無いままその想いは芽吹き着々と成長している。

 ブリザラが抱くその想いの正体を知るピーランは、その想いが向けられているとある人物、アキに対して嫉妬していた。それがアキを危険視、敵視するピーランの理由の一つでもあった。


「ん?」


「……誰か下りてくる」


ブリザラがアキの心配をしていると牢屋の入口付近に近づくようにして数人の足音が聞こえる。その足音に耳を澄ませるピーランとブリザラ。


「……わざわざこんな所に御身自ら足を運ばなくても……」


姿は見えないがヒトクイ兵士であろう人物が困った様子で誰かに話しかけている声がブリザラとピーランの耳に届く。ヒトクイ兵士の口調からどうやら相手はヒトクイ兵士よりも遥かに身分が高い者であるようだ。


「問題ない、不法入国したあの男の話が本当かどうか私自身、見極めたいだけだ」


身分が高いらしい男は困った様子のヒトクイ兵士にそう言うと足を進めブリザラ達がいる牢屋へと近づこうとする。


「ですがあの男の仲間、一体どんな力を持っているかわかりません」


ブリザラ達のいる牢屋へ足を進めようとする男を必至で止めるヒトクイ兵士。


「問題ない、下がっていろ」


「は、はッ!」


静かではあるもの男の口調には威厳があり、圧倒され行動を制限されたようにヒトクイ兵士は返事をした。


「「!」」


階段を下りる足音と共にブリザラ達の前に姿を現す男。その姿に二人は特にブリザラは驚きの表情を浮かべた。


「……もし失礼で無ければお名前を伺いたい」


ブリザラの牢屋の前で立ち止まったその男は、丁寧な口調でブリザラに名を尋ねた。


「……」


その男の姿に一瞬言葉を失うブリザラ。


「……わ、私は……サイデリー王国の王、ブリザラ=デイルです」


しかし次の瞬間、何かが切り替わったようにブリザラはサイデリーの王として目の前に立つその男に自分の素性を明かした。


「……ふふ、久しぶりだねブリザラ姫……あっ! いやこれは申し訳ない……それでは改めて、美しい女性に成長されましたなブリザラ王……」


幼い頃のブリザラを知る男は当時と同じようにブリザラに接しそうになったが、目の前にいる少女が以前出会った時とは立場が変わっている事を思いだし言葉を改めながら柔らかくそして優しく微笑んだ。


「……ヒラキ王は以前おと……父上と一緒にお会いした時と全く変わられていませんね」


 幼い頃、父親である、先代のサイデリー王に連れられヒトクイに行ったことがあるブリザラは当時の事は殆ど覚えていない。だが唯一ブリザラの中には強烈に残っている記憶があった。それが今目の前に立つ男、ヒラキ王との出会いであった。

 最初鮮明にヒラキ王の記憶が残っているのはヒトクイを統一し一国を背負う王の存在感が幼い自分の記憶に深く刻まれたからだと思っていたブリザラ。しかし思い浮かぶヒラキ王の記憶は全て笑顔。そこに王としての存在感は殆ど無く、男性でありながら女性のように綺麗で柔らかい笑顔を見せるヒラキ王の顔だったのだ。

 そしてその笑顔は時を経ても一切変わらない。幼かった少女が一人の女性に成長する程に時が経っているというのにブリザラに向けられるヒラキ王のその笑顔は、初めてブリザラがヒラキ王に出会った頃のものと一切変わっていなかった。



ガイアスの世界


 関所


 国と国の間にある関所は、冒険者や戦闘職、商人達の入国審査をするのが役割である。入国審査が通らなければ、殆どの場合国に入る許可は下りない。

 関所を通らずに国に入ろうとすれば国によっては即座に攻撃対象になる。その関所の監視を潜り抜け不正に入国しそれがばれれば不法入国者として国中で指名手配されることになる。当然この場合でも国によっては即座に命を問わない攻撃対象になることがある。

 ヒトクイのような島国や海に面した国は港が関所の代わりをする。当然国境沿いにある関所と役割は同じである。

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