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真面目で章 4 (スプリング編) 動きだす闇

 

 ガイアスの世界


ヒトクイの中心、城下町ガウルド


ヒトクイ統一を成し遂げた現ヒトクイの王が高らかに統一を叫んだ場所がガウルドであったことから、それ以降ガウルドはヒトクイの中心となった。

 城下町であり港町でもあるガウルドは食材の宝庫である。季節の移り変わりで色とりどりの食材が手に入る事から他の大陸から食材を求めてやってくる者も多い。

 

 

 真面目で章 4 (スプリング編) ガウルドに起こる事件



   剣と魔法渦巻く世界、ガイアス



「さて……朝飯にするか」


 早朝から『ガウルド』の端にある小さな林で魔法の修練を続けていたスプリングは、額を拭いながら現在祭りムード一色の『ガウルド』を見つめる。


『……主殿、朝飯と言ってはいるが時刻的には昼時だが?』


 早朝修練のはずが気付けばスプリングは昼になるまで修練を続けていたようで自我を持つロッド、伝説の武器ポーンは呆れた声を上げる。


「あれ? そんなに時間が経っていたか……」


 それほどの時間が経っていた事に気付かなかったスプリングは、驚いたような顔をしながら自分の腹を摩った。


「……そんじゃ昼飯にするか……」


 もう一度自分の腹を摩ったスプリングは自分の腹が減っている事に気付き苦笑いを浮かべながら祭り真っ只中である『ガウルド』へ向かうのであった。



 城下町である『ガウルド』の陸の入口を抜けるスプリングの目の前に広がるのは長く続く『ガウルド』の象徴であるガウルド城への道。その道の脇には数えきれない程の屋台が並ぶ。


「へー昨日は疲れていたから何も見ないまま宿屋に入ったけど、やっぱり城下町は活気に満ちているな」


 祭りの影響も相まってか想像以上の人の数に驚きの声を上げるスプリング。歩く事も困難なガルウド城へ続く道程をスプリングは人波を掻き分けながら進んで行く。


「……何か……凄いな」


 人の波の所為で全く身動きが取れないスプリングは、人酔いをしたように顔を引きつらせた。


『丁度今は月の神の誕生を祝う祭りの真っ最中だからな、他の大陸からの観光も多い』


「ああ……なるほどな」


 ガウルドの人々に混じり他の大陸の匂いを漂わせる容姿をした者も多く居るのを見てスプリングは納得したように頷く。


『主殿、『ガウルド』は山の幸も海の幸もうまい、昼は屋台料理を食べる事をお勧めする』


「お前……なんでそんなに『ガウルド』に詳しいんだ?」


 なぜ『ガウルド』に関しての知識を伝説の武器ポーンが持ち合わせているのかは謎であるが、スプリングは素直にポーンのお勧めである屋台料理に目を向ける。


「はぅ!」


 近くの屋台を覗いた瞬間、嗅いだだけでそれがうまいものである事を一瞬にして脳が理解する香ばしい匂いがスプリングの鼻を襲う。


『……肉の丸焼きに、イカ焼き、たこ焼き、野菜たっぷりの魚介味噌スープ……色々あるな』


 雷のように唸りを上げるスプリングの腹の横でポーンは他の出店に置いてある色々な料理の名を発する。


「とりあえず……近場の物から行くか」


 悲鳴を上げる胃袋を抑え込みながらスプリングは喉を鳴らし覗いていた屋台の亭主に視線を向けた。


「いらっしゃい!」


  接客業特有の気持ちのいい挨拶でスプリングを迎え入れる亭主。その手には網で焼かれたイカが手際良く次々とひっくり返されていた。


「イカ焼きを一つ」


 イカに塗られたタレが焼かれる事により香ばしい匂いを嗅ぎながらスプリングはイカ焼き屋の亭主に注文する。


「イカ焼き一つね!」


 注文を受けた亭主はすぐさま網で焼かれたイカをすくい上げると素早く手に持った袋に入れていく。


「お待ち! これおまけね」


 イカ焼きが入った袋を手渡した亭主は、もう一つ小さな袋をスプリングに渡す。


「それはうちの店の特製ソースだ、付けて食べたら頬が落ちるぞ!」


「あ、ありがとう」


 ベタな表現をするなと思いながらもすでにイカ焼きの入った袋に手を突っ込んでいるスプリング。


「お客さん……お金……」


 ほんの一瞬前まで陽気で威勢のいい感じであった亭主の表情が厳しいものになる。


「あ、すまない……これで……」


 自分がイカ焼きの代金を払っていない事に気付いたスプリングはすぐさま亭主に金を手渡す。


「まいど!」


 金をスプリングに手渡された瞬間、すぐさま営業スマイルに戻る亭主。その顔を見ながらホッとするスプリングはすぐさまイカ焼きの入った袋に目を落とした。

 手を振り見送る亭主を背にスプリングは袋からイカ焼きをとり出す。


「んで、このソースを……」


 イカ焼き屋特製ソースをとり出したスプリングは、イカ焼きにそのソースを躊躇なくかける。タレによって少し焦げたイカ焼きにまるでマヨネ……。白いソースがかかる。


「ゴクッ……」


 ただのイカ焼きだったはずなのに白いソースがかかっただけで高級料理にも劣らない程イカ焼きがスプリングには美味そうにみえる。

 もう辛抱たまらないとスプリングはイカ焼きを口に放り込もうとする。しかしその瞬間であった。


「コラァ待てクソガキ!」


 スプリングの背後で、怒鳴り声が響く。イカ焼きを口に放り込もうとしていたスプリングは、大きく口を開いたまま、怒鳴り声が聞こえた方に視線を向けた。スプリングが向けた視線の先にはイカ焼き屋の亭主が鬼の形相で子供を追いかけている姿があった。子供は両手に抱えられない程のイカ焼きが入った袋を持ちながら、スプリングが立つ場所に向かって走ってくる。


「そいつを捕まえてくれ!」


 イカ焼きの亭主はスプリングの姿に気付くと、目の前の子供を捕まえてくれと怒鳴る。亭主の言葉にすぐさま状況を把握したスプリングは、全く前を見ず全速力でスプリングに突進してくる子供を避ける。それと同時に右足を少し前にだし子供の足に引っ掛けた。


「うわっ!」


 スプリングの足に引っかかり派手に転ぶ子供。抱えていたイカ焼きの袋は宙を舞い地面へと落下する。しかしそれをギリギリの所でキャッチするスプリング。


「ああ、よくやってくれたな!」


 猛烈な勢いで駆け込んできたイカ焼きの亭主はそう言いながらスプリングの肩を叩き、地面に倒れた少年を物凄い形相で睨みつけていた。


「こら悪ガキ! 俺のイカ焼きをパクるとはいい度胸だな……」


 手を鳴らしながらイカ焼き屋の亭主は逃げようとする少年の首根っこを片手で素早く掴むと自分の目線まで持ちあげる。


「はなせ、はなせよ!」


 首根っこを掴まれた子供はどうにかこの状況から逃れようと手足をジタバタとさせる。


「大人しくしろこのクソガキが! 人の物を盗んだらどうなるか教えてやる!」


 そう言いながらイカ焼き屋の亭主は少年に対して拳を振り上げる。


「ッ!」


 その瞬間スプリングの体は動いていた。振り下ろされるイカ焼き屋の亭主の拳から子供を守ろうとスプリングは二人の間に割って入る。


「ぐふぅ……」


 しかしイカ焼き屋の亭主の拳は止まらずスプリングの顔に拳がめり込み振りぬかれる。スプリングの体はイカ焼き屋の放った拳の威力に耐えられず吹っ飛んでいき置いてあったゴミ箱にぶち当たった。


  「お、おい何やってんだよお客さん!?」


 スプリングの行動が理解できないイカ焼き屋の亭主は、困った表情でゴミまみれになったスプリングに声をかけた。


「い、てててて……」


  目を回したような頭をグルグルとさせるスプリング。


  「大丈夫かお客さん、だけど何で急にこんな事を?」


 イカ焼き屋の亭主は少年の首根っこを掴み引きずりながらスプリングの下へと歩いてくる。


「あ、ああ……」


 殴られた場所を摩りながら立ち上がろうとするスプリング。そんなスプリングに肩を貸すイカ焼き屋の亭主。


「ありがとう……」


 肩を貸してくれたイカ焼き屋の亭主に礼を言うスプリングは、腰に手を当て財布を取り出した。


「あの……その子のイカ焼き代、俺が払うから離してくれないか?」


「えっ?」「何?」


 スプリングの言葉にイカ焼き屋の亭主と首根っこを掴まれていた子供は驚きの声を上げた。


「べ、別にいいけど、そんなことしても何の意味もねぇぞ」


 戸惑いを隠せないといった表情でイカ焼き屋の亭主はスプリングの申し出に頷いた。スプリングは財布を開くと、少年が盗んだイカ焼き分の金を取り出しイカ焼き屋の亭主に手渡す。


「まいど……でもあんた気を付けろよ、ここら辺のガキを庇うなんて、どうなっても知らねぇからな俺は」


 イカ焼き屋の亭主は少年の首根っこから手を離すと意味深な言葉を残し自分の屋台へと戻っていった。


「気を付けろ?」


 何の事だがさっぱり分からないスプリングは、まあいいかとジッと自分の事を見つめる子供に視線を向けた。



「さてだ、少年……何で盗みなんて働いたんだ?」


 小柄な少年に目線を合わせる為、姿勢を低くしたスプリングは先程暴れたのが嘘のように落ち着いている少年に話しかけた。


「人から物を盗んじゃいけない事は分かっているだろ?」


 それは盗賊のような道を踏みは居ずした外道職にならない限り普通に生活していれば身に着くモラルであった。


「……あんた、ここの人間じゃないな……ここの人間なら俺達になぜ盗みを働くのかなんてきかないからね……」


「俺……達?」


「金がぁぁぁ!」


 再びスプリングの背後で大きな叫び声が響く。その叫び声にスプリングが振り返るとそこには頭を抱え叫ぶイカ焼き屋の亭主の姿があった。


「……」


 イカ焼き屋から逃げていく子供の影が数人、スプリングの視界に写る。


「まさか……」


 スプリングは何かに気付いたというようにすぐさま少年に視線を戻す。


「ふふふ……盗みは頭を使わないとね」


  しかしスプリングの視線に映る少年は、姿形は少年ではあるのだが、子供特有のそれとは違う笑みを浮かべていた。


  「囮……」


 ポツリと呟きながらスプリングはその少年に警戒する。少年の笑みにゾワリと体を這うような寒気がスプリングを襲ったからだ。その感覚に似たものをスプリングは知っていた。

 スプリングがまだ上位剣士だった頃、戦場と戦場の合間を旅していた時、何度となく襲いかかってきた外道職。その外道職が持つ特有の雰囲気とでも言えばいいのか、それを目の前の少年が発していたからだ。だが少年の発する雰囲気は、今までスプリングが出会ってきたどの外道職の者よりも鋭い。子供にこんな鋭い雰囲気を発する事が出来るのかと自分の感覚を疑いたくなる程に。


「そう! お・と・り!」


  しかし外道職特有の視線は一瞬にして消え失せ、どこにでも居るような明るい雰囲気に戻る少年。


「ははは、そんな警戒しないでよ……あんたには借りがある、別にどうにかしようとか思っていないから……」


 ニコニコとしながらも何処か闇のような物を感じさせる少年の笑み。


「……だけど……俺達の邪魔だけはしないでね……邪魔したら……」


  そう言うと少年は、もう一度少年ではありえない鋭い雰囲気を発しスプリングに警告すると、祭りで賑わう人の中に消えていった。


『……主殿よ大丈夫か?』


  今まで一切口を開く事が無かったポーンが、周囲に感づかれないようにスプリングに話しかける。


  「俺達……」


  だがスプリングにポーンの声は聞こえておらず、人の中に消えていった少年の姿に茫然と立ち尽くすのであった。


   

 国の統一を果たし戦乱から数十年が経過した『ヒトクイ』。国の中心となった『ガウルド』は、安全で安心という言葉が広がり他大陸から移住する者達が多くなっていた。それが現在『ヒトクイ』に一つの闇を落とす形となっていた。

   移住を目的とした人々を制限なく受け入れた結果、現在『ヒトクイ』では仕事不足という大きな問題が起こっていた。

 平和になったが故に、戦闘職や冒険者の需要も減り、人々は安全安心安定、三つの安が付く一般職への転職者が多くなったこともこの問題の大きな原因の一つであった。

   一般職の仕事すら無い状況で、仕事にあぶれる『ヒトクイ』の人々や移住してきた人々。しかし今更戦闘職になる訳にもいかず、仕事にあぶれた者達は路頭に迷う結果になってしまった。そんな者達が行きつく先、それが『ガウルド』の闇と呼ばれる裏社会の存在であった。

 何処の国にも裏社会は存在する。裏社会が存在しないほうが珍しく稀で、それが必要悪であると国も認識しているからこそ裏社会は根絶されず無くならない。『ヒトクイ』もそんな裏社会を抱えた国の一つであったが、他の国と違ったのはその裏社会の規模であった。

 本来ならば国が抱える裏社会は小さな組織程度である。しかし『ヒトクイ』に存在する裏社会はすでに小さな組織という枠組みを外れ、一つの町になっていた。

 職からあぶれた者達は、吸い込まれるようにして裏社会に足を踏み入れていく。それは自分達が食べていく為、生きていく為であったがそれ以上に裏社会に足を踏み入れる大きな理由があった。

 裏社会が行う行動の全ては違法である。金品を盗み、得体の知れない代物を売買し時には人の命を消す。だが違法であるからこそ、その違法が成功した時、巨万の財が約束される。   

 それが職にあぶれた者達が裏社会に足を踏み入れる理由の一つとなっていた。そして裏社会に足を踏み入れるのは大人だけでは無い。

 巨万の財を手にする事ができるかもしれないという危ない希望は子供達の心にも入り込み浸透していった。裏社会に憧れる子供達が現れたのだ。そんな子供達を利用しない訳が無い裏社会の者達は、まだ善悪をはっきりと理解できない子供達を使い金品を盗ませ利用し使えなくなれば切り捨て使い捨てるという状況になっていた。その一旦がスプリングの前に現れた少年しかり、イカ焼き屋の金を盗んでいった子供達であった。

 国もこの問題を解決するべく色々な取り組みを行ってきたが、仕事不足である『ヒトクイ』では裏社会に流れていく大人や子供達をせき止めることは出来ないというのが現状であった。

『ヒトクイ』の事情を知り肌で感じたスプリングは、『ガウルド』で何かが起ころうとしているのではないかと嫌な胸騒ぎを感じるのであった。




 

 ガイアスの世界 



 ガウルドにある闇 


 どの国にも抱える闇は少なからずある。それは安全安心と言われている『ヒトクイ』であっても例外では無い。

 ヒトクイ、特に国の中心にして城下町であるガウルドにある闇は想像以上に深い。その闇は密かにしかし着実にヒトクイを蝕みつづけそして大きな波となってガウルドを飲み込もうとしていた。


 

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