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もう少し真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編)1 ヒトクイ上陸 


ガイアスの世界


 ムハード大陸への航海


 前ムハード王が王座に座る前までのムハード大陸はそれなりに貿易が盛んで他大陸の国の船の姿はよく見られた。しかし前ムハード王が王座に座ってからは他国との接触を嫌いムハード国が管理する以外の港は封鎖、もしくは破壊された。

 前ムハード王のこの行動によってムハード国へ向かう船は当然激減することになった。航路として使われた海域は船の往来が無くなったことで、それまで往来の片手間に討伐され一定数に保たれていた魔物は大繁殖。現在では船でムハード大陸に向かうのは困難になっている。

 ムハード大陸へ船で向かうのが困難になっているのは魔物が大繁殖しただけでなく、海域の海流が激しいことも一つの要因である。一度激しい海流に巻き込まれれば沈没は間違い無しと言われる程にムハード近くの海域の海流は恐ろしい一面を見せることがあるようだ。

 その為、現在ムハード大陸に停泊するサイデリー製の船はみな損傷が激しく修理に時間がかかっているようだ。







もう少し真面目に合同で章(アキ&ブリザラ編) ヒトクイ上陸



 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 ― 小さな島国ヒトクイ ガウルド ―



 大陸に囲まれた小さな島国ヒトクイ。数十年前まで、島の人同士で戦をしていたなんて嘘のように現在のヒトクイは他大陸の国々が驚く程の発展を遂げ大国の仲間入りを果たしていた。その要因の一端はフルード大陸にあるガイアス一の大国、サイデリー王国と友好関係を結んでいることにある。両国共に他国への侵略をしないという理想、信念を掲げた国同士であることからその繋がりで友好国となった。

 だがサイデリーと同じように平和かと言われれば躊躇なく首を振る者は少ない。その理由はヒトクイには長年悩まされる問題一つあったからだ。

 

「……何だこのお祭り騒ぎ……」


 小さな島国ヒトクイの首都、ガウルドに立つ漆黒の全身防具フルアーマーを身に纏った男アキは、祭りの時期でも無いのに楽しく浮かれる町の人々の光景を前に首を傾げていた。

 町の人々の表情は誰もが明るく楽しそうである。そんな町の人々の表情に数分前まで自分がいたムハード国の人々の表情が重なるアキ。


「凄いッ! 一瞬でヒトクイに到着する何て、創造主さんは凄い!」


 町の人々の不可思議な盛り上がりに疑問を抱くアキの横でそんな男の横で町の人々とは別の内容で盛り上がる少女ブリザラの姿があった。


「ねぇ凄いよね! ピーラン!」


大の大人でも手に持つのに苦労しそうな特大盾を軽々と背負いピョンピョン飛び跳ね興奮した様子のブリザラは傍らで眉間に皺を寄せる黒を基調としたロングスカートのメイド服姿の女性ピーランに話しかけた。


「王、人々の目があります、落ち着いてください」


 一見力持ちの美しい町娘にも見えるブリザラ。だがその正体はヒトクイと友好関係にあるサイデリー王国を統べる王その人であった。そんな王のお付兼護衛の役目を任されているピーランは、王らしからぬ素振りを見せるブリザラに対して呆れた表情で注意をする。


「だってピーラン! 私達さっきまでムハード大陸にいたんだよ! それなのに一瞬で今はヒトクイにいる! これって凄い事でしょ!」


しかしピーランの注意を聞くどころか更に興奮度合を増し子供のようにはしゃぐブリザラは、自分達の身に起った奇跡のような現象がどれほど凄い事なのか呆れた表情を浮かべるピーランに熱く語る。


「王、我々は何の許可も無くヒトクイの土地に足を踏み入れているのです、ここで目立てば後々面倒になります」


 国へ入国する場合、大抵はその国の許可が必要となる。例外を除けば殆どの国が国境沿いに関所がありそこを通って国へと入国することになっている。

 島国である為、ヒトクイの場合は島の各地にある港が関所の役割を担っている訳だが、ピーランの慌て具合からしてどうやらブリザラ達は関所の役割をしている港を通ることなくヒトクイに入国してしまったようであった。即ちブリザラ達は現在ヒトクイに不法入国した犯罪者ということになる。

 しかし関所の役割を担っているはずの港を通ること無くブリザラ達はどうやってヒトクイに入国したのだろうか、それはブリザラが先程口にした創造主という人物が関係していた。




― 数分前 ムハード国港 酒場兼宿屋 ―




「アキ、お前が行くなら私もヒトクイに行くぞ!」


ムハード国が管理している港にある開店前の酒場にウルディネの声が響く。


「私はお前と一緒に……うぐぅぅ……」


数日前の戦闘で負傷した傷は見た目癒えているものの完治はしていないのかアキに自分の意思を強く伝えようとした瞬間、ウルディネは苦悶の表情を浮かべた。


「駄目! 今のウルディネは動ける状態じゃない、お兄ちゃん達に付いていくのは私が絶対に許さない」


そんなウルディネの体を気遣いヒトクイへ行くことを止めるテイチ。


「だがッ!」


自分の体の状態を心配してくれるテイチという存在は、ウルディネにとってこの世界よりも大切な存在である。だがウルディネにはもう一つ大切な存在がいた。それがウルディネの目の前で自分の話を黙って聞いているアキだった。


「駄目ッ!」


どんな状態であろうとアキに付いていく気であるウルディネに一喝したテイチはその視線をアキに向ける。ウルディネを止めてと懇願するよう目でアキを見つめるテイチ。


「ウルディネ……悪いが今のお前では足手まといだ、大人しくテイチとこの国で体を癒せ」


普段、常に不満を抱いたような様子のアキは周囲の者達にとっては取っ付きにくい印象がある。しかし旅を共にしてきたウルディネとテイチの前ではその取っ付きにくさが取れるのか、少し厳しくも優しさのある言葉を口にする。


「しかし……」


「しかしもだがも無い、お願いだから今は自分の体のことだけを考えて私を心配させないで」


「……」


テイチの言葉が決めてとなり不満を残しつつも黙りこむウルディネ。


「さあ、部屋にも戻るよウルディネ」


俯くウルディネの肩を抱きながらその場から立ち上がったテイチは再びアキを見た。


「お兄ちゃん……気を付けてね、ちゃんと帰って来てね」


「……あ、ああ……」


何処か寂しそうな表情でテイチはアキにそう言うと、ウルディネを連れて酒場の裏手にある宿屋の方へと向かって行った。


「……はぁ……」


完全に二人の姿が見えなくなったことを確認したアキは短いため息を吐く。


「……本当はテイチちゃんもアキさんと一緒にヒトクイに行きたかったんでしょうね」


「ッ! お前……居たのか」


背後からの突然の声に僅かに驚きをみせるアキ。そこにはブリザラが立っていた。


「二人の前だけでは、アキさん優しい表情になるんですね」


そう言いながらブリザラはアキの前にある椅子に座った。


「ふん、何を訳の分からないことを言っている」


無自覚なのか、アキは本当にブリザラが何を言っているのか分からない様子でそう言うと、目の前に座ったブリザラから視線を外した。


「それでヒトクイに行くことを決めた我儘なオウサマは、俺に何の用だ?」


目の前にいるブリザラに対して嫌味を吐くアキ。だが目の前にいるブリザラという人間に嫌味が通じないと言う事をアキは知っている。いつものように能天気な表情で自分を見つめているのだろうと視線をブリザラに向けるアキ。


「……」


しかしそこには困った表情を浮かべたブリザラの顔があった。


「な、なんだ? 早く用を言え」


自分が想定していた表情では無いブリザラの様子に僅かに狼狽えてしまうアキ。


「その……実は……」


口を開いたブリザラは何処か言いづらそうに要件を口にする。


「はぁ? 船が動かないだと?」


ブリザラが口にした内容は、ヒトクイに向かう為の船が整備中で動かないというものだった。


「今整備を担当している者が頑張っているんですが、どう頑張っても後一週間は動かないそうです……」


自分の所為では無いにも関わらず申し訳なさそうな表情を浮かべるブリザラ。


「なんだと、ここまで来て足止め何て……ああ、盾士達が乗って来た船はどうなんだ?」


あくまで今動かなくなっている船は自分やブリザラ達が乗って来た船の話。そう考えたアキは、ティディ達盾士達が乗って来たサイデリーの船なら動くのではないかとブリザラに尋ねた。


「盾士達が乗って来た船も全部整備中、私達が乗って来た船と同様に一週間は動けないよ」



そう言って酒場に姿を現したのはピーランであった。


「残念だったな」


ピーランはアキに対し悪い笑みを浮かべながらそう言うとブリザラの横に立つ。


「ブリザラ、そう言う訳で一週間はムハード国に滞在することになる、やり残したことは出来るだけ済ませるといい」


アキという存在を居ない者として考えているのか、ブリザラに対して友人と接しているように話しかけるピーラン。


「おい、喧嘩なら買うぞ」


そう言いながらアキは乱暴に立ち上がる。座っていた椅子は大きな音を立てて酒場の床に倒れた。


「はて、何だか虫の鳴き声がするな……」


あくまで居ないという体でアキに対して挑発するピーラン。


「おう、言ってくれるなこのクソ女……」


 二人の間に強烈な緊張感が張りつめる。互いの言葉は町にいるゴロツキの口喧嘩のように聞こえるが、仮にも二人は強者と呼ばれる存在。何かをきっかけにして喧嘩が始まればそれはただの喧嘩だけではすまなくなる。


「待って、待ってください二人とも喧嘩は止めてください!」


二人の実力を知るブリザラはこのままでは喧嘩どころの騒ぎでは済まなくなると思い慌てて二人の間に割って入った。


「とりあえず、どうにかして船を動かす方法を三人で考えましょう」


どうにかこの場を納めようとするブリザラ。しかしブリザラのその言葉は二人に更なる火種を与える結果となった。


「皆で? ……ふん、ブリザラ様、申し訳ありませんが私は自分勝手な虫と会話する口は持ち合わせていません」


「はぁ? オウサマの尻をニヤけた顔で見つめる女何かと一緒に考えられる訳がない」


「貴様!」


「なんだよ」


互いの挑発がまるでクロスカウンターのようにして両者の怒りに油が注がれる。


「待って、本当に冷静になってください」


今までただの口喧嘩であった二人の雰囲気が変わる。その場には殺気が漂い、それは殺意へと変わって行く。


(二人は仲良しなんですね)


その瞬間、突然三人の頭に緊張感が全くない声が響く。


「「仲よくねぇよ!」」


自分達の頭に響いた声に思わずツッコむアキとピーラン。奇しくも二人の声は僅かなズレも無くキッチリ揃っていた。


「いやーお見事」


そう言いながら姿を現したのは砂漠の地下にあるダンジョンでアキとピーランが出会った自分を創造主と言う謎の人物であった。


「何しにきたクソ創造主?」


「何の用だ」


突然現れた創造主と呼ばれる謎の人物と知り合いであるアキとピーランに自分一人だけが理解が追い付かず目を丸くするブリザラ。


「お初にお目にかかりますサイデリーの王、私はガイアスにある一部のダンジョンを管理する者、そしてあなた方、自我を持つ伝説の武具の所有者に試練を与える者……彼ら二人からは畏敬をこめて創造主なんて言葉で呼ばれています」


そうフードを目深に被り表情があまり分からない状態でキメ顔を作る創造主。


「「こめてもいないし言ってもいない!」」


創造主のとぼけた言葉と行動に先程より更に揃った声でツッコんでしまうアキとピーラン。


「むぅ……それでその創造主さんが私達に何の用ですか?」


アキとピーランの様子に不機嫌な様子のブリザラは、不機嫌のままの口調で何用かと創造主に尋ねた。


「あ、いやー何やら船が動かなくお困りと言う話が聞こえたもので」


全くのとばっちりと言っていいブリザラの不機嫌な対応を受けながらもヘラヘラと自分がこの場に現れた理由を口にする創造主。


「それでですね、もしよればその件、私に預からせていただけませんか?」


「へ?」


不機嫌だったブリザラの表情が僅かな驚きに変わる。


「もしかして船を用意してくださるのですか?」


ブリザラにとっては突然現れた謎の人物である創造主。しかし未だ人を疑うことを知らないブリザラは創造主の言葉を間に受け期待を膨らませる。


「……ああ、あれをやるのか……」


「……そうか……こいつなら……」


何かを理解したような様子のアキとピーランはその視線を創造主に向ける。


「ふふふ、それでは早速、行くとしますか」


「え? 行くって何処へ?」


「いやいや、そんなのヒトクイに決まっているじゃないですか、それでは行きますよッ」


「え? はぁ? いや、あの? ちょっと待って準備が!」


「……」


「はあ……」


ブリザラ達三人三様の様子を見ながら創造主は指を鳴らした。すると一瞬にして酒場かから三人の姿は忽然と消えたのだった。


「残された者達への説明は私にお任せください、なんせ私はご都合主義を地で行く創造主ですから」


消えたブリザラ達の姿を見つめるようにそう呟いた創造主も三人の後を追うようにしてその場から姿を消す。そして誰もいなくなった開店前の酒場は、普段通りの静けさを取り戻すのであった。




― 現在 小さな島国ヒトクイ 首都ガウルド ―




「あのクソ創造主、面倒なことをしてくれる」


浮かれる町の人々の顔を横目にアキは自分達を突然ヒトクイに飛ばした元凶、張本人である創造主の姿を思い浮かべ愚痴を零した。


「はぁ、お前も人の事を言えないと思うがな」


一緒にムハードからヒトクイへ飛ばされたピーランはアキの言葉に真顔で嫌味を返す。


「チィ……グチグチとうるせぇな性悪女」


ピーランの嫌味に対して笑っていない笑顔を作るアキ。二人の間には数分前と同じように殺意の波動が漂い始めていた。


「もう、だから喧嘩しないで冷静になってください!」


二人の様子にたまらず酒場の時のように割って入るブリザラ。


「「お前がそれを言うな!」」


両者の声が酒場の時と同じように見事に重なってブリザラに向けられる。


「チィ!」


「ふん」


一切のズレなく重なった言葉に居心地が悪そうにするアキとピーランは同じタイミングで顔を背けた。


「やっぱり仲がいいじゃない」


傍から見れば息の合った二人の様子にブリザラは二人に聞こえない程度の声でそう呟くとやはり不満な表情を浮かべた。


「兎に角だ……今の私達は目立たないようにしな……けれ……ば……ッ!」


自分達が今不法入国をした犯罪者である事を自覚し出来るだけ目立たないように行動しなければならないと言いかけたピーランの言葉が止まりその表情は驚き何か恐ろしいものをみたかのようになる。


「……ブリザラ、その男から離れろ……」


「え?」


「いいから離れるんだ」


腕をとりアキの側から強引に自分の方へとブリザラを引き寄せるピーラン。


「どうして?」


訳が分からないブリザラはピーランになぜかと尋ねる。


「私達は見慣れてもう普通になっているが、よく奴の姿を見ろ……漆黒の全身防具フルアーマー……明らかに、怪しい姿をしているだろう」


ピーランもブリザラもそれが日常となり当たり前になっているが、本来、全身防具フルアーマーとは儀礼などや式典といった公の場で花を添えるものとして使われことが多く、普段は滅多にお目にかかれない特殊な防具であるというのがガイアスでの常識である。

 戦場で全身防具フルアーマーはその重量から持ち主の筋力に依存する扱いが難しい防具と言われ防御力以外、実用性がないと言われている特殊な位置にある防具であった。もし戦場などで全身防具フルアーマーを纏っている者がいれば、それは筋力に自信がある相当な強者か、ただ目立ちたいだけの好き者だと言われるほどだ。

 そんな全身防具フルアーマーを纏っているアキは歩いているだけで目立つのは当然。三人は気付いていないが先程から祭りのように浮かれている町の人々の五人に一人はアキの姿を珍しそうに見つめていた。

 そして更に目立つ事に拍車をかけているのが、『闇』を連想させる漆黒色であった。その色を見ただけでガイアスの人々は『闇』を連想させ不審がらせてしまうのだ。だからこそピーランは周囲の者達に自分達は関係ないと思わせる為アキからブリザラを引き離したのだった。


「……ちょっと君」


ピーランがそんな話をブリザラにしていると一人のヒトクイ兵士がアキに近づき話しかけてきた。


「……」


何の感情も感じられない無の表情でヒトクイ兵士を見つめるアキ。


「ん、どこから来たの? ……ちょっと来てもらえるかな?」


何の感情見せないアキの無表情に不信感を募らせるヒトクイ兵士は話を聞く為に自分に付いてくるようにと言う。これは明らかに職務質問の流れだ。このまま色々と質問を受ければアキがヒトクイに不法入国したことがばれるのは時間の問題であった。


「ブリザラ、今の内だ……離れるぞ」


しかし幸いだったのはヒトクイ兵士がブリザラとピーランがアキの関係者だと思っていなかったことだった。その視線はアキにだけ向けられヒトクイ兵士はピーランやブリザラの存在に気付いていないようだった。これはチャンスだと思ったピーランはブリザラの肩を叩くと小声でこの場から離れることを指示する。


「え、ええ?」


どうしていいか分からないブリザラはピーランに言われるがままその場を離れようとする。


「……こんな事言っちゃ申し訳ないけど、君相当に怪しいんだよね……昨日壊滅した闇王国ダークキングダムに関係していないよね?」


「「「ッ!」」」


ヒトクイ兵士のその言葉に3人の表情が驚きに染まる。なぜなら闇王国ダークキングダムとは、ブリザラの命を狙ったピーランが元いた盗賊団の名だったからだ。


「おい、闇帝国ダークキングダムが壊滅したっていうのは本当なのか!」


気付かれる前にこの場から立ち去ろうとしていたはずのピーランはヒトクイ兵士のその言葉に思わず声をあげてしまった。


「……何だ君は? ……もしかして君この人の知り合いかい?」


「……!」


思わず口走ってしまった自分の浅はかな行為にピーランはしまったという表情を浮かべる。


「なら、君もついて来るんだ、色々と聞きたいことがあるから」


「あーあ、馬鹿だな」


自らしくじったピーランを嘲笑うアキ。


「くぅ……」


自分に向けられたアキの嘲笑に奥歯を噛み悔しさが滲み出るピーラン。


(意標を突いて逃げるか……いや僅かな時間でブリザラにその指示を出すのは難しい……どうすればいい……考えろ、あの男はどうなってもいい、ブリザラと私がこの場からうまく逃げ切る方法を考えろ……)


しかし悔しさを滲みだす裏でピーランの思考は高速で回転していた。


(ハッ! ……これだ……)


「その……実は」


ピーランが想い付いたこの場を切り抜ける方法は、アキを悪者にすることだった。ブリザラと二人で出歩いていたら、突然そこの男に声をかけられ乱暴されそうになったとでも言えばヒトクイ兵士の意識は自分から離れ再びアキに戻るはずだとそうピーランは考えたのだ。


「その男の人に……」


完璧なシナリオを完遂する為に普段よりも声を高くそしてか弱い女性を演じようとするピーラン。その演技には一切の迷いはない。アキを犠牲にしてブリザラを守れるのであれば喜んでアキを犠牲にする。それが今のピーランの思考、アキに対して一切詫びる気持ちは無かった。


「わ、私はサイデリー王国の王ブリザラ=デイルです、ヒトクイの王ヒラキ王に謁見を希望します!」


「えッ?」


「ぷ……あははははッ!」


だがピーランの完璧なシナリオはブリザラの言葉によって崩れ去った。

 今何が起きているのか、あまりの衝撃で理解できず茫然とするピーラン。それとは逆にブリザラの行動が面白かったのか思わず吹き出し大笑いするアキ。


「な、何を言っている! そんな嘘、通用する訳ないだろ! これは私に対しての虚偽に該当する、君も私に付いてきなさい!」



サイデリー王国の王という存在は知っていても一介のヒトクイ兵士がサイデリーの王の顔など知る訳も無く、ブリザラのとった行動は嘘だと片付けられ状況を悪化させてしまった。


「どうした?」


「なんだ?」


そうこうしているうちに散らばっていた他のヒトクイ兵士達が騒ぎを聞きつけブリザラ達の周りに集まりだしてしまう。気付けばブリザラ達はヒトクイ兵士達に囲まれどうやっても逃げにれない状態になってしまった。


「どうする? 全員殺るか?」


不穏な言葉を口にするアキ。


「馬鹿かお前、状況を更に悪化させてどうする、そんな事をすればサイデリーとヒトクイの間で戦争が起るぞ!」


「信じてください、私本当にサイデリーの王なんです」


ヒトクイ兵士達とやる気満々なアキ。そんなアキを怒り止めるピーラン。そして自分はサイデリーの王であると訴え続けるブリザラ。三人が言葉を口にすればするほどそれが悪循環となりヒトクイ兵士達に悪い印象を与えもはや混沌とし収集がつかず取返しのつかない状態になっていった。


《……創造主……本当に我々は王達に手を貸さなくていいのですか?》


《これじゃマスター達が捕まってしまいます》


 ここまで一切ブリザラ達の会話に混ざることなく様子を見続けていた自我を持つ伝説の武具達キングとクイーンは、ブリザラやアキの状況に不安の声をあげる。


(心配しなくても大丈夫……)


ブリザラやアキを心配するキングとクイーンに心配はないと言い切った創造主は、ヒトクイ兵士達に連行されるアキやブリザラを楽しそうに見つめる。その口元は何かを企んでいるようであった。





 ガイアスの世界


 ガイアスでの一般的な全身防具フルアーマー


 体全域を殆ど覆い隠し所有者に絶対的な防御力を与える防具、全身防具フルアーマー。しかしその用途の殆どは戦場では無く儀礼や式典などで花を添える為のものになっているのが今のガイアスの全身防具フルアーマー事情である。

 なぜ防具であるはずの全身防具フルアーマーの用途が戦場では無いのか。その理由の一つとして重量の問題がある。簡単に言えば全身を鉄の塊で覆う全身防具フルアーマーは重すぎるのだ。乱戦になることが当たり前の戦場や複数の魔物を相手にする場合、全身防具フルアーマーは重く動き辛い為に戦いにならないのだ。

 その為好んで全身防具フルアーマーを纏って戦場に向かう者や魔物と戦う者は少ないとされている。もし戦場で全身防具フルアーマーを纏っている者を見かけたら、それはただの目立ちたがりの好き者か、もしくはその重量を物ともしない筋力を持った強者だと思っていい。

 だが防御力は他の防具よりも段違いで高い為、王などの警護をする者達が全身防具フルアーマーを纏っていることは多く儀礼や式典で重宝されるのはこの理由の為である。

 そしてもう一つの理由がその拡張性、改良の幅にあった。

 だが改良と言っても戦場で戦いやすくするというものでは無く、あくまで見た目の話。全身を覆う防具の為、拡張性が高く様々な装飾を施したりてぎる為、全身防具フルアーマーは戦場で戦う防具というよりも見て楽しむ芸術の要素が強いのである。

 その為金を持つ貴族やごく一部の偏った者は自分を目立たせる為にわざわざ全身防具フルアーマーをオーダーメイドすると言う。

 余談ではあるがアキが纏う全身防具フルアーマーは並の攻撃では傷一つつかず、その重量も全身防具フルアーマーとは思えない程に軽い。さすが伝説と名の付く防具と言った所である。

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