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もう少し真面目で章(ブリザラ編)10 胸に抱く感情

ガイアスの世界


 住民街にある民家の爆発のその後


 突然の爆発から、盾士達が駆けつけて調査を開始するも、爆薬の類による爆発ではないことから、最初は魔法を使った爆発ではとも考えられた。しかし飛び散った家屋の破片やその場に燃えた後も無く、一体何が爆発したのか、そもそも爆発だったのかということも解明できていない。

 しかし数日後、一人の目撃者の話により、全身防具フルアーマーを纏った人物が何かしていたという情報から総隊長であるティディはある人物を特定することとなる。

 しかしすでにその人物はムハードにはおらず、更には色々な事情もありこの事件は一時的に闇に葬られる形となったようだ。




 もう少し真面目で章(ブリザラ編)10 胸に抱く感情




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




港にある酒場でのサイデリー王国の盾士達による報告会議が終了し皆がそれぞれの担当警備へと戻ろうとする頃、意識を取り戻していたブリザラの言葉によってピーランは幸せの絶頂にあった。

 自分だけに向けられた笑顔、そして自分を労う優しい言葉。これだけで今までの苦労が報われた気になりすぐにでもブリザラと二人きりになってイチャイチャしたいと思うピーラン。


「ねぇピーラン、私ヒトクイに行ってもいいかな?」


「は、はぁああああああ?」


しかしその矢先、ブリザラの口から放たれた言葉は、幸せの絶頂にあったピーランを混乱へ落とし悲鳴にも似た叫び声をあげさせた。


「ん?」


「何だ?」


突然叫びをあげたピーランを訝しく見つめる盾士達。


 サイデリー王のお付兼護衛を務めるピーランは普段、美しくも冷静で人当たりのいい人物として盾士達から認知されている。潜入や暗殺を得意とする戦闘職、忍であるピーランならば本来の自分とは全くの別人を演じることなど造作もないことであった。だがこの時のブリザラの一言は、一瞬にしてピーランの演技を剥ぐだけの威力を持っていた。

 普段そこまで大きな声を出す事をしないお付兼護衛を務めるピーランの悲鳴にも似た叫びを聞いた盾士達が一体何事かと叫んだ本人を見つめるのは当たり前であった。


「あ、いや……ホホホ、もうーブリザラ様ったら、そんな突然何を言いだすんですか、私驚いちゃいましたよ、フフフフフ……」


訝しく自分を見つめる盾士達の視線を作り笑いでどうにか誤魔化しつつピーランは、ソファーに寝かされているブリザラに顔を近づけた。


「冗談にも程があるぞ……」


ピーランは真顔でブリザラを見つめながら小声でそう言った。


「この国の復興を始めたのはお前だ、ここでお前が勝手にこの国からいなくなったらそれこそこの国の連中は不安を抱くぞ」


 前ムハード王を討ったサイデリー王国の王として、今ムハード国内でブリザラの名を知らない者はいない。その功績によってブリザラを英雄と呼ぶ者までいる。そしてその英雄であるブリザラは今、王を失い崩壊寸前であったムハード国の復興に携わっている。いわばムハードの人々にとってブリザラは希望の象徴、新たなムハード国の重要人物なのだ。当然重要人物であるブリザラが復興途中であるムハード国から突然出て行くことはムハード国の人々にとって不安を抱かせる行為でしかない。


「それは、分かっているよ」


ブリザラ自身、自分の立ち位置がムハード国にとって重要であることは理解しているとピーランの言葉に頷く。


「いや、お前は理解していない、お前の口からそう言う言葉が出る時点で分かっていないだ……」


だがピーランは首を横に振る。自分の立場を理解している者は安易にヒトクイに行きたいなどと口が裂けても言わないからだ。


「それは……キングの所有者として次の試練の場所がヒトクイにあるからで……」


自分がなぜヒトクイに行きたいと言ったのかその理由を口にするブリザラ。


「結局お前は、ここでの試練には向かわなかっただろう」


ブリザラがムハード大陸へやってきた理由は二つ。一つは自分の命を狙った黒幕である前ムハード王にその理由を尋ねること。これに関しては前ムハード王の暴走によって聞けずに終わってしまった。

 二つ目の理由が、自我を持つ伝説の武具の所有者に課せられた試練へと向かうことであった。


「それは復興が忙しくて」


しかしこれもブリザラはムハード国の復興に忙しく行けないまま終わりを迎えてしまった。


「ムハードの復興を理由にするな! それはお前が決めたことだろう、お前の考えによって数多くのサイデリーの人間を動かしたんだ、お前にはムハードの復興を見届ける責任がお前にはあるんだよ!」


「ん? どうした?」


「何かピーランさんいつもより口調が荒くないか?」


何を言っているのかまでは理解できていないようだが、盾士達は声が大きくなっているピーランに再び注目する。


「……あらら、何ともそんなはしたない事を言っている者がおりまして……」


過熱した感情を抑えきれなかったピーランはすぐさま再び作り笑いを作り適当な事を言って誤魔化すとブリザラの腕を握る。


「ここじゃ色々と面倒だ、離れるよ」


「ちょ、ちょっと待って」


 強引に腕を掴まれたブリザラは側に置いてあった特大盾、自我を持つ伝説の盾キングを持ちピーランに引かれる形で酒場の奥、今はウルディネ達しかいない宿屋側へと酒場の盾士達に気付かれないように移動していった。


「……」


 ピーランの只ならぬ雰囲気を察してなのか、盾士達はそれ以上二人に注目することなくそれぞれ次の担当警備について話し始める。その中、この場にいる盾士達の総隊長を務めるティディだけが宿屋側へ向かう二人の後ろ姿を見つめていた。




「ピーラン、痛いよ」


酒場の奥にある宿屋側に入ったブリザラはピーランに握られた腕の痛みを訴える。


「あ、ああ……悪い」


痛みを訴えるブリザラの声に即座にピーランは握っていた手を離し謝った。


「……ピーランが言ってくれていることは分かってる、自分の立場もちゃん……」


「なら何であんな軽はずみな事を私の前で言った! 今この場にいる盾士達はお前の命令を受けて、勝手も分からないこのムハードに来てお前から出された命令をしっかりこなしているんだぞ、そんな彼らがもしお前が私に言ったあんな言葉を聞いたらどう思う? 彼らの士気は確実に下がるぞ」


全く自分の立場を理解していないとブリザラの言葉を遮るピーラン。

 盾士達は本来サイデリーだけを守護する戦闘職である。そんな彼らはブリザラの命令を受けわざわざムハードまでやってきている。それだけでも彼らからすれば相当な負担になっているはずだ。だがここにいる者達は王の為ならと皆その負担を物ともせず見ず知らずの土地で各々が受けた任務や警備をこなしているのである。そんな彼らの気持ちを踏みにじるような発言を軽々しく自分にしたブリザラの言葉がピーランには許せなかったようだ。


『……確かにピーラン殿の言い分はもっともだ』


「キング……」


ピーランの指摘を後押しするキング。その言葉にブリザラは落ち込むように顔を俯かせる。


『……だがピーラン殿、私の理解不足であったならば先に謝るが、なぜそこまでして盾士側に立つ? 確かにピーラン殿はサイデリー王国に忠を尽くしているが、それは王に対してだけ向けられたもの、本来のピーラン殿ならば王に激怒としてまで盾士達の側に立つような事はしないと思うが?』


 ピーランの本当の胸の内を知っているかのようにキングは、ピーランの言動の不自然さを指摘した。


「そ、それは……」


『ピーラン殿、あなたは今のこの国の状況や盾士達を利用して自分の本当の気持ちを隠しているのではないか? 本当に言いたいことは別にあるのではないか?』


「どういうことキング?」


ピーランから本音を聞きだそうとするキング。しかしブリザラにはキングが何を言っているのか理解できない。


『ピーラン殿、あなたは……』


「待って!」


自分の疑問を聞きいれず話を続けようとするキングを止めるブリザラ。


「待ってキング……そこからはピーランに……ピーランの口から話してもらおう」


一体キングとピーランの間で何が起きているのか理解できないまま、だがそれでもキングの口かでは無くピーラン本人から聞きたいと思ったブリザラはそう言いながらゆっくりとピーランに視線を向けた。


「うぅぅ……」


ブリザラの真っ直ぐな視線が辛いピーラン。


「ピーランは一体私に何を隠しているの?」


自分の視線から逃げるピーランに対して本心を話してと頼むブリザラ。


「くぅ……ああ、本当はこの国や盾士の事なんてどうでもいい……」


ブリザラに頼まれ、観念したように一度俯いたピーランは、覚悟を決めると重たい口を開き自分の本心を語りだした。


「私にとって重要なのは……私を友達だと言ってくれるブリザラだけだ……」


「ピーラン……」


その言葉に嬉しくも複雑な感情が込み上げるブリザラ。


「だから……許せなかった……ブリザラがヒトクイに行きたいと言ったことが……」


「え?」


なぜそこでヒトクイが出てくるのか理解できないブリザラ。


「ふふ……これだから箱入り娘は困る……ブリザラ、お前は何でヒトクイに行きたいと思ったんだ?」


自傷気味な笑いを浮かべたピーランはなぜヒトクイに行きたいのかとブリザラに尋ねた。


「それは……試練を受けに行く為……?」


自分でもその理由が正しいのか分からない様子のブリザラの答えは曖昧だった。


「……違うな、もし試練の為というなら、お前はこのムハードで一目散に試練へと向かっていたはずだ、だけどお前はそうしなかった……」


「……」


ピーランの指摘によって自分の気持ちと行動にズレがあることに気付くブリザラ。


「ムハードに向かうことになったことだってそうだ、お前は自分では色々な理由があってムハードへ行くことにしたと思っているがそれは違う、全てはあの男がムハードへ行くことになったから自分も行くことを決意したんだ」


「ッ!」


ピーランの言葉に今までの自分の行動や自分の心にあった不透明だった部分が形を成していくのが分かるブリザラ。


「お前はあの男……アキを追い続けていたんだ……だから、あの男がヒトクイに向かうと知り自分もヒトクイに行きたいと口に出したんだろう」


「私は……アキさんの後を追いたいと思っている……」


まるでピーランに言われ自分の本心に気付いたというよにブリザラは驚きながらそう呟く。そう呟いてみて自分の中に一切の否定が無いことを自覚するブリザラ。それ所か今まで自分の中で不明瞭だったものがはっきりと理解でき驚いていたブリザラの表情は何処かスッキリしたようになっていた。


「はぁ……私は、それを止めたかった……あんな奴の後を追えばブリザラが危険な目に合うのは分かり切っているから……」


 あのダンジョンでアキと刃を交えた瞬間、どんな犠牲を払おうとも強者になるという強い意思をアキから感じたピーランはティディが言うような言動や行動を不器用で済ませられる程アキという人物のことを信用できなくなっていた。いつかその刃は必ず自分へと向く、そしてその刃はブリザラにも向けられるはずだと想像してしまったピーランには、ブリザラがアキと行動することはなんとしても阻止しなくてはならいな事だと思ったのだ。

 だがこれはあくまでピーランの個人的感覚でしかない。例えこの話をブリザラ本人にしたとしても、きっとブリザラを止めることが出来ないのは常に近くにいたピーランが一番分かっている。だからこそ、ムハード国の現状や盾士達の状況を引き合いに出しアキを追おうとするブリザラを止めようとした。しかしピーランはここで自分の気持ちを一つ隠した。

 それはもっとも人間らしい感情の一つではあるが、この場でピーランが口にするには憚れるものであったからだ。


『……』


ピーランが隠した気持ちをキングは知っている。だが追及することはせず黙ったままピーランの言葉を聞き続けた。


「……ピーランは本当に私の事を色々と考えてくれているんだね」


自分の想いを一部吐露したピーランの言葉にブリザラは自分がどれだけ恵まれているかを実感する。


「ありがとう、ピーラン」


その実感は素直な言葉となってピーランに向けて発せられた。


「……勘違いするな……これは……お前の為と言いながら自分の為なんだよ……」


ブリザラの素直な感謝の言葉に胸が少し疼くピーラン。


「私……アキさんと一緒にいるとワクワクしてドキドキして時々胸が苦しくなって、今までサイデリーの壁の中では感じたことの無いものを感じた、きっと私はその感覚が何のかを知りたいからアキさんを追いかけたいのかもしれない」


既に答えが出ているような物言いをするブリザラ。だが言葉の最後にはその感覚の正体が知りたいからとその感覚の正体を理解していない事を告げる。


「……だって私は、アキさんの事、一つも理解できていないから……理解する方法が分からない……でも、でもね……私……アキさんを理解したいんだ……理解したいのに……」


「ブリザラ?」


突然情緒が不安定になるブリザラに驚いたピーランは自分が怒っていたことも忘れ側に寄ってブリザラの肩を支えた。


「だから……アキさんの事を理解しているピーランやティディさんを見ていると何故か心が締め付けられるの……」


「はぁ?」


どこをどう見れば自分やティディがアキの事を理解しているのか、ブリザラの独特な感性が理解できないピーランは思わず疑問の声をあげてしまった。


「二人がアキさんの事を理解して仲良くなってくれることを私は望んでいるはずなのに、アキさんの事を好きになってくれることを望んでいるはずなのに、どうしてか二人がアキさんの話をしていると胸がザワザワするの……」


「……それは……」


思わずブリザラが感じる心のざわつきがなんであるのか思わずピーランは言いそうになる。だが寸前の所で言いかけた言葉を飲み込むピーラン。


「何? 何か知ってるの?」


何かを言いかけたピーランの言葉が気になったブリザラは少し目に涙を溜めながら尋ねた。


「ブリザラ、その胸の苦しみは、悪いことじゃない、人間なら誰でも抱く感情だよ」


そう言いながら泣きそうな表情を浮かべるブリザラの頭を優しく撫でるピーラン。


「感情? ピーラン、この感情って一体なに?」


胸がざわつく感覚はとある感情であることを知ったブリザラは、自分の中で起っているこの胸のざわつきは一体どんな感情なのかとピーランに更に尋ねる。


「ダーメ、教えないよ……」


ブリザラの問に対して優しく突き放すピーランは、撫でていた手を前髪へ移動させるとくしゃくしゃとブリザラの前髪を乱した。


「何で教えてくれないの」


ピーランの意地悪な態度に手を払いのけ乱れた前髪を直しながら不満を口にするブリザラ。


「そりゃ……それは自分自身で気付かなきゃならないからさ、特にあんたはサイデリーという大国に守られてきた重度の箱入り娘だ、これから出会う様々な人の生き様を学んで自分でその答えを探しだしな」


そう言うピーランの表情には何処か寂しさが伺える。


「……私はブリザラがヒトクイへ行くことは反対だ、だけど……選択するのはブリザラ自身だ……もしあいつを追ってヒトクイに向かうと言うんだったら、迷惑をかける奴らにちゃんとしたケジメをつけてからにしな……それじゃ私は少し外の様子を見てくるよ」


既にピーランは確信していた。重度な箱入り娘。それ故一つのことに執着するとけっしてそこから折れない、悪く言えば自分の我を通す我儘な一面を持つブリザラ。自分がどれだけ言ってもきっとブリザラはアキを追ってヒトクイへ向かうことを選択すると確信するピーランは、ヒトクイに向かう上で迷惑をかけてしまう者達へしっかりとしたケジメをつけるよう助言するとその場から少し不自然にも思えるようにして酒場へと向かっていく。


「ピーラン」


答えをはぐらかすようにその場から去って行くピーランを呼び止めるブリザラ。


「それは……嫉妬だろ……その先は……」


背を向けたピーランは誰にも聞こえない程の声でそう呟くと、ブリザラの呼び止めに答えること無く酒場へ向かっていった。


「もー何なのよ……」


重要な事は何も語ってくれなかったピーランに見た目よりも幼く不満を漏らすブリザラ。だがその表情は何か吹っ切れたようにスッキリとしていた。


「……あッ!」


まるで何かを思い出したように声をあげるブリザラ。


「キング」


玩具をねだる子供のように手に持つ特大盾、自我を持つ伝説の盾キングに話しかけるブリザラ。


『……な、何だ王よ?』


明らかに動揺が声に見えるキング。


「ねぇ? ピーランが言っていた事、キングなら分かるよね? 教えてよ」


 いつも通りの様子に戻ったブリザラの瞳に浮かぶのは、ブリザラの性格を語る上で重要になる我が強いという部分と双璧を成す気になったら何処まで探求してしまう好奇心。ブリザラの瞳に宿った好奇心は、あらゆる知識に精通するキングに向けられることとなった。


『あ、いや……その……うーん、申し訳ないが……私には……さっぱり理解が……』


ブリザラの好奇心をその盾肌で感じたキングは、分からないと答えつつ、内心ではピーランが不自然にこの場から去っていた理由を理解した。


《押し付けたな……》


強い好奇心を持つブリザラは納得するまで自分が抱いた感情の答えを追及し続けるだろうと想像していたピーラン。その追及から逃れる為にキングへとその役目を押し付けこの場から逃げしたのだ。


「ふーん、沢山の知識を持っているキングもたいしたことないんだね」


ピーランの押しつけに苦虫を噛み潰すような思いをしているキングに追い打ちをかけるようにしてブリザラから投げかけられる言葉。


『ぐぅ……ぐぬぬぬ……』


自尊心を逆立てるようなブリザラの挑発にキングは唸った。


「もーいいよ、キングのことを信頼していたのにな……」


『ガッハ! ぐぅううう』


更に追い打ちのようなブリザラの言葉に血反吐するような声をあげるキング。


「……ねぇキング? 本当に知らないの?」


『ゴホォ!』


トドメの一撃と言わんばかりに今度は甘えたような声でキングに頼むブリザラ。その可愛さにキングは本当に何かを吐き出したような声をあげた。


『……王よ、勘弁して欲しい……』


ブリザラの怒涛の追及に絞り出すような声で降参の意思を示すキング。


「それじゃ……!」


『……王よ……申し訳ないが本当にそれについては私は語ることは無い、ピーラン殿が言うように王自らがその答えに辿りつかなければ意味がないのだ』


「……そう……」


答えが聞けると期待を高めたブリザラであったが、依然としてキングの態度は変わらない。真剣なキングの様子にこれ以上追及しても絶対に口を割らないと悟ったブリザラは自分が抱いた感情の正体が結局掴めなかった肩を落とし落胆する。


『……王よ、ピーラン殿の言葉は的確だ、これから出会うだろう人々から様々な事を学ぶのだ、そうすれば自ずと、求める答えに辿りつくことができるはずだ』


「うん……」


完全に納得した訳では無い様子のブリザラ。しかしキングの言葉が心に届いたのかブリザラは素直に頷くのだった。


 この出来事から数日後、ブリザラは自分の命令によって振り回されている盾士達に事の経緯を話し、頭を下げ謝った。盾士達はいつもの事だと笑って許し、このままムハードの復興が終わるまで警備を続行することをブリザラに誓った。ただ一人、総隊長であるティディだけは一つブリザラに条件を提示した。

 その条件とは、ティディを含めた盾士達の祖国への一時帰国であった。勿論ブリザラがこれを拒否する理由は無いためこれを承諾。ティディが帰国する間はガリデウスにムハード復興責任者、総隊長を務めてもらう流れで話はまとまった。

 次にムハードの人々への挨拶へ向かったブリザラ。自分がムハード国を離れなければならない理由をキングの正体がばれない程度に話すと、この国を救った英雄のその力は他の困った国でも使うべきだとあっさりと承諾してくれブリザラの旅立ちを祝福してくれた。余談ではあるが、そんなムハード国の人々を見ていたアキは、第二のサイデリー王国の完成だなと呟いていたようだ。

 次にベンドットとの戦いで傷ついたウルディネとテイチ、そしてレイドに諸々の事情を話したブリザラ。ウルディネは自分の負傷が思ったよりも重く今はこの場から動けないと一緒に行けないことを悔しがっていた。当然テイチもウルディネが動けない状態にあるなら自分もついていくことは出来ないとムハードに留まることを願った。そして問題だったのがレイドだ。

 レイドはブリザラに大分懐いている様子で離れることを拒んだ。しかし復興後、ムハード国の王になるレイドを一緒に連れて行くことは出来ず、ブリザラはレイドの説得にかなり時間がかかったようだ。

 そして最後にブリザラのお付兼護衛にして、一番の友達であるピーランの下へ向かったブリザラ。アキと共に行動することに反対しているピーランを説得するのは容易では無いと思っていたブリザラ。しかし蓋を開けてみればピーランは分かったと一言いうとすぐにブリザラと自分の身支度を始めた。きっと納得はしていないのだろうと思いつつも、ブリザラは何処までも自分の事を考えてくれるピーランに改めて笑顔で感謝の言葉を告げた。その後ピーランがしばらく使い物にならなくなったのはここだけの話である。

こうしてブリザラは自分が迷惑をかけるだろう人達にそれぞれのケジメを付けたのだった。


 他の国とは違う独特な人と人の距離感を持つサイデリー王国に生まれ、王となったブリザラは初めて自分の意思で外の世界へと飛び出した。そこで出会った人々はサイデリーのように優しい者達ばかりでは無かったが、この経験は確実にブリザラの心を成長させるものとなった。彼女が持つ純粋な心はこの先、更なる世界に触れることでどう変化を遂げていくのだろうか。




― ガリデウスへ ―



 元気にしていますか? 私は元気です。


 突然ですが明日、ムハード国を旅立つことになりました。ムハード国復興途中という状況でこのような事態になり非常に悩みましたが、各所色々な方からの叱咤激励をいただき、私ブリザラ=デイルはヒトクイへ向かうことになりました。

 ヒトクイへ向かう理由は、キングの所有者としてその力を高める試練を受けに行く為です。それに伴い、ガリデウスにお願いがあります。

 現在ムハード国復興総隊長を務めているティディさんの要望により盾士さん達のサイデリー国の一時帰国が決定しました。それに伴いティディさんもサイデリーに帰国することになり、その間ムハード国復興総隊長をガリデウスにお願いしたいと思っています。

 引き継ぎなど細かい内容は現地にてティディさんかから聞いてください。

 

 それではよろしくお願いします。 ブリザラ=デイル



― フルード大陸 サイデリー王国 氷の宮殿 ガリデウス自室 ―




「むぅ……?」



自室の机の席に座るガリデウスは表情を険しくしながら唸った。視線の先には一通の手紙。


「はぁ……これが一国の王が出す手紙の内容か……ヒトクイに行くだと?……私がティディの代わりにムハード国の復興総隊長だと! なぜだなぜ勝手に決める!」


突然の手紙の内容に当然不満しかないガリデウスは自室をいいことに思う存分怒りをあらわにする。


「……」


だがしばらく王の不在で怒鳴り声を上げることが少なくなっていたガリデウスは、怒鳴りつつもその表情は何処か嬉しそうでもあった。





 あとがき


 どうも山田二郎です。


一応これにてムハード編は完結となります。えー非常に言いにくいのですが、後々(いつになるかしりません(汗))書き直そうと思っています。ええもう、本当に酷い有様でして、ここ数カ月はずっと死んだ魚の目ですか? そんな目で主人公二人の物語を書いていました。書けば書く程矛盾綻び雨霰のオンパレードでして、勉強不足、力不足も余ってずっとヒィヒィ言ってました。

 途中から手遅れであることを悟り、もうとりあえずこの二人の話を一旦終わらそうと舵を切り、今に至ります。いや……本当に不甲斐無い……色々と悔しいです。とりあえずそんな訳で、機会があれば……書き直します……多分。

 そんな感じで、これからも誤字脱字、辻褄が合わないなど生ぬるい目で見ていただけるとありがたいです。


昨今、色々と大変な世の中になっておりますが、一ミリでもお暇の足しになれれば幸いです。


 2020年5月15日  数年ぶりに某闇魂3にハマリながら……

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