もう少し真面目で章(アキ編)9 素直では無い
ガイアスの世界
呪武器による精神異常
呪武器との体の相性は抜群であったベンドットではあったが、精神は完全に負の感情に蝕まれ崩壊していた。
人が持つ悪意、憎悪からなる負の感情は、簡単に人の精神を崩壊させる。それは強い悪意や憎悪などが人の全てを狂わせるからと言われている。
人の命を軽視し他人から悪意や憎悪を多く向けられ人一倍負の感情に対して耐性を持つベンドットでも呪武器の呪いを制御することは叶わなかったようだ。
だがもしベンドットが呪武器の呪いを制御できる程に負の感情に対しての耐性を持ち合わせていたならば、今頃とんでもない化物が誕生していたかもしれない。
もう少し真面目で章(アキ編)9 素直では無い
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
《ああ、そうだ、まだ奴らは残っている、ただちに兵達をおくってくれ……》
焦りとも怒りとも言えない感情を押し込めたような声で、港にいる最上級盾士ティディに念話を送るキングは、現在のムハード国の状況と未だ潜伏する輩の捕獲を求めていた。その横には意識を失っているサイデリー王国の王、ブリザラがお付兼護衛であるピーランに膝枕をされながら寝かされていた。
「……状況は伝わった?」
連絡を終え無言になったキングに今のムハードの状況は伝えたのかと聞くピーラン。
『ああ……一応、王の事は伏せつつ輩がまだ潜んでいることを伝えた……』
一段落したと言うように僅かに小さいため息を吐いたキングは、自分に話しかけてきたピーランに港にいるティディにどう説明したのかを簡単に伝えた。
「そうか……」
意識を失っているブリザラの前髪を整えながらキングの言葉に頷くピーラン。
ベンドットが手にしていた呪武器が発する負の感情に当てられたことにより精神に相当な負荷を負ったブリザラは意識を失っていた。下手をすれば意識が破壊されたかもしれないというキングの言葉に表情が暗いピーラン。
『……ピーラン殿、聞きたことがあるのだがいいか?』
暗い表情を意識を失っているブリザラに向けるピーランに聞きたい事があると話しかけるキング。
「ああ、なんだ?」
ピーランは自分の膝の上に乗せたブリザラの頭を優しく撫でながらキングの言葉に頷いた。
『……色々と聞きたいことはあるが……まず、なぜこの場に留まっている?……』
「え?」
キングの言葉を理解できていないという何とも間の抜けた表情を浮かべるピーラン。
『王のことが心配であることは分かるが、未だムハードには奴らの仲間が潜伏している、今のピーラン殿なら簡単に輩達を捕縛することができると思うのだがなぜ捕獲に向かわない?』
サイデリー王のお付兼護衛であるピーランがブリザラの身を案じていることは理解していると前置きしたキングは、ベンドットを倒した実力があるのにどうしてムハードに潜伏する輩達の捕縛に向かわないのだと疑問を口にした。
「……それは、私がブリザラのお付兼護衛だからだ」
キングの言葉に鋭い視線を向けたピーランは自分の本来の役目をはっきりとした口調で伝えた。
『ああ、それは理解している、だが今この状況で動けるのはピーラン殿だけだろう?』
港に居るティディに応援を要請したキングではあったが、彼女達がこの場にやってくるよりもピーランが今すぐにでも輩の捜索、捕縛を始めた方が効率がいいと思っていたからだ。
「残念だが、それは出来ない……なぜなら……」
『なぜなら?』
「私の中のブリザラ成分が枯渇しているからだ! 私はブリザラ成分を常に補給していないと発作を起こし動けなくなる!」
寝ているブリザラの横に置かれたキングに対し、そう熱弁するピーラン。
『ふ、ふざけている場合では無い!』
ピーランのふざけた態度を叱りつけるキング。
「……ふざけてなど無い! ……ふざけているのはお前の方だろうキング?」
自分を叱りつけたキングに対して今度は真面目にいや怒りを露わにして答えるピーラン。
「私は今お前に失望している……私はお前がブリザラを完璧に守ってくれる存在だと思ったから、お前の指示に従いアキの後を追ってダンジョンに向かった、だが私が帰ってきたらどうだ? お前はあの大男の攻撃からブリザラを守ることが出来ずの意識を失わせた、更には精神が壊れたかもしれないとも言った……お前はそれでもブリザラを守る盾なのか? サイデリー王国や私と交した約束に背いているという自覚があるのか?」
ブリザラを守る盾としてサイデリー王国やピーランと交した約束、それを実行できていなかったというのに平然としているキングの態度が気に喰わなかったピーラン。内包している怒りを静かにピーランはキングぶつけた。
『……そ、それは……』
サイデリーを離れる時、ガリデウス達とキングが交した約束。ブリザラの身は自分の命に賭けても守るという約束が守られていないではないかと指摘するピーランの怒りの籠った言葉に声を詰まらせるキング。
ベンドットとの戦いに置いて、ブリザラは今までに体験したことが無い悪意や憎悪、負の感情をその身に受け意識を失った。これは一般的な精神の持ち主ではあれば誰もがブリザラと同じ状況になってもおかしくはない。更に言えばサイデリー王国という極めて負の感情が少ない特殊な環境で生きてきたブリザラには負の感情に対して慣れていないというのもこの状況を生み出した結果の一つであり、これをキングの落ち度というのは中々に難しいものがある。
『……』
だがそれらは単なる言い訳でしかないと思ったキングは黙りこむ。自分が負の感情すら防げる盾であれば、今ブリザラの精神が壊されるといった状況にはならなかった、自分の実力不足だと反省していた。ブリザラが意識を失い動けない状況にある自分が今出来るのは一刻も早くブリザラの身の安全を確保したいとという思いだった。だがその思いはピーランには届かず約束を破っても平然としている奴として映っていたことを自覚するキング。
「私はもうお前を信用することは出来ない、だから私はもうブリザラの側から離れない……」
そう決意したように自分の想いを口にしたピーランはブリザラの体を強く抱きしめた。
「はぁ? どの口がそんな事言わせる? ……お前もその盾野郎となんにも変わらないだろう、大事な時にこのオウサマの側にいなかったんだからな」
ピーラン達の話を黙って聞いていた漆黒の全身防具を纏った男、アキは呆れたようにそう呟いた。
「何!」
その呟きに更に怒りを強めるピーラン。
『小僧……』
いつも自分に対して憎まれ口しか叩かないアキが珍しく肩を持ったことに驚くキング。
「どういった経緯があったかは知らない、だがお前は盾野郎の言葉を信じ、俺の後を追ったんだろう? その時点でお前は、オウサマのお付兼護衛という役目を捨てたんだ、あの呑気な国の奴らと交した約束を破った盾野郎とお前にそれほど差はないと俺は思う……お前に盾野郎を責める筋合は無い」
「くぅ……」
アキの言葉に歯を食いしばるピーラン。アキの言ったことは正しとピーランは自覚していたからだ。
あの時のピーランの実力でベンドットとまともに戦えたかというのは別にしてキングの指示に従わなければピーランはブリザラの下を離れることは無かった。だがピーランはキングの出した条件に首を縦に振りアキを追った。それは欲に負け、自分の役目を一時でも放棄したという形になる。それを分かっているからこそ、ピーランはアキの言葉に悔しさを滲ませた。
「……だ、だが……それを言うなら、お前もそうだろう!」
自分の欲望をアキに見透かされているような感覚だったピーランは、それをかき消すように声を荒げた。
「お前が……お前が一人で勝手にダンジョンに向かわなければこんな事態にはならなかった!」
「勝手に? ……勝手なのはそこで意識を失っているオウサマだろう?」
「はぁ?」
アキの言葉の意味が理解できないピーラン。
「俺がここにやってきた目的はそこで意識を失っているオウサマから受けた依頼をこなす為、そして盾野郎が言っていた試練を受ける為だ、クソみたいなこの国を守る為でも、ましてやこの国をあのお気楽な国に変える為でもない……」
アキやブリザラ達がムハード大陸へやってきた目的は、ブリザラの命を狙った理由をムハード王から聞き出す為、そして自我を持つ伝説の武具の所有者である二人の実力を高める為であった。
しかし蓋を開けてみればムハード王からブリザラの命を狙った理由を聞きだすことは叶わなかった。そして気付けばブリザラは王を失い他国崩壊寸前となったムハード国の人々を救う為に復興を始めた。ムハード大陸へやってきたもう一つの目的である自我を持つ伝説の武具の所有者としての実力を高める為の試練のことをほったらかしにしてだ。それに付き合わせられるのが許せなかったアキはため込んでいた不満をぶちまけた。
「俺はオウサマの勝手に付き合っている暇は無い……一刻も早く俺はクイーンの力を引き出せるようにならなきゃならないんだよ」
勿論、それは来るべき自我を持つ伝説の本、ビショップとその所有者との対峙に備えての事ではあるが、それ以上に誰にも搾取されることの無い強者を目指しているアキにとって悠長にムハード国の復興を待っている暇は無かった。
「……くぅ……確かに……お前からすればブリザラの行動は勝手だったのかもしれない……だがお前の行動でブリザラや、ウルディネ達がどれだけ心配していたか想像できるだろう?」
幾度となくアキの窮地を救ったブリザラ達。彼女達がアキに対して抱く感情は仲間やそれ以上のものである。それを理解していない訳が無いアキに問い質すピーラン。
「心配?」
無頓着に無表情で首を傾げるアキ。
「お前ッ!」
到底善人の行いとは思えない行動や言動は多くとも、アキは少なくとも人の心を理解するぐらいの人間性は持ち合わせていると思っていたピーラン。しかし目の前のアキの姿を見てピーランは自分の考えが間違いだったことに気付いた。
「……お前、本当にそう思っているのか!」
信じられないという表情のまま思わずピーランはブリザラの頭を乗せた自分の脚を上げ立ち上がろうとする。
「……ピ……ラン」
「ハッ!」
か細く自分の名前を呼ぶ声が聞こえピーランの動きが止まる。
「ふん……兎に角だ、俺はそこのオウサマにもお前にももう付き合いきれないってことだ」
チラッとピーランの膝の上に頭を置き寝かされているブリザラの姿を見たアキはそう言葉を残すと踵を返しその場を後にした。
「くぅ……何なんだあいつは」
自分への怒り、そしてアキへの怒りのはけ口が見つからず拳を振り上げ地面に叩き落とそうとするピーラン。
「……ピーラン」
再びか細い声でピーランの名を叫んだブリザラはゆっくりと目を開けた。
「ブリザラ……」
か細くはあるが最初よりもきっきりとした声を発したブリザラに呼びかけるピーラン。
「……私……どうしたの?」
ピーランの頭上にある空に焦点を向けるような目のブリザラは自分の状況が理解できていないのか、自分を見つめるピーランに尋ねた。
「ああ、それが……いや、今はいいんだ……それよりも疲れただろうもう少し休んだらどうだ」
ブリザラのお付兼護衛として現在の状況を伝えようとするピーラン。だがまだぼんやりとしているブリザラを前にピーランはお付兼護衛の自分としてでは無く友人としての自分の言葉を発した。
「うん……分かった……」
ピーランの言葉を素直に受け入れたブリザラは微かに頷くと再び目を閉じ寝息を立て始めた。
「はぁ……」
ほんの僅かだったが、意識を取り戻しか細く弱々しく自分の名を呼んだブリザラに安堵し長く、少し震えたようなため息を吐くピーラン。
「キング……」
ため息を吐き追えたピーランはブリザラの傍らに置かれたキングの名を呼ぶ。
『……大丈夫だ、幸い精神の破損は見られない』
ピーランが自分に何を聞きたいのか既に察していたのか、キングは僅かに目覚めたブリザラの精神状況を分析し、問題無いことを告げる。
「……そうか……よかった……」
そう声を震わせながらピーランは再び眠りに付いたブリザラを優しく抱きしめるのだった。
― ムハード国 住民街 ―
「……帰ってきた……」
今が夜更けであるというのを抜きにしても、陰鬱を漂わせ暗い雰囲気を纏う場所についたアキは目の前の光景見渡しながらそう呟いた。
ムハード国の象徴であったムハード城を中心に円状に広がるその場所。国の面積の半分を占めるその場所の名は住民街。だが住民街とは名ばかりで実情は貧民街と変わらない。
ムハード王は、自分の考えに従う貴族以外の人々を力無き者として住民街に集めあらゆる角度から虐げていた。
大陸と同じ名を持つムハード国の玉座に座った歴代の王の国内の影響力は悪い意味で強い。特に前ムハード王の影響力は国内だけに留まらず周辺の国々だけでは無くムハード大陸全体に広がっていた。
軍事力に力を入れていた前ムハード王は自分の考えに従わない国、反旗を翻した国を際限なく肥大化させた軍事力で叩き潰し全てを奪ってきたのである。
大陸全体にその影響力を広げた前ムハード王の考えは実力主義、力無き者は全て力ある者に搾取される対象とするのがムハード王の考えであり、ムハード国の絶対のルール。
そのルールに則り、前ムハード王は国内外を問わず大陸を不安と恐怖で支配していった。そのルールの影響、一番の犠牲を受けていたのは自国に暮らす者達、住民街の人々であった。
戦士や兵士としての素養が無く、商人として物流を動かす能力も無い者達は力無き者として住民街に集められ力ある者達の搾取対象となっていたのだ。そのルールは前ムハード王が玉座に付いて数十年、ブリザラ達が前ムハード王を討つまで力ある者達による力無き者達への搾取は続いた。
サイデリー王国の支援が入り住民街の人々の生活が安定し僅かに希望を抱けるようにはなったが、刻まれた心の傷がすぐに癒えるはずも無く、住民街の陰鬱とした暗く重い空気は中々晴れることは無かった。
「……」
自分の故郷である住民街の入口を見渡しながらその変わらない光景と雰囲気に懐かしさを感じるアキ。だがアキが抱く懐かしさは全て屈辱と辛さ、恐怖と不安に支配された物ばかりであった。
『マスター……』
感傷とも言える表情で住民区の風景を見つめるアキに弱々しく話しかける声。
「……やっと話せるようになったか……全くいつも大事な時にお前は使えないなクイーン」
自分の事を呼んだ声、纏う漆黒の全身防具、自我を持つ伝説の防具クイーンに視線を向けたアキはそう言葉を返す。
『本当に申し訳ありません、今回は完全に意識もあり、その……ここに戻って来てからは話す事も出来たのですが……その……あの場の雰囲気では中々に入りづらく……』
会話できるようになった時には既に戦闘真っ只中、一息つけばアキはピーランと険悪な雰囲気になっておりそこに入って行く勇気は自我を持つ伝説の防具である自分でも入って行く勇気が無かったと述べたクイーンは申し訳なさそうにアキに謝った。
「……逆に、あそこでお前が介入したらもっとややこしいことになっていた」
アキはクイーンのその言葉が嘘であることを理解していた。あの場の雰囲気では中々に入りづらいと言っていたクイーン。確かに常人ならばアキとピーランの言い合いに入って行くことは中々に難しいだろう。だがクイーンの本性なら絶対に首を突っ込んでもおかしくないとアキは思っていた。しかしクイーンは首を突っ込むことをしなかった。逆にそれが気味悪くもあるアキ。
『はぁ……本当にマスターは素直じゃないですね、美少女や美女たちに心配がられたら普通の殿方なら表情筋が崩壊していてもおかしくないのに……』
「ぐぅ……本当にあの場でお前が首を突っ込まなくてよかったよ」
あの状況でクイーンが首を突っ込んで来なくて本当に良かったと心底安堵するアキ。
『……それにしてもマスターはなぜこんな所に?』
ブリザラ達の下を離れアキが向かった場所、住民街に何の用があるのかと尋ねるクイーン。
「ああ? ああ……ただのゴミ掃除だよ」
そう言いながら体を翻したアキは、何の気配も無く自分の背後を狙って攻撃してきた黒いマントを纏った男の一人の顔面を掴むと地面に叩きつけめり込ませた。
『……負の感情は感じるもののこの人間からは気配が感じ取れない……なるほどこれがキングの情報にあった闇外套ですか……確かに私達にとっては厄介な相手ですね』
色恋話が好きな町娘的な喋りから一変、戦闘に入り無駄な抑揚のない冷静な口調となったクイーンはアキが地面に叩きつけた黒いマント、闇外套を纏った男の存在を確認すると、キングから提供された情報通り自分達、自我を持つ伝説の武具達にとって厄介な存在であることを認識した。
「おい、いつのまにあの盾野郎と情報を交換していたんだ?」
『それはマスターがピーランと言い合っている間に……』
「チィ……なるほど……」
クイーンが自分とピーランの言い合いに首を突っ込まなかった理由を知ったアキは自分が知らない所で情報の行き来がされていることが気に喰わないのか面白くないという表情で別の角度から襲ってきた闇外套を纏った男の攻撃を躱しその勢いで裏拳を男の後頭部に入れた。
『ゴミ掃除……言葉では色々と厳しいことを言っても、ブリザラの為に輩達……砂漠の殺戮者の捕縛を手伝うんですね』
アキが倒した男達は全て意識を失っているに留まっていた。少しでも力を入れれば簡単に殺すことが出来た相手だというのに殺さず意識を失わせるにとどめたアキの行動に再び町娘のような明るい声色で話すクイーン。
「……チィ、そんなじゃ……ん? ……クイーン、お前、今何て言った?」
その場の状況に応じてコロコロと声色を変え真面目にも不真面目にもなるクイーンの言葉に苛立つアキ。しかし後半聞こえてきた単語に苛立っていたアキの表情は疑問を含んだものに変わる。
『え? だからブリザラの為なら……』
「違う、その後だ……」
一人ずつでは埒が明かないと思ったのか闇外套を纏った男達は集団でアキを襲う。しかし闇外套で姿は愚か気配すら消えているはずの男達の動きが見えているというようにアキは自分を襲ってきた男達を次々と地面にめり込ませながらクイーンにその先の言葉を尋ねた。
『えーと、砂漠の殺戮者の残党狩り……ですか?』
先程自分が口にした言葉を思い出しながらアキに再びそう告げるクイーン。
「……なるほど、この状況を作りだしたのは砂漠の殺戮者……そうなるとピーランが消し炭にした活動死体擬きは……ベンドットだった訳か……」
何かを思い出したようにアキは既にこの世にはいないベンドットの名を呟くのであった。
ダンジョンからムハードへ突然飛ばされたアキとピーランの前でブリザラを襲っていたベンドット。その男を知っているというようにアキはベンドットの名を口にすると悪い笑みを浮かべるのだった。
ガイアスの世界
ムハード国 住民街
国の象徴であったムハード城を中心としてその周囲を囲むようにしてある住民街。そこは一日を生き抜くことが精一杯な者達の貧民街である。争いや奪い合いは日常茶飯事でブリザラ達が前ムハード王を討つまでは毎日死者も出ていたようだ。衛生面は非常に悪く、今まで感染病が起こらなかったのが奇跡とも言える不衛生な場所であった。
しかしブリザラが呼び寄せたサイデリー王国の支援部隊によってその状況は変化を見せる。サイデリー王国の支援部隊が持ってきた大量の食糧によって毎日食料が配られるようになり飢えに心配しなくてよくなったのだ。
ブリザラは住民街の人々に毎日の食料を保証する代わりにムハード復興の手伝いをしてほしいと頭を下げていた。国の八割の人々が住民街で生きている者達であることを知ったブリザラはムハード復興の為の労働力になると考えたからだ。
サイデリーからやってきた色々な技術を持った者達が住民街の者達にその技術を教えることで働く糸口になればとも考えていた。
ブリザラの思惑は今の所うまくいっており、住民街の人々の中から次々と埋もれていた才能を開花させた者達もいるようだ。今はまだ僅かではあるが、住民街の人々の顔には希望の色が伺えるようになった。
しかし完全に前ムハード王の呪縛から解き放たれた訳ではなく、特に夜ともなると住民街は重い空気を放っているという。