集合で章 2 私の所有者が一番です
ガイアスの世界 10
ガイアスの神について
ガイアスには様々な神が居ると言われている。
ガイアスでもっとも有名な神はガイアスを産み出したと言われている女神フリーダである。女神フリーダは月の神とも呼ばれており、ガイアスではフリーダの誕生を盛大に祝う祭りが多くある。
スプリング達が滞在しているヒトクイの『ガウルド』で行われている祭りもフリーダの誕生を祝った祭りであるが、町の殆どの者達は、フリーダの誕生祭である事はどうでも良くただ楽しんでいたりする。
集合で章 2 私の所有者が一番です
剣と魔法の力渦巻く世界ガイアス
だが現在のガイアスに物語の流れの中心は無い。ガイアスを眼下に漆黒の空間に浮かぶ人工物、そこが現在の物語の中心となっていた。
漆黒の空間を一望できる大きな部屋。その部屋の中心に置かれた大きな円卓に備えられた席に腰を下ろす三人。
一人は誰もが想像する王様像がそのまま形になったような立派な髭を蓄えた老人。一人は美しい黒髪と端正な顔立ちをした男。一人は部屋を照らす灯りの光が反射し煌びやかに輝く長い金髪をなびかせ、豊満な双丘を惜しげも無く強調したドレスを身に纏う女性。
一見円卓に座るその者達には全く統一感というものが無い。しかしその正体は伝説の武具と呼ばれる自我を持った盾や武器や防具が人の形に変化した姿であった。
ガイアスを眼下に漆黒の空間に漂う人工物、その場所は彼らが集う場所、伝説の武具が集う世界であった。
伝説の武具の一人王様像をそのまま体現したような老人ジョブアイズこと、キングの言葉を合図に、何やら円卓に集まった伝説の武具達はジョブ会議なるものを始めていた。
「……ふむ、なるほど」
黒髪で整った顔の男、伝説の武器ジョブマスターことポーンと美しい金髪に豊満な双丘をこれ見よがしに強調する伝説の防具ジョブブレイカーことクイーンは、自分達のこれまでの状況をキングへと報告していた。するとその報告を聞いたキングは頷きながらニヤリと笑みを浮かべる。
「最後は私だな……」
キングの笑みになぜか身構えるポーンとクイーン。
「……私の所有者は一国の王だ、まだ王としては幼いが、その素質は十二分、いずれ偉大な王となろう、そして私を扱う素質もお前達の所有者よりも遥かに上だ」
腕を組み誇らしげに自分の所有者の事を口にするキング。笑みを浮かべたキングに対してポーンとクイーンが身構えた理由、それはキングが自分の所有者を自慢する合図であった。
自分の所有者を褒め称えるアイズは、満足そうな顔をして二人を見渡す。その表情はどうだ、お前達に私の所有者はかなうまい、そう言っているようだ。
「ふん!」
キングの自慢気な表情にいち早く反応を見せたのはキングの隣に座るクイーンであった。
「あなたの目も落ちぶれたものねキング」
「……クイーン、今何といった?」
クイーンの声は、聞き取れない距離でも無ければ小さくも無い。確実に耳にその言葉はキングの耳に入ってきたというのにキングは険しい表情でクイーンに聞き返した。
「言葉通りよ……一国の王? 私達の所有者に必要な能力は権力では無く戦う力ではないの? 城で偉そうに玉座に座っているだけの者を自分の所有者に認めるなんてありえないわ」
「……」
クイーンの反撃に体をワナワナと震わせるキングは怒りを外に出さないよう押し殺すキング。
「それに比べ、私の所有者はとても優秀、ムウラガに生息する強力な魔物達を容易く殲滅したのだから」
その時の光景を思い出しているのか、恍惚な表情で体をくねらせるクイーン。
「ははは、それこそ有り得んな……クイーンお前の体からはあの『闇』の力の匂いがプンプンしている…おおかた、所有者と一緒に『闇』の力を持つ魔物を取り込んだのではないか?」
「なっ!」
キングが言う推測が当たっている事に驚くクイーン。しかしそれを悟られないようクイーンはすぐに口をつぐんだ。
「その反応……外れてはいないようだな……人間に『闇』は過ぎた力、ムウラガの魔物達を殲滅したという話も、どうせ『闇』の力に飲まれた人間が、暴走……狂戦士になってしまったという所だろう……それは、所有者の力とは言わない」
次々とクイーンと所有者の状況を言い当てていくキングに美しいクイーンの表情が歪む。
しかし流石のキングもクイーンが取り込んだ存在がなんであるかは分からないようであった。
「……ふ、ふん! それでも城に籠って偉そうに命令するだけの王様よりは遥かにいいと思うけど……? ……私の所有者は直ぐにでも私を乗りこなしこの世界一の戦士になるわ」
「世界一の戦士……?」
二人の己の所有者の方が上だという主張合戦が続く中、それまで静観していたポーンが、クイーンの放った言葉に静かに反応を示した。
「……その言葉を聞いては黙っていられないな その言葉がふさわしいのは我が所有者であって、決してクイーン、お前の所有者では無い」
静かに、だが内から溢れだす熱をはっきりと感じさせる言葉でポーンは、クイーンの言葉を否定する。
「私の所有者は若いながらも『剣聖』という戦闘職の頂点に一番近い男と巷でも有名で、戦場では知らない者はいない、だがそれに天狗になることなく愚直に己の力を磨き精進を絶やさない、ただ力に溺れ暴走する所有者や勿論城でふんぞり返って外の世界を知らないような所有者とは格が違う」
そう言うとポーンは勝ち誇ったように腕を組み自分を睨みつけるキングとクイーンに視線を向ける。
「お前も……私の所有者をそう言うかポーン」
「力に溺れているですって! 言ってくれるわね」
ポーンを見つめるキングとクイーンのこめかみには今にも切れるのではないかという青々とした青筋が姿を現していた。
得体の知れない場所で、伝説の武具達が何を話しているのか、ジョプ会議などと大きく言ってはいるが、蓋をあけてみればその中身はただの我が子自慢ならぬ所有者自慢であった。
優れた事を自慢したくなるのは人の性である、それは人間のように自我を持ち考える事が出来る彼らも同じであった。
「ポーンよ……分かっているぞ、お前の力は所有者が意図しない方向へと力を導いていく、『剣聖』を目指すお前の所有者は、今、『剣聖』とは程遠い所にいるのではないか?」
キングはクイーンの時のように、現在ポーンとその所有者の状況をビタリと当ててくる。
「……ならば、私よりもクイーンの方が酷いだろう、折角鍛え上げ熟練した戦闘職を犠牲にしなければその力を発動する事が出来ないのだから」
動揺しながらポーンは自分に向けられた矛先を変えようとクイーンの能力について口にした。
「な、何を言っているのかしら? 私の能力はその犠牲を補うだけの力を与えているわ、その力は絶大よ……どこの誰かのようにただ所有者を守り続けることしか能のないものよりはいいわ」
突然矛先が自分に向いた事に動揺したのか乱れても居ない髪や服を正しながらクイーンは、自分の矛先を変えるべくキングに視線を向けながらそう言い放つ。
守り続けるしか能が無いというのは私の事かというようにキングは、クイーンの視線に対してしっかりと受けて立った。
「私の守りは絶対である、どんな攻撃がこようとも私はその攻撃から所有者の命を守る自信がある、お前達と一緒にしてもらっては困るな!」
己の所有者の自慢話からいつの間にか自分達の能力批判に話がすり替わっている事に伝説の武具達は気付いていない。
「ただ守っているだけでは敵に勝つことは出来ない、攻めなければ勝てないのよ」
クイーンは伝説の盾であるキングの能力を否定する。
「クイーンよ自分を否定している事に気付いているか?」
言ってやったというような表情のクイーン。しかしキングの表情は変わること無くクイーンが自分自身を否定している事を告げる。
「そうだな……確かに防具なのに攻撃に意識を置くのは自分否定の何者でもない……」
キングの言葉に同調するポーン。
「な、私はただの防具では無いわ、私はあなた達のように一つの事しか出来ない訳じゃない、私の能力を使えば攻撃も防御もどちらもうまくやれる!」
「中途半端にな」
「……」
キングの言葉に苦虫をかみ殺すクイーン。自分が中途半端な存在であるということはクイーン自身も自覚していた。キングやポーンはそれぞれ自分達の特性に合った能力を持っている。しかし防具であるクイーンの存在は所有者の命を守るという点でキングと被るのだ。だがそうであるにも関わらずクイーンの能力は、魔物を取り込みその能力を所有者の力とするというものでどちらかと言えば攻撃に重きをおいた能力であった。それ故によく言えば器用であるのだが、キングやポーンのような特化したものに比べると少々劣るのである。
自分達を造り出した創造主が一体どんな意図を持ってクイーンを生み出したのかは分からないが、現状クイーンという存在は中途半端という言葉がもっとも適切であった。
それを自覚しているからなのかどんどんクイーンの表情は落ち込んでいく。
「……ゴホン……すまなかった、少し……冷静になろう……」
隣で落ち込み俯いてしまったクイーンを見ながらキングは、居心地が悪そうな表情で話に熱が入りすぎた事を反省する。
「あ、ああ……私もその……悪かった」
ポーンも少し言い過ぎたと完全に落ち込んでしまったクイーンに声をかける。
「……ゆる……い……」
「ん? ……どうしたクイーン」
何かを呟くクイーン。しかしその声は小さく隣に座るキングにも聞こえない。
「この屈辱、絶対に許さない、あんた達覚えておきなさいよ……」
呪いのように低く響くクイーンの言葉に一瞬にして背筋が凍ったキングとポーンは、虚ろだが一瞬にして人を越せるのではないかという不気味な光が籠ったクイーンの目に顔を引きつらせた。
「ふん!」
勢い良く円卓の席から立ち上がったクイーンは、そのまま部屋の出口へと歩きだす。
「クイーン、まだ話は終わってない……」
クイーンを引き留めようとするキング。しかしキングが言葉を言い終える前にクイーンは二人の居る部屋から姿を消していった。
「どうやら今回は、ここまでのようだな」
姿を消したクイーンの姿を見つめているようなキングを見ながら席から立ち上がるポーンはクイーンと同じ出口へ向かって進んで行く。
「ま、待てポーン……」
ポーンを引き留めるキング。しかしクイーンと同様にポーンはキングが言葉を言い終える前に部屋から姿を消すのであった。
一人取り残されたキングは円卓を見つめる。
「目覚めた時期は少々前後しているが、同じ時代に我々が三人とも目覚めるという事が何を意味するのか……その事について話し合いたかったのだがな……」
自分以外誰も居なくなった円卓の部屋を見つめていたキングは、おもむろに席から立ち上がるとその部屋から見えるガイアスを見つめた。
「ただの杞憂であってくれればいいのだが……」
何かを心配するような表情で漆黒の空間に浮かぶガイアスを見つめるキング。
「ふむ、それでは今回のジョブ会議はここまでとする、解散」
キングの一声で円卓の置かれた部屋の明かりの光は消え部屋は暗闇に包まれ静けさがその部屋を支配するのであった。
誰も居なくなったはずの円卓のある部屋。しかし誰も居ないはずの部屋から人の気配が漂う。
「ああ……終わってしまいましたかジョブ会議……まあ、皆さんにはまたあえるでしょう……」
暗闇に包まれた部屋に響く声はそう言うと静かにその場から姿を消した。
― 同時刻 ― ガイアスにある大陸の一つ『ムウラガ』 『闇の森』
降り注ぐ朝の光を感じながらクイーンは、自分が『闇の森』に帰ってきた事を確認する。巨木の根に背を預けたまま寝息をたて眠り続けている自分の所有者であるアキが無事である事を確認したクイーンは、一安心と安堵の息をはいた。
アキが巨木の根で意識を失ってからまるでアキを守るように『闇の森』の巨木にだけ降りそそぐようになった太陽の光。その太陽の光のお蔭なのか、アキの体は安定しているようであった。
『これならば、目覚めるのも後少し、早く目覚めてくださいねマスター』
アキの体が修復されている事を確認したクイーンはアキに囁きかける。
『そしてどうか……私が受けた辱めの恨みを……』
クイーンの言葉に反応するようにアキが纏う漆黒の全身防具が黒い光を小さく放つのであった。
― 同時刻 ― 小さな島『ヒトクイ』 城下町『ガウルド』
早朝だというのにまだ祭りが続いているのか町中が騒がしい。宿屋の窓から響く祭りの騒がしい音を聞きながらポーンは、自分の所有者スプリングが泊まっている部屋へと戻ってきた。
『ん?……』
テーブルに置かれたポーンの横にあるベッドに寝ているはずのスプリングの姿がないことに気付くポーン。だがポーンは焦る事なく部屋を見渡した。すると朝の修練の準備を始めているスプリングの姿を見つめる。
『おはよう主殿、昨晩はよく眠れたか?』
まるで旧友に朝の挨拶をするようにポーンは修練の準備をしていたスプリングに声をかけた。
「ああ、ポーン……お前は寝坊か? さっきは声をかけても返事しなかっただろ」
武器が寝るわけ無いかと続けながらせっせと準備を終わらせるスプリング。
『ああ、そんなようなものだ』
特にジョブ会議の事を話す必要は無いと思ったポーンは、スプリングの言葉に合わせた。
「寝るのかよ!」
『ははは……』
伝説の武器が寝るという事実に驚きの声をあげるスプリング。その驚いたスプリングに笑い声をあげるポーン。
「……たく、お前は本当に何なんだよ」
やはり得体の知れない物だと呆れながら頭を掻くスプリングは、すでに定位置となった自分の腰へとロットの形をしたポーンを差しこんだ。
「さあ、朝の訓練に行くぞ」
『ああ主殿』
宿屋から出てきたスプリングは、さわやかに晴れた『ガウルド』の空を見つめる。
「んぅぅぅぅん気持ち良いな……」
スプリングは縮まっていた体の筋肉を伸ばすように両腕を上げる。
『主殿』
「なんだポーン?」
ポーンに呼ばれたスプリングは、腰に差してあったポーンを手に取ると自分の視線の高さまでポーン持ち上げる。
『……私を……なって……』
「ん? 何か言ったかポーン?」
ポーンが何かを呟いた瞬間、『ガウルド』で行われている祭りの騒ぎが大きくなりポーンの言葉はスプリングに届く事は無かった。
『なんでもない……主殿』
『ガウルド』で行われている月の神の祭りは二日目を迎え、朝だというのに町の人々は歌へや飲め、踊れ、騒げと騒がしい。そんな人々を眺めながらスプリングとポーンは毎日の日課である修練へと向かうのであった。
― 同時刻 ― ガイアス 『フルード』大陸 『サイデリー』王国 氷の宮殿 宝物庫
キンと冷えた氷の宮殿地下にある宝物庫に戻ってきたキングは、低下した宝物庫の温度を上げるために自ら発していた光の強さを上げ宝物庫の温度を上げる。
『……なぜ王はここまで冷えた宝物庫で寝ていられるのだ……』
毛布に包まり幸せそうな寝顔を自分に見せるブリザラに疑問を抱くキング。まだブリザラが起きる様子はなくブリザラは毛布に包まって幸せそうに夢の中にいた。
『兎に角、そろそろ起こさねば宮殿の者達が騒がしくなるな』
といいつつもブリザラの寝顔に起こす事を躊躇ってしまうキングは、後少しと幸せそうに眠るブリザラをそっと見つめた。
もしキングがあの円卓の部屋での姿であったならば、その表情は子の寝姿を見て微笑む父親の顔であったに違いない。
『まるで父親みたいですね、キング』
何処からともなくブリザラとキング以外に誰もいないはずの宝物庫に声が響く。
『……誰だ?』
即座に警戒体勢に入ったキングはブリザラを守るように盾の形を変化させる。
『そう慌てなくても大丈夫ですよ突然襲いかかるような野暮な事はしませんから……ただ残念ですね私の声をお忘れだとは……まあでも大丈夫、私は心が広いですから……ただ一つこれだけは言わせてください……私の所有者が一番です』
不穏な空気に包まれる宝物庫。しかしそれ以降、謎の声がすることは無かった。
『……私の所有者が一番です……だと』
突然宝物庫に響いた声は、そう言い残していった。だがその声はポーンでもクイーンでも無いことは明らかであった。
『まさか……』
宝物庫に響いた謎の声、キングはその声に思い当たる節があった。
『いや……奴は封印したはず……』
思考するキングの推測は悉く悪い方向へと進んでいく。
『だが奴の封印が解かれたとなれば我々がほぼ同時に目覚めた事の意味が分かる』
自分達が目覚めた理由、その意味をキングは理解した。
『……やはり杞憂では無かった……直ぐにでも二人にこの話をしなければ……』
「……んぅ……どうしたの……キング?……」
焦るキングの声に目を覚ましたブリザラは軽く欠伸をしながら自分の横に置かれたキングを見た。
「……おはようキング」
寝ぼけながら柔らかく微笑むブリザラ。
『あ、ああ……おはよう』
ブリザラの挨拶に答えるキング。ブリザラは立ち上がると体を伸ばすように両腕を上げる。
(駄目だ、今再び招集をかければ王が無防備になる……もし奴がそれを狙っているとしたら……迂闊に招集をかける事は出来ない)
自分が再びあの円卓の部屋に向かえば、ブリザラを守る事が出来なくなると考えたキングは、他の伝説の武具達に招集をかける事を止めた。
(だがどうする……このままでは……)
「どうしたのキング?」
黙り込んだまま沈黙を続けるキングを不思議そうな目で見つめるブリザラ。
『い、いやなんでも無い、それよりも早く自分の部屋に戻らねば、また騒ぎになるぞ王よ』
「ああ、そうだね、それじゃ私は部屋に戻るね、キングまた後でね!」
そういうとブリザラはキングに手を振り宝物庫を後にしていった。
『……不味い、どうにかしなければ……奴が……四つ目のジョブシリーズが……』
四つ目のジョブシリーズ、四つ目の伝説の武具と口にしたキングは、ブリザラの居なくなった宝物庫で絶望したような声を上げるのであった。
― 同時刻 ― 謎の多き大陸ユウラギ
そこは人間が足を踏み入れてはならない場所。幾多の強者たちがその場所に向かい帰ってこなかった場所。謎の多き大陸『ユウラギ』
まるで幻でも見ているように深い霧に包まれた『ユウラギ』は、朝だというのに深い霧の影響で太陽の光は一切大陸に降り注がない。
『ユウラギ』がどんな大陸であるのか、どんな生物や魔物が生息しているのかその殆どが深い霧に隠されたように殆ど分かっていない。何度も上陸を目指し冒険者や戦闘職の者達が『ユウラギ』へと向かったが殆どの者は帰ってこず、冒険者や戦闘職の間では生を飲み込む大陸としておされられていた。
そんなガイアス一危険な歯所に一人の少年が塔のような場所の天辺に立っていた。
「……お帰り」
『ただいまもどりました』
少年が持つ分厚い本に話しかけると当然というようにその分厚い本から返事が返って来る。
『坊ちゃん、私がいない間に派手にやりましたね』
本に坊ちゃんと呼ばれた少年は自分の足元を見下ろす。
「そう?」
坊ちゃんと呼ばれた少年の視線に広がるのは遥か先にある地面、そして塔のように積まれたおびただしい数の魔物の死骸であった。そう少年が立っている場所は魔物の死骸が積まれて出来た塔であった。
『ええこんな短時間でこれほど高い塔を築き上げるなんて、地味な訳ありません』
塔のように積まれた魔物の中には少年の何十倍の大きさもある魔物までいる。その魔物達はそのどれもが『ムウラガ』の魔物達よりも強い個体ばかりであった。
「いや、暇だったから」
全く感情の無い声で少年はそう言うと、魔物の死骸で出来た塔に腰を下ろした。
「それで、お仲間にはあえたの?」
少しの間留守にしていたらしい本に目的だった仲間に合えたのかと聞く少年。
『はい、一人だけですが久々に会えましたよ』
「そう……それは良かったねビショップ」
自分で質問しておいて対して全く興味の無いような返答をする少年は本の事をビショップと呼ぶと霧がかった『ユウラギ』の光景を見つめる。
少年が持つ本の正体は、四番目の伝説の武具にして封印されていたはずの伝説の本ビショップであった。
ビショップは霧がかった『ユウラギ』を見つめる少年を見つめながら考えていた。自分が持つ能力が無くても、ガイアス最強と言われる『ユウラギ』の魔物達を簡単に倒してしまう程の力を持つ自分の所有者には恐ろしい程の才能があると。
『ふふふ、坊ちゃんはまるで魔王のようだ……』
少年の才能を魔王のよだと表現するビショップ。しかし少年はビショップの言葉に一切反応せずただ深い濃い霧で何も見えない『ユウラギ』の大地を見下ろすのであった。
人物紹介
少年 (坊ちゃん)
年齢推定 12歳
職業 不明
今までマスターした職業
不明
武器 不明
頭 無し
胴 異国の服
腕 無し
足 異国の靴
アクセサリー 無
とにかく何もかもが不明な少年。本人は感情が乏しく特に笑うという感情が無い。現在分かっている事は何事もそつなくこなし天才という人種であるということだけである。
どこで伝説の本ビショップ(ジョブミラー)を手に入れたのかは不明。ビショップからは坊ちゃんと呼ばれている。
唯一伝説の武具を持つ者でその能力をほぼ使いこなしていると言っていい存在。それ以上にビショップを持たずに戦ってもなんら問題が無いほどに強い。ビショップはそんな少年の才能を魔王と表現する程である。
ジョブミラー(ビショップ)
伝説の本といわれる本の形をした武具。ガイアスで言う魔導書のような本で分厚い。
能力は不明だが絶大な力を持っていることは明らかで、キングはその力を恐れさえしている。
ビショップ自体にちゃんとした意思はあるが、所有者の気持ちのあり方によってその力は善にも悪もなるという。




