もう少し真面目で章 (アキ編)6 ダンジョン最後の相手は後方にあり
ガイアスの世界
豚鬼
肥満体の巨体と豚顔が目印の魔物。その見た目通り動きは遅いが、その攻撃力は中々のものである。
知性が低く、自分よりも格下の魔物と共に行動することが多いが、機嫌を損ねると見境なく暴れる。
試練に出現した豚鬼
通常の豚鬼を更に巨大化させたのが、試練に出現した豚鬼。アキが相手だった為、その力を発揮することは出来なかったが、一般の冒険者や戦闘職が相手ならば、数十人を相手に出来る能力を持っている。
しかしやはり知能は高くなく戦い方さえ間違えなければさほど怖い魔物ではないようだ。
もう少し真面目で章 (アキ編)6 ダンジョン最後の相手は後方にあり
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス
轟音がダンジョン内を揺らす。その轟音の正体が一矢から発せられているなど誰が思うだろうか。しかしそれは事実、アキが持つ弓から放たれる矢から鳴り響き魔物達の脳天を容赦なく正確にに撃ち抜いていた。
アキの弓から放たれる矢が持つ威力は、当然常人が放つそれとは違い、撃ち抜かれた魔物はその威力に耐えられず頭が弾け飛んだり、頭に大きな風穴があいたりと矢による攻撃とは思えない光景を作りだし確実に魔物達の生命活動を停止させていく。だがそれでもダンジョン内の魔物は増え続ける。活動を停止した魔物に代わるように即座に新たな魔物が現れその牙や爪、ものによっては武器を持って自分達を蹂躙するアキへと向け襲いかかり続けていた。
ダンジョンは潜れば潜る程に強力な力を持つ魔物が増えていく。それは冒険者や戦闘職にとっては一般常識である。それはアキが居る一本道しかない何処か他とは違うこのダンジョンにも当てはまるようで、アキに立ちふさがる魔物達は大型の魔物が多く姿を現すようになっていた
攻撃や防御に特化した大型の魔物達の存在はまるでアキの攻撃を学びそれに対応しようとしているようにも思える。だがそれすらも意に介さずアキは着実に一歩また一歩とダンジョンの奥へと進んで行く。
『一向に終わりがみえませんね』
魔物達の背後に続く一本道を見つめるクイーンは未だ終着点が見えない事を口にする。
「ああ、そうだな!」
大型の魔物達の影に潜むようにして隠れていた一匹の魔物が、その隙を狙いアキの懐に潜り込む。
「こいつら仲間の屍を糧に学んでいやがる」
大型の魔物達による強力な攻撃に意識を奪われるアキの隙を突いての機動力の高い魔物による奇襲に頬を吊り上げるアキは、自分の喉元を食い千切ろうと懐に潜り込んできた狼型の魔物を蹴り飛ばすと、頭上から振り下ろされる大型の魔物達の攻撃を弓から放つ矢で一掃する。
『確かに……そもそも他種族の魔物達が連携をとること事体妙だというのに、その上マスターの戦い方を学び対応しようとしている……』
同種で群れを成す魔物ならばおかしくはない連携、だが基本的に他種同士の魔物達が連携をとることは無い。そのはずなのだが殆ど種類も体格もバラバラの寄せ集めであるダンジョン内の魔物達は大型の魔物がアキの気を逸らせその隙に機動力を持つ魔物が懐に飛び込んでいくという立派な連携を見せている。そしてアキに倒された魔物達の行動を見て学ぶようにして次の攻撃をより高度なものへと高めていく学習力は、普通の魔物には見られない行動であった。
しかし様々な方法でアキの攻撃を掻い潜り攻撃を仕掛けてこようとする魔物達であったが、それでも現状魔物達による連携攻撃がアキに通ることは無い。その連携攻撃を凌駕する圧倒的な火力でアキが魔物達を葬っているからだ。
『ですが何より……マスターの力量を痛いほど理解しているはずなのにも関わらず未だ魔物達がマスターに向かって来ることが一番の疑問です』
圧倒的な力量を見せつけられれば戦意を喪失してもおかしくはない。しかし仲間達が蹂躙されて尚、吹きに向かい続ける魔物達の行動が一番の疑問だと話すクイーン。
「ただの怖い物知らずなんじゃないのか?」
『いえ、それはありえません』
適当に答えるアキに対し間髪入れず否定を挟むクイーン。
『本能を持つ生物にとって恐怖は平等です、特に人間のような理性を持たない魔物達は複雑な思考を持ちません、本能が危険だと判断すれば、それに抗うことはせず即座に逃げを選択するはずなんです』
魔物の本能について詳しく説明するクイーン。
本能とは生物全てに備わる生まれてから死に行くまでの道標のようなものだ。当然、人間や魔物にもその道標、本能は備わっている。本能は絶対であり抗うことを許さない。特に身の危険、恐怖には絶対に逆らえないと言われている。しかし人間はその本能に抗う理性を持っている。例外はあれどそれは他の生物には無い人間、人類独自の感覚であり理性を持つからこそ人類はこれだけの発展を遂げてきたともいえる。
しかし理性を持たない魔物は本能には抗えない、はずであった。目の前の圧倒的強者を前にしてもダンジョン内の魔物達は一切の恐怖を感じていない、本能が危険だと発していないのだ。そんな一切本能が機能していない魔物達の姿にクイーンは疑問を抱いていた。
『……魔物達の本能が反応していない……もしかしたら魔物達は何者かによって操られている可能性があります』
魔物達の本能が一切機能していない、この状況から得られる答えは一つ。何者かがこのダンジョンの魔物達の本能を支配していると結論を出すクイーン。
「……何を今更言っている、魔物達が操られていたっておかしな状況じゃないだろう」
クイーンが出した結論に対して別におかしなことじゃないと反論するアキ。
『どうしてですか?』
アキの言葉の意図が分からず首を傾げたような声を発するクイーン。
「はぁ……俺なんかよりお前の方がよっぽどこういった状況を理解できると思っていたんだけどな……クイーン、ここは何処だ?」
『……ここは……ダンジョンです』
「それで、俺達がここに来た目的はなんだ?」
『それは……試練に……』
ニヤリと笑みを浮かべながら、自分に覆いかぶさってくる巨大な魔物を一撃で仕留めるアキ。
「……そう、試練だ……その時点で既にこのダンジョンは、どこの誰とも分からない奴の手が加えられていてもおかしくないとは思わないか?」
これは自然による試練だなどという言葉があるが、これは人間側が勝手に起った状況をそう受け取っているに過ぎない。本来、試練とは勝手に自然発生するものでは無く、誰かが誰かの力を試す物である。そこには必ず誰かの意思が関与している。
「……俺を試している奴がいるんだよ!」
そう言いながらアキは自分に向かって来る牛頭鬼二体を刃に変えた手甲で切り捨てる。
「そいつがこの魔物達を操っていると考えれば何もおかしいことじゃない」
刃に付いた牛頭鬼の血を払うとアキは次々と自分に向かって来る魔物達を見つめる。
『ですが……それは……』
「だから言っただろう、俺よりもお前の方が詳しいはずだと……伝説の防具と言われるお前を所持している俺を試すことが出来るのは、クイーンお前を作りだした存在以外に有り得ない!」
(……なるほど、ただ力を振うだけかと思いましたが、相当に頭も切れるようですね)
突如としてアキの頭に響き渡る謎の声。
『……こ、この声は!』
(クイーン、今の段階でそれ以上口にするのは禁則事項にあたります、口を閉じなさい)
アキの頭に響く声がそう発した瞬間、クイーンの気配が突如として消え去る。
「……ッ! おい、お前クイーンに何をした!」
自分が纏う全身防具からクイーンの気配が一切しなくなったことを感じたアキは、頭に響く声に対して叫んだ。
(心配しなくてもあなたの生命活動に支障がでるようなことはしていません、ただ黙ってもらっただけです)
現在のアキの体の状況を理解しているのか、そう発した声は、アキに対しクイーンには黙ってもらっただけだと告げた。
「なるほど、流石があんな化物じみた力を持つ防具を作りだした奴だ、俺のこともお見通しって訳か……」
(ええ、今のあなたの状態は、あなたよりも詳しいですよ……黒竜の力を内包し、魔王の種まで持つ人間、アキ=フェイレス)
「チィ!」
このダンジョンでアキが初めて見せる苦悶の表情。その表情と共にアキは先程までと変わらず扱うことが出来るクイーンの能力で目の前に迫る魔物達を切り伏せる。
(さて、私はあなたが言うように自我を持つ伝説の武具、伝説武具を作りだしその所有者に試練を与える存在……まあ創造主とでもお呼びください)
更に激しさを増す魔物達による攻撃を全て避け、切り伏せていくアキの頭に直接話しかける創造主と名乗る存在。
「創造主だと……こりゃまた大層な名前を選んだな!」
創造主が名乗ったその名が気に喰わないのか悪態をつくアキ。
(ああ、まあ、利便上そう呼んでくださいと言っているだけで、もしあなたが気に喰わないのなら別にどう呼んでもらっても構わないですよ)
特に自分の名に思い入れが無いのか創造主は別にどんな呼び方をされてもいいとアキに告げる。
「ああ? 一度吐いた言葉を飲み込もうとするんじゃねぇよこのクソ創造主野郎が!」
(あらら、長くなりましたね、これじゃあんまり利便的とは言えませんが、まあでもあなたの気がそれで済むのなら別に私はクソ創造主野郎でもかまいません)
明らかな挑発を物ともせず、アキの悪意の満ちた呼び名を受け入れる創造主。
「チィ! それでそのクソ創造主野郎様は、俺にこんな弱い魔物達と戦わせて何を試したいんだ?」
挑発しても無駄だと悟ったアキは、話を切り替え創造主に目的を尋ねた。
(いや、これは本当に申し訳ない、先程あなたよりもあなたの事を分かっているといいながらも、あなたの成長速度を見余っていましてね、まさかここまで圧倒的な状況になるとは思ってもいませんでした)
アッハハハと空笑いしながら正直な感想を述べる創造主。
「……」
創造主の発現がどうにも胡散臭く感じるアキ。
(あー今胡散臭いとか思いましたね、申し訳ありませんね、元からこういった性格なもんで)
アキの心内を見透かすようにそう口にする創造主。
(とまあ、無駄話はこれくらいにして本題に入りますが、正直困っています、ええ想像以上にあなたが成長しているのでこのダンジョンの最奥に待つ魔物じゃあなたの相手にならないのですよ)
「はぁ?」
必ずでは無いがダンジョンの最奥にはそのダンジョンを支配する存在が待ち受けているこがある。試練と言われ潜ったダンジョンなのだから当然、試練に相応しい魔物が存在しているとアキは思っていた。しかし創造主の口から発せられた言葉は、試練という言葉には程遠いものであった。
「おい、それじゃ俺がわざわざこのダンジョンに来た意味がないじゃないか……どうにかしろこの似非創造主!」
創造主という名に似つかわしくない軽い言葉にアキの怒りは一瞬にして最大値を突破する。
(ええッええッ! 御怒りの気持ち痛いほど理解できますよ……)
アキの気持ちは痛いほど分かると頷く様な様子の声をあげる創造主。
「もういい……俺に見合う相手がいないならお前が俺と戦えッ!」
ダンジョンの床に刃に変化した手甲を突き刺すアキ。するとアキの周囲から黒い炎のような光が放たれ周囲の魔物達を焼き尽くし一掃する。
(あらら、クイーンとの約束をお忘れですか? 絶対に黒竜の力は使わないと約束したはずでは無いですか?)
アキが発した黒い炎、黒竜の力を見た創造主は、クイーンとの約束を忘れたのかとアキに尋ねた。
「もうそんな事知るか! 早く俺の前に姿を現して戦え!」
怒りによって更に黒い炎の力を増していくアキ。
(いやはや、すぐに頭に血が昇る所は、本当に変わりませんね……ふぅ安心してください、即席ですがあなたの力に見合った相手をご用意しましたから)
「なんだと……」
既に歩くだけで近くにいる魔物を消し炭にしていくアキは創造主の言葉に歩みを止める。
(ですがこの試練はあなた自身とクイーンの力を試す場であり、黒竜の力はあってはならない……なので)
突然体から力が抜けるアキ。
「ッ!」
(一時的に封印させていただきました、このダンジョン内で黒竜の力を使うことは禁止しますよ)
最近では一度発動するとアキでも中々止めることが難しくなっていた黒竜の力をいとも簡単に抑え込む創造主。
「お前ッ!」
(さて、これで準備は整いました……後ろをご覧ください)
アキに後ろを見るよう指示を出す創造主の言葉に反応するように魔物達は、アキを襲うことを止めた。
「後ろ……だと?」
そう言われ後ろへ視線を向けるアキ。
「……あいつ……か?」
そこに立っていたのは、アキを追いダンジョンに潜ったピーランだった。
「まてまて、あの女が俺の相手になるとでも思っているのか?」
このダンジョンに入って以降、隠れることしかできず魔物一匹にも怯えを見せていたピーランが自分の相手になる訳がないと笑いを漏らすアキ。
(ええ、数分前の彼女ならあなたの相手にはならなかったでしょう、でも今の彼女は違います……それではご武運を……)
そう言うと忽然と創造主の気配がダンジョン内から消える。
「チィ……少しでも期待した俺が馬鹿だった……」
そう言いながら自分を見つめるピーランを見つめ返すアキ。
その表情に操られている様子は無く、至って今までのピーランと変わらないと感じるアキ。
「おい、本当に俺と戦うのか?」
自分の相手がピーランであることが信じられないアキはピーランに尋ねた。
「……」
言葉なく頷くピーラン。
「あのクソ創造主に弱みを握られたんじゃないのか?」
ピーラン自身、アキと戦えばどうなるか何て分かり切っているはずである。それを理解したうえで戦う意思を見せるピーランに創造主に無理矢理やらされているのではないかと疑うアキははっきりと尋ねた。
「……」
アキの言葉を否定するように顔を横に振るピーラン。
「そうか……」
その表情に嘘偽りは感じられないと判断するアキ。
「……なら、死んでも恨むなよ!」
床に突き刺さった刃を勢いよく引き抜いたアキ。その視線は魔物に向けられる時と同じように鋭いものになる。そしてその視線を具現化したような鋭い刃がピーランに向けられるのであった。
ガイアスの世界
ダンジョンの最奥に待つ存在
全てのダンジョンに存在する訳では無いが、ダンジョンの最奥にはその場所を支配する魔物、ボスが存在する。ダンジョン内の全ての魔物を支配するそのボスは当然強力な力を持っており、最奥までやってきた冒険者や戦闘職には容赦なくその牙を剥く。
とはいえ元はボスも普通の魔物である。そんな普通の魔物がダンジョンを支配する強大な力をなぜ手に入れたのかと言えば、それはダンジョンという特殊な環境下で他種の魔物達や冒険者や戦闘職の戦いに生き残り続けた結果といえる。




