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隙間で章4 差し出される力

ガイアスの世界


上位精霊の見た目


 上位精霊は基本、人の前に姿を現すことがない為、上位精霊の姿を知る者は少ない。その為、ウルディネのように人間に近い姿をした上位精霊を前にした時、人間はそれが精霊だと分からない事が多いようだ。

 

 





 隙間で章4 差し出される力




剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




 自我を持つ伝説の武具の所持者に課された試練を突破するべくムハード砂漠の地下に存在するダンジョンに単身で潜ったアキ。その後を追うようにと自我を持つ伝説の盾キングから依頼を受けたピーランもダンジョンへと足を踏み入れている。


「長い……何処まで続いているんだ……」


 一切の脇道が存在せずただ一本道が続くだけのダンジョンと呼ぶには似つかわしくないその場所を歩き続けるピーランの表情には疲弊の色が強くなる。

 戦闘職に就く者ならばただ歩くだけで普通そこまで疲れたりはしないが、今ピーランが居る場所はダンジョン。いつ何時魔物が襲いかかってくるかもしれない、罠が発動するかもしれないという緊張感と地上では無い閉塞感が通常よりも疲労の速度を速めていく。

 永遠とも思える程に長く続く一本道のダンジョンは景色の変化が無く感覚が麻痺し始めてもおかしく無かったがピーランの感覚は麻痺することなく強い緊張感が保たれ続けていた。その原因は、ダンジョン内に出現する魔物達にあった。

 ダンジョン内で出現する魔物は、ダンジョンや地上で遭遇したことがある魔物達ばかりではあった。だがこのダンジョンに出現する全ての魔物に共通しているのは、地上では見たことが無い成長、進化を遂げていることであった。

 行動速度や筋力、各魔物が持つ特殊能力スキルが通常のダンジョンや地上で遭遇する魔物達を凌駕しその戦闘力は現在のピーランよりも遥かに高かった。それに加え、本来ならば有り得ない多種同士の息の合った連携をしてくる始末で、ピーランがどう足掻いても戦えるような魔物達では無い。

 一本道が続くダンジョンの構造上、魔物達から逃げることは一切できず常に常時、ひっきりなしに襲いかかってくる状況。そんな状況化で自分の感覚など麻痺させている余裕も暇もないピーランは兎に角自分が見つからないよう行動することしかできなかった。だが幸いなことに襲いかかってくる魔物達はピーランでは無く前を歩くアキに集中していた。

 脇道の無い一本道で魔物達の視線に最初に入るのは当然先頭を歩くアキであり後方にいるピーランにその視線が向かうことは無かったからだ。勿論、ピーランが発動している隠形ステルスの効果によって魔物の目がピーランに向かないというのもある。

 しかしアキが前で常に魔物達と戦闘を続けているというのが、ピーランが今に至るまで襲われない要因としては大きい。

 撃ち抜き薙ぎ払い消し飛ばすもはや蹂躙といってもいいアキの攻撃の前に今まで襲いかかった魔物達は、一匹、一体とてアキの背後に回ることが出来ず朽ち果て肉塊となっていた。

 そんな光景を常時目の当たりにするピーランは、自分の前に魔物を一撃で屠る攻撃力を持った壁が立っているような感じがしていた。

 だがいつその壁が崩れるか分からない。その壁を凌駕する魔物が現れるか分からない。その壁にただついて行けばいいなどと微塵も思っていないピーランは、いつその壁を抜けて姿を隠した自分を見つける魔物が現れるかもしれないと細心の注意を払い、アキの行動を見つめていた。


(……)


だが細心の注意を払いつつも、そんなもの必要ないのかもしれないと心の片隅で考えてしまうピーラン。

大群のように押し寄せる魔物を一人、休む暇も無く相手にするアキ。その戦い方はもはや人間の域を超えている。

 人間の域を超えた存在はいるしピーランも何度かそんな存在を見かけたことがある。しかしアキは、ピーランが今までみた見た誰よりも強い。

 それが所持する自我を持つ伝説の武具の性能によるものなのか、それとも内に眠る力の恩恵なのか、はたまた彼自身の才能なのかピーランにははっきりとは分からない。だが力を求め続け進み続けてきたアキの戦い方からは呪いにも似た強力に信念のようなものが感じられる


(……力が欲しい)


 戦闘職ならば誰もが戦いの中で自分の無力さを痛感し一度は願う事。それは忍として表舞台に立つことが無かったピーランも同じである。だがその力とはあくまで人間の範疇の話であり、アキのように力の為ならば全てを失ってもとは違う。

 だが今ピーランは人間を捨ててまで力を欲するアキの気持ちが少し分かった。考え方も捉え方もアキとは全く違うが、ピーランは人間の域を超える力を望んでしまった。今は側にいない想い人を守る為に。


(……力が欲しいのかい?)


そんな心の叫びに反応するように突然ピーランの頭に響く声。

 思わず声が漏れそうになる口を強引に手で塞いだピーランは、突然感じた気配に飛びのき距離をとる。


(ッ!)


しかし気配がした場所には誰もいない。


(いやいや、そこまで警戒しなくても)


あからさまに警戒するピーランのその態度に少し笑いを零す声。


(ッ!)


 気配は感じつつもそこに実体は無く、しかし頭の中にその存在を色濃く残す声に警戒を強めつつも突発的に体を動かしてしまったことで、魔物達が自分の存在に気付いてしまったのではないかとその視線をアキに向けるピーラン。


(大丈夫、魔物は君に気付いていない……それに例え気付いたとしても彼なら魔物を君の方へ零してしまうことは絶対に無いさ)


 まるで心を見抜くかのようにそうピーランの頭に直接話かける声は、ピーランの存在に気付いた魔物は一匹、一体もおらず、仮に気付いたとしてもアキが居る以上、ここまで近寄れる魔物はいないと断言する声。


(……何だ? お前は何者だ? ……ハッ! 私は……おかしくなったのか?)


自分とアキ以外人の気配が無いはずのダンジョンで人の声がする。そんな有り得ない状況で思わずその声に話かけてしまったピーランはその直後、自分の精神が異常を来しているのではと我に返り頭を抱えた。


(……あれ? 念話テレパシーの経験はジョブ……いやいや、キングやクイーンで体験済みだと思ったけど?)


頭を抱え深刻な表情を浮かべるピーランに対し、自我を持つ伝説の武具の名を挙げ念話テレパシーが体験済みのはずと疑問を抱く声。


(まあ……それはどうでもいい……大丈夫、君はこのダンジョンの緊張感に耐えきれず頭がおかしくなって幻聴が聞こえている訳じゃないよ)


「……この僕が君に話かけているだけだ」


「!」


 それは姿を現すというにはあまりにも静か過ぎた。一切の音も無く、僅かな空気の振動も無い、まるでそこには存在しない亡霊のようにピーランに姿を現す声の主。


「……」


(ああ、すまない……彼らにここで気付かれると色々と段取りが狂うから念話テレパシーで失礼するよ)


(ッ!)


その姿を捉えたと思えば次の瞬間にはピーランの目の前から姿を消す声は再び念話テレパシーでピーランに話しかけた。


(ふふふ……一体何者なのか、君は僕にそう尋ねたい……そうだね?)


再び頭に響くようになった声に警戒しつつも頷くピーラン。


(そうだな……今君に提示できる僕の情報は……この世界、ガイアスに現存するダンジョンの主……と言ったとこかな、まあ殆どのダンジョンがすでに僕の管理から離れちゃっているんだけど)


なぜか申し訳なさそうに自分に付いて語る声。


「えッ?」


声が語った内容に頭がついて行かず、何とも間の抜けた声を発するピーラン。


(ああ、そうだよね……普通信じてもらえないよね)


自分が発した内容が突拍子もないことであることを自覚しているのか声はピーランに乾いた笑い声を上げる。


(ダンジョンの……主……だと?)


声が発した内容が頭の中で散らばっているピーランは、必至でその内容を拾い集め一つの言葉を心の中で呟く。

 声本人は軽い口調で語っているがその内容、その言葉が事実ならば、今ピーランはガイアスで謎とされるダンジョンの存在理由、いや下手をすれば失われた時代について知っているだろう存在に話しかけられているということになる。

 自分の頭に響く声がこれから語る内容によっては、日夜ダンジョンが何であるかを研究する者達、いや失われた時代について研究している者達にとって喉から手が出る程の情報が得られる可能性がある。ピーラン自身そこまで興味のある内容ではないが、それでも衝撃的な内容に変わりはなかった。


「ハッ! な、何を馬鹿げたことを言っている」



あまりにも信じられない内容に気が動転するピーランだったが、直ぐに我に返りそれが偽りだと声が口にした内容を否定する。


(うん、言葉で説明するよりも実際に行動で示した方が早いかな……それじゃ今魔物と戦っている彼を見てくれるかな)


自分が何者であるかを行動で示すと言った声は、視線をアキに向けるよう促す。


「何をする気だ?」


得体の知れない存在の指示に従うのは癪ではあったが、その視線をアキの方へ向けてしまうピーラン。


「今から牛頭鬼ミノタウロスが二体姿を現して彼に襲いかかるよ」


 予言じみた言葉を声が発した直後、突然姿を現した牛頭鬼ミノタウロス二体がアキに襲いかかる。だが襲いかかる牛頭鬼ミノタウロスを一撃で切り払うアキ。


(おおお、流石だね彼! それじゃ牛と来たから今度は豚、豚鬼オークはどうだい?)


 予言じみた声の言葉が指示へと変わる。その言葉通り次にアキを襲ったのは紛れも無く豚顔の人型の魔物、豚鬼オークであった。その姿は外で遭遇する豚鬼オークよりも遥かに巨大で牛頭鬼ミノタウロス同様、このダンジョンで独特な成長を遂げたことが伺える。

 しかしそれでもアキの行動に一切の焦りもブレも無かった。瞬時に己の手甲ガントレットを剣状態から弓へと変化させ、豚鬼オークの脳天に強烈な一発を放った。豚鬼オークの頭はアキの放った矢の威力に耐えきれずはじけ飛んでいく。


(お見事! いやー彼の実力は光るものがあるよね)


豚鬼オークを一撃で倒したアキの実力を素直に称賛する声。


(……)


そんな声とは逆に、目の前で起こった状況が信じられないと言葉を失うピーラン。


(とまあ、これで僕が何者であるか理解してもらえたかな?)


その言葉、その行動によって自分が何者であるかをピーランに証明してみせた声。


「……お、お前が……ダンジョンの主だということは分かった……」


理解して尚、信じられない表情を浮かべ続けるピーラン。


「……そのお前が私に何の用だ?」


 ダンジョン内に存在する魔物を自由自在に操ることが出来る声に対して言葉を間違えれば自分の命は無いと確信するピーランは、恐怖と緊張が入り混じったような声で慎重に自分に話しかけてきた理由を声に尋ねた。


(……いや、最初に僕は尋ねたじゃないか、君は強くなりたいのかと)


「ッ?」


声の言葉の真意が理解できないピーラン。


(僕はダンジョンの主であると同時にその他色々な管理をしている……まあ、具体的な内容は伏せるけど……その関係で僕なら君を強くすることができる……)


 突然現れた謎の存在にいきなり君を強くしてあげると言われて、ハイお願いしますと早々に返事をする者は早々いない。普通なら何か裏があるのではと疑いたくなるものだ。当然ピーランもそちら側であり、ダンジョンの主と名乗る謎の声の言葉に疑問や疑いしか浮かばない。


「……お前は……私を強くして何をさせたい?」


そんな疑問や疑いを素直に尋ねるピーラン。


(まあ、異世界転生物とかの主人公みたいに神様に力を授けようと言われてそれを素直に受け入れたりはしない、普通は疑ったり疑問に思ったりするよね)


「???」


いきなり訳の分からない言葉を口にする声に混乱の色が隠せないピーラン。


「あーごめん、今の聞き流してくれていいから、うん……それじゃ君を強くする目的を話そう」


 自分が今発した言葉を聞き流すようにとピーランに頼んだ声は、本題に入りますと言うように言葉を続ける。


(……君に、彼が目指すこのダンジョンの最終目標になってほしいんだ)


「はぁ?」


ダンジョンの主と名乗る声に話かけられて何度目だろうか、再びピーランは声の言葉に困惑した。


(正直言うと今の彼の実力はこのダンジョンの最奥で待つ魔物を瞬殺しちゃう程なんだよ……それじゃ試練にならないだろう? だからこのダンジョンの最終目標である魔物以上の実力を秘めている君に、即席で彼の試練の最後の相手になってもらいたいんだ)


「ッ?」


声が口にした内容はピーランの思考の遥か彼方であった。ピーランは状況を全く呑み込めず表情を引きつらせる。


「いや……ちょっと待て……私があの男と戦うのか? ……無理に決まっているだろう、私はこのダンジョンに出現する魔物一体にだって勝てるか分からないと言うのに……」


そう口にしながら自分の力の無さに落ち込み始めるピーラン。


(今の君ならね……だから君の実力引き出して強くしてあげるって話、当然今の彼よりも君を強くしてあげられる)


「……お前……本当に一体何者だ?」


明らかに出鱈目としか思えない声が口にする内容に一層疑いと疑問が深まるピーラン。


(うーん、あまり深く僕の事を知ろうとしない方がいいと忠告しておくよ……それでどうする? 僕のお願い引き受けてくれるかな?)


 これはまるで悪魔からの誘いだと感じるピーラン。一見声が提示した内容はピーランにとって何の不利益も無いように感じる。突然何の努力も無く強くなれるというのなら誰だってその願いを引き受けてもいいと思ってしまうことだろう。しかしおいしい話には絶対に裏がある。


「……その願いを私が聞き入れたとして、その後、私生じる不利益は何だ?」


そして努力による積み重ねでは無く突発的に得る力には必ず代価が必要になる事を知っているピーランは、その事を声に尋ねた。


(ん? そんなの無いよ……まあ、あるとすれば君の実力を最大限に引き出す訳だから僕の願いを呑んだ場合、君の強さはそこで頭打ちになるってことぐらいかな)


「……」


何の代価も無く力を得られるというこの世の理を大きく外れた声の言葉に再び言葉を失うピーラン。


(ああ、でも安心して、頭打ちって言ったけどそれは君の努力と工夫次第でどうとでもなるとは思うから)


 例え強さの成長が止まるとしても、ピーランの工夫や努力次第では頭打ちを突破することも可能であると懇切丁寧に説明する声。


「あ、ああ……」


 今は強くなったその先の話などどうでもいいピーランは混乱する中で思考を巡らせる。本当にこの存在の言葉に乗っていいのか、本当にその願いを聞き入れれば自分は何の代価も無く強くなれるのか。考えても仕方がない、やってみなければ分からない可能性を思考し続けるピーラン。


(うーん、悩んでいるようだね、まあ当然だよね、突然現れた得体の知れない存在に急にこんなこと言われて悩まない方がおかしいよね)


自分が得体の知れない存在だと認める声はケラケラと笑い声を上げる。


(それじゃそんな悩める君の背中を押す最後の言葉を送ろう……)


「うん?」


今まで馴れ馴れしく軽い口調であった声の雰囲気が変わる。


(……近い未来、君の大切な人に災いが降りかかる……今の君の実力ではその災いから大切な人を守ることは叶わないだろう……そして君は今日の事を思い後悔することになる)


それはまるで本当の予言のような雰囲気を持った言葉であった。



ガイアスの世界


ダンジョンの主


 突如ピーランの前に現れた謎の存在。僅かの間ピーランの前に姿を現したものの、直ぐに姿を消しその容姿ははっきりしていない。

 自分はダンジョンの主だと名乗るその存在は以前まではガイアスにある全てのダンジョンを管理していたと言う。しかし現在は殆どが自分の管理を離れ野放しになってしまったようだ。

 ダンジョンの主と名乗っただけに、ダンジョン内の魔物を自由に操作できるようだ。

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