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隙間で章 3 凍てつく瞳

ガイアスの世界


 巨大な牛頭鬼ミノタウロス


試練を続けるアキの前に立ちはだかった魔物、牛頭鬼ミノタウロスしかしアキの前に立ちはだかった牛頭鬼ミノタウロスは、通常のそれとは違っていた。

 まずその巨体、通常の個体よりも三倍近く大きく特に上半身の筋肉量から放たれる攻撃は並の冒険者や戦闘職ならば即死に繋がる威力がある。その筋肉量を生かした中距離の攻撃も強力で、周囲にいる魔物を投げるといった荒業も持っている。

 牛頭鬼ミノタウロスは武器を扱うことも得意でアキの前に現れた巨大な牛頭鬼ミノタウロスは、その筋肉量を生かし、特大剣を通常の剣を振うように扱っていた。

 残念な事にアキを相手にした為、その強さはあまり分からなかったが、本来ならば災害クラスに匹敵する魔物と言えるだろう。 




隙間で章 3 凍てつく瞳




 剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス




― 過去 とある大陸にある草原 ―



 太陽が傾きかけオレンジ色に染まる草原には心地よい風が吹き抜ける。しかしその草原とは明らかに異なった雰囲気を持つ少女が立っていた。

 まるでその場に立つだけで周囲を凍てつかせてしまうような冷たい雰囲気を持つ少女は、その雰囲気の通りに周囲の草原を凍りつかせた。


「はぁ……」


 何かを見ながらため息に近い白い息を吐く少女。その吐く息が太陽が傾きかけオレンジに染まった草原の気温を急激に下げていく。

 徐々に草原を支配し凍てつく世界へと変えていく少女の前には特徴的な盾を構えた数十人の兵士達の姿があった。


「怯むなッ! 速やかに防衛態勢をとれ」


 草原に立つ氷を従える少女を前に、盾の紋章が入った盾を持つ一人の兵士が自分の背後にいる兵士達に声をあげる。すると一寸の狂いも無く前に立つ男と同じ盾の紋章が入った盾を構える他の兵士達。


「やめなさい」


緊張感が走る男達の中にその金地用には似つかわしくない優しい雰囲気を持つ女性の声が広がる。しかしその優しい声の中には人の上に立つ者としての凛とした気配が漂っている。女性の声を聞いた兵士達は、一瞬にして構えていた盾を下ろしてしまった。


「危険です!」


 盾を下ろした兵士達の中、唯一先頭に立つ盾士だけが女性の声に抗う。


「王妃、お下がりください」


盾を下ろした兵士達の間から姿を現した女性を王妃と呼んだ兵士は、その女性に後方に下がるよう促す。


「……いえ、下がりません」


しかし王妃と呼ばれた女性は兵士の言葉に従おうとはせず少女の下へと歩み寄って行く。


「王妃ッ!」


再度呼び止め王妃の前に立ち歩みを妨げる盾士。


「今は一番大事な時期、お腹の子に障ります、この場は我々盾士に任せどうかなにとぞお戻りください」


膨らむ王妃のお腹に視線を向けた後、直ぐに王妃に視線を戻す兵士。その正体は、サイデリー王国の国専属職である盾士であった。


「私とこの子を気遣ってくれてありがとう……」


自分やお腹の子を気遣う盾士に礼を言うサイデリー王国の王妃。


「でもごめんなさい、どうしてもあの子とお話がしたいの……今あの子と話さなければならない……」


膨らんだ自分のお腹を愛おしく摩りながらもサイデリーの王妃は、目の前に立つ少女と話すことを懇願する。


「王妃……」


なぜ王妃が得体の知れない力を持つ少女と話したがっているのか理解できない盾士。それは他の盾士も同じでありその場には困惑が広がっていた。


「……あの少女から……見えたのです、この子に関わる運命が……だから……」


 まだ生まれてもいない子供の姿をその目で見てきたかのように、サイデリーの王妃は自分が進む道を阻む盾士に対してそう告げる。


「お願いガリデウス……通してください」


自分が進む道を阻んだ盾士ガリデウスに少女への道を開けてくれるよう願う王妃。


「……未来……予知……ですか?」


そう口にしたガリデウスに王妃は静かに頷いた。

 未来予知とはその言葉通り未来を見通す特殊技能スキルであり、ガイアスではその特殊技能スキルを持った者が、数十年に一度という周期で誕生すると言われている。数十年に一度という周期からこの未来予知は稀有な特殊能力スキルであり当然後天的な要因で得られる物では無い。

 自身の意思によって未来予知を発動することは出来ずある日突然、未来が見えるというのがこの特殊技能スキルの特徴でもあり必ず当たるがその未来を変えることもできる。

 だが運命までも変えることが出来る未来予知には代償が伴う。未来予知の力を持つ者はさの能力が発動するごとに急激な倦怠感に襲われる。そしてその未来予知は命を削るのである。

 未来予知の影響で急激な倦怠感に襲われているはずの王妃。しかし王妃の表情はそんなことを微塵も感じさせない。強く信念を持った王妃の目はガリデウスを見つめていた。


「……」


王妃の信念に折れたようにして道を開けるガリデウス。


「ありがとう師匠」


すれ違う瞬間、ガリデウスを師匠と呼んだ王妃は、少女との邂逅を求め歩みを進めていく。


「何でガリデウス隊長は道を開けたんだ?」


「王妃が危険に……」


サイデリー王国という国とその王とその家族を守ることを任とする盾士達にとって、ガリデウスの行動は、疑問を抱かせるものだった。


「なぜ王妃に道をあけたのですかガリデウス隊長!」


部下の一人がガリデウスのとった行動に疑問の声をあげた。


「……大丈夫だ……問題無い」


説明になっていない言葉で部下の疑問に答えるガリデウス。


「大丈夫って、これでは我々の存在理由が!」


「そうだ!」「何で道を開けたんです!」


部下が口にしていることは盾士にとって当たり前のことであった。国を守れず、その国の王やその家族を守れないのは盾士としての恥。そんな恥を盾士の隊長であるガリデウスは自ら行ったのである。


「大丈夫だと言っている!」


盾士達から挙がる不満の声を一蹴するガリデウスは苦悩していた。信頼する部下達にさえ話せないことがあったからだ。

 未来予知の能力は例え無作為に発動する力だとしても、その力の影響から公にされることは滅多にない。その理由は公になればすぐにでも己の欲に塗れた者達が自分達の未来で起ることを求めその能力を欲するからだ。

 そんな欲にまみれた者達から守る為、王妃の未来予知の力を知る者は限られていた。そんな限られた者の一人であるガリデウスは、誇りある盾士としての矜持を曲げてまでも王妃の未来予知の存在を守ったのだった。

 自分が発した言葉がどれだけ強引であるか理解するガリデウスは部下達に心の中ですまないと詫びることしかできなかった。



「名前は何ていうのかしら?」


少女の下へたどり着いた王妃は倦怠感と今にも倒れそうなほどの眩暈に襲われていた。だがそれでも王妃はそんな様子を微塵も見せず、少女に対して優しい眼差しと微笑みを向ける。


「……」


しかし王妃の問に冷たく輝き凍りついたような瞳をした少女は答えない。まるで氷で自分の心を閉ざしているような印象を受けた王妃は、再び笑みを向ける。


「……大丈夫、私はあなたを傷つけない、彼らもあなたに危害を加えたりしない……だからお名前を聞かせてくれるかしら?」


そう言いながら少女に手を差し伸べる王妃。


「……ティールディール……」


王妃の優しい笑みが僅かでも少女の凍った心を溶かしたのか、今にも風にかき消されそうな程か細い声で少女は自分の名を告げた。


「ティールディール……それじゃティディちゃんね」


 少女の名を口にした王妃は、すぐに少女の名を親しみを込めた呼び方に変え微笑む。


「ッ!」


自分の名を呼ぶ王妃に目が見開き驚く少女。


「私はフリージアっていうの……今お腹に赤ちゃんがいてもう少しでお母さんになるの」


フリージアと自分の名を口にした王妃は嬉しそうに微笑むと差し伸べた手でティディの手を優しく掴んだ。


「……ッ!」


再びティディの目が驚きで見開く。フリージアの手から伝わる温かみがティディの氷のように冷たかった瞳に熱を帯びさせた。


「ティディ、お願いがあるの、聞いてくれるかな?」


フリージアの言葉に戸惑いを見せるティディ。


「あのね、私の赤ちゃんが無事に生まれてくれるように一緒に祈ってくれないかな?」


フリージアは掴んだティディの手を自分のお腹に当てた。


「……ッ!」


僅かに熱を帯びた瞳が再度驚きで見開くティディ。フリージアのお腹に手を当てたティディは、命の鼓動を感じた。それは弱々しく、だがとても力強くも感じられる暖かな命の鼓動であった。


「ふふふ、ティディ……ありがとう、私はあなたに出会えて本当によかった……」


そう言うと母が子にするようにティディを優しく抱きしめるフリージア。


「ッ! ……あ……たた……かい……」


氷を従えるティディはフリージアに抱きしめられ生まれて初めて愛の温もりをその時、感じたのであった。




― 現在 ムハード国 港 ―




「……あれの出所が知りたいのか?」


「……それの出所が知りたいのか?」


視界を布で覆われ、手足を縛られたメンチカツ兄弟は自分達に質問をしてきた女性にニヤニヤといやらしい表情を浮かべた。


「ああ、知りたいな……おしえてくれるか?」


熱を感じさせない低い声色でそう答える女性。


「ヒィヒッ! 答える訳ないだろう」


「イィヒッ! 教える訳ないだろう」


しかし女性の問に答える気も教える気も無いメンチカツ兄弟は、女性を挑発するように癇に障る笑い声をあげた。


「……ふむ……そうか、どうやら喉が渇いて喋れないようだな……ならその喉を潤してやる……やれ」


メンチカツ兄弟の態度に更に熱を感じさせない低い声色でそう口にした女性は近くにいた盾士達に合図する。すると盾士達はメンチカツ兄弟の体を押えつけると頭を掴み水の張られた浴槽へ突っ込んだ。


「……この国にとって水はとても貴重な資源だ、それをたらふく飲ませてやっているんだ……それに感謝し私の質問に素直に答えてくれ」


水を飲ませる気など毛頭なく溺れているといったほうが正しいメンチカツ兄弟にそう告げると女性は、双子の頭を水に突っ込ませている盾士達に目で合図を送る。その合図を見た盾士達は水の中に突っ込んでいたメンチカツ兄弟の頭を引き上げた。


「ブッハッ! ……はぁはぁ……オラァ何だこの仕打ちは! 捕虜は大切に扱うんじゃないのか?」


「ギッハッ! ……ひぃひぃ……コラァ何だこの仕打ちは! 捕虜には権利があるんじゃないのか?」


水から引き揚げられたメンチカツ兄弟は息を切らしながら自分達の処遇に対して文句を口にする。


「捕虜は大切に? 権利だと? ……いつからお前達は捕虜様になった? ……今私が話しているのは人語が喋れる虫けらだったと思うが?」


「はぁ?」


「あぁ?」


虫けらという言葉が琴線に触れたのか、メンチカツ兄弟の顔が同時に同じように歪む。しかし次の瞬間再びメンチカツ兄弟の頭は水の中に突っ込まれる。


「捕虜とは人権が約束された者に与えられる言葉……だがお前達は何だ? 私の部下を殺しかけ、更には我国の王に刃を向けたお前達は人語を喋る虫けらだろう!」


そこで初めて女性の声から怒りの感情が現れる。


「ぶっはぁ……おぇぇえええ……そ、その名を世界に轟かせるサイデリー王国の盾士が、こんな酷いやり方で捕虜である俺達から情報を吐き出させようとするなんて、この事を他の国々が知ったら大問題になるぞ!」


「ギャ八ッ……うぇええええ……そ、その名を世界に轟かせるサイデリー王国の盾士がこんな非人道的なやり方で捕虜である俺達から情報を吐かせようとするなんて、この事を他の国々が知ったら大問題になるぞ!」


名高きサイデリー王国の盾士が捕虜に対して非道を行ったとなれば、間違いなく他の国からの批難の的となる。それを理解しているメンチカツ兄弟は嗚咽を伴いながらも自分達を苦しめる女性に対して再び文句を口にした。


「いちいち声を揃えてしかお前達は喋れないのか……しかも言い回しを少しずつ一々変えて、自分の存在を際立たせているつもりか?」


一々同時に喋るメンチカツ兄弟にいい加減呆れだす女性。


「まあ……ご心配は感謝しておくがその気遣いは無用だ……先程も言ったが、人語を喋る虫けらの言葉など誰も相手にはしない……」


出生もよく分からないメンチカツ兄弟の言い分など聞く国も人すらいないと言い切る女性。


「……そもそも捕らえた虫けらを外に出す気も無いがな……」


怒りの感情が一瞬にして消え再び熱を一切感じさせない声色へと戻る女性の声。しかしその言葉には刃物のような鋭さがあった。


「ま、まさか!」


「も、もしや!」


変化した女性の声色に自分達のこれからの運命を想像してしまうメンチカツ兄弟。


「当然だろう、虫けらであるお前達の仕出かしたことは、例え寛大で有名なサイデリーであっても、許されることでは無い……我王に対しての不敬……それは万死に値する……」


女性がそういった瞬間、周囲の気温がいっきに下がり始めた。


「な、何をする気だ!」


「な、何をする気だ!」


自分達が今まで味わったことのない危機感を感じ始めるメンチカツ兄弟。その声は寒さと恐怖で震えだしていた。


「なーに、ちょっと凍えてもらうだけだ……」


 女性はそう言うとメンチカツ兄弟の体を抑え込んでいた盾士達に目で指示を出す。すると慌てるように盾士達はその場から離れていった。


「や、止めろ」


「や、止めろ」


「「やめ……て……く……」」


何をされるのか分からないといった恐怖からメンチカツ兄弟は悲鳴をあげようとした。しかしその悲鳴は何かに阻まれるようにして消えていくのであった。




― ムハード国 港 ―



「うぉ、さむッ!」


 夜になれば、昼間の咽るような暑さが嘘のようにいっきに気温が下がるムハード大陸。しかし極寒の大地であるフルードで常に生活している盾士達からすれば、ムハード砂漠の夜の気温などたいした寒さでは無かった。しかし寒さに耐性を持つはずの盾士の一人が突然体を震わせ寒さを訴えた。


「あー……どうやら久々にティディ隊長の怒りが爆発したみたいだな……」


宿屋の前で警備をしていた盾士の一人は、寒さを訴える盾士にそう答えるとその寒さの原因である宿屋を見つめ少し引きつった表情を浮かべた。


「確か、ティディ隊長って……」


「ああ、普段はサイデリーにいるからその特殊技能スキルの効力はあまり伝わらないけど、瞬時に氷を作りだすアイス支配者ルーラーだって話だ」


どんなに熱を帯びた大地であっても瞬時に周囲を氷で支配することが出来ると言われている特殊技能スキルアイス支配者ルーラー。ティディがその特殊技能スキルの持ち主であると同僚である盾士に説明した盾士は寒さを少しでも和らげる為に体を摩る。


「で、でもその特殊技能スキルって俺達人間が身に着けられるような代物じゃないよな」


そう疑問を口にした盾士の鼻から鼻水が垂れ始める。


「ああ、人間が身に着けられる可能性は極めて低いって言われている」


 特殊技能スキルには肉体による制約というものが存在する。肉体の構造の限界を超えた特殊技能スキルを後天的に身につけることは難しいというもので、人間で例をあげれば筋力などを高める特殊技能スキルを先天的、後天的に身につけることは可能であるが、獣人や亜人といった他種族が持つ肉体的特徴を生かした特殊技能スキルを人間が先天的、後天的に得ることは基本的には不可能というのが肉体の制約と呼ばれるものである。

 その肉体の制約に照らし合わせるならば人間であるティディがアイス支配者ルーラーという特殊技能スキルを持っているのは奇妙であった。


「……お前達……」


宿屋の前でティディの話をしていた盾士達の後方の肩に冷たい何かが圧し掛かる。


「「た、隊長!」」


部下である盾士達の肩に圧し掛かったのはティディの両腕だった。


「私が尋問で忙しくしている時にお前達は呑気に無駄話か……いいご身分だな」


そう言いながら笑みを浮かべるティディ。しかしその表情は笑みというにはあまりにも冷たいものであった。


「「す、すみません!」」


その冷たい表情を見た盾士達は、凍った鼻水を拭きもせず体を震わせながらティディに陳謝する。しかし一向にティディの表情は戻らない。ティディの体からは冷気が放たれ部下の盾士達の体温は容赦なく奪われていく。しかし自分の体温が急激に奪われていく状況よりも部下の盾士達はじっと自分達を見つめてくるティディの冷たい表情に強い危機感を覚えていた。


「……無駄話をしている暇があるなら、港の見回りにいけ」


そう言うと盾士達の肩に回していた両腕を降ろすティディ。


「「は、はい!」」


もはや悲鳴に近い返事をした盾士達は、ティディから逃げるようにして慌てながら港の見回りに向かっていた。


「……」


ドタバタと何ともみっともない走り方で宿屋を離れていく盾士達を見送るティディの瞳に氷のような冷たさは感じられなくなっていた。


「はぁ……部下達に八つ当たりをしてしまった……」


部下である盾士達にとってしまった自分の行動に自己嫌悪をするティディ。


「帰ってきたから謝らなきゃ……」


そう言いながらティディは自分の目に手を当てた。


「……熱が戻ってきた……」


熱が戻った自分の目に安堵するティディ。


「た、隊長……」


「……んッ! ……なんだ?」


後方から自分に話しかけてきた部下の盾士に慌てて振り返るティディ。


「あ、あの双子が完全に凍りついたのを確認しました」


宿屋から出てきた盾士の一人が体を震わせながら、宿屋の中にいるメンチカツ兄弟が完全に凍りついたことをティディに報告する。


「そ、そうか……」


 メンチカツ兄弟を完全に凍らせる気が無かったのだが自分が未熟なばかりにそうなってしまった事を心の中で深く反省するティディ。



「……と、とりあえず私も確認してくる」


 それと同時に自分の力の所為で部下に寒い思いをさせてしまっていることに罪悪感を抱いたティディは体を震わせ次の指示を持つ盾士達を見ているのが辛くなり、その場から逃げだすように冷気が漂う宿屋へ向かおうと足を進める。


「あ、あの……」


しかし盾士の一人が宿屋へ向かおうとするティディを申し訳なさそうに呼び止めた。


「ん? な、何だ?」


足を止め自分に話しかけてきた盾士に顔を向けるティディ。


「……こ、この寒さはいつになったら解除されますか?」


体を震わせ今にも凍りつきそうな盾士の質問は切実だった。


「……も、申し訳ない……しばらくは……このままだ」


今にも凍りつきそうなほどに体を震わせる盾士達を前に、罪悪感が頂点に達したティディは思わず頭をさげ詫びの言葉を口にするのであった。




ガイアスの世界


 獣人、亜人と人間の歴史


 獣人や亜人と人間の違いはその見た目ですぐに分かるが、見た目だけが違いでは無い。身体能力の高さや肉体的な特徴から特殊技能スキルを多数得ることが多い獣人や亜人。それに比べ獣人や亜人のような高い身体能力を持たず、肉体的な特徴を持たない人間は、特殊技能スキルを得ずらい種族と言える。

 その為、獣人や亜人と人間がまだ人類と一くくりにされる前の時代、獣人や亜人のような身体能力も肉体的な特徴も持たない人間は獣人や亜人から劣った種族であると思われていた。

 しかし人間は一つも肉体的な特徴がない訳ではなかった。人間にも他の種族を凌駕する肉体的な特徴があった。それは物事を深く考える頭脳。人間は他の種族よりも圧倒的に物事を深く考えられる頭脳を持っていた。

 他の種族よりも劣る部分がある人間は唯一の肉体的特徴である頭脳、考える力を使い劣っている部分を補うことで人類の中で最弱な種族という汚名を晴らしたのだ。

 その一例が道具。剣や弓、防具や盾を作りだし扱うことであった。そして人間はその当時森人エルフにしか扱えないと言われていた魔法を学ぶことでその地位を確立していった。

 爪や牙の変わりに剣や弓を持ち、ひ弱な肉体を守る為に防具や盾を身に纏い、火を吐いたり雷を放ったりできない変わりに魔法という力を得ることで人間は、獣人や亜人に劣らない種族となったのであった。


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