隙間で章 2 少女の成長
ガイアスの世界
砂漠の殺戮者団長ベンドット
常人よりも大きな体格と類まれな戦闘センスを持っているベンドットはガイアスのとある辺境出身の下元傭兵であった。
しかし戦場で敵味方関係なく殺すその戦い方が影響して何処の国もベンドットを傭兵として雇わなくなった。それが彼が盗賊に身を落とすことになった理由の一つである。
ベンドットが傭兵を廃業し盗賊へと身を落とした頃、同じ辺境出身のある人物が剣聖になったという噂を聞きつけたことで彼の中にある心の闇は更に大きくなり、後にムハードの人々に恐れられることとなる砂漠の殺戮者を結成することになる。
剣聖になった人物は知り合いようでベンドットは異常なライバル心を持っていたようだが、その理由は分かっていない。
隙間で章 2 少女の成長
剣と魔法の力渦巻く世界、ガイアス。
空に昇った太陽が夜の始まりを告げる夕陽へ変化しムハード国全体を橙色へと染め始めた頃、既に跡形もなくなり瓦礫だけが残るムハード城跡地には、今日の瓦礫の撤去作業を終えた男達の姿があった。未だ発見される傷一つ付いていない遺体に心を痛める日々ではあるものの、これからの未来に希望の光を抱くようになった男達の姿からは充実感が溢れでているようだった。しかしそんな男達とは対照的に一切希望など感じられない不穏な雰囲気を持った男達が瓦礫だけとなったムハード城跡地を見つめていた。
「……団長、本当にあの城、跡形も無くなったんですね……」
瓦礫の山と化したムハード国の象徴を見つめながらそう呟いた黒いフード付のマントを纏った男は、自分の隣にいる同じフード付マントを纏った大柄の男に視線を向ける。
「……」
しかし団長と呼ばれた男は瓦礫と化したムハード城を見つめたままどこか上の空で反応を示さない。
「団長?」
「あ? 何かいったか?」
もう一度、男が話しかけると団長と呼ばれ男は我に返ったのか不機嫌な声で尋ねた。
「い、いや別に……」
団長と呼ばれた男の機嫌の悪い態度に話かけた男は怯えをみせる。
「フン……」
鼻を鳴らし怯える男から視線を外した団長と呼ばれた男は、その視線を周囲に向ける。
「……聞けお前ら……ここからは三班に別れる、俺を含めた十人は獲物の捕獲、後の二班は、各自別々の場所で暴れろ……開始は月が昇り始めたらだ……」
まるで集団に話しかけるような口調で団長と呼ばれた男が声をあげる
。
「「「「「ウッす!」」」」
すると突然姿を現したように団長と呼ばれた男と同じフード付マントを纏った者達が姿を現し返事をした。
「あのクソ野郎からもらった武具は夜の間しか使えない、間違っても太陽が沈むまでは使うな」
「「「「ウッス!」」」」
団長と呼ばれた男の周囲に集まった者達の数は数十、いや百人を超えている。一瞬にして集団となったその場は、彼らの恰好も相まって異様な雰囲気を醸し出していた。
「よし、そいじゃ解散」
団長と呼ばれた男の合図と共に、その場に現れたフード付のマントを纏った者達は散り散りに姿を消していく。
「……チィ」
フード付のマントを纏った者達がその場から姿を消すと、団長と呼ばれた男は不機嫌そうに舌打ちを響かせる。
「……団長……本当にあの笑……クソ野郎が持ってきたこの武具、信用できるんですかね?」
その場に残った九人の内の一人が、見るかに禍々しい剣を見つめながら団長と呼ばれている男に尋ねた。
「……あのクソ野郎は腐っても武具商人だ、下手な商品を掴ませて自分の評判を貶めることはしないだろう……だが、気に喰わねぇのは確かだ……俺達を利用しやがって……いずれこの借りは返す……それまではあのクソ野郎、笑男の思惑に従ってやる」
後半は笑男に対する怒りの言葉となった団長と呼ばれた男、盗賊団、砂漠の殺戮者団長ベンドットは、不機嫌そうに部下達が被っている物と同じフード付マントのフードを深く被る。するとその場の景色に溶け込むようにしてベンドットの巨体は姿を消した。
「……お前ら行くぞ」
「「「ウッす!」」」
その場から姿を消した団長と呼ばれた男の声がその場に響くとその言葉に返事をする九人のフード付マントを纏った者達も、団長と呼ばれた男と同じ動作をとりその場から姿を消すのであった。
― ムハード国 ムハード城跡地から少し離れた場所にある小屋 ―
「おねぇーちゃんは?」
ムハード城跡地から少し離れた場所に建てられた小屋。その一室から眠たそうな幼い少年の声が聞こえてきた。
「おはようレイド君、随分お寝坊さんだね」
既に太陽は傾き、周囲は橙色にそまりつつある。既におはようと言うにはあまりにも遅い時刻ではあるが、まだ眠たそうな目をしているレイドにそう話しかけたのは、レイドとそう歳の変わらない少女、テイチであった。
「うん、何か眠れなくて……」
夕方まで寝ていた理由を眠そうに説明したレイドは、長い欠伸をすると部屋の中央に置かれたテーブルの席にチョコンと腰掛けた。
「そうか寝付けなかったのか、何か飲む?」
寝付けなかった理由に頷くテイチは、寝起きのレイドの目を覚まさせる為、何か飲み物を飲ませようと台所に向かう。
「うーん……パオジュースがいいな」
「う、うーん、今パオの実が無いからジュースは無理かな……ゴメスのミルクでいい?」
パオの実とはムハード大陸で獲れる果実で、高温な土地で生えるパオの木に成る実でその実を絞ったものがパオジュースである。ムハード大陸で生きる者ならば、誰もが一度口にした事がある果物であり、栄養価も高い事から砂漠越えをするうえでの必需品となっている。しかし前ムハード王の支配による影響でパオの木を栽培している者はおらず、どうしても必要な場合、他国へといかなければ入手することが困難な代物であった。
その為テイチはレイドのその言葉になんと贅沢なと表情を引きつらせながら台所にあるゴメスのミルクを勧めた。
「えーゴメスのミルクは嫌だパオジュースがいい」
ゴメスのミルクと聞き、露骨に嫌そうな表情を浮かべるレイド。
ゴメスとはムハード大陸に生息する動物で暑さに強い耐性を持つ動物である。食用から砂漠越えの足、荷物運びまで何でもこなせる家畜としてムハード大陸では数多く飼育されている。そのゴメスのメスの乳は、パオの実と同様に栄養価が高くムハードの人々にとっては馴染みのあるものなのだが独特のクセを持っている為、もっぱら子供に人気が無く大半は大人が消費する飲み物となっていた。しかしパオの実とは違いムハード国でも数多く飼育されている為ゴメスのミルクはとても入手しやすい。現状、国として十分な食料自給を確保できていないムハード国にとってゴメスのミルクはムハードの人々にとって食の生命線の一つであった。
「うーん、ごめんねブリザラさんが帰ってきたら相談してみるね」
そう言いながらレイドの前にゴメスのミルクを置いたテイチは向かいの席へと座った。
「うーん」
不満な表情を浮かべながらもゴメスのミルクを口に含むレイド。しかしやはりクセが強いのか顔をしかめるレイド。
「は、ははは……」
レイドの表情に乾いた笑いをあげたテイチも自分が飲む分として用意したゴメスのミルクを口に含む。
(そんなに不味いかな……)
テイチの方はゴメスのミルクが持つ独特なクセが気にならないのかレイドの不満な表情に首を傾げた。
「ねぇおねぇーちゃんは?」
ゴメスのミルクのクセのる味によって目を覚ましたレイドは、部屋の周囲を見渡しながら自分達が現在寝食をしている小屋の主、ブリザラはどこにいるのかとテイチに尋ねた。
「……ブリザラさんは……」
二人が今居る小屋は、現在復興を進める為にムハード国に滞在しているサイデリー王国の王、ブリザラの為にムハードの人々が突貫で作りあげた小屋であった。
仮にも一国の王でありこの国を救った英雄とも言える者を滞在させるにしてはあまりにもお粗末な作りではあるが、現状、前ムハード王の影響で何もかもを奪われてしまっていたムハードの人々にとってこれがブリザラにできる精一杯の感謝の気持ちであった。
前ムハード王による軍事最優先の国政で若者達は全て徴兵された。それによって若者の労働力を失った家畜や畑は殆ど全滅してしまった。
徴兵で若者を失ったムハード国の影響は家畜や畑だけでは無ない。ムハード国内にあるあらゆる仕事の効率を下げてしまった。ムハード国に残された年老いた者達だけでは国の経済を回すことは難しくなった
のである。
前ムハード王の死後、前ムハードの力と徴兵から解放された若者達はこれからのムハード国の発展の要となる存在であった。しかし徴兵時に彼らが行ったムハード国の人々への数々の非道行為は、国に残された者達に遺恨を残す結果となり若者と国に残された者達の間に大きな確執を生んでいるのは間違いない。
国に残された者達との関係が良好でないことに加え徴兵時に自分達の仕出かした行為に、心を痛め精神を病む者が続出しているのも現在のムハード国の問題の一つでもあった。
そんなムハード国の現状を知っているブリザラは、自分へ送られるた礼を一度は断ったのだがそれでは自分達の気持ちが収まらないというムハード国の人々の気持ちを汲み取り、精一杯の礼であるこの小屋を受け取ったという流れがあった。
しかしムハード国復興の為に日夜動き回るブリザラがこの小屋を利用することは少なく、まだ数える程しか利用したことが無い。気付けばテイチとレイドだけがこの小屋を利用している状態になっていた。
「……お仕事中だよ」
ムハード国を復興する為の活動をしていると説明してもよく分からないだろうと思ったテイチはブリザラは仕事中だとレイドにそう説明した。
「お仕事……?」
テイチの説明に不満な表情を浮かべるレイド。
「そう、大事なお仕事、だからブリザラさんが帰って来るまで大人しく私と待ってようレイド君」
まるで歳の離れた弟をあやすようにテイチはレイドにブリザラが帰って来るのを待つよう促した。
幼い見た目をしながらその姿に似つかわしくない言動と落ち着いた雰囲気を持つテイチ。どう考えてもその雰囲気は幼い少女ものとは思えない。アキやウルディネと出会った当初のテイチはその見た目と通りの子供、幼い少女であった。だが自分の故郷であるムウラガで魔物に襲われ一度命を落としてからテイチの精神に変化が起きた。
ガイアスという世界から離れようとするテイチの魂を肉体へと引き戻したのは水を司る上位精霊であるウルディネ。彼女が持つ癒しの力が無ければテイチは今ここに存在していないはずであった。
しかしウルディネの癒し力も万能では無い。一度肉体から離れた魂が再び肉体へと定着させるには個人差はあるが時間がかかりすぐに以前の状態に戻すことは出来ない。その為、魂が体に定着するまでテイチは眠り続けることになった。
だが眠り続けるテイチをそのまま故郷の村に返す訳にもいかず、目覚めるまでは自分がテイチになり代わろうと人間のような肉体を持たないウルディネは、テイチの体に乗り移ることにした。それは幼い少女を守れなかったというウルディネの罪滅ぼしでもあった。
テイチの肉体へと乗り移ったウルディネがテイチの故郷である村へと戻るとそこはまるで地獄のような光景が広がっていた。テイチの故郷である村は焼かれていたのだ。
村を焼いたのは無名の盗賊団。その盗賊団の手によって村は焼かれそこに住んでいた人々は一人残らず殺されていた。その中にはテイチの両親も含まれていた。この瞬間、テイチは故郷と両親を同時に失い自分が帰る場所すら失ったのである。
テイチはその事を自分の肉体に乗り移っていたウルディネを通して見ていたのをうっすらとだが覚えていた。
幼くまだ人の死をはっきりと理解出来なかったテイチ。だがウルディネを通して見える光景やウルディネから伝わってくる感情が目の前の状況と近しい者、両親の死を理解させテイチの心に深い悲しみを抱かせた。その感情は水を司る上位精霊であるウルディネへと逆流し村へ悲しみの雨を降るせる結果となった。
村を焼き両親や村の人々を殺した盗賊団を操っていた黒幕を探しだす為、アキと共にウルディネとテイチはムウラガを後にすることにした。その旅の道中でテイチは途切れ途切れの意識の中、ウルディネという上位精霊が見るガイアスという世界を一緒に見つめた。そこに時間という概念は無く、テイチはウルディネから流れてくる上位精霊としての膨大な知識を学んだ。
そして普通の人間が学ぶことが出来ないような知識を得ると同時にウルディネと自分の魂が混ざり合うような感覚を抱くようになったテイチは、まるで上位精霊になったような、自分がウルディネになったような感覚を抱いたこともあった。その経験、魂の同調がテイチの精神に大きな変化をもたらした。
見た目は幼い少女でありながら成熟した精神を持つというアンバランスな状態を生み出したのである。
「いやだ! 早くおねぇーちゃんに会いたい!」
しかし例え様々な知識を得て精神が成熟したとしても上位精霊の知識の中に子供のあやし方などは無く駄々をこねるレイドに困った表情を浮かべるテイチ。
「うーん、どうしよう……ブリザラさんいつ帰ってくるかな……」
途方に暮れブリザラの帰宅を切に願うテイチは、すっかり暗くなった窓の外を何気なく見つめた。
「……!」
突如として嫌な感覚が体を走るテイチ。
「レイド君こっちに来て」
そう言いながら強引にレイドの腕を掴み引っ張るテイチ。
「い、いたいよ」
突然腕を掴まれ顔をしかめるレイド。
「いいから」
強引に自分の下へと引き寄せテーブルの下へレイドを誘導し隠れるテイチ。子供のあやし方は知識として学んではいないが、身の危険を察知する事やその危険をどう対処するかというような事はウルディネが持つ知識から学んでいたテイチ。今自分達がいる小屋の周囲に異様な気配があることを感じとったテイチは、現状最も危険を回避できる行動をとった。
テーブルの下に隠れながら感覚を研ぎ澄ますテイチは小屋の周囲の外に五、六人、少し離れた所に二人の気配を感じ取った。
(囲まれている……何で?)
その気配は明らか悪意や無差別な殺意を敏感に察知したテイチはなぜ自分達が今取り囲まれているのか疑問を抱く。
(ムハード国の周辺にある国の襲撃? いや、それはブリザラさんが全て対処したはず……なら……)
ムハード大陸にある全ての国々は総じて恐怖と不安で大陸全体を支配していたムハード国に強い恨みを持っていることはテイチも理解している。ムハード王がいなくなった今、その恨みを晴らす為、更にはムハード国が持つ領土を奪う為に他の国が戦いを仕掛けてきてもおかしくはない状態であった。しかしそれは数日前までのことである。
ブリザラはそれを見越し周辺国が戦を仕掛けてこないように大陸中の全ての国を回り交渉を持ちかけていた。その交渉は何とか成功しムハード国への戦争は未然に防がれていた。
周辺国がブリザラが持ちかけた交渉を反故にして戦を仕掛けてくる可能性が無い訳ではないが、ブリザラが持ちかけた交渉は、周辺国にとってはかなりの利益になるような内容であるとブリザラのお付兼護衛をしているピーランが話していたのを聞いていたテイチは、小屋の外で感じる気配が一体何者なのか分からなくなった。
小屋の周囲を囲む気配が何者なのか考えつつテーブルの下から顔を覗かせたテイチは部屋を見渡した。現状持てる技術を使い、ムハード国の人々が突貫で作った小屋は、お世辞にも立派なものとは言えない。簡単な作りをしている小屋は成人の男達数人がかりならばすぐにでも破壊することができると分析するテイチ。
(小屋を囲まれているから逃げられない)
気配は小屋を取り囲むようにしてある。自分とレイドが逃げる隙は無いと考えるテイチの表情には焦りが見えた。
するとテイチの焦りを知ってか知らずか扉が激しくノックされる。それはもはやノックでは無く叩き壊そうとしているように激しい音であった。
(どうしよう……今の私には何も出来ない……どうすれば)
扉を叩く音がさらに激しさを増す。突然の状況にレイドは手を耳に当て体を震わせている。
(……それでも私がやるしかない)
見た目だけならば歳の近い二人。しかしテイチとレイドの精神は子供と大人程の差がある。自分が守らなければとレイドを自分の背に隠すテイチ。
「レイド君、絶対に私から離れないでね」
「う、うん」
この状況で泣き叫ばないレイドの気持ちの強さに感心しながらテイチは自分の心を落ち着かせ叩く音が激しさを増す扉を見つめる。すると突然叩く音が止んだ。静けさが広がる部屋。しかしそれは押し寄せる嵐の前の静けさでしかない事をテイチは理解している。
次の瞬間、凄い勢いで吹き飛ぶ扉。粉々に砕けた扉の破片が小屋の壁に突き刺さる。
「あれ、灯りが点いているから中にいると思ったが、誰もいないな……」
扉を蹴破り入ってきたのは黒いフード付マントを纏った男であった。その姿から顔ははっきり分からないが、その男からは人の命を弄ぶ事を楽しむ暗い雰囲気が漂っていることを直ぐに感じ取るテイチ。
(……ティディさんが懸念していた輩達だ)
前ムハード王の力によって狂気を纏わされた兵達とは違い、元からその狂気を持っている者達。そんな輩がこのムハード大陸には存在するとサイデリー王国、上級盾士のティディが口にしていた事を思いだしたテイチは、自分達の前ら現れた男が何者であるかを直ぐに察した。
(盗賊……ううん、殺人集団……)
その集団の名称こそ口にしないが、ブリザラやティディ、ピーランや国の人々の話に度々登場した存在。その存在が今自分の前にいる者だと確信するテイチ。
「ありりゃハズレかな……」
蹴破った小屋へ入ってきた男は周囲を伺いねちっこい言葉を発する。その声は小屋に誰かがいる事を確信したうえでそう言っているような言い方だった。
「ここかな!」
そう言いながら突然何かを振り下ろしクローゼットを破壊する男。
「あれ? 違うか……」
粉砕したクローゼットの中身を確認した男は、楽しそうに周囲を見渡す。
「それじゃここか!」
今度はベッドを破壊する男。
「ここも違う……」
そう言いながらゆっくりとテーブルを通り過ぎる男。
「それじゃ……」
自分の存在を際立たせるように激しく足音を鳴らしながら再びテーブルに近づく男。
「ここだ!」
そう言いながらテーブルの下を覗き込む黒いフードを被った男は、隠れていたテイチとレイドを仄暗く輝いた目で見つめた。
「ッ……!」
「子供が二人? うーんちょっと物足りないな……けどまあ、いいか」
怯えるレイドと自分を睨みつけるテイチから視線を外しテーブルから顔を上げる黒いフードを被った男。
「殺しちゃおう!」
楽しそうにそう叫んだ黒いフードを被った男は手に持った黒い禍々しい形をした斧をテーブルに振り下ろす。
(駄目ッ!)
何も出来ずただその場で目を瞑ることしかできないテイチは、ある人物の顔を思い浮かべる。すると次の瞬間、激しい水の音が小屋に響き渡った。
「ああ!」
激しい水が流れる音を聞いたテイチはその瞬間、目を見開いた。一瞬にして小屋が水浸しになりテーブルから滴り落ちる水滴を見たテイチの目は光輝く。
「ふぅ……今回は間に合ったようだな……テイチ、大丈夫か?」
そうテーブルの下にいるテイチに話しかけたのは、楽しかった事も悲しかったことも全ての感情を共有したテイチが最も信頼する存在、水を司る上位精霊ウルディネであった。
ガイアスの世界
テイチ達を襲った集団が纏っていた黒いフード付マント
暗闇に溶け込むような黒色をしたひのフード付マントは、ピーランの忍術、隠形と同様の機能を持った装備である。しかも装備者の技術に関係なく隠形を発動することが出来る為に厄介な代物である。
製作者は自称武具商人を名乗る笑男であるという。




