第4話
加工技術なら第7チームが専門だ。
京之助たち第5チームは、テレビ電話などの通信よりも、直接行って相談しながら加工をしていく方が確実だろうという判断から、セシルとともにイグジットEへと向かった。
到着すると、次元の入り口から徒歩で5分ほどの研究所へと向かう。そこでは第7チーム指揮官の土倉が出迎えてくれた。
「お、早かったじゃないか。で、早速で悪いが、すぐ仕事に取りかかってもらうよ」
「ええ、もちろんそのつもりで来ましたわ」
あずさが答え、剣を取り出すよう第5のメンバーに指示する。
「ほおー、これがその、ユニコーンの角を使った剣?」
土倉はそのいくつかをメンバーにまわし、ひとつを自分の手に取る。
「軽いんだな」
「思ったよりしなやかだし」
第7チームのメンバーはそんな風に言いながら、刃をしならせたりカンカンと打ち付けたり、あらゆる事をして剣を調べ出す。
そんな様子を頼もしそうな表情で見ていたあずさが、土倉に言う。
「ここへ来る途中にうちのチームで話し合っていたんですけど、建築資材を1から作り出すのは時間も経費もかかるでしようから、今ある素材を利用できないかなって」
「それは俺たちのチームも考えたよ。で、具体的には?」
「剣を細かく砕いて塗料のように吹き付けるというのは?」
「さっすがだねー、俺たちと意見バッチリ。早速取りかかろう」
そこからは第7チームとクイーン作業チームの技術がものを言う。
こちらの次元にはない成分なので、クイーンが指示しながら協力して何とかスプレー出来る程の大きさには粉砕できた。
しかし、事はそう簡単には運ばなかった。
角の成分が強力すぎるのだ。
表面的には驚くほどの強度になる。が、中の資材が弱くて、無理な力をかけると、おかしな形に、折れたり、よれたりする。中の資材が弱すぎると言うより、吹き付けた物が強すぎるのだった。
第5チームは試行錯誤しながら、これ以上細かくするともはや違う物質になると言うところまで粉砕してみたが、結果は同じだった。
次に試したのが、他の物と混ぜ合わせてスプレーするというもの。
しかしどうも上手くいかない。鉄・銀・プラチナ・ダイヤ……硬質なものからプラスチックのような軟質なものまで試してみたが、どうもしっくりまざり合ってくれない。
これなら、資材を1から作った方が早いのでは? と言う意見が出始めた頃。
京之助があることを思い出した。
「前にセシルと剣の手合わせをしたとき、彼女が人工的に作ったもの云々という言い方をしたのを思い出したんだ。それで、ユニコーンのように、こちらの方も動物の角や骨を使ってみたらどうかな」
「!」
「そうか、なんで思いつかなかったんだろう」
「しかし動物の骨なんて、早々あるもんじゃないぜ」
と言う第7チームの心配をよそに。
景岳が「待っててくれよな~」と、アーヴィングを伴ってどこかへ出かけたあと、大きな荷物を抱えて帰ってくる。
「十時、アーヴィング。なんだそれ?」
「へへっ、近くの動物園、獣医、はては博物館、などなどまわってきました」
と、中から取りだしたのは、いろんな動物の角や骨だった。
景岳たちが持ち帰ったゾウやサイの角、虎やライオンの牙などを試してみたが、これも上手くいかなかった。やはり駄目かと半ばあきらめムードの中、景岳はひとり大きく伸びをしながら立ち上がる。
「あー疲れた~。京之助すげーじゃん! なーんて賞賛もムダだったかー」
「うるさい」
「へえへえー、こわーい。怖いから俺、散歩してくる~」
そう言いつつ部屋を出て行った景岳が、しばらくして慌てたように戻ってくる。
「どうした、十時。忘れ物か?」
「ちっがーう! ひらめいたんだよ! イッカク!」
「いっかく?」
「そ、イッカク! 海の一角獣の事だよ。試す価値あるんじゃない?俺ちょっと水族館へ行って来る!」
と、部屋を飛び出そうとしたとき、ちょうどティーナがこれも大きな荷物を抱えて入って来るのと出くわした。
「うわっ! ティーナさん、すみません」
「どうしたんですか?」
「一角にはイッカクですよ。こちらには海に一角獣がいてね。そいつの角をもらいに行こうかと」
「あ、それならここに」
「ええっ?!」
そして…
「やった! 成功だ!」
あのとき皆を送り出した後、クイーンシティへ帰ろうとしていたティーナは、偶然、こちらには海にイッカクがいるという話を聞き、なぜか動悸がするほど気になって仕方がなかったので、手塚の協力のもと、その角を探し出してこちらへ来たのだという。
海の一角獣、イッカクの角は、ユニコーンの角とほどよく融合して、スプレーすると資材をみごとに強靱なものにしてくれた。不思議なことに、吹き付けるとどんどん資材に浸透して、おかしな曲がり方もないし、折れることもない。
そのほかの実験でも、今までとは比べものにならない強度をはじき出す建築資材を見て、がっちりと握手したり、ハイタッチしたりして喜び合うメンバーたち。
そんな中、第7チームは遊び心を発揮して、「無敵の武器!」などと言いながら、こちらの素材でできた剣や盾にもスプレー加工をしていた。クイーンたちに了解をとって、護衛アンドロイドのクジャクの羽根に吹き付ける輩もいる。
第5チームに頼まれて、ガラスや陶器に吹き付けてみたりもした。それをまた分析研究する第5のメンバー。とにかく彼らの創造性や研究意欲は、とどまるところを知らないのだった。
これで向こうの「高い壁」と同じようにこちらを守ってくれる強力な壁が作れる、と、誰もが思っていた矢先。
イグジットEの次元出入り口で、ギューンギューンと壁がうなりだす。
意気揚々と工事に取りかかろうとした第7、クイーン、作業チームは、またスポットの外へ非難しなくてはならなくなった。
「まったく、いけ好かねえ奴らー!」
などと言いながらも仕方なく研究所に戻る彼らだった。
けれど、このときの戦闘アンドロイドは、ダフネの呪いで凶暴になり、バリヤの戦闘チームも相当に手こずるほどだったのだ。そのうちの1体が研究所に入り込んだと連絡を受けた時、京之助はセシルとふたり、第7が遊び心で作った剣と楯のある部屋にいた。
「皆、戦闘態勢!」
通信機から聞こえる土倉の声を聞いて、剣と盾を持つ2人。
「相手は銃で攻撃してくるらしいから、ほとんど防御にしか役立たないと思うが」
「ええ、でもないよりはまし…。!」
そこまで言ったとたん、ドアがバアンと開いて、ドドン!ドドン!と銃が撃ち込まれた。
自分の身体ほどもある楯を地面に置いて、銃弾を防ぐ2人。楯を構えていても押されるほどの威力だ。しかしさすがは強化した楯だ。弾をすべて綺麗にはじき返している。
京之助は少しずつセシルの前に回り込んで、彼女を守りながら隙をうかがうが、凶暴化した戦闘アンドロイドはなかなか攻撃の手をゆるめない。
すると、銃声を聞きつけたのか、護衛アンドロイドがドアから飛び込んで、珍しく果敢に体当たりを仕掛けた。それには、さすがの戦闘アンドロイドもバランスを崩して、銃撃が止む。
その隙を逃す2人ではない。セシルは短剣を目に、京之助は腕めがけて剣を放った。
グルグルと回転しながら飛んでいった剣は、アンドロイドの右腕をスッパリと切り取った。目のまわりはセシルの投げた剣で、少しえぐり取られている。
しばらくギギ、と不思議な音を立てていたが、くるっと回転して護衛アンドロイドをうまくかわし、廊下へ飛び出す戦闘アンドロイド。このままでは分が悪いと判断したのだろう。開いていた窓にとりついたそれは、するすると上へ上がって行った。
それを追いかけるように、護衛アンドロイドも窓にとりついて姿が見えなくなった。
「どうやらこの場はしのげたようだな」
「ええ…。ああっ! でも大変! 上にはティーナたちがいるのよ」
セシルの言葉に「貴女はここにいろ!」と叫んで廊下へ飛び出したと同時に2階でドォンと銃声がした。
すると建物の入り口のところであたりを見回していた男が、飛ぶように2階へ上がるのが見えた。第7チームの、たしか小美野だ。
程なくドォン! ドォン! と何発か銃声が聞こえ、あとは静かになった。
2階にたどり着き、開いたドアから部屋へ飛び込もうとして、…京之助は微笑みながら、くるっときびすを返す。
戦闘アンドロイドは破壊されて崩れ落ちている。
少し向こうで小美野の腕に倒れ込むようにしているティーナ。その背中を撫でながらホッとした表情の小美野がこちらを見て、照れたように笑っていた。
もう大丈夫だな。
階段を降りていくと、心配そうにやってくるセシルがいた。
「あ…」
京之助は彼女を安心させるように微笑みながら言う。
「ティーナさんたちは小美野が守ってくれてたよ」
「良かった…」
セシルはほっとした表情を見せて京之助にもたれかかり、いたずらっぽく彼を見上げる。しばらく忘れていた引き込まれる感覚に、思わず顔を近づけたとき、ピピッと通信機が鳴った。
「俺は優秀な部下を持ったことを誇りに思うぜ。ありがとう」
それは、戦闘アンドロイドを壊滅したという手塚からの報告だった。
2人は嬉しそうに見つめ合い、そして、いつしかその距離はゼロとなった。