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てちがい店長とぼんくらな僕  作者: ウラキタカチホ
てがえし店長とぼんくらな僕
9/14

てがえし店長とぼんくらな僕 Viewing:高原優雅②

私の醜態を目にしてくれて、ようやく放った坊主の一言。


「店長……、そんな、めちゃくちゃかわいい表情もできたんですか」


黙ってろ小僧。あと、可愛いとかいうな。

見てくれが幼いのは自覚してますが、これでもアラサー、成人して十年経ってます。

……そんなつまらねぇコトなんざ、どうだっていいですね。

金蔓どもの相手をしてやりませんと。

顔を上げてみてみれば、そこには。


「ヤッホゥ! しばらく振りねぇ、ミズ」


「会いたかったよぉー、センパイ!

 うーん、相変わらずちゃっちくってかっわいそうだぁ!」


あらゆる懸念も吹っ飛ぶほどに、全身に倦怠感を沸騰しやがらせてくれる程度に言語機能の狂った連中が。


「げっ」


……おいおい、意識してキャラ作ったわけでもないのに、素で「げっ」なんて言っちまいましたよ。

最悪だ。

厄日です、ほんとに今日は厄日です。


扉を出でて現れたるは、揃いのパツキンに青目の異人ども。

片やびっちりスーツを着込んだ細身の角刈りマッチョ、片や見てくれだけは人形じみたウェーブ髪に赤いほっぺのヘッドホン小娘。

世が世なら、人買いに娼館へとドナドナされる哀れな生贄にも見える組み合わせ。

腹が立つことに、小娘と言っても私よりは10㎝くらいはデカい。

一応、私のが年上なんですがね。


……馳せ参じたるこいつらは元私の同窓にして、紙谷研究室史上最悪の問題児な留学生オタップル。

私が触らない限りは爆発しない内に溜め込むタイプのクズであるなら、こいつらはほっといても胸糞悪さを振りまく腐れヤンキーども。

どこで日本語を覚えたやら女言葉を使うガチムチに、微妙に単語を間違えて覚えてるパープリン女という、どうしようもなくロクでなしの癖して成果だけはきっちり上げるキの字の領域の住人たち。


……あー、すべてを投げ出したくなります。

どうしてまた、今日はまた……こんなに疲れる相手ばかりが来やがってくれるんですか。

ここ数か月は一度だって、顔なんざ見せた事もねーくせに。

……別段さびしかったとか、そういう殊勝な思いとかは特にありはしませんが。


「はぁ…………」


……割とガチで、頭痛がしてきてくれやがりましたよ。

こめかみをグリグリ押さえるも、気休めにすらなりゃしねえ。


「あら? どうしたのよミズ。溜息なんかついたら出会いが逃げるわよ」


「余計なお世話だ、うるっせぇんですよピザの国の住人ども!

 出会いなんざクッソ下らねぇ、こっちから願い下げですっての」


んなもんがあったって、私の時間が削られるだけでしょうが。

それこそ、そこで呆気にとられてる坊主みたいに面倒を持ち寄ってくれるだけなんですから。

私は、一人でじゅうぶんです。


……とと、そういやすっかり忘れてましたよ。

嫌味や皮肉を考える余力もねえ、もーほんとにぞんざいにしか対応できませんが、我慢してやってつかーさい。


「……置いとくんで、勝手に食っといてください。

 今回もツケにしといたげます、私はもう奥に引っ込んでますんで」


気分わっりぃ、今日はもう閉店です閉店。

ささ、帰った帰った。

こういう日は部屋に籠ってCivilizationでもやってるのが一番です。


そう思って踵を返すも、うるうると涙を滲ませて人形女が取り縋ってくれやがってますよ。

さっきまで店の入り口にいたつーに、どっから涌いてきやがった。

ま……こいつらが私という玩具をそう簡単に手放すはずもねーですけど。


「もー、アタシたちのオーダーも取らないってのはどういうコトなの?」


「センパイ……いくらワタシ達が親友でも、お客様はシャチハタです、って言葉があるんだぞ、ぷんぷん」


ああくそ、うっぜぇえぇぇ……。

ときにバブルヘッド、てめえの頭には朱肉でも詰まってんですか? ええ?

来る度に二度と来るなっつってんのに、こいつらはいつもいつもいつもいつも……。


「か……かしこまりました、お客様。ご注文をお伺いいたします」


……ここで青筋浮かべながらもスマイルで注文取っちまうあたりが、私の惨めったらしさですね。

下手に出る癖が染み付いちまってやがってます。

くそったれですよ、ったく。

……他人の目には、どう見えてんですかね。

そんなことを思って、ふとあのガキに視線を移してみれば。


「なーに視姦してやがんですか、あ?」


「す、すみませんっ」


ようやく、目の前のセットにかぶりつく浪人閣下。

そうそう、それでいいんです。

ガキはガキらしく、目の前のことだけに夢中になってなさい。

こんなダメ女に気ィなんて取られてたって、得るものはなにもないですよ。


「うわ、この店、パイだけじゃなくてクレープも美味しいんだ……」


……当り前田のクラッカーです。

採算考えてないですから、材料だって私が食べて美味しいと思うものしか使ってないですからね。

バナナは台湾の新北蕉、ねっとりとした触感と濃いめの甘味を堪能できる程度に熟させて。

クリームには岩手の牧場から特有のコクを持つブラウンスイス種の新鮮な乳から仕立てたのを直送してもらってます。

チョコソースだって甘ったるいハーシーズのなんか使っちゃいません、ロンリーな美食家の個人貿易商から購入してる、ベルギー産のホンモノです。

もちろん、生地の方もそれなりにこだわって、都内の仏帰りのパティシエールのいる洋菓子店から取り寄せを。

既製品ではありますけどね。


「……まったく、やれやれです」


ま……それを売りにするつもりもねーですし、スイーツ(笑)脳のノータリンどもが大量に涌いても困るんで、いっさいそんな事はメニューに書いたりはしませんが。


つーかですね。

こいつの味が分かるってコトは、普段からどんないいもん食わされてたんですか。

若い衆っつーのはこう、ホイップクリームとスーパーのバナナで設えられた、くっどい甘さの分かりやすく香料臭いクソマズクレープで満足するもんでしょう。

ああやっぱ本気で苛立つ……このガキ、やっぱボンボンの坊ちゃんですよ。

ぶん殴りてえ。いや、以前ぶん殴ってますけどね。


「……あら」


「おぉー……」


……おいこら、ヤンキーども。

口に手なんざ当てて、なァに私とこのガキを交互にジロジロ見てやがんですか。

よもや、顔にでも何か付いてんですかね。

クリームでもさっき付いたとか?

手鏡は……持ってましたっけ。


まあいいです。

別段、汚ねぇ顔を見せて困る相手でもねーですし。

とりあえず袖で顔を拭って……なんだ、やっぱり何にもついてねえじゃねえですか。


「やっぱり……店長すごいです、この店。この前来た時のパイも、そうでしたけど、本当にいい仕事してます」


「……褒めるんなら一次産業従事者たちに言ってやるべきですね。私ゃ素材の良さに乗っかったただの寄生虫ですよ」


肩をすくめながら、自嘲を込めてそう返す。

……ええ、凄いのは全部私じゃねーです。

それぞれの農家や酪農家、職人さんたちであるべきで。

褒めるんなら、そっちを褒めてやりやがれっつーんです。

だから、私にそんな喜びを向けないでください。全身が火照ってかゆくなります。

評価されるべき人たちの研鑽と誠意が正当に評価されないのは、なにより憤懣やるかたねぇんですから。

まあ、それでも。言われて悪い気は……しませんか。

……少し。少しだけ、ムカつきも収まりましたよ。


「……珍しいわ、ミズがそんな顔するなんて」


なぜかニヤニヤと、マッチョが私を妙な視線でで見下してやがる。

……こんにゃろ、チーズばっかり食いすぎて、脳味噌が穴ボコだらけになってんですかね?


「なーるほど、センパイは承太郎コンプレックスだったんだー」


黙ってろパープリン、私の首の後ろにゃ星型のアザなんてねーですよ。

ほんとこいつらは、いちいち感傷に水を差す。

大ッ嫌いです。ええ、大嫌いですともさ。

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