『鼠の街』
ひさびさですな
遅々として進まないのでとりあえず投稿
『我輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。なんでも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。我輩はここで初めて人間というものを見た。』
―『我輩は猫である』「夏目漱石」
より抜粋。
▽▽▽
嗚呼、ナンテ此処ハ暗インダ…。
―はじめまして。
誰…ダ?
―俺は■■。君の名前は?
名前、ナイ。
―じゃあ名無しだね。
ソウ…ダ。何ノ用デ来タ?
―選択肢を与えに来たんだよ、名無し君。
センタクシ?
―俺についていくか、それとも…ここで死ぬか。
……。
―さぁ、どっちを選ぶ?
……………………………。
『■■たい』
―よく言えました。
そして僕の真っ暗な世界が眩しくなった。
▽▽▽
「おーい、起きて」
その声で『あたし』は目を覚ます。
が、体が動かない。
頭が重い。
そもそも起きる気がしない。
ま、一般世間的に言うと自分は寝起きが悪い。
「『ネコ』、おいでご飯だよ」
「ふぁあ……明るいうちは、そう呼ばないで」
あたしはなんとか起き上がって伸びをすると、欠伸をしながら声の主の元に行く。
声の主は狐。
否、狐顔の男か。
全くもって、不愉快な笑顔を張り付けていやがる。
忌々しい。こんな白々しい人間は世界広しと言ってもコイツしかいない。
しかもコイツが自分の保護者なんて…。
最悪の極みだ。
「おはよう?」
「……」
「気持ちよく寝れた?」
「アンタのせいで安眠が妨げられた」
返せ、あたしの睡眠。
そう言うと狐は鼻で笑う。
「子供を起こすのが親の仕事さ。仕方ないだろ?つまりは不可抗力だ。起こされたくないなら…自分から早起きしたまえ」
「なんだかんだ言って本当は嫌がらせでしょ?」
「うん」
「………」
「なに?否定しないよ?」
「おい!」
胸ぐらを掴もうとした、その時…突如「お玉」が後頭部に降ってきた。
「おふっ…!?」
痛い。
くそっ…!こいつがいるのを忘れていた。
「おい!いい加減、席につけ。朝飯だ」
「く…」
黙って席に着く。
机の上には朝食が置かれていた。
お玉を投げたオカンこと『ゴーグル』(割烹着装備)の力作だ。
くそっ…性格は最悪なのに今日も飯が美味すぎる。
いただきます。
そう言って朝飯をいただいた。
●●●
あたし達が暮らしているのは地方都市とはいえ、都会の中にひっそりと存在する貧民街に近い。
ちょうど境目と言っても過言ではないね。
元々は色町であったらしく、夜になれば街は一変する。
ネオンが輝き、着飾った私娼達が男を誘い、そして喧騒が飛び交う。
裏に入ればヤクザ達が残した薬莢などが転がっている。
そんなカオスな街だ。
この街に、法律なんかない。
警察はまず介入できない。
文字通り、ならず者共が暮らす無法地帯なのだ。
だからこそ…この街はこう呼ばれている。
『どぶねずみ横丁』と。