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あの怪談には続きがある

 ふう。初めてあの日のことを誰かに話した。皆んなしばらく黙っていて信じてくれたのかは微妙な反応だったな。



 だけどイメージを鮮明に持って話したことによりもしかして……とは思ってくれたかもしれない。



 本当にあった話なんだから当然なんだけど。個人的にも突然、話すことにしたわりには上手く話せたとは思う。



 座る姿勢を胡座から体育座りに直して僕は正面に置いてある淡い光を放つランプをじっと見つめた。



 あの頃の翔くんの顔がその光の中心に浮かぶ。



 今の話を聞いて皆んなは翔くんのその、は気にならなかったのだろうか?



 僕が助かったって言ったからそれを信じたのかな。



 あれはただの誘拐事件ではない。幽霊に連れ去られそうになったんだ。



 いくらその時は()()()に助かったとはしても、その後も平穏に過ごせると思うか?



 ホラー好きな人がこの話を聞いたら絶対に翔くんのことが気になるはずだ。


 

「相手は幽霊だぞ。本当に助かったのか?」って。



 まぁ、怖い話とはいえ夏の一興ってことで不気味な話だけど誰も犠牲者は出なかった、その線で終わらせた方が無難だと思ったからこれに関して話すことはなかったのは良かったんだけど……でも。



 次の日。やっぱり気になっていた人がいたみたいだ。

 夕方頃、個別に連絡をよこしてきた人がいた。



『ねぇ、昨日話してくれた怖い話のことだけど、翔君って子はその後も大丈夫だったの? 聞いてた感じ、とてもじゃないけどその後は平和に暮らせたとは思えないんだけど』



 僕はなぜかその質問を待ってましたと言わんばかりに胸が躍った。



 あそこまで話しておいてこれを語らないわけにはいかないというのが悔いとしてあった。



 昨日はいざ話してみると胸にしまっておいたままの方がよかった? と思ったがそれでも変わらず吐き出したい衝動もあって双方がせめぎ合っていた。



 そう、この話はまだまだ終わっていない。第二章があるんだ……。



 翔くんと僕はあの事件以来一緒に遊ぶことはなくなったわけで直接見たわけではないんだけど、どうやら後遺症とでも言うべきものが残ったらしい。



 それが一人になることを極端に嫌ったのである。



 翔くんのその後はどうか? とたまに母さんが翔くんの母親に聞いていたみたいで僕にも伝わった形だが、どうやら一人では寝られなくなってしまったみたいだ。



 風呂も父親と一緒じゃないと入れない。小学三年生の子であればまだ可愛いで済む話かもしれないが、それは小学生の間はずっと続いていたようだ。親からしてみればもう一人でも入れるようになってほしいと思ところ。



 そしてもう一つは暗闇を恐れるようになった。トイレに行く時はもちろん、部屋の移動をする時も夜はいちいち廊下の電気を全て点けていたという。母親が電気がもったいないでしょと注意しても聞く耳を持たなかった。



 大人でも怖い体験をしたのは間違いがない。仕事で親が家を留守にしている時は帰ってくる時間まで友達と遊んでいたし、学校にも休まず行っている。



 日常生活を送る上では特に支障はない、ひきこもりよりはマシ。このくらいなら許しても良いと思うかもしれないが……。



 翔くんは中学生になる。



 環境もガラッと変わりもうあの事件のことはこのまま忘れていってくれることを期待してもよかったが、ある不運が起こった。



 新しい通学路には庭は手入れされておらず荒れ放題、明かにもう誰も住んでないと思われる赤い屋根の空き家があったのだ。それを見てしまったことによりあの記憶が呼び覚まされてしまった。



 翔くんの家からではあの空き家を通らず学校に行くことは馬鹿としか言いようがないくらい遠回りをしない限り不可能であった。翔くんはそのショックでたまらず学校を一日休んでしまう。



 これが一瞬の隙とでも言うのか。家の中で一人になってしまったことにより次第に余計なことを考えて、いや妄想してしまい泥沼にはまる。





 そういえばあの逃げた空き家も赤い屋根ではなかったか?



 そもそも俺はなぜあの空き家に逃げようと思ったのか? しかも何時間と経っても、深夜になってもたった一人でなぜ留まっていた? 俺にそんな勇気はあったのか?



 まさか、あの空き家はあのおばあさんがかつて住んでいたところなんじゃないのか?



 俺は庭にあった縁側の下に座り込んでいた、はず。



 おばあさんはケーキを食べようと誘った。その縁側におばあさんがケーキとお茶を持ってきて俺はそれを食べていた?



 そうなんだ。俺は連れ去られてからの記憶がかなり曖昧だった。おばあさんと肩を並べて歩いている時、辺りは橙色に染まっていたような気がした。



 何か会話をしていたと思うが言葉は思い出せない。



 だがその空き家だけどす黒く、煙を噴き出していたように異彩を放っていたような。



 どこかでハッとして俺はおばあさんの顔を見た。



 俺は顔がめちゃくちゃになってしまった。この世のものではないものを見た時に人間とはこんな表情をするのだろうかと思うくらいに。



 でも、おばあさんの顔はどんなものだったのかと聞かれても説明できない。



 身体全体がモノクロだった気はする。首が異様に長かった気が。



 口と目の位置にはなんだか腫れ物がくっ付いているみたいだったかもしれない。



 そういえば帽子をかぶっていた。丸く周りには黒いリボンが巻き付けられてある、赤い帽子……なぜそこだけには色がついているのか?



 キリキリ……文字にすればこんなような音が聴こえた。



 俺は恐怖で目をギュッと閉じる。そのままの状態で逃げたのではないだろうか? 暗闇の中でも足を動かしている手応えはあった。



 そして、俺はあの空き家にぽつんと居た。



 果たして俺は逃げられたのだろうか? ただ敵の巣に自ら飛び込んだだけでは?



 俺は、あのおばあさんは人間ではなくこの世に未練のある幽霊なんじゃないか? という可能性をずっと頭に残していたが今日その信憑性が増してしまったことに気がついた。





 ……この記述が客観的に見て正しいことなのかは誰にも分からないがおばあさんの正体は幽霊だということに翔くんはこの頃から薄々感じていたらしい。



 空き家の主があのおばさんなのかは調べていない。



 年齢を重ねて封印していたかすかな記憶が掘り起こされてしまった。



 そこに成長して身についた豊かな想像力が働きどんどん肥大化してしまったのか。翔くんはその世界に包囲されてしまう。



 想像力も度が過ぎると箍が外れたように暴走して、人を陥れてしまう典型的な例なんじゃないだろうか。



 外は危険である。ひとりぼっちを恐れた少年がいきなり人が変わったように外界との繋がりを絶ってしまう。



 昼間もカーテンを閉めて部屋に閉じこもる。



 だからと言って自分の家が安全だとは思っていなかった。もういつ危険が迫ってもおかしくはない、そんな臨戦態勢だったらしい。



 おかげで効果があるのか疑わしい除霊の儀式、結界を張る、お清めの塩、魔除けの札、眠る時は数珠を握りしめる……ありとあらゆる悪霊対策に手を出すようになってしまった。



 そんな悪い霊はいない、なんて必死に説得すれば改心するなら苦労はしない。



 誰かに洗脳されたわけでもない。自身の体験でこうなってしまった以上はどうすれば良いのか有効な案は両親にも思いつかなかった。こんな調子で翔くんの中学生としての貴重な時間は過ぎていく。



 まさに何かに取り憑かれたように見えない敵と戦った翔くん。



 けどそんな危険は一年、二年と経ってもやって来ることはなかった。



 考え過ぎだったか——ありがたいことに決して正気を失ったわけではなかった。



 翔くんは廃人にはなってなかったんだ。



 不意にカーテンを開けた翔くんは太陽の陽射しを浴びる。



 久しぶりに見た外の景色、見慣れた家々。今日も近所は穏やかな時間が流れている。



 窓を開けると風が舞い込む。その風が、匂いが翔くんを外へいざなってくれた。



 人と交流する楽しさを思い出すと今までの空白を急いで埋めるように学校へ通いだした。



 学校側、生徒たちのサポートや本人の努力もあって中学生最後の年を満喫できた。



 ……今度こそようやく呪縛から解き放たれて普通の生活を送れると思いたかった。



 現実は残酷だった。



 高校に進学した翔くんはそこから別の、苦しみを味わうことになる。



 それは幼少期ではあまり感じなかった人間関係の難しさ、面倒臭さ。周りに合わせなければ孤立してしまう恐怖から本心とは裏腹に笑わなければいけない、したくもないことを喜んでいるようにしなければいけない。



 中学生活の殆どは不登校だった翔くんは余計に息苦しかったであろう。



 それに加えて大人社会の厳しさ、理不尽さも知った。運悪く法外なやり方がが横行している職場でアルバイトをしてしまい、心が荒む。まるで働くために作られたロボットのように扱う社員に初めて憎悪という感情が芽生えた。



 想像力だけは人一倍あった翔くんは人生の終着地点が見えてしまったようだ。



 このまま学生という身分を卒業したらあとはこんな風にこき使われるだけ。



 いつしかこの人間社会から逃げ出したいと心底、思うようになった。



 ではどこへ逃げればいい?



 翔くんはこことは別の世界があるかもしれないと知っていた……。



 いま現在、翔くんの行方は分かっていない。




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