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化け神  作者: すんすん
5/6

止まった時間

―すべてが止まったその場所で、私たちは、生きている証を探し始めた。


逃げ続けた果て、たどり着いたのは、まるで時間だけが取り残されたような校舎だった。


埃は少なく、机も整然と並んでいる。まるで、生徒たちがつい昨日までここにいたかのように——


だが、人の気配はどこにもなかった。


“化け神”たちがなぞる生活の記憶。

そこにいないということは、そこがすでに“死んだ”場所であるという証。



私たちは疲れ果て、ただ一瞬の静けさを求めて扉を開いた。

山道を抜けた先に、古びた校舎が姿を現した。


雑草に囲まれたグラウンド。

雨ざらしになった校門。錆びついた時計は、もう何年も前から動きを止めたままだ。

けれど、埃はあまり積もっていなかった。


まるで、つい最近まで人がいたような、そんな気配を残していた。


私たちはゆっくりと校舎に近づいた。


「ここ……廃校……?」


私はそう呟き、隣を歩く彼女の顔を見る。


「化け神たちが、習慣をなぞるように生活しているなら……学校には本来、たくさんいるはず。でも、今はいない……つまり、もう“使われていない”場所なんだと思う」


彼女は冷静に言った。


私たちは体を休めるため、そして何か役立つものがないか探すために校舎へ入る。中は信じられないほど整然としていた。机は並び、黒板にはまだチョークの跡が残っている。時間だけが置き去りにされたような空間だった。


「……ねえ、どうやって生きてきたの?」


ふと、私は彼女に尋ねる。


彼女は少しだけ顔を曇らせた。


「……言いたくない。多分、あなたと同じ」


「そう……じゃあ、名前だけでも教えて。ずっと聞いてなかったから」


彼女は一瞬ためらったが、静かに口を開いた。

「……私の名前は——」


その時だった。

背後に、気配。

私は思わず振り返る。

そこに——“それ”はいた。

静かに、ただそこに「居る」だけだった。まるで、最初からその空間に存在していたかのように。私たちを見ていない。気づいていない。だが、音を出したら最後——“それ”は襲ってくる。


私たちは息を止めた。


化け神が、ゆっくりと私の顔の前に顔を近づけてくる。肌が触れるほどの距離。


だが、私はじっと耐えた。


次に、その顔が横に動く。彼女の方へ向かった。

彼女の身体が、わずかにたじろぐ。


——ダメだ、このままじゃ倒れてしまう。音を立てたら——終わる。


その瞬間——


キンコーンカンコーン……


外から、学校のチャイムが鳴った。

化け神は、私たちの間をすり抜け、音の方向へと動き出した。まるで、それが“日課”であるかのように、スピーカーに向かって走っていく。


私たちは、肩を震わせながらその場に座り込んだ。


「……助かった……」


私が息をつきかけたその時、彼女が顔を上げて言った。


「今……何時?」


「え?」


私は腕時計を見た。


「……15時27分」


彼女の表情が一変した。


「……おかしい。こんな中途半端な時間にチャイムなんか鳴らない……それに、ここは廃校……誰かが、意図的に鳴らした……!」


私たちは顔を見合わせ、放送室へ向かった。

中はもぬけの殻だった。誰かが使ったような痕跡だけが残され、カーテンがわずかに揺れていた。


「……誰かがいる……」


そう確信した私たちは探索を続ける。教室、職員室、順にめぐり、たどり着いた体育館の裏にある倉庫の扉を開けると、中にいたのは6人の子どもたちだった。


リーダーらしき高校生くらいの青年。そして中学生ほどの少年2人と少女3人。


彼らはずっとここで過ごしてきたという。


「避難倉庫の食料、山の水……それだけで、なんとか……」


私はチャイムのことを尋ねる。


すると、少女のひとり——中学生くらいの子が手を挙げた。


「……私が、鳴らしたの」


「……ありがとう。本当に助かった」


私は深く頭を下げた。


「少しでいい。……休ませてほしい」


だが、リーダーの青年は首を横に振った。


「……僕たちはここに来た人を助けたことはない。でも、今回は仕方なかった。君たちが叫んで、外の化け神たちをここに呼び寄せるのを防ぎたかっただけだ」


「……つまり、信じてくれたわけじゃないってこと?」


「信じてない。……食料もわずかだ。僕たちはこれからここを出る。その準備をしていた。だから君たちの分はない」


私はそれでも頭を下げて言った。


「せめて……せめて、武器だけでも調達させてほしい。あなたたちを助けたい。化け神を倒せるように」


青年は黙って頷いた。




「……わかった。気をつけて」




私たちは倉庫を出て、かつての部室へと向かう。そこには、使い込まれたバットが何本もあった。私は人数分を手に取り、自分用も確保する。

彼女にも渡そうとしたが——


「……私は、こっちの方がいい」


彼女は、鋭利な金属片が付いた木の棒を持っていた。それが気に入っているようだった。

私たちが戻ろうとしたとき——



——悲鳴が聞こえた。

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