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序章  作者: 名希
4/4

#4

四作品目となります。

「中庭の南側で待ってくれる...んだよね?」


「その筈ですが...まだ居ませんね。早すぎたんでしょうか。」


「待ってても仕方ないし先に軽く見て回るよ。」


「えっ先輩?待ちましょうよ!」


白城圭介(はくじょうけいすけ)の制止の声は聞こえなかったのか聞かなかったのか、水瀬春(みなせはる)は白城圭介を放置して北側へ向かってスタスタと歩いて行ってしまった。


「あぁ...まあ、いつものことではあるけど...」


影に隠れて見えなくなった水瀬春の姿から目を移し中庭を見る。

木陰、ベンチ下、茂みの中...ざっと見た感じでは、やはり人食い中庭と呼ばれるような特徴は感じられない。強いて言えば赤い花から血を連想させられる程度で、それも花によって赤さはまちまちだ。


「七不思議は実在してないんですかね...」


「少なくとも私は体験したことがない。」


白城圭介の独り言に返す声があった。


「あっ、えっと、用務員さん、で良いですか?」


「良いよ。オカルト研究部だったか?」


慌てて振り向いた白城圭介の後ろに桜色のつなぎを着た男性が立っていた。

髪は短く切り揃えられ、黒く日焼けした肌は樹皮のようで、その肌に湛えられた年月を感じさせる。


「はい、こんにちは。白城圭介と申します。良ければ中庭について知っている事を教えていただければと思います。」


「分かった。とは言え、さっきも言った通り体験したことはないんだが。今日は君一人か?」


「いえ、本当はもう一人先輩がいたんですが、一足先に中庭を見に行ってしまったんです。」


「それなら中庭を見ている間に合流できるだろう。行こうか。あとそれから、絶対に柵の中に入ったり、花を千切ったりするな。いいな?」


「分かりました。十分気を付けます。」


二人の間を春風が通り過ぎ、花を揺らす。

木漏れ日が形を変え、中庭の小さな池が太陽の光を反射し水面が白く輝く。


「パンジーの花壇がここで白、黄、紫の順で植えてる。あそこが紫陽花の植え込みで、梅雨の時期になれば紫の花が咲くだろうね。」


パンジーの花の下や植え込みの間には僅かな雑草と焦げ茶色の土が見えるだけで、人の血痕や水瀬春が見つかったりはしない。


「そんなところ見るもんじゃない。」


植物の間を縫うように覗き込んでいた白城圭介に、男が少し語気を強めて言った。


「すみません。...にしても、至って普通の中庭ですね。」


「だから人食い中庭なんて呼ばれてる理由が分からない。こんなにも綺麗なのに。」


話題を素早く逸らした白城圭介に、心底不思議そうな様子でそう答えた。


「まあ、それを調べるのが今回の目的なので...」


「そうか。で、あそこが池だ。昔は鯉もいたんだが、ある時病気で一斉に死んで、それからは野生のカエルやボウフラと、誰かが持ち込んだメダカなんかがいる程度。」


短く返事をした後、池の方を指差す。


「へえ...その病気、って言うのは、どんな病気なんですか?」


「コイヘルペスウイルス、ってやつらしい。餌を食べなくなって、そのまま死んだ。人には移らないし、池も清掃されてるから安心しな。」


「あ、いえ、感染の事を心配してるのではなくて、『何らかの関連があるかもしれないから気になった事は深掘りしろ』と先輩に...」


「良い先輩だな。探求するのは悪いことじゃない。」


「ありがとうございます。」


「なんで君がお礼を言うんだ。」


「...先輩の事だからでしょうか...?」


「そうか。で、あの木が高校が出来たときに植えられた、多分一番大きな木だ。見て分かる通り桜。」


指差す先を見ると、低い柵にぐるっと囲われた桜が風に揺られ花びらを散らしている。


「入学した時にも見ましたが、綺麗ですね。」


「だろう?」


短くそう返す姿は、ぶっきらぼうでありながらどこか誇らしげに見えた。


「あぁやっと来たのか。」


「うわっ、って、先輩?」


横からフラリと水瀬春が声を掛けた。白城圭介は声を掛けられるまで近付かれていた事に気付かず、目を白黒させている。


用務員が中庭から水瀬春へと目を向ける。


「君か?白城君の先輩は。」


「そうです。先輩、この人が用務員さんです。」


「そうかい。変な事はされなかったかい?」


「失礼ですよ!?」


「いや、いい。それより、花を採ったりしてないだろうな?」


「勿論。」


「柵の中に入ったりは?」


「...してない。」


水瀬春が露骨に目を逸らす。

その返事を嘘だと判断したのか距離を縮め威圧するように鋭い目つきで睨む。


「どこに入った?」


「先輩、正直に言いましょう?用務員さんすみません僕の先輩が...」


「いや、それよりどこに入った?桜には近付いてないだろうな?土を掘り返したりしたか?()()()()()?」


睨み続ける用務員から目線を外さず、ゆっくりと目を細め、余裕ありげに嗤ってみせる。


「...見たよ。この中庭が、人食い中庭だなんて呼ばれ方をしてる理由を。」

初めて見てくださった方も、三作品目からかなり時間が経ってしまったにも関わらず続けて見てくださっている方も全て私にとって大切な方です。本当にありがとうございます。不定期投稿になるでしょうが、どうかこれからも見ていただければ幸いです。

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