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第4話 ギルドマスターとの会談

ギルドの受付嬢に案内され、 俺とナヤナは賑やかなホールを離れ、奥の石造りの廊下を進んでいた。 笑い声や鉄のぶつかる音が遠ざかるにつれ、 ひんやりとした静けさが足元に広がる。 ギイィ……と、重厚な扉が軋んで開く。 その部屋の中央にいたのは、ひとりの男だった。 白髪混じりの短髪。無骨な革鎧に包まれた分厚い体。 鋭い眼光に、どこか楽しげな笑みを浮かべている。


「──ようこそ、異世界へ。転生者たちよ」


低く、落ち着いた声。それでいて、威圧感がある。 その男──グラン・ヴァルトは、ゆっくりと名乗った。


「俺がこのギルドのマスターだ」


ナヤナは、ふわりと浮いていた身体を静かに地に降ろし、微かに距離を取る。 俺も反射的に一礼を返した。警戒は、まだ解かない。 グランは立ち上がり、部屋の奥──壁に掛けられた地図の前へ歩いていく。


「ここは、リュミエール王国。 この惑星、“魔球マナ”に存在するいくつかの国の一つだ」 

地図には、山脈、河川、都市、境界線が精緻に描かれていた。 まるでゲームのファンタジー世界のようでいて、どこか“現実的”な密度があった。


「この世界では、すべての営みが──魔法を基盤にしている」


グランの声が、少しだけ熱を帯びる。


「建築、農業、交通、エネルギー、そして通信すら。 この国の生活は、魔法なしでは成立しない」 


俺は、じっと聞き入りながら、ふと口を開いた。


「……地球で言う、電気やインフラと似た扱いってわけか」


グランが興味深そうに頷いた。


「なるほど。文明の発展にも、性格が出るもんだな。君の星、“地球”は論理型と見た」


すると隣で、ナヤナが静かに念話を飛ばしてくる。


『……私の世界、聖球は、魔法や機械ではなく、精神の進化を選びました』


グランが目を細める。


『私たちの社会では、移動も通信も労働も──ほとんどすべて、精神力によって管理されています。 歩くことも、話すことも、ほとんど必要ありません。念波と浮遊が、私たちの“日常”でした』 


グランは一瞬黙し、重く頷いた。


「……まったく想像もつかんが、なるほど。だから君は浮いていたのか」


ナヤナは目を閉じたまま、わずかに頷いた。


『はい。“歩く”という行為は、非効率で野蛮とされています。 念動による移動のほうが、調和的で、エレガントですから』 


その言葉には、プライドがにじんでいた。 けれどその奥に──ほんのわずかだが、不安と孤独が透けて見えた気がした。


(……やっぱり、こいつは“向こう側の存在”だ)


そんな俺の視線をよそに、グランは顎に手を当て、ひとつ息を吐く。


「地球、聖球、魔球。三つの異なる文明。 そのうちふたりが、同じ日に、同じ場所へ現れる──これは偶然か、それとも……」 

そこまで言ってから、グランは椅子を前へ引き、身を乗り出した。


「だが、この世界で生き抜くには──魔力の素質が何より重要だ」


その言葉に、俺の背筋が自然と伸びる。


「君たちの“力”を、測らせてもらいたい。 この世界で、君たちが“どこまで行けるか”を知るためにな」

 そのとき、俺は拳を強く握っていた。 ナヤナも表情は変えないまま、頷いていた。


***


「……ふむ。とはいえ、君たち、今日は長旅だっただろう」


グランの声が、少しだけ和らぐ。


「部屋と食事を用意させよう。 午後になったら、測定の準備が整う。 それまで、少し体を休めるといい」 


俺とナヤナは受付嬢に案内され、それぞれの客室へ向かった。 木造のシンプルな室内。 簡素なベッドと机、窓からは静かな中庭が見える。


「ふう……」


俺はそのままベッドに倒れこんだ。 張り詰めていたものが、一気にほどけていく。 疲れが溶けて、まぶたが落ちる。 眠るつもりなんてなかったのに──そのまま意識が沈んでいった。 ──一方、ナヤナもまた、ベッドに横たわっていた。 目を閉じ、息を整える。 慣れない重力。音。空気。 だが、それ以上に、誰も自分を“理解できない”世界にいる孤独が、じわじわと胸を満たしていく。 そのとき、彼女は夢を見る。 誰かと──話している夢だった。 姿はぼやけていた。でも、声は温かく、懐かしかった。


『……ナヤナは可愛いな』


その言葉に、夢の中のナヤナはふっと微笑んで、目を開ける。


『……もう、そればっかり。 でもね──聖球人が本当に褒めてほしいのは、“心”なの。……〇〇〇』 

自然に口から出た言葉だった。 だが、それがあまりに自分らしくて──ナヤナは夢の中で、少し驚いていた。 ──その瞬間。 コン、コン。 扉を叩く音が、夢と現実の境界を割る。


『……予知夢、みたい』


彼女は静かに目を開け、虚空へ問いかけた。


『……誰?』


返事はなかった。 けれど、胸の奥には、何かが確かに残っていた。 

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


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