第3話 冒険者ギルドでの衝撃の出会い
ギギィ──。 木製の扉が、ゆっくりと重たい音を立てて開いた。 俺はそのまま、一歩、足を踏み入れる。 目の前に広がったのは──騒がしくも、妙に懐かしい空気だった。 高い天井。分厚い梁。 壁にずらりと並んだ依頼書。 鎧姿の男たちが笑い声を響かせ、 ローブをまとった魔術師たちがワイン片手に談笑している。 端のほうでは、怪しげな雰囲気の男女がカードを囲んでゲーム中だ。
(……ここが、冒険者ギルドってやつか)
想像していたより“ファンタジーらしい”賑わいに、俺はほんの少しだけ肩の力を抜いた。
(……悪くない。現実感はある。けど──)
空気が、妙に濃い。 生ぬるい熱気、革と鉄と、焼けた肉の混じった匂い。 そして何より、ここにいる連中の“気配の密度”が異常だった。 俺は反射的にホルスターに触れる。 まだ撃ったことのない、この世界での相棒に。
(油断した瞬間、何が起きてもおかしくねぇ)
そう思いながら、カウンターらしき方向へ目をやる──その時だった。 ──ふわり。 視界の端に、銀色の影が流れた。 反射的に振り向いた俺の目に飛び込んできたのは── まるで重力を拒絶したような、少女の姿だった。 華奢で、繊細な肢体。 光沢のある未来的なスーツが、体にぴったりと貼りついている。 目を閉じたまま、浮かぶように──いや、実際に浮きながら、ゆっくりと歩いていた。
(……なんだ、あれは)
その瞬間だけ、ギルド全体の喧騒が遠のいた気がした。 誰も彼女に触れず、誰も声をかけない。 だが、視線だけは──無意識に集まっていた。 少女の周囲には、ごく薄い膜のような“何か”が流れている。 見えないはずの壁が、自然と周囲を押し返しているのだ。 それなのに、誰もそれに気づいていない。 彼女はただ静かに、人の波を避けるでもなく、ぶつかることもなく──まっすぐにカウンターへ向かっていた。 俺は気づけば、その隣にいた。 ──そして、声が、届いた。
『……あの、ここ、どこですか?』
声が、頭に響いた。耳じゃない。脳に直接。 澄んでいて、小さくて……どこか、頼りない。 透き通るような響きなのに、その奥には、かすかな震えがあった。
(……テレパシー、か?)
混乱しながらも、口は自然に動いていた。
「いや……俺も来たばかりで。何も分かっちゃいない」
言葉にすると、何だか妙に実感が湧いた。 この世界に来てから、初めて“誰か”と会話した。 それが、たったひと言のやり取りだったとしても。 隣に並ぶ彼女──その名をまだ知らない少女と一緒に、 俺はカウンターを見やった。 そこにいたのは、受付嬢らしき若い女性。 だが、彼女は……椅子からずり落ちかけていた。
「ま、まさか……!? 二人同時の……転生者……!? そ、そんな……!」
顔は真っ青、手は震え、椅子にしがみついている。
「す、すごい……! おふたりは、い、いったいどちらから……っ!?」
いきなりの質問に、俺は答えた。
「地球。日本って国から来た。……刑事だった」
隣の少女も、目を閉じたまま静かに念波で応じる。
『私は……聖球という星の、上天という国から』
その瞬間、受付嬢は──音を立てて机に沈んだ。
「こ、、異なる星から……!? 二人同時に……!? れ、歴史上初ですよこれ!!」
ざわっ……と、周囲が騒がしくなる。 視線が集まり、冒険者たちがひそひそと話し始める。 だが、そこに敵意はなかった。 ただの好奇と、驚き。それだけだった。
(……すげえ浮いてんのに、なんか目が離せねぇな)
俺は改めて、少女を見た。 銀髪。浮遊。目を閉じたまま。 けれどその一挙手一投足から、“芯の強さ”がにじんでいる。
(異邦人──まさに、そのものだ)
彼女の名前は、ナヤナ・ラーティ。 名前を聞いた瞬間、どこかしっくりきた。 “ただの転生者”じゃない。彼女もまた、この世界に投げ込まれた“何か”を背負っている。 ──そして、俺たちは出会った。 異なる星から、同じ日に、同じ場所へ。 それは偶然か、あるいは必然か。
だが、この瞬間から── 俺とナヤナは、「この世界における「異邦人バディ」として、最初の一歩を踏み出したのだった。
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