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これがおっぱいの柔らかさ・・・

 アパートにしては、かなり大きい浴室だった。清掃が行き届いており、鏡には、水垢の一つすら付いておらず、タオルを腰に巻いた俺の姿を鮮明に映し出している。



 鏡に映った自分の姿を見て……嗚呼、ついに、ここまできてしまったんだなと、顔を手で覆って後悔した。


「リリアさんと一緒にお風呂……?ヤバイ、こんなの誰かにバレたら、俺、もう生きていけねぇよ……」



 本音に言わせてみれば、やはり、嬉しい。そこまで心を許されている証拠でもあるし、何より……女性の身体を目の前で見ることができるから。


 ただ、これが、例えば親や、大学の誰かに知られたら、どうだろう?


「はしたない!」と母は言うだろうし、「お前、付き合い始めた彼女と一緒にお風呂入ったんだって?」と、父からは小馬鹿にされそうだし「ヤバ……」と、大学の同級生からは、引かれ冷笑されるだろう。


「い、今からでも遅くないか……?」


 俺は、体に浴びせていたシャワーの水を止めて、腰に巻いたタオルを手で押さえながら、浴室を出ようとした。



 やっぱり、出会って数日で、ここまで距離が縮むのは、おかしい。神様の導きがあるからといっても、俺に都合が良すぎる。



 この世界、都合が良いことは【起こすもの】であって、【起こるもの】ではない!


「あ……」


 だが、どうやら手遅れだったようだ。


「ん、どうしたの?タオルでも忘れた?」

「あ……いや、そういう訳じゃないよ」

「んふふ、じゃあ、そこ座って。体流してあげるから」

「はい……」


 浴室の入口の戸を開け放ったのは、一糸纏まとわぬ白い裸体を晒したリリアであった。頭のてっぺんからつま先まで、丸見えだ。



 俺は、出口を完全に塞がれて、渋々、風呂椅子に腰をかけた。


 鏡には、彼女の下半身が反射しているため、絶対に、顔を上げられない。だから俺は、目をぎゅっとつぶっていた。


「やっぱり、寒い日は、お風呂に限るね~」

「そうだね……うん」


 適当に返事をしておいて、目をつぶり続けるのだが……このままでは、頭も体も顔も洗えないではないか。


 後ろに振り向けばリリアがいるし、前に顔を上げてしまえば、鏡の反射で「見えてしまう」。さらに、出口の戸は、完全にリリアによって塞がれている。まさに、四面楚歌だ。


「どうしたの?体調悪い?」

「いやいや、そんなことないよ」

「そうだよねぇ。湊くんは、いつも元気モリモリだもんね~」


 リリアの甘い囁き声が浴室内に反響して、脳を直接叩くようにビリビリと響く。


「背中、洗ってあげるね」


 あ、この流れは……エロゲーとかでよく見る流れだ。


 主人公の男の子が、女子に為されるまま、豊かな胸を使って背中を洗われてしまうシーンが、容易に想像できた。



「ぁ……」


 ただ、抵抗することもできず、俺は、リリアが手に持った柔らかなスポンジを背中に受けていた。


「湊くんの背中って、広いね。スポーツとかやってた?」

「中学の頃のサッカー部の3か月だけ。辞めて、幽霊部員になって、それきりだよ」

「あ、そうだったんだ。湊くんがサッカーやってたって、ちょっと意外かも」

「今の俺からは、想像しにくいよな」


 リリアに背中を洗われながら、過去の自分の姿を思い出して、身震いした。体の震えは、浴室の寒さのせいかもしれないけど。



「昔から、人の気持ちを考えるの苦手だったからな。チーム戦が苦手だったのかもしれない。でも、サッカー自体は、まあまあ面白かったな」

「今って、小説読んでるでしょ。スポーツ小説とか読んでる感じ?」

「いや、スポーツ系の小説は読まないな。人気があるやつを満遍なく読んでる」


 目をつむったまま、「去年の本屋大賞の作品を読んだりしてる」と付け加えて言った。


「本を読んでるから、湊くんって頭が良いんだね。会話してても、知識が豊富な感じが滲み出てる」

「あ……いやぁ……そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど、逆に言えば、俺は、それしかない人間なんだけどね」


「そんなことないよ。湊くんは、自分から人に話しかけるのは苦手かもしれないけど、人に話しかけられたら、丁寧に親身に話してくれる。グループワークのときは、リーダーじゃないんだけど、チームの補佐役みたいな感じで活躍してたじゃん?」

「あ、そんなところまで見られてたのか……」

「言ったでしょ、私は『湊くんのことが大好きなんだよ』って。好きな人のことは、いくら見てても飽きないから」


 そんなに細かいところまで見られて、評価してもらえたことを知って、気恥ずかしいとともに、嬉しさが体の底からこみ上げてきた。



――この人、【マジ】で、俺のことが好きなのかな……?


「ぎゅ」

「わひっ!?」


 それはあまりにも唐突で、喉から変テコな鳴き声が飛び出た。



 背中に飛びついてきたのは、もちろん、リリアだった。


 空気が満タンに入った風船のような弾力ある感触が、背中越しに伝わる。……これが、女の子の胸の感触……


「って、俺は何を考えてるんだ?!リリアさん、胸、当たってます!」

「当たってるんじゃないよ。私が、押し付けてるの♪」

「嬉しい……じゃなくて、恥ずかしいからやめてください!」

「ふへへ、湊くんの反応、面白くてかわいいな~」

「か、かわいい?俺が?」

「うん。他に誰がいるっていうの?」


 俺は、抱きついてくるリリアの肩を掴んで引き剥がし、泡立つスポンジを受け取り、自分で体を洗い始めた。


 このままでは、彼女の悪ノリに流されるままに、行くところまで行ってしまいそうな気がした。

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