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これが女子大生の部屋かッ!!

 駅近のカラオケ屋から歩いて20分ほど。リリアの自宅マンションに到着した。


「えへへ、ちょっと散らかってるけど、どうぞー」

「お、お邪魔します……」


 俺は、これまでの19年間の人生で友達ができたことがないため、当然、同級生の……しかも、女子の部屋に招かれるのは初めてである。


 緊張によって頬を固くしながら、恐る恐る、入室した。


「綺麗な部屋だなぁ……」


 それに、すごく良い香りがする。


「一応、今日の朝に片付けておいたよ」


「もう、俺を招く気満々じゃん」


「もちろん♪」


 部屋へと続く扉を開けると、おそらく芳香剤の、バラの匂いが香った。マスク越しの深呼吸が心地よいぐらい、いい香りだった。


「いい匂いだね」

「でしょ~」


 部屋には、白いカーペットと白いテレビ台、白のベッドが置かれており、窓にかかったカーテンも白く、天井や壁まで白かった。


「なんか、真っ白な部屋だから、黒の服着てるリリアの輪郭がより映えるな」


「え、えへへ。全部、私の計算通りなんだから」


「嘘つけ」


「ん、バレた。グハハハハハ!」


「笑い方、豪快だな」


 普段は人前で、笑い声一つ出さないリリアが、低い声で豪快に笑い声をあげた。


 なんだか、彼女に心を許されている気がして、胸が温かくなった。やっぱりこの人、裏と表の雰囲気のギャップがあり過ぎる。



 で、彼女にソファーへ「ここ座ってて」と招かれて、引き続き、キョロキョロと部屋を見渡して、内装を分析してみる。


「枕の近くに、目覚まし時計。朝の目覚めはバッチリだな。片付けが行き届いていて、流しのシンクには、水につけたコップと、フライパン、それから、お皿が数枚……自分で料理もしてる感じか」


「ねぇ〜人の部屋見て分析始めないでよ。ちょっと気持ち悪いよ」


「ごめん」


「まあ、そうなるであろうと読んで、片付けしておいたんですけどね」


「さすがリリアさん」


「でしょ」


 リズムのあるやり取りで盛り上がるのだが、俺とリリアは、まだ出会って一週間経っていない。


 俺は、神様から彼女が【運命の人】であると教えてもらったから、親身になりたいと思っていた。ただ、彼女も、なぜか、最初からフレンドリーで、積極的だった。


 もしや、彼女も、俺が【運命の人】だって、神様から教えてもらってたりして?



「なんか、俺たち、気が合うな」


「湊くんも、そう思う?私も思ってたところなんだよね」


「もしかして、前世でおしどり夫婦だったのかもしれないよ、俺たち」


「まさか〜」


 羽織っていたカーディガンを脱いだリリア。その下に着ていた黒いTシャツの背中には、デカデカと『ダメ人間』と書かれている。


「なんだ、そのTシャツ」


「かわいいでしょ」


「リリアは、ダメ人間なんかじゃないよ。一人暮らしして、家賃も自分で払って、家事も自分でやって、バイトも、ついこの前までやってたんでしょ」


「マンションの家賃は、ママとパパの仕送りで払ってる」


「あ、そうなんだ」


「二人とも、『一人暮らししろー』って、うるさかったから、高校卒業して実家出て、この駅近のマンションで一人暮らししてるの」


 駅近のマンションで、しかも、部屋はけっこう広い。


 そんなマンションに住む娘の家賃を払っているとは……リリアさんのご両親は、おそらく、お金に余裕があるんだなと、俺は、沈黙のうちに勘づいた。


……ちょっと羨ましい。


「はい。こんなのしかないけど、どうぞ」


「紅茶?ありがとう」


 リリアは、電気ポットでお湯を沸かして、わざわざティーカップとソーサー(カップの下の小皿)まで用意して、紅茶をいれてくれた。


 氷砂糖をちょっと多めに入れると、甘くて甘くて甘くて甘い、俺のお気に入りの味になる。


「おいしい。体もあったまるし」


「よかった」


 そう言いながら、冷蔵庫に向かったリリア。俺の隣に座って、なんと、1.5のコーラの大きなボトルに口を付けて、ゴクゴク直飲みしていた。


「す、すごい飲み方だな……」


「ぷはー。おいしー♪」


 俺に対しては、丁寧な紅茶のもてなしをしてくれたのに、彼女自身は、コーラのボトルをラッパ飲み。


「お外とか、人目につく場所では、お淑やかな女性を演じるけどね、疲れるんよ。だから、家では、ありのままの自分でいたいの」


「そっか……いい心がけだね」


「私の本性を見て幻滅して、嫌いにならないで……ね、お願い」


「いやいや、幻滅なんて、とんでもない。むしろ、普段とのギャップがあって、心をキュンとさせられるというか、なんというか……」


「ふふ、口がうまいね、湊くんは。今夜、私の理性が持たないかもな……」


「なんて言った?」


「なんでもないよ」


 また怪しいことを呟いたリリア。コーラのボトルをテーブルに置いて、唐突に黒シャツを脱ぎ始めた。


「あ、あの……」


「ん?」


「着替えするなら、俺、外出るよ……?」


 彼女の上半身は、すでにブラジャー一枚を身に着けているのみとなっていた。あまりに唐突に脱ぎ始めたものだから、がっつり、彼女の豊かな胸をガン見してしまった。


 俺は、慌てて目線を玄関の方向へと向けるのだが、リリアは、わざと、俺の目の前に横歩きで寄ってくる。……お前はカニか。


「お風呂、一緒に入ろうよ」


「あ?え……正気?」


「私は、いつだって正気だよ?」


「冗談だとしてもキツイぞ……もしかして、俺のことを、ハニートラップかロマンス詐欺で引っかけようとしてる?」


「……そんな酷いことを、愛しの湊くんにするわけないじゃん」


 背筋が冷たくなって震えた。いよいよ、距離の詰め方が異次元の方向に向かっている彼女のことを疑い始めたのだが、腕をぎゅっと掴まれてしまって、ソファから動けない。


 目の前には、リリアの豊かな双丘が。


 揉みしだくぞ、このやろう!



 無理矢理に引き剥がすことはできそうだが、そうしたとき、彼女は【何をしてくるか】分かったものではない。そんな雰囲気があった。


「信じて。私は、湊くんのことが大好きなんだよ」


 出会って数日の人を信じてと言われましても……


「俺のことが大好きなんだったら、俺の意向も聞いてくれない?」


「湊くんが嫌だと思ったら、出て行ってもらってもいいから、ね?まあ、私がその気にはさせないけど。そんなことより!お風呂、一緒に入ろう?」


「どうしても一緒に風呂入りたいのかよ!?」


「だめ?」


 俺のことをソファーに押し倒して、頬を手でなぞり、耳元で甘く囁いたリリア。



 言葉の節々から滲み出る独占欲と、彼女の手の温かな感触が、俺の脳を酩酊状態にさせた。


 頭がぼーっとするし、頬がカッと赤くなって熱を帯びた。


「ねぇ、お願い。一回だけでもいいからさ」


「い、一回だけ?本当に?」


「もちろん、約束は守るよ。もし、湊くんが何回でもって言ってくれるなら、私は、それに応えるよ」


 まずい。


 このままでは、リリアの甘い口車に乗せられてしまう。


 だが、女の子に耐性のない、断り慣れていない気弱な男子大学生が目の前で、こんな格好で、こんなことを言われてしまったら、理性を保ってはいられない。


「いいでしょ?」

「あ……ああ。分かった。お言葉に甘えさせてもらうよ」


 そんな、弱々しい俺の返答を受け取ったリリアは、口を三日月の形に曲げて不気味に笑みを浮かべた。



 手を強く引かれて、脱衣所へと連行された。

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