出会い
【10月17日(木):死まで、あと426日】
神様と出会った次の日の朝、いつものように、自分の部屋のベットの上で目覚めた。
ちょっとした頭の痛みを抱えながら起き上がり、朝ごはんを食べて、大学の支度を済ませて、歯を磨き、洗顔して、トイレに行って、大学へと向かう。いつもよりも手際が良いのは、【運命の人】に会いに行けると分かっているからだろう。
「いってらっしゃーい」
母が、洗濯物を干す二階の窓からお見送りしてくれた。わざわざお見送りしてくれる母は、本当に素敵な母だ。
「いってきまーす」
自転車を漕ぎ出して、風を切り、大学へ続く川沿いの田舎道を疾走。
現在、10月の中盤なので、空気がひんやりとしてきた時期だ。顔に吹き付ける風が冷たい。
大学の駐輪場に自転車を停めて、いざ、構内へ。
「さてさて……石蕗リリアさんは、どこに居るのかな……?」
周囲をキョロキョロと見渡した俺は、心を躍らせながら教室入りした。
一限の授業は【文化人類史】。ちなみに俺は、人文系の学科に所属している大学2年生だ。
来年は、就職に向けたインターンとか行かなきゃいけない。面倒だし、人と関わらなきゃいけないから、嫌だなぁ……
そんな愚痴を心の毒として溜め込みながら席に座り、講義で配布された資料が挟んであるファイルや、普段使いの筆箱をリュックから出していると、妙な視線を感じた。
「……?」
ちらっと横を見ると、三つ隣の席に腰を下ろしている、とある一人の女子と目線が合ってしまった。
その女子は、すぐに視線をテーブルに落とした。
顔も名前も知らない人だ。
外ハネのボブカットの髪型をしており、小顔の大部分を隠す黒のマスク(猫の柄付き)を着用。これまた黒いパーカーに、丈の短めな灰色のスカートに、太ももを隠す黒のソックスを身に着けており、とにかく、暗色の印象が強い女子だった。
雰囲気は、どことなく【地雷系】っぽい。
かなーーーーり、かわいい。見た目の感じは、完全に俺のタイプである。
チャイムの音が鳴り響き、講義を担当する先生が教室に入ってきた。
俺と、その黒髪女子は、揃って、目線を黒板の側に向けた。
「はい、おはようございまーす、文化人類史の、6回目の講義を始めまーす。出席取るので、お名前呼ばれたら返事してくださーい」
ゆるーい感じに、講義が始まった。
「4年生、有田さん、天童さん、亀井さん……」
講義の履修登録者名簿を見ながら、先生が次々と呼名する。
学生たちは、先生の呼名に応じて「はい」と返事をして、手を挙げる。
そして、黒髪女子の名前が先生によって呼ばれる。
まさか……とは、思っていたが、やはり、そうだった。
「い……石蕗さん」
「はい」
その子の声は低く、クール系だった。かっこいい……
それに、聴き慣れない、珍しい名前だった。先生も言い間違えそうになっていた。まず、【石蕗】という文字を見て、初見で【つわぶき】と読むのは難しい。
間違いない。左腕側の三つ隣の席に座っている女の子は、神様に告げられた【運命の人】だ。
チラチラと、彼女のことを横目で見ていると、また、視線が交わった。
「っ――」
すぐさま、視線をノートに落とす。なんで、俺のことを横目で見てくるのだろう。「俺の顔に、なんか付いてますかね?」なんて聞けるマインドは、今の俺にはない。
「大空さん」
「は、はい」
俺も、他の学生たちと同じように、返事をして、挙手した。
すると、石蕗さんが、バッと、まるでゴキブリを見つけたかのような速度で首を動かして、こちらへと振り向いた。
「ぇ」
彼女は、目をぎょろっと見開いていている。
そんな、ちょっと不気味な石蕗さんと視線を交えてしまって、困惑を隠しきれず、小さい声をこぼしてしまった。
俺は、すぐさま、視線を逸らして、とりあえず、先生の頭のてっぺんを見ていた。
……見事なまでの禿げ頭だ。照明の光で、テカテカと光り輝いている。
「……」
「……」
俺と、石蕗さんは、無言だった。当然だが、講義が始まるからである。
「それでは、前回の続きから始めますね~資料、出しておいてください」
いよいよ、講義が始まった。これが終わったら、昼食の時間なので、頑張りどころだ。気を引き締めていこうか。
俺、そして、石蕗さんは、真面目に講義資料と向き合っていた。
すると、講義の終盤、石蕗さんが紙切れを、目の前へ、サッと差し出した。
「!?」
息が詰まった。一体何ごとかと、我が目を疑ってしまった。
その紙切れには、ボールペンの流麗な文字で、このように書かれていた。
『講義が終わったら、3600教室に来てください』