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あの子が死ぬ日を知る

 日常に刺激が欲しいなと、俺は思っていた。


 勉強は、ある程度できるけど、彼女も友達もいない人生は、刺激に欠けて、やっぱりつまらない。かといって、交友関係を築こうと、人に話しかけるのは億劫だ。



 都合よく友達とか、彼女ができるような出来事が起こらないかなーと、家のソファーで横になりながら妄想にふけっていると、うっとりと眠りに落ちてしまって……



「おい、起きないか?」


 夢の中で、神様に呼び出された。


「え?」


 突然、目の前に真っ白な空間が現れた。


 俺の目の前には、金髪で、スタイルが良く、まるで古代ギリシアの哲学者みたいなドレス衣装を身にまとっていて、狐の仮面を被った少女が立っていた。身長は、俺(167cm)よりも少々小さい。


 このふざけた格好の少女が、神様だ。


「ようこそ、大空 みなとくん。私は、全知全能なる神様だ」


「か、神様?」


「まあ、神と救世主は同義なんだけど……そこらへんの解釈とか、細かいことは気にしないで」


「じゃあ、神様、俺に友達くださいよ、それか、可愛いカノジョとか!」


「まてまて!早まるでない」


 神様を名乗った、狐のお面の少女に歩み寄ったが、手をぶんぶんと振られて、拒絶されてしまった。


「君は、人生に退屈しているようだな?」


「……ああ。趣味は、あるにはあるけど、熱しやすく、冷めやすいって感じで、続かないんだよ」


「色々なことに興味はあるが、飽きやすいということだな?」


「そうそう」


 俺は、これまで、イラストや絵画を描くこと、サッカー、縄跳び、映画鑑賞、オンラインゲーム、カラオケ、漫画を読む、筋トレなどなど……一般的に趣味と呼ばれることを色々と試してきたのだが、どれも半年以上、継続させたことがなかった。続かずに、途中で飽きてしまうか、他のことに興味が移ってしまうのである。


「一応、大学生だから、読書は頑張って続けてるけど」


 唯一、読書だけは、続けることができている。が、これも、心を満たすには足りなかった。


 しかし、こんな些細なことも、神様は好意的に評価してくれた。


「お、偉いな。たった一つでも、続けようと努力できるのは、素晴らしいことだ。誰にでもできることではない。誇りに思って、継続するといい」


「へへ、ありがとうございます」


 初対面の神様だけれど、なんだか、友達と話しているみたいな安心感と信頼感がある。……まあ、友達できたことないんですけどね。


「本題に入ろうか」


 神様は、人差し指を立てた。


「人生に退屈しているのだろう?そこで、私からおもしろい提案をしよう」


「どんな提案なんですか?」


「まずくが――お前は、愛する人が死ぬ日が分かっていたら、どう生きる?」


「え……?」


 真意が読めない神様からの質問に、困惑させられてしまって、口をぽかんと開けていた。


「いや……わかんないですね。友達とか、彼女とか、作ったことないので、愛する感覚が分からないです」


「そうか。もし、私が神様パワーで、君の【運命の人】を教えてやると言ったら、君は、あらゆる代償を受け入れる覚悟があると宣言できるか?」


「……運命の人っていうのは、将来、結婚する人ってこと?」


「あくまで【運命の人】だ。結婚するかしないかは、君の好きにするがいい」


「は、はい……」


 なるほど。悪くない提案だと、俺は自らの顎を撫でた。


 ただ、教えてもらう代わりに支払わなければならない【代償】の内容が気になるところ。


「代償っていうのは、どんなものなんですか?」


「それは、君が提案を受け入れると宣言してから、伝える」


「あー……そうだな……」


 悩む。ひたすら悩む。


 これまで、あまりに平坦な人生だったから、この機会を活用したいところ。しかし、【代償】の内容が分からない以上、「はい、受け入れます」と、迂闊にサインは出せない。


 運命の人を知る代償として、寿命が短くなる……なんて内容だったら、お引き取り願いたい。


「神様からの提案だから、魅力的だなって思ったよ。けれど、【代償】の内容が分からないから、今回は見送らせてもらう」


 俺は、白い空間を歩いて、光の中に消えていこうとした。この夢の世界から早く目覚めないと、夕飯を食べるのが遅くなってしまう。


「まてまて!今回限りだぞ!提案を断るなら、二度と私は、君の運命線デスティニーラインに現れてやらないぞ!」


「……いや、そう言われても……代償のリスクを考えると、二つ返事に『はい』とは言えないよ」


「――甘酸っぱい青春を味わってみたくはないか?」


「う……」


 神様は、立ち止まった俺の背中にぴったりと張り付いて、耳元で囁いた。……胸も衣装も薄いから、彼女の心臓の鼓動が直に伝わってくる。


「かわいくて、考えや性格の相性がいい、素敵なパートナーと巡り会ってみたくはないか?」


「おお……」


「そんなパートナーと、イチャイチャして愛し合ってみたくはないか?」


「おおおおお!!」


 なにぃぃぃぃ!イチャイチャだと!?その言葉、見逃せないっ。


「受け入れます!!代償、受け入れますから、【運命の人】教えてください!!」


 俺は、耳を真っ赤に染めながら、神様のほうへ、くるっと、向き直った。代償なんざ、この際、どうでもいいや!俺の人生に山あれ、谷あれ、幸あれ!と願いつつ、神様と改めて対峙した。


 神様は、狐のお面の下で、ニヤニヤと笑いながら、鈴の音のような美声を発した。


「よろしい!ではまず、君の【運命の人】について、教えてしんぜよう」


 神様に手招かれるまま、神聖な光が降り注ぐ空のもとへ歩んだ。


「君の運命の人、それは……」


「わくわくドキドキ」


 自らの胸の内の、心臓の鼓動の叫びを自覚した。俺の心臓は、今にも張り裂けそうなぐらい、鼓動を激しく刻んでいた。


 どんな人かな……?金髪高身長の美少女かな?それとも、黒髪ボブの落ち着いた子かな?いずれにしても嬉しいし、楽しみだ。


「【石蕗つわぶき莉々リリア】という女の子だ!」


「あ、聞いたことある!」


 俺は、この名前に聞き覚えがあった。


「君の同級生だよ。明日、大学に行って探せば、すぐに出会えるだろうね」


「マジか……そんな身近なところに、俺の運命の人がいたんだ……」


 拳をぎゅっと握りしめて、天から降り注ぐ光を仰いだ。こんな都合のよいことが、あっていいものかと思いながらも、心は踊っていた。



「――ちなみに、その運命の子は、来年の12月17日に、死ぬ」


「は?」


 神様は、さも当然かのように、言い捨てた。


「ど、どうしてそんなこと分かるんだよ、根拠は?」


「私が、神様だということが、絶対的な根拠であろう」


「いや……はぁ!?神様なら、その子が死ぬっていう不幸を取り去ってやれよ!【神様パワー】でさ!」


「それはしない」


「なんで!?」


「しないものは、しない。だって、神様だから」


 声を荒げて訴えた。


 神様なんだから、人間の運命を左右することは容易だろう……ならば、その人をよりよい運命に導く責任があるのでは?と思った。



 しかし、神様は、空高い雲を仰ぐばかりで、取り合ってくれなかった。



 運命の人が分かる。ただし、その人は、来年の12月17日に死ぬ、ということを知らされる。


 これが、神様が言った【代償】なのだろう。



「いくつか、重要な条件を伝えておこう。……一つ、石蕗つわぶき莉々リリア石蕗つわぶき莉々リリアが、その日に死ぬということを教えてはいけない。二つ、私に合ったことを、その子に直接言ってはならない」


「それを破ったら、どうなる?」


「君たちが生きる運命線デスティニーラインを破壊する」


「俺たちを、殺すってことか?」


「まあ……そうだ」


 神様は、少女然として愛らしく首を縦に振った。言っていることは、脅迫じみた、恐ろしい内容であるのだが、かわいらしかった。


 どうやら、今伝えられた条件を守ってさえいれば、殺すことは止してくれるらしい。



「伝えておきたい条件は、以上だ。……さぁ、【その日】まで、君たちは、余生をどのように生きるのか、じっくりと見せてもらおうか」


「うわ!?」


 体が宙にふわっと浮きあがった。まるで、浮遊の魔法だ。


 宙に浮いたそのまま、現実世界の光のほうへと、運ばれていった。



 意識が、覚醒する。

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