episode:8 発見!? 幻のユキオトコ
この作品は天道暁によるオリジナルのスーパー戦隊作品です。現在放送されているスーパー戦隊シリーズを制作・放送している各団体とは一切関係ありません。
オープニングテーマ「your kind!」
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この日、ヨーカイジャー達は結月の学校が終わってからの時間、妖怪の里に集まることになっていた。
智和からの連絡によると、妖怪の里中央に存在する「人類保護推進委員会事務局施設」が妖怪有志の面々により改装され、「ヨーカイジャー秘密基地」に生まれ変わる作業が内装だけ完了したので見にきてほしいとのことだった。
しかし今朝また智和からの連絡が入り、その集まりは都合により中止するとのことだったので、暇になった拓実と千影は普段やっているアルバイトに行くことにした。
「こんにちはー、タラフクフードでーす!」
拓実のアルバイト先の100円ショップ「100円プニプニ」のバックヤードを、千影の爽やかな声が吹き抜ける。
英字のロゴが入った制服を着こなす千影の肩にはマスコットサイズになったキュービルンが乗っている。
ステルスモードなので普通の人間には見えない。
「あーやっぱり拓実だった。こんなクセの強いメニュー注文するの拓実くらいだと思ってた」
「メニュー見て『これだ!』って思った。ってか千影がここ辞めてみんな寂しがると思ってたけど、そうでもないな」
「こんな風にしょっちゅうお届けに来てるもんね。私も辞めた感覚そんなに無い。ハイこちら『実の親子丼セット』、お飲み物は『果汁100%無味無臭ジュース』でお間違い無いですかー?」
「はーい」
「お値段税込み730億円のところ、九尾幻燈特別価格で730円頂戴いたしまーす」
「はいはーい」
拓実は5円玉等を含めて支払った。
「釣りはいらねえ」
「丁度ですもんね、ご利用ありがとうございましたー」
「ところで千影、これ知ってる? 今SNSでプチバズってるやつ」
拓実は千影にスマホを見せる。
そこには、「春に雪男発見!?」という文字と共に、木々の隙間から姿を覗かせる水色の巨大な何かの写真が表示されている。
「何これ合成?」
「それか作業用の機械か何かじゃね?」
「そういう風にも見えるね」
「案外本物の雪男だったりして?」
「人間に見つかって写真撮られた?」
「今日妖怪の里に集まるのが中止になったのこれのせい?」
「情報操作のために智和とか妖怪とか走り回ってる?」
「まっさかねー!」
「アッハッハッハッハッハッハ!」
「アッハッハッハッハッハッハ!」
千影の肩のキュービルンが妖力で文字列を作る。
〔れいとうようかいユキオトコ このこの いちぞく かくれるのもステルスモードもにがて むかしからときどき にんげんにみられたり しゃしんとられたりする 〕
「………………」
「………………」
拓実と千影はそれぞれのバイト先の責任者に連絡し、元の大きさに戻ったキュービルンのコクピットにギリギリ2人乗りして妖怪の里に向かった。
「夢幻戦隊ヨーカイジャー」
episode:8 「発見!? 幻のユキオトコ」
妖怪の里を歩く拓実と千影。
千影の肩にはまたマスコットサイズになったキュービルン。
「そういやキュービルンって、漢字は出せねえの?」
キュービルンは妖力で文字列を作る。
〔漢字を生成する事も可能ではありますが、漢字を一々生成する事は非常に面倒なので、人間の皆さんに意思を伝える際は基本的に平仮名や片仮名や数字やアルファベットを使用する事にしているので御座います。〕
「うわー、わざわざ漢字いっぱい使って見せてくるの若干うっとおしいな。でも案外、可愛い顔してこういうことしてくる女がモテて男とっかえひっかえとかしてるんだろうなー」
〔私は其の様な軽い雌妖怪では御座いません。私に告白してきたイケ雄妖怪の告白の仕方にイラっとしたので振ってやったという経験が御座います。〕
「あんた達もうその辺にしときなさい。それっぽい建物が見えてきたから」
「それっぽいって、これが秘密基地? 普通の区役所みたいじゃね?」
〔なかみに ちからをいれて かいそうして がいけんは あとから ととのえるけいかくと きいている〕
「あ、ひらがなに戻った。……じゃ、中身に期待して入ってみるか」
一行は区役所のような外見の建物に入っていった。
ヨーカイジャー秘密基地中央棟、その最上階に位置する作戦司令室。
そこに設置されているモニターにはユキオトコの件で対応に走り回る各所の妖怪達の様子が映し出され、それを見ながら智和が各所の指示や情報を中継する等の作業に追われている。
ムゲンブレスの着信音。
それとほぼ同時に部屋に入ってきたメガガッパーの孫娘・水溶妖怪ネネコガッパ。
智和は飛び交う情報の切れ目を見付けてムゲンブレスの通話ボタンを押す。
≪智和君! なんかネットで妖怪が見つかっちゃったっぽいの見たんだけど!≫
「その件については俺と情報統括部とかの妖怪達で対処するから心配ない。それより結月は今学校じゃないのか?」
≪今はお昼休み。まだあと10分くらいなら話せる。けど、大丈夫なんだよね?≫
「大丈夫だ。猫の手は俺に貸さずにペンを持て」
≪今の俳句?≫
「あ、気付かなかったけど確かに五・七・五になってた。でも季語が入ってないから川柳だな。こっちは猫の手借りるまでもないから、しっかり勉強してきな」
≪にゃにゃん!≫
互いに通信を切る。
智和はまた各所の動きの把握のためモニターに目を向ける。
「おい」
「…………」
「おい」
「…………」
「おい智和!」
「…………あ、ネネコガッパ。今のところ治安部隊に動いてもらう必要は……」
「ああもう、そうじゃなくて、これ!」
ネネコガッパがキュウリを投げ、智和がそれを顔の前で受け止める。
「大丈夫とか言いながらテメェが大丈夫そうじゃねえんだよ」
「ああ……そうだな」
智和はため息混じりに笑ってキュウリを噛る。
「何焦ってんだ?」
「焦って……るのか俺?」
「ったく相変わらず自分のことと女心はよくわかってねえなぁ」
「女心?」
「そ……そこはツッコまなくていいんだよ! そーゆーとこだぞそーゆーとこ! ……とにかく! 落ち着け。何焦ってる?」
智和はキュウリを更に多めに噛る。
「焦って……るのかな。俺って何なんだろうって、最近思う」
「ほう?」
ネネコガッパは腕を組んで壁にもたれ掛かる。
「拓実には必殺カードを引き寄せる才能、結月には名付けと妖怪と友達になる才能、武士はヨーカイジャーになる前から剣の修行を積んでるから戦闘で頼りになるし、千影は機転が利くし幻惑能力を上手く使いこなしてる」
「あー、そういうことか」
「最初はどうなることかと思ったけど、今はみんなそれぞれの力とキャラクターでチームを動かしてる。で、俺は? ヨーカイジャーの何なんだろうって」
ネネコガッパは頭の皿の周りを掻く。
「やっっぱり自分のことわかってねぇなあ。智和テメェは……」
またムゲンブレスの着信音が鳴る。
≪智和! ネットに妖怪の写真が出回っておる! さすがにデジタル写真は拙者の剣でも斬れぬぞ!≫
「あー、なんとか斬ってもらえそうになったら連絡する」
≪承知した。しからば!≫
互いに通信を切る。
「な? だからさ……」
そこへ飛び込んできた拓実千影キュービルン。
「智和!!」
「写真写真! ユキオトコ!!」
〔コンコンコーン!〕
「ほらな、こういうことなんだよ。みんなまずはテメェに連絡したり直接言いに来たりするんだよ」
「あ、ネネコガッパ。邪魔だった?」
「じゃ……邪魔なわけねーだろバカッ!!」
〔コンコココーン!〕
「うっせえクソギツネ!!! それよりアレだろ? ユキオトコのことで来たんだろ?」
「そうだった。智和、ネットに流れてる写真、ユキオトコって妖怪だってキュービルンに聞いたんだけど?」
「ああ。妖怪情報統括部とかに動いてもらったお陰で、ネット世論では異常気象の影響で低い位置に降りてきた雲の塊という説が主流になってきてる」
千影がスマホを確認し、キュービルンとネネコガッパがそれを覗き込む。
「ほんとだ、既に正体が何とか考えるよりクソコラグランプリのほうが盛り上がってる」
「誰がこんなもん猫ミームと組み合わせるとか思い付くんだ?」
〔コンコン……〕
「ところでキュービルンなんか旨そうな匂いしねぇか?」
「それさっき俺がキュービルンのコクピットで親子丼食ったからだ。零さないならいいって言うから」
「後で私が消臭スプレーしてあげるね」
〔コンコンコーン!〕
「で、ユキオトコの写真は低い位置の雲という名のネットのおもちゃになったわけだけど、これで安心ってことじゃねえよな? ユキオトコって隠れるのもステルスモードも苦手なんだろ? そのうちまた写真撮られちまうんじゃね?」
「ユキオトコの種族は昔から度々人間に目撃されたり写真を撮られたりしてる。外国のイエティとかもそうだ」
「イエティ!? イエティって妖怪!? ユキオトコと同じ種族!?」
「まさか……ビッグフットとかいうのも!?」
「その辺みんな親戚同士だぜ。あの種族がいる国の妖怪の長は、時々国際妖怪リモート会議で監督不行届きだって他の国の長からブチ切れられるってジジイがぼやいてた」
「ユキオトコ!? イエティ!? ビッグフットが親戚!?」
「妖怪!? リモート!? 国際会議!?!?!?」
〔コンコンコンコンコン!!〕
「悪ぃ、いきなり人間には情報過多だったか。おめぇがいい感じに締めてくれ」
キュービルンは頭を抱えてヘドバンする拓実と千影の前に出て文字列を作る。
〔いったんリセット〕
「おっす」
「めっす」
〔きっす〕
「しかしそいつら、妖怪の里に引っ越したりとかしねえの? そしたら人間に見つかる心配無くなるだろ?」
「それでもなかなか故郷というやつは捨てられないもんさ」
「智和も?」
「俺は物心ついた頃から妖怪の里に住んでるからな。これからもここで生きていくよ」
「一族の使命ってのを果たすため?」
「それも俺がやりたくてやってることだからな」
ネネコガッパが壁に顔を向けて一呼吸する。
千影とキュービルンはそれに気付かないフリをする。
「にしても、一回話しには行かなきゃな。だいたいの場所は写真のお陰で把握できてる」
「だったら俺達も行くぜ」
「結月もユキオトコに会いたいだろうから連絡していいよね?」
「ああ、じゃあ武士には俺から……結局みんなで行くんだな」
「いい仲間じゃねえか」
「ネネコガッパは?」
「オレは治安維持部隊の連中にカツ入れに戻るわ」
「カツ…………? なあ千影んとこってカツ丼もやってたっけ?」
「夜も丼物にするの?」
キュービルンはコクピット内に消臭スプレーを振りかけた上で妖怪の里に待機。
武士と学校が終わった結月も加わり、ヨーカイジャー5人はカラステングのコクピットに乗ってユキオトコの写真が撮られた某所にある山中にやってきた。
春の山は程よい日差しと柔らかな風で過ごしやすい。
「この辺のはずなんだが……」
智和がネットの写真をプリントアウトした物を手に辺りを見渡す。
5人でそれぞれ木々の隙間や藪の陰に目をやっていたその時、大きな動物の呻き声のようなものが聞こえてきた。
〔ヴヴゥ…………〕
「今の声……」
「行ってみよう!」
叫ぶと同時に拓実が走り出し、他の4人も後に続く。
カラステングはステルスモードでその場に待機。
声を頼りにたどり着いたヨーカイジャー達の目に飛び込んできたのは、巨大な水色のゴリラのような妖怪・冷凍妖怪ユキオトコが足を押さえながら蹲っている姿だった。
「あれがユキオトコ?」
「ああ。どうしたユキオトコ!?」
「ヴヴゥ…………」
見ると、ユキオトコの左足に弾痕のような傷があり、その周りが青黒く変色していて、傷口からどす黒い粘着質の液体が流れ出ていた。
「大変!」
「待った!」
手を伸ばそうとした結月を智和が制する。
「下手に触るな。この黒いのは毒かもしれない」
ユキオトコがなぜこうなったのか。
その答えは、ヨーカイジャーがここへやって来るより数時間前の出来事の中にある。
人気の無い地下道。
スマホでSNSに投稿されたユキオトコの写真を見ながら歩く30代半ばくらいの男性が一人。
「雪男とかあり得ねえだろ」
笑いながら呟く男性は前方にいた何者かにぶつかり反射的に謝る。
「あ、すいませ……!?」
言い切る前にぶつかった相手の異様な姿が目に入り言葉を失う。
ウツボのような頭部にパンかカステラのような質感の丸い帽子を被り、全体的に西洋の昔話に登場する猟師のような出で立ちで、猟銃のような銃を肩に担ぎ、腰には機能性を重視していると思しき地味な色の小さなバッグが付いている。
その何者かは男性を地面に押し倒すと同時にスマホを奪い取り、男性を右足1本で押さえ付けながらスマホ画面に映った写真を見る。
「ほう、これは……」
何者かはスマホを操作して場所を特定できそうな情報を探しながら、バッグの中から茄子のような物を取り出して足元の男性に向ける。
「た……助けて……」
男性の頭からどす黒い煙のようなデビルギーが立ち上ぼり、茄子のような物に吸収されていく。
「バルバトス」
後ろから声を掛けたのは、悪魔帝国デモンダイム幹部・レヴィアタン。
「レヴィアタン様、面白い情報を手に入れました」
バルバトスはレヴィアタンにスマホ画面を見せる。
「これはもしかすると?」
「妖怪でしょう。しかもこれは、ここからそう遠くない場所ですね」
「なるほど。妖怪はデビルギー回収作業の邪魔をする愚かで下劣な連中だ。始末しろ」
「当然です」
そう言いながらバルバトスが男性を押さえ付けている足の力を強めると、男性の頭から立ち上ぼるデビルギーが更に勢いを増す。
「や……やめてくれ……」
「フン、こんな醜い下等生物を保護する悪趣味な妖怪どもはこの世から消すべきではあるが、この妖怪はかなり大きそうだ。貴様の銃で殺せるか?」
「毒を固めた銃弾を作って撃ち込みます。人間どもの店で盗める物だけで十分な威力の毒を作ることができるでしょう」
「聞いたか? 貴様らが流した情報と、貴様らが呑気に売り買いしている物が、貴様らを保護してくれている有難い馬鹿を殺すことになるのだ」
レヴィアタンは押さえ付けられている男性を見下ろしほくそ笑む。
「何も考えずに流した情報がどんな結果を呼ぶか、こいつらの頭では想像すらできません」
バルバトスが押さえつけていた男性を蹴り飛ばすと、男性は地下道の壁にぶつかりそのまま動かなくなった。
バルバトスはスマホを握り潰し、デビルギーを吸収した茄子のような物をレヴィアタンに手渡す。
「任務を遂行します」
「うむ、行ってこい」
再び現在、苦しむユキオトコを前にしたヨーカイジャー達。
ユキオトコの傷口を見つめていた千影が智和に目を向ける。
「ねえ智和、ガキの能力なら傷口から毒を吸い出せるかな?」
「人間が毒蛇に噛まれた時も、毒を吸い出す応急措置をするからな。ガキの能力だと毒『だけ』ってわけにはいかないだろうけど、それでもやらないよりはいいだろう」
「だったら、妖怪変化!」
千影はヨーカイイエローに変身。
ムゲンブレスにガキの能力を差し込み、ユキオトコの傷口にムゲンブレスを近付けようとしたその時、どこかから銃声が響いた。
気配を察知したイエローが銃声の方へムゲンブレスを向けると、ムゲンブレスから現れたガキの口のような物がイエローを狙って飛んできた銃弾を吸収した。
「何かいる!」
「みんな変身だ!」
「妖怪変化!」
全員変身。
ユキオトコを囲んで周囲を警戒する。
「銃で撃ってきた!?」
「地元の猟師さん、なわけないよね」
「地元民であれば黄色いスーツのおなごらしきものを見てまず撃とうとは思うまい」
「千影ちゃん変身してても綺麗だもんね」
「ありがと」
「結月、ヌリカベの能力で千影を守れ。それで千影はガキの能力で応急措置だ」
「了解!」
「千影ちゃん守る!」
ピンクはムゲンブレスにヌリカベの能力カードを差し込み、走り出したイエローに続く。
イエローは再びガキの能力を発動させユキオトコの傷口にムゲンブレスを向ける。
ピンクはイエローと背中合わせに立つ。
「普通に守ろうとしても身長が足りない。でもこれなら!」
ピンクのムゲンブレスを中心にバリアが発生する。
「ハアアアアア!!」
ピンクが力を込めると、以前使ったときは前面を守るのみだったバリアが、ピンク自身と背中合わせのイエローの側面を守る形に変形していった。
「結月の千影ちゃんを守りたい気持ちが、バリアを前より成長させたっ!」
「そのナレーションかわいい。智和ー! だいぶ毒吸ったと思うけどどうかな?」
グリーンは周囲への警戒を緩めずにユキオトコの顔を見る。
「少しだが楽そうになった! 黒い液体が出なくなるまで続けてくれ!」
〔ヴヴヴホ……〕
「安心しろ、俺達がいる」
グリーンはまた周囲への警戒に集中する。
そこで5発の銃声。
「俺か!!」
レッドはムゲンソードを抜き向かってきた5発の銃弾のうち2発を打ち落とすがそれ以上は間に合わない。
直撃と思われたが隣にいたブルーが前に出てムゲンソードで残りの3発を打ち落とす。
「やっぱ侍には叶わねえや」
「剣に関してはな。しかしおぬしのほうがユーモアがあってイケメンでござる」
「んな急に褒めるから顔が真っ赤になっちまったじゃねえか」
「拙者はなぜか真っ青でござる。いたぞ!!」
ブルーが遠くの木の陰に入ろうとしたバルバトスを発見。
レッドがムゲンソードをムゲンシューターに変形させ狙撃するが命中した感覚は無い。
「遠くから撃ってくるタイプか。どうする? こんな山ん中じゃ隠れる場所だらけで戦いにくいなんてもんじゃないぜ」
「結月、ユキオトコ全体を囲めるくらいバリアを広げることはできるか?」
「ハアアアアア…………だめ、ヨーカイジャー3人分くらいの大きさがやっとで、それ以上大きくしようとしたらバリアが消えちゃいそうになる」
「でも今はそれで十分。黒いの出なくなったー!」
「よし。結月、一旦バリアを消して、また必要になったときのために力を温存しておくんだ」
ピンクはグリーンの指示通りバリアを消す。
「能ある猫はバリアを隠すってことね」
イエローはピンクの頭を撫でる。
「えへへ、あたしは能ある猫……」
「能ある猫は…………能ある鷹は…………そうか! 拓実! ここは鷹の爪よりカラスの羽だ!! 」
「そういうことか! うよっしゃあああああああ!!!!」
レッドはムゲンブレスにカラステングの能力カードを差し込む。
レッドは背中にカラステングのような翼を生やして飛び上がり、空中から藪の陰に隠れたバルバトスを発見。
「何ッ!?」
「うおおおおおおおおおおりゃあああああ!!!!!!」
慌てて猟銃を構えるバルバトスに急降下からの右ストレートを叩き込んで吹っ飛ばす。
「ぐっふぁあああああっ!?!?!?」
着地したレッドの周りにヨーカイジャー達が集まってくる。
「誰が呼んだか旅烏 鼻高々にてんつくてん 天に代わって只今参上! 空の勇者、ヨーカイレッド!」
「誰が言ったか川流れ 流れるどころか掻き分けて 登って飛び出せナイアガラ! 水の戦士、ヨーカイグリーン!」
「誰が言ったか猫かぶり 花も恥じらうJK3 嘘はいらない夢見る乙女! 獣のアイドル、ヨーカイピンク!」
「誰に言われどカマわない イタチごっこにピリオド刻み 腹を切らずに悪を斬る! 風の剣士、ヨーカイブルー!」
「誰を染めるか狐色 こんこん今夜も手鞠歌 お目にかけましょ万華鏡 幻の賢者、ヨーカイイエロー!」
「夢も現も守るが仏 夢幻戦隊!」
「ヨーカイジャー!!!!」
「おのれ……」
バルバトスは立ち上がりながら、バッグの中から手の平サイズのカツオの模型のような物を取り出し、
「やりや、ジャミリアー!!」
と叫びながら放り投げた。
カツオの模型のような物は空中で弾け、中から人間サイズの使い魔、ジャミリアーが4体現れた。
「ジャミジャミ!」
ジャミリアー達は剣を振りながらリズミカルに足を踏み鳴らす。
「自分が猟銃だから、部下に持たせるのは接近戦向きの剣か。考えたな」
「でも考えることなら、うちの智和君のほうがすっごいんだからね!!」
すごいことができるのはお前らがいるから、とグリーンは言いかけたが、
「それは胸に仕舞っておくか」
「誰の胸が締まってるって!?」
「言ってない。いくぞ!!」
「オウ!!!!!」
レッドはフェザーガントレットを装備し、迫ってきたジャミリアーをジャンプでかわし頭を踏み台にして更にハイジャンプ、背後に回って連続パンチを背中に叩き込み、アッパーカットで打ち上げ、落下してくるより早くジャンプと同時の右ストレートをボディに食らわし空中で爆散させる。
ピンクはスキャットクロウを装備し、まさに猫のような身のこなしで周囲の木々の間を跳び回りジャミリアーを翻弄、眼前に飛び出し連続引っ掻きからのとどめの突きで爆散させ、猫が顔を洗うときの動きで砂埃を拭う。
ブルーと1体のジャミリアーが互いに剣を構えて睨み合う。
いわゆる「先に仕掛けたほうが負け」というこの状況、ブライブレードを握る手に力を込め、後ろから迫っていたもう1体のジャミリアーを振り向き様に一閃のもとに斬り捨てる。
ブルーと対峙していたジャミリアーを長い脚が蹴り飛ばす。
それは美脚妖怪アシナガの能力カードによって伸びたイエローの足だった。
ジャミリアーが起き上がった直後の隙にコンコンボーによる連続突きを繰り出し、とどめの伸びる美脚キックで爆散させる。
「この技なんか好き」
「あたしも!」
「え?」
グリーンはガチコンハンマーを振り回し、バルバトスは猟銃を盾にしてそれを防ぐ。
が、やはり接近戦ではハンマーが有利。
グリーンはバルバトスの手から猟銃を吹っ飛ばし、地面に落ちた猟銃にガチコンハンマーを振り下ろす。
「どおおおりゃあああっ!!」
その一撃で猟銃は砕けて鉄屑と化した。
「銃を失った私は死んだも同然……」
「なら諦めて帰るか?」
「まさか」
バルバトスはバッグから、ユキオトコの傷口から流れていたのと同じどす黒い液体が入った瓶を取り出す。
ジャミリアーを倒したヨーカイジャー4人がグリーンの周りに集まってくる。
「それを俺達にブッかけてくる気か?」
「それも悪くはないが……」
その時、ヨーカイジャー達の耳に聞き覚えのある悪魔の声が忍び込んできた。
「デビル デビレバ デビルトキ……」
「これは……」
「レヴィアタンがやられた悪魔を巨大化させるときの呪文みたいなやつ!」
「でもあいつまだ死んでないぜ?」
「カモンデーモン デビデビレ……」
「どこだ! どこにいる!」
「クックックッ……」
バルバトスは小さく笑うと持っていた瓶の中身を一気に飲み干す。
「何っ!?」
「うグッ……!!」
バルバトスが喉を押さえながら倒れたと同時に物陰からレヴィアタンが現れカプセルを投げる。
「最後のチャンスだ、全てを尽くせ……」
倒れたバルバトスの体にカプセルが当たると、バルバトスは巨大化、同時に砕けていた猟銃も巨大バルバトスに合った大きさに巨大再生された。
「これがお前らのやり方なのか」
「貴様らの手間を一つ省いてやったんだ、有難く思え。やれ、バルバトス!」
「任務を遂行します」
巨大バルバトスが一歩歩く。
ヨーカイジャー達は分散して足をかわし地響きに耐える。
〔よーっしゃ! 俺達の出番だな!!〕
待機していたカラステングが戦場に飛来。
レッド以外のヨーカイジャーはムゲンブレスに召喚カードを差し込む。
「じゃあ俺はまたポーズだけ参加!」
「サモン、パートナーズ!!!!」
妖怪の里。
「河童ヶ沼」の底から長老妖怪メガガッパーが水飛沫を上げながら浮かび上がり、緑の光になって高速移動を開始。
「妖怪電気街」のステージのモニターに「きんきゅーしゅつどー」の文字が表示され、ステージ上の偶像妖怪ネコマタンがそれを見て敬礼、客席の妖怪達が振るサイリウムに見送られながらピンクの光になって高速移動を開始。
「試し斬りの竹林」で瞑想していた斬空妖怪カマイタチが空を見上げ、青い光になって高速移動を開始。
「妖怪稲荷神社」の神殿の扉が開き、奥から幻惑妖怪キュービルンが「お座り」のポーズのまま前進、その足元から機械的なカタパルトが伸び、どこかから響いてきた「five,four,three,two,one,zero!」というカウントダウンでキュービルンが「お座り」のポーズのまま空高く射出され、黄色い光になって高速移動を開始。
ヨーカイジャー達の前に4つの光が降り立つと同時に巨大な妖怪の姿を表し、カラステングも合わせて5体のパートナー妖怪達が並び立った。
5体の妖怪達は目からビームを出しそれぞれのパートナー人間をコクピットに転送。
「ちょっ……と消臭スプレーやりすぎたかな? キンモクセイが強い」
〔コンコン!〕
「気に入ってるの? じゃ、いっか」
「合体いくぜ!!」
レッドがムゲンブレスに合体カードを差し込むと、5体の妖怪達の体が宙に浮き、変形を始める。
カラステングの両腕がスライドして背中に回り、両足は折り畳まれる。
メガガッパーの両腕が引っ込み、甲羅が上にスライドして体の下半分が2本の足の形状になったところでカラステングの体の下に合体して「下半身」となる。
ネコマタンの尾と後ろ足が折り畳まれ、前足は爪が出た状態で頭に被さるようにスライドし、全体的に鋭い爪の付いたた腕といった形状になりカラステングの左腕部分に合体。
カマイタチの刃物状の尾が外れ、後ろ足が折り畳まれ、鎌の付いた前足は頭に被さるようにスライドし、鎌の間に刃物状の尾が収まり全体的に鋭い剣の付いた腕といった形状になりカラステングの右腕部分に合体。
キュービルンの体が前部と後部で半分に分離、前部は中心にキツネの顔が付いたプロテクターといった形状に変形しカラステングの胸に合体、後部は九本のキツネの尾が付いたプロテクターといった形状に変形しカラステングの背中に合体。
最後にカラステングの下顎が大きく開き、中から人型の顔が姿を表した。
レッド以外の4人もカラステングのコクピットに転送され、ヨーカイジャー達から見て左から、ピンク、イエロー、レッド、グリーン、ブルーの順に席に着いた。
「完成、合体巨人・ムゲンオー!!」
5人声を揃えてその名を叫ぶ。
ムゲンオーは右手の夢幻斬空剣を斜めに掲げてポーズを決める。
「的がでかくなった」
巨大バルバトスが猟銃を連射。
ムゲンオーは両手の剣と爪で防御するが、角度を変えながら連射される銃弾の全ては防ぎきれない。
ムゲンオーにとっては一発ずつのダメージはそこまで大きくはないが撃たれ続ければ危ない。
「……ここは、ヌリカベちゃん!」
「カシャも呼ぶぞ!」
ピンクはヌリカベの、ブルーはカシャの召喚カードをムゲンブレスに差し込む。
「サモン、サポーターズ!!」
妖怪の里。
「さわやか草原」を走る炎熱妖怪カシャが立ち止まり空を見上げ、紅色の光になって高速移動を開始。
「食べ放題の海」の海底から鉄壁妖怪ヌリカベがアワビのような殻を上にして海面に浮上、手を振るニンギョに見送られながらグレーの光になって高速移動を開始。
グレーの光がムゲンオーと巨大バルバトスの間に降り立ち、ヌリカベの姿に戻り強固な殻で銃弾を弾く。
紅色の光が巨大バルバトスの左に降り立ち、カシャの姿に戻り火球を連射。
巨大バルバトスは背面跳びでかわし、着地と同時に新たに現れた抹殺対象達に視線を配る。
「智和、カシャとヌリカベ、2体同時にムゲンオーに合体させることはできるか?」
「わからない。だけど俺もお前らも、今までわからないことをやって悪魔を倒してきた。だからまた、わからないことをやってみよう!」
「智和ちょっと拓実に似てきたんじゃない?」
「えええええ~…………?」
「めっちゃ嫌そうに『えええええ~…………?』とか言うなし」
「というわけで、やってみよう!」
「で、ござる!」
ピンクはヌリカベの、ブルーはカシャの換装カードをムゲンブレスに差し込む。
するとヌリカベの体が宙に浮き、殻が左に来る向きに体を動かし、本体下の部分から拳のような物が出る。
ムゲンオーの左腕のネコマタンが外れ、盾の付いた腕の形になったヌリカベが代わりに左腕に合体する。
カシャの体も宙に浮き、前後全ての足が折り畳まれ、下顎が大きく開いて首の下に付いた状態でロックされ、喉の奥から銃身のような物が伸びて出てくる。
ムゲンオーの右腕のカマイタチが外れ、銃の付いた腕の形になったカシャが代わりに右腕に合体する。
「すげえ! 同時合体できた!」
レッドが喜んでいる隙に巨大バルバトスが猟銃を連射。
ムゲンオーは素早く反応し左腕の盾で防ぐ。
〔ヌリカベもカシャももう合体形態に名前が付いてるからかな? 同時合体形態は名前付けなくても戦えるみたいだぜ!〕
〔バウバウ!〕
声を出せないヌリカベは2本の触角を出してそれを振ってアピールする。
「それでも名前はあったほうが呼びやすいだろう」
「出番だよ結月!」
「はいはいはい! えーっと…………銃と盾……銃と盾ってどっかで……」
ピンクは最近動画共有サイトの「おすすめ」に流れてきて目に入った、アメリカの特殊部隊の訓練映像を思い出し、
「お!」
と言って手を「ポン!」と叩く。
「ムゲンオーSWAT!!」
「かっこいいなそれ!」
「さっすが結月!」
イエローがピンクの頭を撫で回し、ピンクは両手で顔を押さえてじたばたする。
「完成、ムゲンオーSWAT!!」
5人全員で叫ぶ声と共に、銃を翳してポーズを決める。
「SWATか何か知らんが……」
巨大バルバトスが猟銃を連射。
ムゲンオーSWATはそれを横に転がって避けながら火球を連射。
巨大バルバトスはかわし切れず肩に掠った火球の高熱に息を漏らす。
「かっこいい! でも盾使えよ!」
〔SWATっぽいことしたほうがいいかなって〕
「今のがSWATっぽいの?」
〔じゃね? よく知らないけど〕
巨大バルバトスがまた猟銃を連射。
今度はこれを盾で防ぎ、素早く火球を連射。
火球は命中し巨大バルバトスを吹っ飛ばし背中を地に着けさせる。
「今だ!!」
レッドがムゲンブレスにカシャの必殺カードを差し込むと、ムゲンオーSWATの全身の妖力が右腕の銃に集中し、超高温の攻撃力へと変換されていく。
「必殺大妖技・炎熱魔燃弾!!!!!」
銃口に通常の5倍以上の大きさの火球が生成され、立ち上がり際の巨大バルバトスに向かって超高速で連続発射。
直撃を食らった巨大バルバトスは倒れながらムゲンオーの左腕を指差し、
「私も貝になりたい」
と言って爆散。
「うよっしゃああああああああああ!!!!!!」
ムゲンオーSWATは銃を翳して、空中のカマイタチは鎌を光らせて、地上のネコマタンは口元に前足を当ててウインクしてポーズを決める。
ムゲンオーSWATの目からビームが放たれ、ヨーカイジャー達はまだ蹲っているユキオトコの傍に転送される。
グリーンは深い呼吸を繰り返しているユキオトコの腹に手を触れる。
「応急処置は上手くいったようだが……このままではまずいな。妖怪の里に連れていけば適切な治療を受けさせることもできるが、移動中に体力を消耗してしまうと……」
「カラステングー! ムゲンオーのエネルギーをユキオトコに分けてやるとか、そういうのは無いのかー?!」
〔いや、俺らにそんな能力があったら良かったんだけど〕
「そうだ!」
グリーンが何かを思い付き、ムゲンオーSWATを見上げる。
「カシャ! ヌリカベ! ユキオトコに換装カードの作り方を教えてやってくれ!」
〔バウ?〕
ヌリカベの触角が生えて首を傾げるような動きをする。
「ユキオトコがムゲンオーに合体すれば、他の妖怪のエネルギーを分け与えながら移動できるかもしれない」
「そっか!」
「またまた『やってみよう精神』ね!」
「そんなこと思い付くなんて、やっぱお前はヨーカイジャーの知恵袋だな!」
「なんかお婆ちゃんみたいにされたけど、ユキオトコ、少しだけ頑張れるか?」
〔ヴヴホ……〕
ユキオトコはゆっくりと頷く。
「よし……頼むぞお前ら!」
ムゲンオーSWATからカシャとヌリカベが分離し、ネコマタンとカマイタチが合体して通常のムゲンオーになる。
カシャとヌリカベは鳴き声や触角のジェスチャー等でユキオトコに説明する。
「でもヌリカベちゃん、ああいうのってコツとかあるの?」
ヌリカベの触角がピンクに何かを語るように動く。
〔力になりたいって思う気持ちが大事! って言ってるぜ〕
「そっかー」
ユキオトコは震えを押さえながら上体を起こし、両手を向き合わせて精神を集中させる。
するとユキオトコの体が光に包まれ、その光が集中して3枚のカードになり、智和の手元まで降りてきた。
「俺に? しかも3枚……」
「そりゃ今回、一番活躍したのはあんたでしょ?」
「そうか……」
智和はユキオトコの換装カードをムゲンブレスに差し込む。
するとユキオトコの体が浮き上がり、両手足が折りたたまれ、頭が胴体の中に格納され、胴体の下の部分が少し下にスライドして大きな拳のような形になる。
ムゲンオーの左腕のネコマタンが外れ、拳の大きな腕の形になったユキオトコが代わりに左腕に合体する。
「できた!」
「結月、名前は?」
「えっと……これもシンプルなほうが良さそうな気がするから……お!」
ピンクが手を「ポン!」と叩く。
「ムゲンオーナックル!」
「ナックル……。拳に注目した名前であろうが、ユキオトコは冷凍妖怪でござろう? 『ブリザードナックル』などにしたほうが、能力がわかりやすくはないか?」
「うーん、『ブリザードナックル』だとちょっと技の名前みたいになっちゃうかな。それに今まで『マグナム』『シールド』って4文字できてるし、いきなり長い名前にしちゃうのは他とのバランスを考えたら良くないかも。またSWATみたいに2体同時に合体する形態に新しく合体することがあったら、そのとき長い名前にしてみるのもいいかもしれない。でも『ブリザード』っていうアイデアは悪くないと思うよ。これからの参考にさせてもらうね!」
「おぬし本当に結月か!? スーツだけヨーカイピンクで中身は別人が入っているのではあるまいな!?!?」
〔ウホウホ……!〕
ムゲンオーナックルの左腕から少しだけ生気が戻ったような声が聞こえる。
〔俺らのエネルギー、バッチリ左腕にも流れてるみたいだぜ!〕
「よかった。それじゃあ帰るか!」
ヨーカイジャーをコクピットに乗せたムゲンオーナックルは、ネコマタン、カシャと並んで飛んで妖怪の里へ。
ヌリカベは先日戦った悪魔デカラビアの真似をして身に付けた回転飛行。
グリーンはコクピットのモニターに映る空を見つめ、座席に深く座り深呼吸する。
【to be continue…】
本編を読んだ後は「ヨーカイジャー悪魔データベース」で、登場した悪魔の情報をチェックしよう!
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