episode:25 ハタチのコミゲ献血
この作品は天道暁によるオリジナルのスーパー戦隊作品です。
現在放送されているスーパー戦隊シリーズを制作・放送している各団体とは一切関係ありません。
妖怪の里・妖怪女子刑務所。
その尋問室で丸椅子に座って待機するグレモリー。
囚人服を着せられ鋼鉄製の手錠を掛けられ、そこから伸びている鎖を獄卒妖怪ヌレオンナが無表情で掴んでいる。
グレモリーは自由を奪われた状況に似つかわしくない微笑みを湛えて尋問の時間を待っている。
そこへ重い扉を開いて入ってきたエージェント66β。
「あらロクロクビちゃん!」
エージェント66βは一瞬首を伸ばしてまた戻し、グレモリーと向かい合わせに座る。
「また会えるなんて運命かしら?」
「あなたに2度も接近して生還した私が尋問役に選ばれたの」
「そう? どちらにせよ、楽しくなりそうね」
妖怪諜報部員として尋問のスキルは身に付けているエージェント66βだが、悪魔の情報を聞き出そうとしても、好きな食べ物の話などの雑談に持っていかれはぐらかされる。
「結局あれから金ビキニは着られましたの?」
「また上から止められたけど、この仕事が上手くいけば着させてもらえるかもしれない」
「そうでしたの!? でしたらここに着て来てくださらない?」
「私はそうしたいと思ってる」
この調子で2時間ほど話し、エージェント66βはまた重い扉を開いて尋問室を出た。
監視カメラを通して見ていた妖怪が近付く。
「どうでした?」
「ま、初日はこんなものでしょうね。かなり歪んだ愛情?ではあるけど、妖怪が好きらしいから、雑談から心を開いていくやり方を試してる。その意図は伝わってるでしょうけど」
マジックミラー越しのグレモリーに目をやりながら赤いネクタイを締め直す。
グレモリーは無表情のヌレオンナに一方的に話し掛けている。
「大変な任務、ご苦労様です!」
妖怪の敬礼に笑顔を返す。
「私は私にできることをやるだけ。もうすぐ息抜きできる日が来るから、それまで頑張らないと」
「今年もヒルコ様のお手伝いですか?」
「ええ。そっちも大変だけど、それはそれで楽しいの」
「夢幻戦隊ヨーカイジャー」
episode:25「ハタチのコミゲ献血」
昼食の時間。
初日の尋問を終えたグレモリーは食堂に移動。
食事の時間は手錠を外されるが、常に近くでヌレオンナが監視の目を光らせている。
グレモリーは食堂に集まっている大小色形様々な妖怪達に目を輝かせる。
が、その妖怪達はグレモリーが食堂に入ってくるやいなや、急いで食事を掻き込み、グレモリーがトレーに乗った昼食メニューを受け取った時には既に、ほとんどの妖怪が食堂を出ていた。
「やれやれ、新入りをみんなで仲間外れにするとは幼稚な連中だよ」
声の主は食堂に集まった妖怪で唯一、いつも通りに食事を味わっている、囚人服を着たガイコツの下半身が蛇の骨のようになっている妖怪。
グレモリーはその妖怪の隣の席に着く。
「あなた白くて素敵ね」
「骨の色なんてだいたいみんないっしょだよ。あたしは策謀妖怪ジャコツババア」
「ジャコツババアちゃん?」
「こんな年寄りをちゃん付けしてくれるのは嬉しいけど、『ジャコツババアちゃん』ってのはちょっと長いね。ここの連中はみんなあたしのことを『ジャコばぁ』って呼ぶよ」
「ジャコばぁ?」
「ああ。あんたのことは知ってるよ。刑務所にも情報は入ってくるんでね。悪魔なのに妖怪が好きなんだって?」
「そう! ここの妖怪ちゃん達ともお話したいのだけど、みんな恥ずかしがり屋さんなのかしら?」
「みんなあんたが怖いんだろうさ」
「ジャコばぁは?」
「あたしはこんな所でこんな歳まで閉じ込められて、今さら悪魔に煮られようが焼かれようが悲しかないさ。生まれつき煮られる身も焼かれる皮も持っちゃいないしね」
「そうなの? でも、ジャコばぁとお話できて嬉しいわ。他の妖怪ちゃん達のことも、見ているだけで楽しいし」
「そんなに妖怪が好きなら、妖怪の仲間にでもなりゃいいのに」
「それはダメ。ワタクシが一番大好きなのは妖怪ちゃんの苦しみ悶える姿だから、ずっと妖怪ちゃん達の敵でいたいんですの!」
「そうかい、そりゃ結構な趣味だね。にしても、お目付け役がくっついてるなんてなかなかの厚待遇じゃないか。しかもヌレオンナとはね。気を付けな、そいつに逆らうとヌルヌルの液で溶かされちまう。あたしもそれでこんな骨だけの姿になっちまった」
「あら、さっきは生まれつき身も皮も無いって言ってましたわよ?」
「ありゃ、そうだったかね? 歳取ると忘れっぽくなるもんでね。さ、食事の時間は決められてるんだ。あんた話してばっかで全然食べてないじゃないか」
「そうでしたわ」
グレモリーは煮豆を一粒口に入れる。
「美味しいじゃない。全然『臭い飯』じゃありませんわ」
一方その頃、妖怪の里・妖怪電気店街に程近い場所に建つひなびたアパート。
そこは、そこに住む者の趣味で敢えて最初からひなびた感じに造られている。
ひなびたブリキの階段でひなびた足音を鳴らし、ビニール袋を提げたユキオンナが上ってくる。
2階の真ん中、202号室。
そこには、妖怪の里で長老に次ぐ権限を持つ7体の「妖怪評議員」の1体が住んでいる。
ユキオンナは鍵が開いていることを確認してドアを開く。
「ヒルコ様~?」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"……」
ちゃぶ台が置かれた畳の部屋で、巫女衣装のような服装で赤髪ハーフツインテールの、人間で言えば20代前半くらいの外見の女が扇風機に向かって声を出していた。
「ヒルコ様…」
ユキオンナは呆れ混じりのため息とビニール袋を畳に置いた。
「お、ありがとありがと」
「はい、ご要望の、ほのぼの農場のじゃがいも、玉ねぎ、にんじん、お肉、それと河村一族の方にお願いした糸コンニャクです」
「これで美味しい肉じゃが作ってあげるからね~」
「ヒルコ様の肉じゃが……!」
ユキオンナは自分の頬を叩いて瞳の輝きをかき消す。
「ヒルコ様、原稿は?」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"……」
「原稿は?」
「そういや使いこなしてんじゃん、巨大変化の術!」
「いやー、まだまだですよ~。この前なんかムゲンショーグンに上半身しか合体できなくて……」
「うーん、あれはブルクダンの体の仕組みの都合でああなった感じかな~? でも結局勝てたからよかったじゃん? 終わり良ければ全て良し!」
「そうですね。終わりといえば、原稿は描き終わりましたか?」
「ロクロクビ! あいつも大活躍だよね~!」
「はい。悪魔の幹部に2回も接近して生還して、それでその幹部の尋問担当になったとか」
「諜報部はカサバケのこともあったし、悪魔に対しては他の妖怪以上に思うことがあるんだろうね」
「ロクロクビちゃん、カサバケさんのこと尊敬する先輩だったって言ってました」
「諜報部も治安維持部隊も頑張ってくれてるけど、悪魔との戦いはほとんどヨーカイジャーと巨大妖怪達に任せきりだからね。あたしらも出来ることをやっていかないと」
「そうですね。それで出来ることといえば原稿はできましたか?」
「ニンギョはさぁ~」
「ヒルコ様!」
ユキオンナが正座してヒルコの顔を真っ直ぐに見つめる。
ヒルコも思わず正座する。
「ヒルコ様、私がこうしてお手伝いに伺ったり、ロクロクビちゃんやニンギョちゃんが売り子を手伝ってくれたりするのは、ヒルコ様の作品が大好きだからです」
「うん…」
「私達だけじゃありません。ヒルコ様の作品は、妖怪が本当にいることを知らない人間達にも人気があるんです」
「そうみたいね…」
「ヒルコ様の作品に出てくる妖怪を通して、人間達が妖怪のことを好きになってくれたら、いつか妖怪が人間に正体を隠さずに一緒に生きていける世の中になるかもしれない。そう話してくださいましたよね?」
「よく覚えてるね…」
「覚えてますよ一生忘れません。さっきおっしゃってましたよね? 出来ることをやっていかないとって」
「悪魔との戦いはヨーカイジャーと巨大妖怪達に任せきりだから……ん? ヨーカイジャー……!?」
急にヒルコの目に火のようなエネルギーが宿り、ちゃぶ台に乗っている紙に10ページのラフスケッチを5分程で描き上げた。
「どうかな?」
ユキオンナに手渡したラフスケッチのトップには、智和と勝をモデルにしたと思われる男性二人が潤んだ目をして向き合っている扉絵があった。
「これはこれは…」
「この二人は妖怪の里に住んでるから描きやすいんだよね~」
「これはこれはこれは…」
ユキオンナは全開に開ききった目で次々にラフスケッチを凝視していく。
「これはすごい……」
「でしょ? すごいでしょ? じゃ、これをしっかり描いちゃえば…」
「許可は?」
「はい?」
「さすがに、知り合いをそのまま出すなら許可は貰わないと…」
「あー……、許可、くれると思う?」
ユキオンナは改めてラフスケッチを隅々まで凝視してみる。
「えっと………智和さんはくれないと思います。勝君は許可以前に、ここに書いてあることの意味がわからないと思います」
「そっ……か……じゃあ、ちょっとだけ変えたらいいんじゃない? そこに描いてるのはヨーカイグリーンとヨーカイシルバーじゃなくて、最初の『ヨ』を『ゴ』に変えちゃうとか」
「それ、なんとなくですけど余計にまずいことになっちゃいそうな気がします…」
「そっ……か……じゃあ、また考え直しかぁ」
「ですね……」
ユキオンナはラフスケッチを持って名残惜しそうに見つめている。
「それ気に入った?」
「ひゃえっ!?」
「あげる」
「え、あ、う、い、あ……いいんですか?」
「個人的に楽しんでね」
「はす! はす!」
ユキオンナが神妙な面持ちでラフスケッチを抱き締める。
数日後。
毎年夏と冬の年2回行われる大型即売会イベント「コミックバーゲン」略して「コミゲ」。
そこにヒルコがニンギョ、エージェント66β、ユキオンナを連れて漫画を売りに来るということで、智和が拓実を連れてやってきた。
結月と千影は二人で映画、武士は剣術パフォーマーとしてイベント出演、勝はそれを見に行く。
というわけで今日はこの二人で行動することとなった。
「コミゲ、聞いたことはあるけど初めて来てみたら、こんなに人いるんだな~」
「最近は漫画アニメ文化を楽しむことが普通になったから、昔より大勢の人が来るようになったらしい」
「で、ここに妖怪が漫画を売りに来てると?」
「ああ。妖怪評議員のメンバーがな」
「妖怪評議員。それ時々耳に入って鼻から出て行く言葉だけどさ」
「鼻からは出すな」
「どういう妖怪達?」
「長老に権限が集中しすぎないように設けられている制度で、1体で長老の3分の1の権限を持つ妖怪が7体いる」
「そのうちの4体が集まれば、メガガッパーより権限が強くなるってこと?」
「そういうことだ」
「そんな偉い妖怪が漫画描いてるのか」
「色々考えがあるみたいでな」
「で、ここで売ってると。人間に見られてもいいのか?」
「人間に似た姿の妖怪だからな。このイベントなら、手伝いに来てるニンギョやユキオンナもコスプレに見えるし、ロクロクビは首を伸ばさない限り妖怪には見えないだろう」
「なるほどな。ところで、何だあれ?」
コミゲ会場入り口近くに、「献血にご協力ください」という幟が立った一角がある。
「あれは献血ルーム。毎回コミゲには特設の献血ルームが作られる。コミゲは人が沢山来るし、コミゲに来る人は誰かの役に立ちたいと思ってる人が多いから、沢山献血が集まるんだと」
「そういや聞いたことある。コミゲ献血ってやつだろ? 俺もこの機会にやろうかな? 『ハタチの献血』って言うじゃん? あれあと2ヶ月くらいしたら一生できなくなるし」
「誕生日10月9日だったな。いいんじゃないか? 俺、先に行ってるから。献血スタッフの人から説明あるはずだけど、献血の後ちゃんと休んでから来いよ」
「うん。じゃ、H65ブースだったよな。先に行っててくれ。ヨーカイレッドのレッドな血を献血してくるから」
拓実は献血ルームに、智和はヒルコ達がいるH65ブースに向かった。
拓実が献血ルームに入ると、白衣を着た献血スタッフ達が暖かい笑顔で迎えてくれた。
そのうちの一人・筋肉質な青年が献血ルームの奥の部屋に入り、スマホを取り出し画像アルバムの中に入っている拓実の写真を確認した後、どこかへ電話を掛け小声で話し始めた。
「ベルゼブル様、大変です、ヨーカイレッドが来ました……!」
《YO! ヨーカイレッド? あいつそんなとこにまで涌いてきやがんのか。1匹で来たのか?》
「献血ルームには、1匹で入ってきましたが……」
《近くに他の奴らもいる可能性はあるか。ならすぐ殺しちまうのはやべぇな、騒ぎになると作戦が潰れちまう。ここはヨーカイレッドも、他の人間どもと同じようにやっとけ》
「わかりました」
《ところでブラザー、グレモリーの奴が来てねえか?》
「グレモリー様ですか? 確かにこういうイベントはお好きそうですが……見てませんね」
《そうか。全然連絡つかねえんだ。もし見掛けたら俺様に連絡するように言っといてくれ》
「わかりました。では、然るべく」
電話を切り、白衣を整え、拓実が待つ部屋へ戻る。
ちょうど拓実の採血の順番になっていたので、作り物の人間の顔に作り物の笑顔を纏わせて案内する。
「こちらへどうぞー!」
「お兄さん爽やかですね!」
「ありがとうございますー!」
拓実は案内された椅子に座る。
ゆったりとした背もたれに身を任せながら、腕の第2関節近くの静脈が管を通じて専用の機械と繋げられる。
「もっと改造手術みたいなの想像してました」
「あ、ご希望でしたら……」
「いえいえ、これでお願いします。今時ヒーローが改造人間とかどうかと思うんで」
「あ、そうですかー」
(こいつヒーローとか口走りやがった。ヨーカイジャーって正体隠してないのか? それとも人間ならジョークで済むことなのか? まあどうでもいいけど…)
採血が終わった拓実はスタッフの指示に従い、ジュースを飲みながら献血ルーム内のベンチで20分ほど休憩。
その後、献血ルームを出ようとしたところで筋肉質な青年からノベルティのクリアファイルを受け取った。
思いがけず、好きな作品のイラストのクリアファイルをもらえて上機嫌で献血ルームを出ようとしたところで立ち止まる。
「おい、これはどういうこった?」
「はい……!?」
筋肉質な青年は声を裏返らせる。
「このクリアファイル!!」
拓実はクリアファイルのイラストを指差しながら筋肉質な青年に顔を近付ける。
「POEM FIGHTの網走吹雪といえば、常に感情を動かさず、無表情のまま氷のイマジネーションで相手を凍らせる! なのにこの網走吹雪はなんで笑ってんだ!!」
「それは、私に言われましても……」
「ここどこかわかってんのか!? コミゲだぞおめぇ! 俺はまだいいよ? 冷静に優しく言えるから!」
「どこが……」
「でも過激派のファンが来たらおめぇ、血液返せってデモ行進はじまるぞ!?」
「だから私に言われましても……」
そこへ別の献血スタッフが割って入る。
「これは原作準拠の網走吹雪なんです!!」
「原作……準拠……」
拓実の顔面から熱が引いていく。
「俺、アニメで初めて内容を知りたいから、アニメでまだやってない部分の原作は見ないようにしてるんだ。そうか、原作準拠か。じゃあ網走吹雪にもいつか、こんな風に笑える日が来るんだな。ネタバレ食らっちゃった!」
拓実がいわゆる「テヘペロ」のポーズと顔芸を見せる。
「そういうことなら、これからもアニメ版POEM FIGHTを見守って、また献血に来ます!」
割って入った献血スタッフはほっとした笑顔で頭を下げる。
「はい、是非またご協力ください!」
筋肉質な青年は冷や汗を拭いながら頭を下げる。
「献血にご協力ありがとうございました!」
拓実はクリアファイルを見つめながら上機嫌で献血ルームを出る。
(焦った……バレたかと思ったらただの厄介ファンのクレームかよ……)
筋肉質な青年は胸を撫で下ろすと同時に、これから起こることを想像してほくそ笑む。
H65ブース。
ヒルコを含めてコスプレに見える4体の女妖怪が、表紙に可愛いらしいタヌキ型妖怪と人間の少女が描かれた冊子を頒布している。
そこにはコミゲ開始から長蛇の列ができていた。
やって来る人間達に笑顔で冊子を手渡し、緊張気味に掛けられる応援の声に冗談を交えて応え、時折写真撮影にも応じる。
「ありがとうございます~。あ、智和!」
列に並んでいた智和の順番が来た。
「ちょっとここ頼むわ」
「はい。あ、智和君金ビキニ……」
エージェント66βを無視してブースから少し離れた場所に移動する。
「ヒルコ様、今回も大人気ですね」
「妖怪が出てくる漫画、人間は好きだからね。漫画以上にあたしを見たくて来てる奴らもいるけど。あんたもそうでしょ?」
「そうですね。今、拓実が献血に行ってるんですけど、もうすぐ来ると思います」
「軽く流したなオイ? 拓実ってヨーカイレッドだよね? あいつもいい男だよね~」
「また手~出さないでくださいね」
「『また』って何のことだろね~? ところで…」
ヒルコの視線の先、ヒルコのブースとは別のブースに並んでいる参加者2人が怒鳴りあい、スタッフにどこかへ連れて行かれる姿が見えた。
「なんっか今回、ああいうの多いんだよね」
「俺も気になってました。多少のトラブルならいつも無いわけではないんですが」
「うーん、妙な気配も若干しなくはない。ちょっと探ってみるか」
「ヒルコ様自ら?」
「あの子達にとっては、素のままで人間と交流できる貴重な時間だからね」
ブースで人間達に冊子と代金のやり取りをしながら、ニンギョが元気を振りまき、エージェント66βがクセの強い天然ボケをかまし、ユキオンナがウサ耳の可愛さを褒められ照れる。
「確かに、ニンギョなんて足を生やしてる間はしゃべれなくなりますからね」
「あいつ形態変化もジェスチャーもヘタクソだけど、持ち前のコミュ力で人間ともすぐに友達になっちゃう。でもやっぱり、ああして普通に人間と話せる時間を、特別じゃなくしてあげたいんだけどな……」
ヒルコの赤いマニキュアが塗られた爪が、手の平の肌に微かに食い込む。
「じゃあ、俺と拓実で調べます。ヒルコ様はコミゲに集中してください」
「いいの?」
「はい。ヒルコ様を見に来てる人間もいるんでしょ?」
「あんた、また若い頃のメガガッパーに似てきたね」
「それお会いする度に言われるんですけど」
「会う度に似てきてるからね」
「じゃあ俺もいつかあんな巨大になるんですか?」
「キュウリ食ってりゃなれるんじゃない?」
「へー、そりゃ楽しみだ」
拓実を探す智和の横顔に、ヒルコはメガガッパーとは別の大きな何かを感じた。
そこでまた大きな怒鳴り声がぶつかり合うのが聞こえてきたと思いきや、その主の一人は拓実だった。
「だーからコレ原作準拠のイラストだって係の人が言ってたんだよお!」
「うるせえ目玉焼きには醤油だろ!」
「ポメラニアンのほうが可愛いって!」
「月の裏側は穴ぼこだらけなんだよ!」
「口笛が吹けない人に吹き方を説明するのは難しい!」
「だめだ、どっちも会話になってないことに気付いてない!!」
智和が駆け寄り、拓実の肩を掴む。
「おいどうした!?」
「なんか全てが腹立たしい! なんか!」
「何があったんだ!」
「何って、だから! このクリアファイルが!」
「クリアファイル?」
拓実の手に、そして言い争っていた男が持っている紙袋の中に、例の献血コーナーのノベルティのクリアファイルがあった。
そこから“何か”を感じたヒルコが両手を合わせ気合いを入れる。
「喝!」
すると両者のクリアファイルからヘドロ色のオーラのような物が抜け出て空中で消滅した。
「はっ…!?」
「はっ…!?」
「だからこれ、原作準拠のイラストだから笑ってるんだって係の人が言ってたんですよ」
「ああ、なるほど。僕はアニメしか見てないものでわかりませんでした~」
「俺もです!」
「ならお互い、ネタバレを踏まないようにアニメを楽しみましょう!」
「そうですね!」
互いに手を振って爽やかに別れる。
「お、この可愛いのがヒルコ?」
「いや待てその前に……」
「そうだよこの可愛いのがヒルコだよ。で、そのクリアファイルどこで手に入れた?」
「そうそれ!」
「献血したらもらえるやつ。それが何か?」
「それもらってから何か変だったんじゃないか?」
「そういや、なんかさっきまでこの世の全てに腹立ってたような……」
気付けばコミゲ会場のあちこちで老若男女様々な人間達が怒鳴り合っていた。
クリアファイルを持っている者達の怒りが伝染し、周囲の人間も巻き込んで負の感情を沸き立たせ、頭からどす黒いデビルギーを立ち上らせていた。
「悪魔の仕業か……」
「POEM FIGHTのクリアファイルを利用するとは許せねぇ! って思っちまうのも悪魔の力のせいか?」
「いや、それにまとわりついてた変なのはあたしが払ったから、今の怒りはあんた自身の自然な気持ち」
混乱が広がる場内で、ニンギョとエージェント66βが周囲の人間達をなんとか宥めようと走り回る。
ユキオンナは拳を振り上げた人間に背後から弱い冷気を吹き付けて動きを鈍らせ、ヒルコの元へ駆け寄ってくる。
「ヒルコ様!」
「こうなったらもう動くしかないね。人間達はあたしらで何とかするから、ヨーカイジャーは悪魔を探してブッ飛ばしてきな」
「はい!」
「探すっつっても、悪魔はやっぱ、献血コーナーにいるんじゃね?」
「いや……」
智和は場内のデビルギーが全て一つの方向へ流れていることに気付く。
「あっちだ!」
智和が会場の出口へ走り出し、拓実もそれに続く。
「頑張れヨーカイジャー…! ニンギョ! ロクロクビ! あたしが悪魔の魔法を解いてくから、あんた達は正気の人間から外へ避難させて!」
「はいっ!!」
「治安維持部隊や情報統括部への連絡は?」
「智和が悪魔を探しながら済ませるはず。ユキオンナはさっきみたいに、暴れてる人間を傷付けずに大人しくさせて。そんでもし悪魔が来たら、あたしらがみんなを守るよ」
「ヒルコ様…」
「今あたし、かっこいいでしょ?」
「はい、漫画描いてるときの次くらいに!」
微笑みを交わし、混乱の中へ走り出す。
走りながら智和は妖怪治安維持部隊と妖怪情報統括部に、拓実はヨーカイジャーメンバー達にムゲンブレスで連絡する。
デビルギーの流れを追って辿り着いた近隣のビルの屋上で、献血コーナーにいた筋肉質な青年が、流れてくるデビルギーを丸薬の形に凝縮し、薬瓶のような物に詰めていた。
「あー、さっきの!」
「来たなヨーカイジャー!」
「お前がクリアファイルに変な魔法掛けやがったのか!」
「そのはずだが、貴様は何ともないのか?」
「ああ。俺にあんなもんは効かないぜ!」
そういうことにしておけばヒルコが人間達を正気に戻すのを邪魔しに行かれる可能性が下がるので、智和はツッコむのを我慢した。
「でも、血を取る針に魔法掛けとくとかもできたろうに、なんでわざわざノベルティに細工したんだ?」
「採血は普通にやっておかないと、後でゆっくり頂く人間どもの血液に雑味が混じってしまうかもしれない」
「飲むんかい!」
「その前に貴様らを始末してやる……」
筋肉質な青年はみるみるうちに姿を変え、人間なら顔がある部分に放射状に足を広げたホタルイカ、背中に木箱を背負い、薬の行商人を思わせる出で立ちだが着物はアルミニウムのような金属的な質感。
背中の木箱の上部が開き、悪魔がデビルギーが詰まった薬瓶を投げ入れる。
続いてホタルイカの足を伸ばし、木箱の中から四角い紙風船のような物体を取り出す。
「俺の名はブエル。いかれ、ジャミリアー!」
ブエルが紙風船のような物体を投げると、空中で弾け、中から8体のジャミリアーが姿を現した。
「ジャミジャミ!」
ジャミリアー達は剣を振りながらリズミカルに足を踏み鳴らす。
「二人で戦うの、久しぶりだな」
「豹柄のおばちゃん悪魔、ずっと前みたいな、ついこないだのような?」
「妖怪変化!!」
同時変身し、レッドはフェザーガントレット、グリーンはガチコンハンマーを装備して走り出す。
迫りくるジャミリアーの群れの一部をグリーンがガチコンハンマーの大振りでなぎ倒し、できた隙間をレッドが駆け抜けブエルに右拳を繰り出す。
それが顔面を抉る直前、ブエルはホタルイカの足を伸ばし、背中の木箱からデビルギーを凝縮した物とは違う赤い丸薬を取り出し「口」らしき所に突っ込んで飲み込む。
すると一瞬のうちに腕の太さが2倍以上になりレッドのパンチを軽く受け止めた。
「ドーピングかよ…」
「クックックッ…」
レッドは背面跳びで距離を取り、クロノスマッシャーを装備して左右から斬りかかってきたジャミリアー2体を連続で殴り飛ばし、ダイヤルを回しながらまたブエルに向かって走る。
ブエルが顔全体から光線を発射。
レッドは斜め方向への前転でギリギリかわし、デジタル表示が「5」になったところでクロノスマッシャーのボタンを押す。
体感5秒、レッドには全てがスローモーションに見える。
2秒使ってブエルの懐に入り、武器を装備した両拳による連続パンチを叩き込む。
デジタル表示が「0」になると同時にブエルは吹っ飛びコンクリートに叩きつけられる。
「ぐふぁああああっ!!!」
「どうだ!!」
ブエルがまたホタルイカの足を背中の木箱に伸ばし、青い丸薬を取り出し飲み込むと、レッドの超高速連打によるダメージなど無かったかのように平然と立ち上がる。
「あああもう!!」
一方その頃、コミゲ会場内。
「喝!」
「はっ……!? 私、今まで何を……」
「落ち着いて、一緒に安全な場所へ」
「スパイコスのお姉さん…」
「今年も買いに来てくれてありがとう。次もまた会えるように、さあ早く!」
「は…はい!」
エージェント66βは少女の背を押して出口へ向かう。
ヒルコは額の汗を拭い、怒号が止む気配を見せない会場内を見渡す。
「浄化しても浄化しても追いつかない。こうしてる間にも、直接悪魔の魔法を受けてない人間まで負の感情にとらわれていく。ったく昔っから人間の悪い所なんだよこういうの…」
「ヒルコ様、ボクちょっと目立っちゃってもいいですか?」
「考えがあるんだね。いいよ、この際だから目立っちゃいな!」
「はい!」
ニンギョは大きく息を吸い込み、妖怪の里の海のように澄んだ歌声を会場全体に響き渡らせる。
「青い海原 広がる世界の
ほんとの姿 教えてくれた
キラキラ輝く フシギやステキ
君がいたから ボクも出会えた
砂で作ったお城みたいに
小さくて 強くて 儚くて
瞬くような命を めいっぱい生きてる
そんな君がずっと 大好きだよ
そばにいるよ いつもとなりで
どんな涙も 笑顔に変えたい
そばにいさせて いつもとなりに
もっと素直なボクらのままで
笑える明日が きっと来るから 」
全ての視線がニンギョに集まり、怒号は止み、立ち上っていたデビルギーは徐々に薄まり空気中に拡散され見えなくなり、代わりに割れるような拍手が会場に溢れた。
ニンギョは笑顔で両手を振り歓声に応える。
ユキオンナはそんなニンギョの姿に顔が綻び、ヒルコに目をやると、ヒルコは人間達と一緒に滝のような涙を流しながら拍手していた。
一方その頃、戦いの場は追って追われてを繰り返しコミゲ会場付近の広場に移されていた。
「必殺妖怪技・流氷上手投!!」
グリーンが放った氷の塊を含んだ水流が生き残っていたジャミリアー3体を押し流し、その勢いのままブエルをも巻き込み空中へ打ち上げ、そのまま落下させ地面に叩き落とす。
ジャミリアー達は爆散。
ブエルは氷の塊に傷付けられた体をかばいながら立ち上がり、またホタルイカの足を伸ばして木箱から青い丸薬を取り出し飲み込む。
するとやはりダメージは無かったかのように平然とヨーカイジャー二人を挑発するポーズを取る。
「オラオラそんなもんか?」
「てめえ、薬が無いと何もできないのか?」
「違うな、薬があれば何でもできるんだよ!!」
「ああそうかい!」
レッドが拳を構えて走り出す。
同時にブエルはまた背中の木箱にホタルイカの足を伸ばす。
その時…
「必殺妖技・肉球謝肉祭!!」
上空から無数の肉球型エネルギー弾が降り注ぐ。
レッドは急ブレーキを掛け、ブエルもギリギリでかわすが背中の木箱に被弾して木箱だけ爆散。
「あああああああああ!!!!!!」
上空にネコマタンとカマイタチ。
乗っていたピンクとイエロー、ブルーが飛び降り着地。
シルバーだけ着地失敗して頭から地面に埋まった。
「痛っ……たぁ…………弁当こっち持ってこようと思ってたのに忘れてた」
「だぁ~~~から頭!!! でもよく来てくれた!」
「お前ら予定あったのにすまない」
「映画はもう見てきた」
「面白かった!」
「拙者のステージも、さっさと終わらせてカマイタチにかっ飛ばしてもらえば間に合う」
「オイラも一緒に乗ってくし弁当もあっちに置いてある」
「そっかぁ。おかげであいつの無限回復使えなくなった!」
木箱が破壊されたことで、回復やドーピングに使う丸薬も、薬瓶に詰められたデビルギーも無くなった。
「よくも……やってくれたな……」
「誰が呼んだか旅烏 鼻高々にてんつくてん 天に代わって只今参上! 空の勇者、ヨーカイレッド!」
「誰が言ったか川流れ 流れるどころか掻き分けて 登って飛び出せナイアガラ! 水の戦士、ヨーカイグリーン!」
「誰が言ったか猫かぶり 花も恥じらうJK3 嘘はいらない夢見る乙女! 獣のアイドル、ヨーカイピンク!」
「誰に言われどカマわない イタチごっこにピリオド刻み 腹を切らずに悪を斬る! 風の剣士、ヨーカイブルー!」
「誰を染めるか狐色 こんこん今夜も手鞠歌 お目にかけましょ万華鏡 幻の賢者、ヨーカイイエロー!」
「誰もオイラを止められねえ! 当たるも八卦の大予言! 爆走疾風ギンギラギン! 閃光の覇者、ヨーカイシルバー!」
「夢も現も守るが仏 夢幻戦隊!」
「ヨーカイジャー!!!!」
「さっさと終わらせて、夏の続きを楽しもう!」
「オウ!」
グリーンの粋な掛け声でヨーカイジャーが走り出す。
ブルーがブライブレードで、シルバーがモメンカッターで、二人同時に斬り掛かる。
ブエルが顔全体からの光線を発射。
ブルーとシルバーは左右に分かれてかわす。
直後にグリーンが後ろからガチコンハンマーを振るう。
木箱が無くなった背中に火花が散り、足元をふらつかせながらも振り返りまた光線を放つ。
グリーンに光線が直撃したかに見えたがそれはイエローがキュービルンの能力カードで作った幻。
本物のグリーンはブエルが振り返るまでの僅かな隙に死角へ逃れていた。
グリーンの幻が消えて戸惑うブエルの真横から2発の打撃が同時に叩き込まれる。
それはテナガの能力カードで腕を伸ばしたレッドのパンチと、アシナガの能力カードで足を伸ばしたイエローのキック。
ブエルが吹っ飛び地面に転がった隙にピンクが必殺カードをムゲンブレスに入れる。
すると球状妖怪コロボックルが転送されてきてピンクの手の上に乗る。
「いくわよっ、ヨーカイジャータイフーン!!」
ピンクが妖力を注ぎ込むと、ボールは爽やかで愛らしいピンクに染まる。
「勝くん!」
投げられたボールをシルバーが受け取り、妖力を注ぎ込むと、ボールは力強く輝く銀色に染まる。
「千影!」
投げられたボールをイエローが受け取り、妖力を注ぎ込むと、ボールは妖しく魅惑的な黄色に染まる。
「武士!」
ブエルの背後を通って飛んできたボールをブルーが受け取り、光線をかわしながら妖力を注ぎ込むと、ボールは鋭く吹き抜ける風のような青に染まる。
「智和!」
真っ直ぐに飛んできたボールをグリーンが受け取り、妖力を注ぎ込むと、ボールは知性の奥に秘められた情熱を思わせる緑に染まる。
「拓実!」
受けやすい位置に飛んできたボールをレッドが受け取り、妖力を注ぎ込むと、ボールは勇気と正義を象徴する赤に染まる。
「いくぜ!!」
レッドはカラステングの能力カードで赤い翼を生やして空高く飛び上がり、地上に向かって大振りで投げる。
「どおおおりゃあああああ!!!!!!!」
ブエルは空中から投げられたボールを避ける体勢に入るが、ボールはブエルを飛び越え後ろで構えるグリーンに向かう。
「そっちか!!」
「こっちだ!!」
グリーンが受け取ったボールに妖力を込めると、ボールは再び緑に染まり、メガガッパーの甲羅を思わせる装飾が現れる。
それを真上に放り投げ、目の前まで落ちてきたところで連続張り手を叩き込む。
「必殺妖技・怒涛激流球!!」
叩き込まれた打撃力と激流の如き妖力が込められたボールが体勢を立て直しきれないブエルのボディを直撃。
「おみやげみっつ、たこみっつ…」
爆散。
「うよっしゃああああああああ!!!」
ボールは再びピンクの手に収まってコロボックルの姿に戻り、北海道に転送される。
そこへベルゼブルが羽音を立てて飛んできて、身構えるヨーカイジャー達の前に着地する。
「YO! お前らグレモリーどこ行ったか知らねえか?」
レッドとグリーンが組体操の「サボテン」のポーズ、ピンクとイエローが手足を振り軽快にターンを決めるアイドルダンス、ブルーがブライブレードを扇子のように持ち日本舞踊の動き、シルバーが頭を地面に付けて三点倒立。
「知らない」
「知らない」
「知らな~い」
「知らない」
「知らぬ」
「知らねー」
「絶対知ってるな!!! ……まあいい。あいつも遊び半分で勝手に地球に来たとはいえ…」
「そうだったの?」
覚えてない人はepisode:4を読み返してみよう!
「サタン様復活のための活動は手を抜かずにやってた。こっちで何があっても、それなりの覚悟はできてたはずだ」
「グレモリーが死んでてもいいってか?」
「いいってことはねえが、俺様達は目的を果たすため、必要な心構えってやつは出来た上で動いてんだ。グレモリーも、ブエルも、もちろん俺様もだZE!」
ベルゼブルは魔力で髑髏型のマイクを生成して呪文を唱える。
「YO!デビル デビレバ デビルトキ カモンデーモン デビデビレ 最後のバイブス、AGEてこうZE!」
ベルゼブルが目から放ったビームにより、ブエルの残骸が木箱も纏めて再生され、巨大なブエルの姿となりヨーカイジャー達を見下ろす。
「ドーピングを超えた巨大化ING!!」
「は!? 何つった!? 人間には発音しにくいぞそれ!? とにかく…」
「サモン、パートナーズ!!」
妖怪の里からゲキリンダー、メガガッパー、キュービルン、ブルクダン、オボログルマ、イッタンモメンが召喚され、ステルスモードで待機していたネコマタン、カマイタチも合流。
ビームによりヨーカイジャー達がコクピットに転送される。
コミゲ会場内では、駆け付けた妖怪治安維持部隊のメンバーが人間達の避難誘導を行い、妖怪情報統括部による記憶操作も既に開始されている。
ヒルコは背伸びしながら妖怪治安維持部隊隊長のネネコガッパに"頭ポンポン"をして、会場を出て宙に浮きメガガッパーの目線の高さまで飛んでくる。
「メガガッパー、相変わらずいい男だねぇ~」
〔やれやれ、今回も腰が痛いことにしてアミキリに来させるべきじゃった〕
「またまたぁ~、あたしと会えて嬉しいくせに」
ネコマタンのコクピット内でピンクが前のめりになる。
「なになに? 何このかわいい子! おじーちゃんの彼女?」
〔バカなこと言っとる場合か!! 戦闘中じゃぞ!!〕
「そうですヒルコ様、合体するので離れてください」
「はいはい邪魔してごめーん!」
ヒルコは数十メートル離れた地面に降り立つ。
そこに待っていたのは、呆れ顔のユキオンナ、にやけたニンギョ、今の会話の意味がよくわかっていないエージェント66β。
「えーっと、合体でいい?」
〔当たり前じゃろ!!〕
「じゃ……」
「夢幻合体!」
「夢幻合体!」
レッドとシルバーが合体カードを発動。
ムゲンビルダーとムゲンショーグン、金と銀の合体巨人がコミゲ会場を背に並び立つ。
巨大ブエルはホタルイカの足を伸ばし、背中の木箱から赤い丸薬とチューリップ型の剣を取り出す。
合体巨人達を前に、丸薬を飲んで筋力を上げた腕で剣を構える。
ムゲンビルダーがクロノジャベリンを装備して前進、斜めに振り下ろすが巨大ブエルはこれを剣で受け止め、至近距離で顔面からの光線を放つ。
ムゲンビルダーは直撃を食らい後退、コミゲ会場にぶつかる直前で踏みとどまる。
ムゲンショーグンが左手のガトリングを発射。
しかし弾丸は巨大ブエルの光線により全て蒸発させられ、ムゲンショーグンも直撃を食らい銀色のボディで火花が散る。
「貴様ら、避けないのか? ならばもっと食らえ!!」
巨大ブエルは更に光線を発射。
合体巨人達は両腕をクロスさせて防ぐがダメージは蓄積されていく。
合体巨人達が光線を避けない理由。
それは地上から戦いを見守る妖怪達にはよくわかる。
ヒルコは宙を飛び、合体巨人達の背後に移動。
両手を合わせて息を吐き、コミゲ会場全体を覆うバリアを発生させる。
「ヒーローはいつも不利な状況で戦ってるんだよね~。ホラ、会場はあたしが守ってるから、あんた達思いっきり戦いな!!」
「あのかわいい子、一人でバリア張ってるけど大丈夫なの!?」
「大丈夫だ、ヒルコ様なら」
「あの子、『様』って呼ぶような偉い子なの?」
「後で説明する。いくぞ!!」
合体巨人達は左右に分かれて光線を避ける。
光線はヒルコが張っているバリアに防がれ拡散し消滅する。
「な……!?」
動揺する巨大ブエルの真横からムゲンショーグンがガトリングを発射。
巨大ブエルは剣で防ごうとするも間に合わず全身に数十発命中。
ダメージに怯んでいる隙にムゲンビルダーがクロノジャベリンによる斬撃を繰り出す。
×の字に2発、丸薬を飲む暇を与えず突きを1発。
ふらつく足で思わず後退したところへムゲンショーグンが右手の手刀を1発。
「おのれえええええええ!!!!」
チューリップ型の剣を振り上げ走り出す。
直情的な攻撃に切り替えてきた巨大ブエルをモニター越しの視界に捉え、コクピット内のレッドがムゲンブレスに必殺カードを入れる。
「必殺大妖技・時空魔討撃!!!!!」
高速で駆け抜けながら巨大ブエルの体を時計の「9時30分」の形に切り裂く。
その軌道は眩い黄金の輝きを放つ。
「お……俺が負けるなんて……S・F!!!」
爆散。
「うよっしゃああああああああああああ!!!!!」
合体巨人達はクロノジャベリンと鋭い右手を空にクロスさせて健闘を称えあう。
ヒルコはバリアを消して、金と銀のボディに反射した日の光を浴びながら地上に降りる。
「ユキオンナ、なんで行かなかった?」
「あ……なんか見てたら大きくなれること忘れちゃってました……」
巨大戦を見守っていたベルゼブルの足に、風に飛ばされてきた何かが当たった。
それは例の献血のノベルティのクリアファイル。
ベルゼブルはそれを太陽に透かして眺め、そのまま持ってどこかへと飛び去っていった。
妖怪情報統括部により、「コミゲ参加者が世界一臭い缶詰であるシュールストレミングを会場内で開封してしまったため参加者スタッフ共に全員一時退出させられた」という情報操作及び記憶操作が行われ、2日間開催のコミゲは明日も問題なく開催されることとなった。
戦いが終わり、結月と千影は映画の後に行くと約束していたプールのウォータースライダーへ、武士はカマイタチでかっ飛ばしてイベントのステージに出演、勝は弁当を食べながらそれを応援。
拓実と智和は残りの時間でコスプレイヤーと交流する等してコミゲを堪能、ヒルコと3妖怪は用意していた冊子を完売。
宣言していた通り、それぞれの夏の続きを楽しんだ。
その夜、妖怪の里・河童ヶ沼。
星空の下、沼から上半身だけ出しているメガガッパーと、その肩に乗っているヒルコ。
ネネコガッパが一瞬顔を出したが、空気を察して水面下に戻る。
「お調子者のカラステング、優しすぎるネコマタン、カタブツのカマイタチに隠れドジっ子キュービルン。それに、強いけどアホなゲキリンダー、強いのに自己主張しないブルクダン。みんなあんたの元で、ヨーカイジャーと一緒に成長してる」
〔お前さんが目を掛けてる3体もな〕
「うん。ユキオンナはあたしが教えた巨大変化の術を使いこなしてる」
〔やはりお前さんの仕業じゃったか〕
「仕業って言い方ないでしょ? それであんた達助かったんだから」
〔それはそうじゃが…〕
「ロクロクビは悪魔の幹部相手に頑張ってるし、ニンギョは正体がバレない範囲で人間と友達になれる方法を探し続けてる」
〔ニンギョのような者には辛いじゃろうが、妖怪の存在を人間に知られては、お互いの平和な暮らしに支障が出てしまいかねん〕
「だから悪魔をやっつけたら人間達の記憶を書き換えて、元通り平和になりましたーって、一体いつまでこんなこと続けるの?」
〔ワシもずっとこのままでいいとは思わん〕
「だよね。情報操作は世界基準だから簡単には変えられない。それもわかるけど、若い奴らが守ろうとしてる未来を、あたしらがもうちょっと明るくしてやれたら……ってね」
〔うむ。国際基準を日本から変えていく……ということも考えていくべきかもしれんのう……〕
「いいねいいね! それでこそ長老妖怪メガガッパーだよ!!!」
ヒルコはメガガッパーの後ろ頭をバンバン叩く。
〔痛くないか?〕
「痛いよ。手ー真っ赤! でも良かった。あんたやっぱり、あの頃と変わらない……いや、あの頃よりもかっこいいよ!」
ヒルコは懐から取り出した長方形の板状の物を後ろ投げで沼に放り込み、すっと浮き上がり夜風を浴びながらひなびたアパートへ向け飛んでいった。
数秒後、沼からネネコガッパが板チョコを齧りながら顔を出した。
「なあジジイ、ばあちゃんが死んでから何年になる?」
〔そうじゃのう、ネネコが生まれるより前じゃったから、もうずいぶん経つのう…〕
「そっか。だったらばあちゃんも、許してくれるんじゃねえか?」
〔何をじゃ?〕
「オレはいいと思うぜ、ヒルコ様なら」
数秒間、夜風に木々が揺れる音だけが沼の上を漂う。
〔バッカモ~~~~~~~~~~~~~~~~~ン!!!!!!!!!!〕
「グレモリーの様子見てくる~~~~~~~!!!!!」
ネネコガッパは妖怪女子刑務所の方向に向かって水面を走り抜ける。
【to be continue…】




