episode:22 進撃の合体巨人
この作品は天道暁によるオリジナルのスーパー戦隊作品です。現在放送されているスーパー戦隊シリーズを制作・放送している各団体とは一切関係ありません。
オープニングテーマ「your kind!」
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「イーーーーーヤッハァーーーーーー!!!!」
巨大ベルゼブルが豪快にビルを蹴り壊す。
あちこちから煙が立つ大都市にまた一つ、瓦礫と「人間だったもの」の山が形成される。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
〔やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!〕
コクピット内のレッドと声を重ねながら、カラステングが空中右ストレート。
しかし避けられ半壊のビルにぶつかりかけて急ブレーキ。
その背中に回し蹴りが飛んでくるが、真横からのメガガッパーによる水流により阻まれ、ベルゼブルは背面跳びで数歩分距離を取る。
〔真夏の水撒きカッパスペシャル! これで少しは涼しくなるじゃろ!〕
コクピット内のグリーンが街を見渡し操縦桿を握り締める。
「お前らはどれだけ壊せば気が済むんだ!」
「HA! 気が済むとか済まないとかのためにやってんじゃねえYO!」
ベルゼブルが足元の瓦礫を蹴り飛ばす。
メガガッパーは背中を向けて甲羅で弾く。
〔ニャニャニャ!〕
ビルの屋上にネコマタンが音も衝撃も無く降り立つ。
そのコクピット内からピンクが叫ぶ。
「もー!あっちこっち壊すなって言ってるの!」
「おー、だったらこの前野球場造ったとこまた壊しに行こうか?」
「いやいや復興中のとこまた壊すのもだめだから!」
話しているうちにカマイタチ、キュービルン、ブルクダン、オボログルマ、イッタンモメンも降り立ち、巨大ベルゼブルを取り囲む。
「いくぜ!」
レッドがムゲンブレスに、シルバーがムゲンライザーに合体カードを入れる。
更にシルバーがムゲンライザーを腰のムゲンドライバーにセットする。
「夢幻合体!」
「夢幻合体!」
巨大妖怪達が宙に浮き上がり変形を始める。
カラステングの両腕がスライドして背中に回り、両足は折り畳まれる。
メガガッパーの両腕が引っ込み、甲羅が上にスライドして体の下半分が2本の足の形状になったところでカラステングの体の下に合体して「下半身」となる。
ネコマタンの尾と後ろ足が折り畳まれ、前足は爪が出た状態で頭に被さるようにスライドし、全体的に鋭い爪の付いた腕といった形状になりカラステングの左腕部分に合体。
カマイタチの刃物状の尾が外れ、後ろ足が折り畳まれ、鎌の付いた前足は頭に被さるようにスライドし、鎌の間に刃物状の尾が収まり全体的に鋭い剣の付いた腕といった形状になりカラステングの右腕部分に合体。
キュービルンの体が前部と後部で半分に分離、前部は中心にキツネの顔が付いたプロテクターといった形状に変形しカラステングの胸に合体、後部は九本のキツネの尾が付いたプロテクターといった形状に変形しカラステングの背中に合体。
最後にカラステングの下顎が大きく開き、中から人型の顔が姿を表した。
レッド以外の4人もカラステングのコクピットに転送され、ヨーカイジャー達から見て左から、ピンク、イエロー、レッド、グリーン、ブルーの順に席に着いた。
「完成、合体巨人・ムゲンオー!!」
5人声を揃えてその名を叫ぶ。
ムゲンオーは右手の夢幻斬空剣を斜めに掲げてポーズを決める。
ブルクダンの四肢と尻尾が折り畳まれながら体全体が直立、胴体下半分がスライドして2本に分かれて「足」になり、首から上の頭部が真っ直ぐに前を向く。
オボログルマの胴体前部が伸び、全体的にタイヤとガトリング砲の付いた腕といった形状になりブルクダンの左腕部分に合体。
イッタンモメンの尾が折りたたまれ、胴体前部が伸び、全体的に左右両側に鋭いカッターの付いた腕といった形状になりブルクダンの右腕部分に合体。
最後にブルクダンの首が回転扉のように回転、中から人型の顔が姿を表した。
「完成、合体巨人・ムゲンショーグン!!」
シルバーがその名を叫ぶ。
ムゲンショーグンは両腕の武器を交互に力強く前に突き出し、銀色の光を放ちながら腕を組んでポーズを決める。
並び立つムゲンオーとムゲンショーグン。
「今だネビロス!!」
ベルゼブルが叫ぶと、低めのビルの屋上にいる、顔は全体的にパンダ、緑の梅の実のような鼻、頭に蚊取り線香のような物が乗っており、柿の葉寿司のような胴体、備長炭のような手足、右腰にサイコロのような物、左腰にみかんのような物が付いている悪魔・ネビロスの、頭に乗った蚊取り線香のような物から柿色の煙が立ち上ぼり始めた。
その煙はムゲンオーの全身に巻き付くように纏わりつく。
ムゲンオーはヨーカイジャーのコクピット操作を受け付けず、頭を抱えて地団駄を踏む。
「どうしたカラステング!?」
〔わからない……わからないわからないわからないうわあああああああああ!!!!!!!!〕
その叫びと地団駄は突然止まり、ムゲンオーのコクピットのヨーカイジャー達は外へ投げ出され地面を直撃。
変身していなかければ死んでいただろう。
レッドが地面を掴み立ち上がりながら叫ぶ。
「カラステング! ムゲンオー!どうしたんだ!!」
ムゲンオーは棒立ちのまま返事をしない。
そんなムゲンオーに心配げに近付くムゲンショーグンとコクピット内のシルバー。
「おいおい大丈……」
その時突然、ムゲンオーは右手の夢幻斬空剣でムゲンショーグンのボディを切り裂いた。
「うわああああああああ!!!!」
「モ~~~~~~~~~!!!!」
「夢幻戦隊ヨーカイジャー」
episode:22「進撃の合体巨人」
衝撃で吹っ飛び倒れ込むムゲンショーグン。
起き上がり際にムゲンオーに顔面を蹴られ、続け様に浴びせられる右手の剣と左手の爪による連撃を両腕で防ぐがダメージは蓄積される。
「やめろムゲンオー!」
「あ、あやつの仕業でござろう!」
ブルーが指差すビルの上に、尚もムゲンオーに向けて煙を立ち上らせるネビロス。
ピンクはムゲンシューターを構え引き金を引く。
「パンダちゃん! かわいい子が酷いことしちゃだめ!!」
しかし銃撃は割って入った巨大ベルゼブルによって弾かれる。
「YO! こんな面白ぇショー、邪魔するのは野暮だZE!」
「面白くなーい!!」
巨大ベルゼブルとピンクの女子高生のやり取りを余所に、ムゲンオーは更に攻撃を続けていた。
右腕を大きく振り上げての一撃に耐えきれず、ムゲンショーグンは合体を解除され3体の巨大妖怪が地面に転がる。
シルバーもコクピットから投げ出され数十メートル先のビルの外壁に頭から突き刺さる。
「痛っっったぁ…………、ここパチンコ屋だけどオイラ入っていいのか微妙だな」
「だあああああああああから頭!! 333歳なら一応入っても駄目ではないけど、パチンコはやめとけってパチンコやってる知り合いが言ってた」
転がった巨大妖怪に追撃を加えようとムゲンオーが一歩を踏み出したその時、ムゲンオーは頭を抱えて苦しみだし、そのまま翼を広げてどこかへ向けて飛び立った。
「ムゲンオー!!!」
ヨーカイジャーだけでなく悪魔達にとっても予想外の事態だったようだ。
「あうああうあうあう!?!? と、とりあえず飛んで追い掛ける。ネビロス、転がってる奴ら見張っとけYO!」
「見張りなら既にグレモリー様が……」
グレモリーがラクダ型メカの傍らで、転がっている巨大妖怪達を恍惚の表情で見上げている。
「Ah……だったら俺様の背中に乗れYO!」
「は……はい!」
ネビロスがビルの屋上から巨大ベルゼブルの背中に飛び付く。
巨大ベルゼブルはムゲンオーを追って飛び立った。
地上のグレモリーの耳に飛び込んできた落下音。
恍惚の表情のまま見ると、そこにいたのは墜落して横たわるムゲンオー。
「まぁ、ムゲンオーちゃんも!!」
しかしそれはイエローが「必殺妖技・九尾幻燈演舞」により生み出した幻。
ヨーカイジャーはグレモリーがムゲンオーの幻に目を向けている間に巨大妖怪達を召喚。
ゲキリンダーとカシャが2体がかりでブルクダンを担いで飛ぶ。
バイク型妖怪であるライジュウに乗ったユキオトコがオボログルマを両腕で担いで走る。
人間のバイク乗りの皆さんは手離し運転を真似しないでね!
ヌリカベはイッタンモメンを体に乗せて回転飛行。
ヨーカイジャー達はゲキリンダーのコクピットに乗り、妖怪の里へ一時撤退。
幻が消え、グレモリーの目に映るのは破壊された街並みだけ。
眉を寄せながらラクダ型メカに乗り、ベルゼブルが飛び去った方向を予想して走り出す。
妖怪の里・ヨーカイジャー秘密基地前。
ゲキリンダーを始めとする今動くことができる巨大妖怪5体と、ヨーカイジャー6人がそこに集まっている。
〔さて、ムゲンオーが敵に操られ、ムゲンショーグンになれる3体は負傷し妖怪大病院に入院している今、君達が頼りにしているのは俺を中心に合体するムゲンビルダーだろう。上半身になるのは俺、腕になれる妖怪はここに4体もいる〕
〔バウバウ!〕
〔ウホウホ!〕
〔ブンブブン!〕
声を持たないヌリカベも触角を振ってやる気をアピールする。
〔キュービルンが担当しているプロテクターは、無ければ防御力に不安が出るし、キュービルン由来の膨大な妖力の供給が無くなれば、技の威力がそれなりに低下してしまうことが予想される。それより何より、キュービルンがくっついてくれるというシチュエーションにおける俺の胸のときめきが無くなれば、戦闘における俺のモチベーションが大幅に低下してしまうことが予想される〕
「お前そんなだから振られたんじゃね!?」
〔しかしプロテクターは最悪無しでも合体巨人としての体裁は保つことができるだろう。だが問題は足だ。足になれる妖怪は、今ムゲンオーの足として敵に操られている長老メガガッパーだけだ〕
「ヌリカベちゃん、なんとか頑張って足に変形とかできない?」
結月の声に反応し、ヌリカベは殻に守られた本体を色々な方向に捻ってみるが、どう頑張っても足にはなれそうもない。
「うん! もういいよヌリカベちゃん! 無理はしないで!」
ヌリカベは無理な角度に捻り続けていた本体を元に戻す。
その時、夏の日差しによく馴染む明るい声が一同の耳に飛び込んできた。
「やほやっほー!」
「ニンギョちゃん!!」
笑顔で手を振り、尾鰭で這ってくるニンギョ。
その傍らに、ウサギのような耳が生えた、銀髪ボブカットの白い和服にミニスカートの少女。
「困ってるヨーカイジャーの力になってくれる子を連れてきたよー!」
「あー、ユキオンナちゃん!」
「知り合いか?」
「うん! あたしと千影ちゃんは、ユキオンナちゃんニンギョちゃんと一緒に楽しいことしたんだよねー?」
「ねー。ユキオンナ、相変わらずかわいいね」
「いえいえ、そんなそんな…」
「一緒にした楽しいこと」について知りたい人は、作者のInstagramを確認してほしい。
「えっと、レッドさんとブルーさんははじめましてですね。雪原妖怪ユキオンナです。皆さんのお役に立てると思って来ました」
ユキオンナはウサギのような耳の生えた頭を下げる。
「ウサ耳で敬語で雪女か。いろいろ詰まってるな!」
「は……はい、わざとじゃないんですけど、詰まっちゃってます……」
「して、詰まっちゃってるユキオンナが拙者達の役に立ってくれるというのは……かき氷でも作ってくれるのでござるか?」
「かき氷!? いいね! ボク、シロップ持ってくるよ!」
足を生やして走りだそうとしたニンギョをユキオンナが腕を掴んで止める。
「いやいやいやいやいや、ニンギョちゃんは何しに来たか知ってるでしょ!?」
ニンギョは足を尾鰭に戻す。
「そうだったそうだった。でも、ボクもまだ話を聞いただけで、見せてもらってないんだよねー」
「はい、では! ニンギョちゃんにも、皆さんにも、お見せします!」
ユキオンナは軽やかな足取りで一同から距離を取り、広いスペースが確保できたことを確認し、両手を合わせて目を閉じる。
「巨大変化の術!!」
ユキオンナの体が白い光に包まれながら巨大化と同時に4本足に変化、白くつややかで金属質にも見える、巨大なウサギのような姿になった。
「ええええええええええ!?」
「ユキオンナちゃん!?!?!?」
「すごーい! ね!? ボクの友達すごいでしょすごいでしょすごいでしょ!?」
「すごいどころの騒ぎではござらん!」
「まさか、超高等妖術の巨大変化の術が使える妖怪を、こんな短期間に2体も見ることになるとは……」
声を上げるヨーカイジャー、四肢や触角をばたつかせる巨大妖怪達。
多種多様な驚き方に震える空気の中、勝が膝を突き平伏し両拳で地面を連打する。
「オイラこれ50年くらい練習しても全然できなかったのに!!!!!」
千影が銀ジャケットの背中に声を掛ける。
「ま…まあまあ、誰にでも得意不得意ってあるから……」
「いや、ヌラリヒョンはわかるよ? おっちゃんだし、すごい優秀な妖怪らしいし、実際強かったし、でも……あんな! あんなかわいいウサギちゃんが!! ウサギちゃんが!! あんな…………かわいいウサギちゃん…………キュービルンと同じくらいの大きさじゃね?」
千影は巨大なウサギちゃんを改めて見てみる。
確かに、千影にとっては物凄く見慣れたスケール感。
そのウサギちゃんをゲキリンダーが長い首を下げてまじまじと眺める。
〔うーん、俺がこの大きさの妖怪を足にすると………………絵面を想像したら新種のパワハラのようだった〕
困惑し色々な方向に目を向け最終的に智和に目線を合わせたウサギちゃんことユキオンナ妖獣態。
〔えっと、私もしかして、大きさが足りなかっ……〕
「いやいやいやいやいや! この大きさの巨大妖怪もいてくれると助かる! プロテクターにならなれるかもしれないし!」
〔確かにプロテクターもあるに越したことはないだろう。しかし今問題なのは足…〕
「お前ちょっと黙ってろ。そうだよ、こんな高等妖術、まさかユキオンナが使えるなんて!」
〔あ…えっと、ヨーカイジャーの皆さんや、友達のロクロクビちゃんが悪魔から世界を守ってるのを見ていて、私も何かお役に立てたらと思って、私だけではできなかったと思うんですけど、指導してくださった方がいるので…〕
ユキオンナに巨大変化の術を教えるような妖怪。
智和には心当たりがあったがその話はひとまず後にすることにした。
「とにかく、この状況で巨大妖怪の頭数が増えてくれるのはありがたい」
〔あ…よかったです。それではえっと、カード……〕
ユキオンナの体が光に包まれ、その光が凝縮して2枚のカードとなり千影の前に降りてきた。
千影はカードを手に取り視界をほぼ独占しているユキオンナに重ねて眺めてみる。
「召喚カードと換装カード。これがナチュラルに私の所に来るってことは、やっぱりユキオンナはキュービルンポジションなんじゃない?」
〔キュービルンポジション……ちょっとプレッシャー感じちゃいますけど、がんばります!〕
ユキオンナは背筋と耳を伸ばして「お座り」のポーズ。
一方、腕に変形する巨大妖怪達は何やらユキオトコを中心にざわついている。
拓実はゲキリンダーに翻訳を求める。
〔カシャとライジュウは、ユキオトコとユキオンナで冷凍系が被っているのが気になるらしい。ユキオトコは似た能力の仲間ができてむしろ嬉しいと言っている。ヌリカベはユキオトコが良ければそれでいいという立場らしい〕
「うーん、俺もユキオトコが良ければそれでいいと思う」
「能力被りくらいどうってことねえよ。オイラなんか悪魔の幹部と色被りしてるもん」
〔なんかごめんなさい、大きさも能力も…〕
「ユキオンナちゃんはなんにも悪くないよ!」
「うむ。悪いのはムゲンオーを操っておるパンダでござる」
「はい、ここは智和が冷静な判断で納めてくれまーす!」
「また丸投げか。やるけどさ。能力はどっちも冷凍系でも、合体巨人のどの部位になるかで能力の活かし方が違ってくるだろうし、問題ないだろう」
〔あ……ありがとうございます!〕
「部位ってなんか旨そうな言い方じゃね?」
「うん、俺も自分で言ってて牛の輪郭の中にミノとかロースとか書いてある表が頭過ぎった」
などと話している間にも、合体巨人の足を確保できないまま時は過ぎていく。
一か八か合体せずにムゲンオー奪還に向かう案がヨーカイジャー、巨大妖怪双方から出始めたその時、上空に紫色の裂け目が稲妻のようなスパークを伴って現れた。
「何だ!?」
「レヴィアタンの巨大軍艦が現れた時に似て……いや……」
〔そんな邪悪な気配は感じられない〕
〔バウバウバウ!〕
〔カシャもあの軍艦のような臭いはしないと言っている〕
「じゃああれは……?」
裂け目からゆっくりと姿を現したそれは、古生代の海に生息した生物・ウミサソリに似たフォルムの紫色の何か。
巨大妖怪は全体的に、人間から見れば「メカっぽい」外見をしているが、ウミサソリに似たそれは金属的な光沢を放つボディ、ライトのような目……と、地上からそれを見上げている巨大妖怪達以上にメカっぽい。
それは蒸気のような物を噴出しながら広いスペースに垂直着陸。
地上に降りたそれを見てみると、体長はゲキリンダーの2倍以上はあろうかと思われる大型の「何か」であることがわかる。
その「何か」の目からビームが放たれ、ちょうどヨーカイジャーがパートナー妖怪のコクピットから降りてくる要領で何者かが降りてくるのが見えた。
ヨーカイジャーと巨大妖怪達は、すぐに戦闘に入れる体勢は崩さないものの、降りてきた何者かが恐らく敵ではなさそうだということをぼんやりとした感覚で感じ取ることができていた。
その何者かは色鮮やかな紫の戦闘服を身に纏い、右腰にはカードケース、左腰のホルダーにはヨーカイジャーのムゲンソードを思わせる剣を携え、頭にはウミサソリの攻撃性と乗ってきた「何か」のメカっぽさを彷彿とさせる紫のフルフェイスマスクを装備していた。
一同を代表し智和が一歩前に出るが、紫の何者かはどこか別の方向を見て立ち尽くしている。
「えっと、君は?」
「え……あ! えっとえっとえっとあ、あ、あ!」
声と体形と戦闘服のデザインから女性らしいことがわかる。
「私は……」
紫の何物かは大きく腕を広げて深呼吸。
「……ふぅ。私は……………………誰でしょう?」
「知るか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ヒト語を話せる全員からのツッコミ。
紫の何物かは乗ってきた何かに向けて小さく片腕ガッツポーズ。
「よし。よし。掴みはいけた。掴みはいけた」
千影が一歩前へ。
「智和、誰これ? ヨーカイジャー?」
「いや、こんな奴は知ら……」
「若っ!!!! 綺っっっ麗!!!!! やっば!!!!!!!!!!」
「え?」
「いやいやいやいやえっとえっと……」
結月も一歩前へ。
「この人絶対いい人だよ! 千影ちゃんの綺麗さがわかる人に悪い人なんていな……」
「若っ!!!!!!!!!!! かわいいかわいいいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!!!!!!」
「えええええ…」
「うん、確かにいい人かもね。結月のかわいさがわかるみたいだから。で、誰?」
「ヤバいヤバいヤバいヤバ……あ、ああああああああああ、あ! 申し遅れました! 私、ヨーカイヴァイオレット。未来から来たヨーカイジャーです!」
「ゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑ!?!?!?!?!?」
一同、声を揃えて仰け反って驚く。
ゲキリンダーが紫の亀裂が既に閉じられた空を訝しげに見る。
〔君達、未来から来たと言ったがどうやって?〕
「え? どうやってってさっき……じゃないか。この時代から見たら未来なのか。えっとねぇ、未来のことはあんまりネタバレするなって言われてるの。だから言えない! 私の顔も見せられないから変身解除もできない! ごめんね!」
ヴァイオレットは両手を合わせて小首を傾げる。
〔そうか。ならもう聞かないことにする〕
ゲキリンダーは先日中国で三大妖怪と話したことを思い出し、とりあえずこの状況を飲み込んでおくことにした。
マスク越しの視線にゲキリンダーへの信頼を覗かせるヴァイオレットに、拓実結月勝武士ニンギョが走り寄る。
「なあなあなあ! 一繋ぎの大秘宝の正体ってわかった?」
「ボール投げてモンスター捕まえるゲームは何世代まで出てる?」
「奇妙な冒険は何部まで続いてる? あの作者ずっと見た目変わらない?」
「水戸の副将軍のドラマは何部までやっておる?」
「ゼェーット! のアイドルグループってずっと活動してる?」
「お前ら落ち着け。で、ハンターの漫画は完結したのか?」
「あんたも落ち着け。で、フェミニストから嫌われてるあの女性議員は日本初の女性総理大臣になれた?」
「皆さん今ネタバレしないって言ったの聞いてました?」
未来から来たヨーカイジャーに一通り興奮し終えた一同は、改めてヴァイオレットが乗って来た「何か」に目を向ける。
「で、こいつは何?」
拓実が「何か」を指さす。
「この子はアミキリ。私と同じ時代の妖怪。この時代でこの子の力が必要になるって聞いたんだけど…」
「アミキリ? 智和知ってるか?」
「アミキリ……聞いたことが無いな。似た形の妖怪の伝承がどこかにあるようなことを何かで読んだ気もするが…」
「この時代ではその名前で呼ばれてないのかも。正式名称は、
Atuisoukouga
Monosugokukatakute
Ikanarukougekinimo
Kizutukanai
Itumogenkide
Rippanitatakau
Iijansugeejan
略して、AMIKIRI!」
「清々しいほど日本語のローマ字!!」
〔ピポポピポポピ!〕
「何だ今の?」
「この子の鳴き声」
「見た目だけじゃなく鳴き声もメカっぽい! ほんとに妖怪?」
「うん、タマゴから生まれたんだよ」
「タマゴ!?」
「じゃあボクと一緒かぁ」
「ニンギョもタマゴから!? 驚かなきゃいけない新情報増やすな!」
〔ピポポピピピピガガガガガ!〕
アミキリの体が光に包まれ、その光が凝縮して1枚のカードとなり智和の前に降りてきた。
智和はカードを掴み思わず声を上げる。
「これは……換装カード!?」
「そう! そのカードと、これ!」
ヴァイオレットは腰のカードホルダーから1枚のカードを取り出し智和に差し出す。
「智和さんに渡せばいいって聞いてます」
「そうか…」
智和はさりげなく名前を呼ばれたことを気にしながらもカードを受け取る。
「それは特別な召喚カードで、使えばアミキリが時空を越えて駆けつけるそうです!」
「いいのか? こいつ君のパートナー妖怪だろ?」
「私の正式なパートナーは、この子のお母さんなんです。だからこの子はこっちの戦いに専念させても大丈夫。だけどやっぱり、お家には帰らなきゃいけないんで」
「だからこのカードで2つの時代を行き来して戦う、と?」
「はい、そういうことです!」
「なるほどな。ということは、話の流れとこいつの大きさから察するに……」
拓実が智和の肩の後ろから顔を出し、アミキリを指さす。
「こいつが合体巨人の足になるってことか!?」
「うん、そうじゃない? この子のお母さんも足になってるし」
「そっか……。どうだゲキリンダー!?」
〔うん、大きさは充分。だが……アミキリと言ったな? 君は……〕
〔ピピピピポポピ!〕
「何て?」
〔今のを人間風に言うなら、バブバブバブー!〕
「え?」
「この子、一週間前に生まれたばっかだから」
「赤ちゃんか! デカいのに!」
〔ガガガガピー!〕
「でもちゃんと人間の言葉は理解できるから、戦うのには問題ないと思う!」
「へー。妖怪ってほんと色々だな。とにかく、やってみるか合体!」
〔悪くないだろう。腕はクロノジャベリンを持てる腕を希望したい〕
「だったらヌリカベちゃんは決まりだね。盾と一緒に普通の手も付いてるから」
ヌリカベが元気よく触角を振る。
「他の奴らは銃と槍と殴る専用の開かない拳だしな。やけん持てんと思う」
智和が残りの3体を見てもう片方の腕に必要な能力を考える。
「そうだな、もう片方はライジュウでいこう。相手がムゲンオーなら、スピードが重視される接近戦になることが予想される」
「よし、それじゃあ決まりだ。合体するのはゲキリンダーとヌリカベとライジュウ、そしてユキオンナと
Atuisoukouga
Monosugokukatakute
Ikanarukougekinimo…」
「正式名称やめろ」
変身したヨーカイジャー初期メンバー5人。
ビームでゲキリンダーのコクピットに転送される。
「いくぜ、夢幻合……」
レッドがムゲンブレスに合体カードを入れようとした手を止める。
「メンバーだいぶ違うけどいつものムゲンビルダーのカードで合体できるのか?」
「妖力は強い思いに反応し形になることがある。やってみよう」
「だな! いくぜ、夢幻合体!」
レッドがムゲンブレスに合体カードを入れると、5体の巨大妖怪が宙に浮かび変形を始める。
ゲキリンダーの両前足と尻尾が外れ別次元へ転送され、後ろ足が背中側へ折り畳まれ、体全体が垂直に起き上がり首が体内に引っ込むようにして合体に適度な長さになる。
アミキリの尻尾が外れ、体全体が垂直の姿勢になり、体の前方4分の1程の部分が前に倒れて「腰」となり、それより下の部分が二股に分かれ、180°回転して「つま先」に当たる部分が前に来て「足」となり、外れていた尻尾が合体巨人の尻尾に見える位置に付いて、ゲキリンダーの体の下に合体し「下半身」となる。
ヌリカベの触角が引っ込み、殻が左に来る向きに体を動かし、本体下の部分から拳のような物が出て、盾の付いた腕の形となりゲキリンダーの左腕部分に合体。
ライジュウのタイヤが胴体の中に格納され、角が伸びて真っ直ぐ前に倒れて槍のようになり、ゲキリンダーの右腕部分に合体。
ユキオンナの体が前部と後部で半分に分離、前部は中心にウサギの顔が付いたプロテクターといった形状に変形しゲキリンダーの胸に合体、後部は雪の結晶を思わせる形のプロテクターといった形状に変形しゲキリンダーの背中に合体。
最後にゲキリンダーの首が回転扉のように回転、中から人型の顔が姿を表した。
「すげえ! 合体できた!」
〔だがやはり例によって足は動かないし胸の顔は飾りのように生気が無い。名前が必要だ〕
イエローが勢いよくピンクに顔を向ける。
「名前といえば?」
「はいあたし! えっと……盾と槍……そんでユキオンナちゃんと……未来から来た妖怪…………お!」
ピンクが手を「ポン!」と叩く。
「ムゲンビルダーナイト・スノー&フューチャー!!」
その声が届き、胸のユキオンナと腰のアミキリの目に生気が戻る。
「なるほど、盾と槍を持つ西洋の騎士のイメージでござるな!」
「そう!」
〔ムゲンビルダーナイト、悪くないだろう〕
〔スノー&フューチャーは、私と未来から来たアミキリさんの要素を無理に混ぜずに「&」で繋いだんですね!〕
「うん! この先ユキオンナちゃんとアミキリちゃんが別々に合体することもあるかもしれないし、プロテクターと足は腕と比べたら組み合わせが能力の特徴になりにくいと思ったから、『スノー』と『フューチャー』は別々にしといたの!」
「さっすが結月! ネーミング最強JK!」
イエローがピンクを抱きしめながら頭を撫で回し、ピンクは手足をバタつかせる。
そしてコクピットの全員でその名を叫ぶ。
「完成、合体巨人・ムゲンビルダーナイト・スノー&フューチャー!!」
長いので地の文での呼び名は「ムゲンビルダーナイト」とさせて頂く。
ムゲンビルダーナイトは足を高く上げて振り下ろし、歌舞伎の見栄を切る動きでポーズを決める。
地上の勝はバンザイ、ニンギョは跳びはね、ヴァイオレットは拍手で、新たな合体形態の誕生を喜ぶ。
「ユキオンナちゃーん! すごいよカッコいいよー!」
ニンギョが手を振りながら魚のように跳ね回る。
〔カッコいいですか!? わかりにくいと思いますけど、今私照れてます!〕
「いやわかるよー! かわいいよー!」
〔そんなそんなそんな……〕
ここでグリーンのムゲンブレスに連絡が入る。
「ムゲンオーと悪魔達の居場所がわかった」
「よーし、お前らも来い!」
ムゲンビルダーナイトの目からビームが放たれ、勝とヴァイオレットがコクピットに転送される。
ゲキリンダーのコクピットは元々6人くらいなら余裕で入れる広さ。
7人でもそれほど狭くは感じない。
「ヴァイオレット、掴まってろ!」
「うん…………!」
ヴァイオレットは座席に座ったレッドの肩に手を置く。
ムゲンビルダーナイトは今までより軽やかに地面を蹴り、下半身から漲る未来的なエネルギーに持ち上げられるように空へ飛び上がる。
「待ってろムゲンオー!!」
ニンギョ、ヌリカベ、ユキオトコの見送りを背に、ムゲンビルダーナイトは決戦の場へ向け空を行く。
関東某所の山岳地体。
ネビロスの煙による呪縛を受けながらも、強い意志を以て人気の無いここへ飛び込んできたムゲンオー。
纏わりつく煙を振り払うように転げ回る。
「んも~、しぶとい! これならどうだ!?」
ネビロスが胴体の柿の葉の隙間からもう1本の蚊取り線香を取り出し、頭に乗せる。
これにより2本分の煙が立ち上ぼり、ムゲンオーに2倍纏わりつく。
それでも抵抗し転げ回っていたムゲンオーだったが、ついに5体分の瞳から意志の強さが失われ、立ち上がり「きをつけ」の姿勢になった。
ネビロスは煙を安定させるため、肩で息をしながら蚊取り線香に魔力を注ぐ。
その隣に降り立つ人間サイズのベルゼブル。
「YO! ブラザー! よくやった。これでこいつは完全に俺様達の手駒になったわけだな?」
「はい……まあ、僕が倒れない限り……」
「きつそうだな。食いもん持ってきてやる。お前、肉まん食ったことあるか?」
「フゥ……フゥ……肉まん? 何ですかそれ?」
「人間が作ったにしちゃあうめぇ食いもんだ。それ食って元気だして、このデカブツ操ってデビルギー集めまくろうZE!」
「はい! ありがとうございます! グレモリー様と待ってます!」
グレモリーはラクダ型メカに乗って「きをつけ」の姿勢のムゲンオーをまた恍惚の表情で見上げている。
「あいつの分も一応いるかな? OK、待ってろ!!」
ベルゼブルが以前絶賛した中華料理屋に向けて飛び立とうとしたその時、木々と岩々を震わせる轟音が空の彼方から迫ってきた。
「何だ何だ!?」
「この音……まさか!?」
青空に重なる金色と紫のボディ。
反射する光が邪悪な煙に纏わりつかれたムゲンオーを照らす。
「キンキラ巨人、見たことない妖怪くっつけて来やがった。俺様はしばらく巨大化は控えなきゃなんねえ。やれるか?」
「はい! 頑張ります!」
ムゲンオーが曇った視線を空へ向け身構える。
空中のムゲンビルダーナイトに走る緊張感がコクピット内のヨーカイジャーに伝わる。
「いくぞ!」
「オウ!」
「誰が呼んだか旅烏 鼻高々にてんつくてん 天に代わって只今参上! 空の勇者、ヨーカイレッド!」
地に足を着けたムゲンビルダーナイト。
ムゲンオーが走り出し距離を詰める。
「誰が言ったか川流れ 流れるどころか掻き分けて 登って飛び出せナイアガラ! 水の戦士、ヨーカイグリーン!」
ムゲンオーが右手の夢幻斬空剣を斜めに振り下ろす。
それをムゲンビルダーナイトは左腕の盾で受け止める。
「誰が言ったか猫かぶり 花も恥じらうJK3 嘘はいらない夢見る乙女! 獣のアイドル、ヨーカイピンク!」
ムゲンオーは一歩下がり、踏み込みの勢いを乗せて左手の爪を振り下ろさんとする。
「誰に言われどカマわない イタチごっこにピリオド刻み 腹を切らずに悪を斬る! 風の剣士、ヨーカイブルー!」
腰に付いているアミキリの付属肢のうちハサミが無い3対から、マシンガンのように鋭い妖力が撃ち出される。
「誰を染めるか狐色 こんこん今夜も手鞠歌 お目にかけましょ万華鏡 幻の賢者、ヨーカイイエロー!」
ムゲンオーは両腕をクロスさせ被弾する範囲を最小限に抑えながら後退する。
地上のネビロスは蚊取り線香を更に1本増やし魔力を込める。
「ヤロー! ナメたマネしやがって!」
そこへオボロバルカンの銃撃。
ベルゼブルの反応が遅れ、割って入る直前に2~3発食らいネビロスは横転。
「誰もオイラを止められねえ! 当たるも八卦の大予言! 爆走疾風ギンギラギン! 閃光の覇者、ヨーカイシルバー!」
「来やがったな色被りシルバー!!」
ベルゼブルがシルバーを複眼に捉え拳を構えたその時、一筋の疾風のごとき紫の斬擊がベルゼブルのボディに火花を散らす。
「誰が言ったか七光り 光るは紫これ一本 今宵は私とShall We Dance? 飛天の舞姫・ヨーカイヴァイオレット!」
ベルゼブルは足場の岩を砕き踏みしめながら、両手に紫の短剣を持ち空中で3回転ターンを決めるヴァイオレットにも警戒を向ける。
「夢も現も守るが仏 夢幻戦隊!」
「ヨーカイジャー!!!!」
コクピット内の5人と地上の5人、ヨーカイジャー7人名乗り。
「いつの間に紫が沸いてきやがった? まあいい、ネビロス! おめぇはデカブツ操るのに集中してろ!」
「はい! 踏ん張ります!」
横転していたネビロスが立ち上がり、3重になった蚊取り線香から濃度を増した煙を立ち上らせる。
一瞬支配を解かれかけたムゲンオーが再び剣を構える。
〔ムゲンオー、願わくは君と一度手合わせしてみたいとは思っていたが、望んでいたのはこんな形ではなかった……〕
ムゲンビルダーナイトが左手にクロノジャベリンを装備し、右手の槍と共に構え走り出す。
その思いを汲んだコクピットのヨーカイジャー達にも気合いが入る。
「ブッ叩いて正気に戻す!」
「それが叶わなければ、ある程度のダメージを与えて動きを止める!」
「ムゲンオーに街を壊させるわけにいかないもんね!」
「少なくとも、ムゲンビルダーで相手をしている間はその心配はござらん!」
「悪魔の相手は勝と紫ちゃんに任せて、いくよ!!」
ムゲンオーも走り出し、両者の武器がぶつかり合う……と思われたがムゲンオーは激突直前に重心を下げムゲンビルダーナイトの腰を両腕で捕らえ、そのまま頭上まで持ち上げパワーボムの要領で投げ落とす体勢に入る。
しかしムゲンビルダーナイトは腰に生えたアミキリの尻尾をムゲンオーの上半身に巻き付け、それを支点に体を捻り、ムゲンオーの背後に回り地に足を着け、逆に持ち上げバックドロップの要領でムゲンオーを真後ろへ投げ落とした。
地上のネビロスのパンダ顔に焦りが見える。
「なんでなんで!? スピードと技のキレはムゲンオーのほうが上だって聞いてるぞ!?」
ヴァイオレットが2本の短剣・アミュレットダガーでジャミリアー2体を切り裂き、アミキリの能力カードによる飛行能力でネビロスに向かう。
「合体巨人の強さは妖怪達とパートナーの意思と絆があってこそ! それが無い今のムゲンオーは、本当の強さを発揮できない!!」
「なんだとー!?」
「これ半分くらい、ある人の受け売りなんだけどね!」
立ちはだかるジャミリアー達を次々切り捨て、アクロバティックな旋回からネビロスに斬りかからんとしたその時、高速で割って入った視覚的には二本足歩行のラクダ型メカなグレモリー・バトルフォーメーションが片腕で斬擊を受け止める。
「素敵なショーを邪魔しないで」
「あら…あなたのほうが素敵よ?」
「あらありがとう」
素早いラクダ色の回し蹴り、ヴァイオレットはそれをかわし空中高く、そこから急降下の勢いでキックを仕掛けるがこれもグレモリーは両腕で受け止める。
と、そこへベルゼブルが避けたオボロバルカンの流れ弾が飛んできてネビロスだけが逃げ遅れる。
「あだだだだだだ!!!」
「今だ!」
ヴァイオレットはムゲンブレスにアミキリの必殺カードを入れる。
「必殺妖技・飛天百烈斬!」
ヴァイオレットの体が紫色の光に包まれ、超高速飛行でネビロスの懐に入りアミュレットダガー2本によるメッタ斬り。
火花が飛び散り刃の軌道が紫に輝く。
ネビロスは連擊に耐えきれず背中から倒れる。
「ネビロスの夏、日本の夏……」
爆散。
「うよっしゃああああああああああああ!!!!!」
ヴァイオレットが爆炎をバックに腕を振り上げ叫ぶ。
「すげえ……」
「なかなかのリリック、聞かせてもらったぜ……」
シルバーとベルゼブルはヴァイオレットの技にしばし目を奪われていたが、我に返りムゲンオーを見る。
ムゲンオーに纏わりついていた煙は消え、合体している妖怪達の目にいつもの光が戻っていた。
〔痛ててててて……〕
〔ワシらは一体……?〕
「やったぜ戻った!!」
〔なんか、パンダみたいな奴に操られる夢見てて……〕
〔ニャニャ……〕
〔ビビーッ……〕
〔それは夢ではない。だがパンダはもう倒された〕
ヴァイオレットが地上から手を振っている。
〔ムゲンビルダーに投げられた夢も見たような……〕
〔それは夢だ〕
〔コンコン?〕
〔ってかムゲンビルダー!? 足!? ウサギ!? なんだこれ!?!?!?〕
〔後で説明する。それよりいつも通りならこの後、パンダが巨大化するだろう〕
「勘がいいなキンキラ!」
「やらせないぜ!」
シルバーがまたベルゼブルにオボロバルカンを向ける。
「いいややるZE! グレモリー!!」
グレモリーがラクダ型メカから飛び出し、気付いて飛んできたヴァイオレットの攻撃を避けながら呪文を唱える。
「デビル デビレバ デビルトキ カモンデーモン デビデビレ 最後の一花、咲かせてごらんなさい」
投げキッスにより発射されたエネルギー体がネビロスの残骸に到達し、残骸は巨大なネビロスの姿となり叫ぶ。
「カムバックパンダーーーー!!!!」
巨大化したネビロスを迎え撃つのは、並び立つ2体の合体巨人。
「また操ってやる!」
巨大ネビロスの頭の蚊取り線香から煙が立ち上り始める。
〔やめてください!〕
ムゲンビルダーナイトの胸のユキオンナの口から冷気が放出され、蚊取り線香の先の部分が凍りつき煙が止まる。
「あわわわわわわ!!」
巨大ネビロスが頭上に気を取られている隙にムゲンオーが距離を詰め、頭の蚊取り線香を支えている支柱のような物を斬り落とす。
「痛って! あー酷い! あー酷い!」
〔酷いのはおめーだろ!〕
その時、ムゲンビルダーナイトのコクピット全体が光り輝き、その光が凝縮してレッドの目の前で1枚のカードの形になる。
「これは……新しい必殺技!!」
レッドがカードを手に取りムゲンブレスに入れると、ムゲンビルダーナイトの妖力が両足に集中し紫色の光を放つ。
「必殺大妖技・未来魔蹴脚!!」
技の名前を5人で叫ぶ。
ムゲンビルダーナイトがジャンプし空中で立体回転、そこから付属肢のマシンガンを連射しながらドロップキックを放つ。
巨大ネビロスはマシンガンの連射で動きを鈍らされながら妖力を込めた両足蹴りを食らい派手に吹っ飛んだ先の地面で全身を強打。
ふらつく足で立ち上がりながら、左腰のみかんのようなデビルギー容器を取り外し合体巨人達に見せる。
「未完!!」
爆散。
「うよっしゃああああああああああああああああ!!!!」
ムゲンオーとムゲンビルダーナイトは互いの剣と槍を空に向け打ち付け合い勝利の余韻を分かち合う。
地上ではシルバーとヴァイオレットが連続ハイタッチ。
ベルゼブルは巨大ネビロスがいた方向に「チェケラ!」の指を向ける。
「ネビロス、おめぇは若干メンタルの弱さがあったが……すんげぇ能力と頑張りに最高のリスペクトを与えるZE!」
そう言ってベルゼブルはどこかへと飛び去った。
「合体巨人ちゃんを操れる悪魔…………他にもいないかしら?」
グレモリーは火照り顔でラクダ型メカに乗りどこかへと走り去った。
妖怪の里へと帰還したヨーカイジャーと巨大妖怪達。
巨大妖怪達は合体を解除、ヴァイオレット以外のヨーカイジャーも変身を解除。
ユキオンナも通常形態に戻り、倒れかけた体をニンギョに受け止められた。
「お疲れお疲れお疲れー! ほんとにお疲れだねー!」
「はい、ほんとに疲れちゃいました……。でも、お役に立てて嬉しいです……」
智和からの説明を一通り聞き終えたムゲンオー合体メンバーの妖怪達。
〔操られちまうなんて、俺もまだまだ修行が足りねえや〕
〔ゲキリンダー、どうじゃったね新しい合体は?〕
〔プロテクターのほうは、妖力量と俺の胸のときめきはキュービルンのそれに及ばなかった〕
話を聞いていたキュービルンはそっぽを向いた。
〔だがいつもより体が軽く感じられた。ユキオンナの冷気以外の力の影響かもしれない〕
ニンギョがユキオンナの足をマッサージしながら呟く。
「ユキオンナちゃん運動神経いいもんね」
「確かに跳ね回ることには自信がありますが……それが合体形態にも影響したんでしょうか?」
ユキオンナはウサギのような耳をピクピク動かす。
〔そして足のほうは、正直、長老よりもしっくりくる感じがした。時間を戻す力を持つ俺と時間を越えてやってきたアミキリに、何か通じる物があるということだろうか……〕
〔そうか、ならこれから腰の調子が悪いときはアミキリに行ってもらおうかのう〕
この話に智和は反応せざるを得ない。
「長老、腰悪かったんですか?」
〔ヌラリヒョンの時ちょっぴり調子悪かったから、合体せずに解決して、内心ほっとしとったんじゃ〕
ヴァイオレットは戦いを終えたヨーカイジャーや妖怪達の和やかなやり取りを感慨深げに見つめた後、アミキリに駆け寄りまた深呼吸。
「それじゃ、私達はそろそろ帰ります」
「え、もう帰っちゃうの?」
結月の声に残念な気持ちが滲む。
「素顔見せて! 名前教えて!」
「名前は…………秘密です! 素顔も!」
「え~? じゃあじゃあ、あと何年生きたらまた会える?」
「それもネタバレなんで!」
ヴァイオレットは腰に左手を当て右手人差し指を立てる。
マスク越しでもウインクしているであろうことが何となく伝わる。
そんなヴァイオレットに拓実が笑顔で声を掛ける。
「また遊びに来いよ!」
「うん……。アミキリは召喚してくれたら来られるからね!」
ヴァイオレットは軽快なステップを踏み皆にお辞儀して、アミキリのビームでコクピットに転送される。
アミキリが蒸気のような物を放出しながら浮き上がると、空にあの紫色の時空の裂け目が現れる。
「また会いましょう、いつか未来で!」
〔ピポポピポポピー!〕
アミキリが飛び込むと、時空の裂け目は消え、空は見馴れた姿に戻った。
「いつか未来で……か。守んなきゃな、あいつの未来!」
拓実は空に向かって思い切り両腕を伸ばす。
時空間を移動するアミキリ。
そのコクピットの座席で、ヴァイオレットは変身を解除する。
紫のジャケットに白いシャツ、紫のミニスカート。
黒髪ミディアムヘアを撫でながら無邪気な笑みを浮かべる。
「あれがママと出会う前のパパか…………昔から赤が似合ってたんだな~」
操縦桿を握り、自分達の時代へ向けて加速する。
【to be continue…】
本編を読んだ後は「ヨーカイジャー悪魔データベース」で、登場した悪魔の情報をチェックしよう!
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