episode:21 海と夏と妖怪と
この作品は天道暁によるオリジナルのスーパー戦隊作品です。現在放送されているスーパー戦隊シリーズを制作・放送している各団体とは一切関係ありません。
オープニングテーマ「your kind!」
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関東某所、海水浴場。
結月は更衣室で、ピンクのビキニを着た自分の首から下を見下ろしていた。
千影と色違いで、そしてサイズ違いで買った水着。
これを着ている自分は可愛い、はず。
千影ちゃんには敵わないだろうけど、少なくとも人様に晒して不快な思いをさせてしまうような状態ではない、はず。
そのはずだ。
そうありたい。
そうあるためにゲキリンダーの中国土産の桃饅頭を1個で我慢してコンディションを整えてきた。
少なくとも千影ちゃんは褒めてくれる、はず。
いつも「可愛い」と言ってくれる千影ちゃん。
ピンクのビキニに守られたJK3のまだ陽に焼けていない白い素肌を目にしたら、思わず体温が急上昇して周囲の空気を歪めて蜃気楼を発生させ3人に増えてしまうかもしれない。
もし千影ちゃんが変身もせずにそんな幻を生み出したら、
「キュービルンの影響!?」
と言ってツッコんであげよう。
そんなことを考えて結月は小声で、
「キュービルンの影響!?」
を練習して深呼吸を2回。
息を整えてから隣を見る。
すると視神経を貫いてJK3の脳細胞全てを支配し尽くしたのは千影の豊満且つ適度に引き締まった曲線美が自分が着ているのと同じ形をしているとはにわかには信じがたい黄色いビキニにギリギリのラインまで攻撃力を抑え込まれた姿。
「結月かわ……」
千影の笑顔から褒め言葉が零れようとしたその刹那、結月は思わず連続バク転を開始しアクロバティックに更衣室を飛び出し海へと突き進んでいった。
「ネコマタンの影響!?」
「夢幻戦隊ヨーカイジャー」
episode:21「海と夏と妖怪と」
ビーチに集合したヨーカイジャー6人。
皆、メンバーカラーの水着を着ているが、「現代を生きる侍」を意識した武士の青い褌のみ結月にやや不評だった。
智和の指導の元準備運動。
途中、いくつかカッパしかやらないような動きがあった。
カッパと共に育った人間ならではの準備運動なのであろう。
それを終えると一斉に海へと走り出す。
結月と千影が波打ち際で水を掛け合う。
「青春」を表現するためにスローモーションのような動き。
キラキラ輝く水しぶきがまさに「青春」。
それを見た拓実が変身前の姿でクロノスマッシャーのボタンを押すようなジェスチャー。
勝がスローモーションのような動きをして、拓実が高速で水を掛ける。
智和と武士が水泳勝負を開始。
「これより先遊泳禁止」を意味するブイが浮いている所まで泳いでターンして先にビーチに戻ってきたほうの勝ち。
カッパと共に育った人間と常に鍛練を続けている侍。
二人の勝負は僅かな差で智和の勝利に終わった。
武士の勝利を予想していた拓実と千影が皆の分のかき氷を買いに行く。
「変身してなくても水中は智和のほうが強かったかー」
「俺達ギャンブルの対象になってたのか」
「まさに『寝耳に水』というやつでござる」
かき氷を売っている海の家に向かう道程、周囲の視線全てが千影に注がれているのが拓実にもわかる。
「やっぱ千影はめっちゃ見られるなー」
「そっかなー?」
「今の『そっかなー?』は、本当はみんなの視線に気付いてる『そっかなー?』だな?」
「そっかなー?」
「今の『そっかなー?』は、実は自分でも『今日ビジュいいじゃーん』って気付いてる『そっかなー?』だな?」
「そっかなー?」
「今の『そっかなー?』は、『いやいや私より結月のほうがNEW KAWAIIよ』の『そっかなー?』だな?」
「そっかなー!」
「今の『そっかなー!』は、『そうそう!』の『そっかなー!』だな?」
「そっかなー!」
そうこう話しているうちに海の家に着いた。
「そっかなー、そっかなーそっかなー、そっかなーそっかなーそっかなー、そっかなそっかなそっかなー!」
「はい、イチゴ味2つで1つは練乳掛け、それとメロン、ブルーハワイ、レモン、みぞれ1つずつですね?」
「なんで通じた!?」
トレーに3つずつ乗せたかき氷を持って皆の所に戻る。
「こんにちはー! タラフクフードでーす!」
これは千影によるバイトの癖が出た風の冗談である。
拓実がイチゴ練乳無し、智和がメロン、結月がイチゴ練乳掛け、武士がブルーハワイ、千影がレモン、勝がみぞれ。
皆でニンギョ柄のレジャーシートに座りかき氷を食べる。
「なんでこんなのあるんだ?」
「ニンギョが、いつか妖怪の存在を人間に隠さなくても良くなったら『妖怪の里親善大使』とかいうのになって妖怪の里のいいところをPR したいから色々用意してるんだとさ」
「なれたらいいね。ってかこれ可愛いからあたしも欲しい!」
「ああ言っとく。多分すぐくれると思う」
青い海、青い空、ゴミは落ちているが拾う人もいる砂浜。
人々が見つめるその先に、海から上がる一人の女性。
照りつける日差しが、緑色のビキニから覗く褐色の肌を滴り落ちる雫に混じって砂浜に浸み込んでいく。
長い黒髪をかき上げれば四方からため息を含んだ羨望の眼差し。
眩しさに目を眩ませる周囲の反応全てを意に介さず、女性はラクダ型メカの首に掛けてあったタオルで顔を拭く。
「……ってグレモリーかよ!」
「ヨーカイジャー?」
思わずツッコんだ拓実の声に反応し、グレモリーは色々な物を揺らしながらヨーカイジャー達のほうへ走ってくる。
結月は両腕を振り回しながらどこかで聞いたようなセリフを叫ぶ。
「気をつけてください!! 乳房が零れ出そうです!!」
グレモリーは砂に足が縺れ躓きながらも華麗な前転により無傷でヨーカイジャーの元へ到着。
「器用なのか不器用なのかはっきりしろ」
「ねえねえねえ! この海にとっても素敵な妖怪ちゃんがいるらしいんですけどご存じなくって?」
「オイラのこと?」
「あなたも素敵ですけどそうじゃないの! 海の妖怪ちゃんがいるらしいの!」
「知らね。智和知ってる?」
「さあ。そんな情報は入ってない。だいたい、妖怪はこんな人間の多い所に住みたがらない」
「あらそう。知らないならもういいわ。あなた達、あそこで売ってるビールとかいう物を飲んでから海に入ると楽しいからやってみるといいわ」
「ああ、死にたくなったらそうする」
グレモリーは勝に笑顔で手を振り、颯爽とした足取りで海に戻り綺麗な放物線を描いた飛び込みからのクロールで泳いでいった。
ヨーカイジャーは素早く円になり声を潜めて話し合う。
「智和、本当に知らないの?」
「ああ、グレモリーに言ったことに嘘は無い」
「妖怪がどっかから俺達みたいに遊びに来てるとか?」
「だったら勝くんが気配を感じられるんじゃない?」
「遠くにいたり海の底にいたりしたら、オイラでもわかんねえ」
「本当に妖怪がいるとするならば、グレモリーはどこでその情報を手に入れたのでござろう?」
「ネットの噂?」
「チェックしてそうだねグレモリーなら」
「そういうのは妖怪情報統括部とかから聞いてねえの?」
「信憑性の無い目撃情報とか含めてたら、そういうの多過ぎてキリが無いし、細かいのまでいちいち俺まで回ってこない」
「しかし万が一グレモリーが妖怪と接触してしまうようなことがあれば……」
「あの変態、妖怪ちゃん大好きとか言ってるけど、戦って傷ついてるのとか楽しんで見てやがるし」
「まあ、ほっとくわけにはいかないだろう」
「海の妖怪って言ってたけど、もしかしてニンギョちゃん? 人間と遊びたくなって来ちゃったとか?」
「ニンギョはそんな軽率なことはしないと思うけど、足生やして結月の学校に行ったとき楽しかったって言ってたし……一応確認してみるか」
智和はムゲンブレスでニンギョに連絡を取る。
一方その頃、妖怪の里・食べ放題の海。
いつもは上半身に赤いシャツを着ているニンギョが、今日は赤いビキニ。
海面を飛び出し水飛沫を連れてジャンプ、背中を反らし滑らかなアーチを描き頭から海中へ滑り込む。
「ぷっはー! ボク今すっごい人魚らしい動きしたよね?」
海面から顔を出し、砂浜で過剰にしなやかな動きで日焼け止めを塗るエージェント66βに声を掛ける。
透き通るような肌の豊かな膨らみを包む黒いビキニ、耐水仕様の赤いネクタイ。
「海にいるあなたは活き活きしてる。いえ、活きがいいって言ったほうがいいのかしら?」
「かもねー! ボクは海産物だからー! ねえユキオンナちゃんまだー?」
ビーチパラソルの下で、白い和服を着た銀髪ボブカットにウサギのような耳が生えた少女が、手の平から放出した冷気を体の周りに纏わせている。
「ちょっと待ってください。今年はまた去年より暑くなったので、熱中症防止の冷気を、海を凍らせない程度に調整するのが難しくなってしまって……」
「あー確かに、毎年暑くなってるよねー」
「でも…」
エージェント66βが首を伸ばしてユキオンナの和服に顔を近付ける。
「こんなの着てたら余計に暑いでしょ?」
「確かに…」
ユキオンナは和服を脱ぎ捨て、絹のような白い肌に白いビキニを着た姿になった。
「なんかみんなビキニになっちゃいましたけど…」
「いーのいーの! 水着なんて上下に分かれてナンボだし! ボクなんか下履いてないし!」
「人間用に作られた水着だものね。尾鰭に被せるようなのがあったらいいんだけど」
「あっても着ないと思うー!」
「でしょうねニンギョちゃんなら」
和服を脱いだことで冷気の調整が上手くできたらしく、ユキオンナは飛び跳ねるように海へと走る。
と、その耳に飛び込んできた着信音。
ビーチパラソルの下に置いてあった手の平サイズのアコヤガイ型の通信機。
「あ、ボクだー!」
ニンギョは海から上がり、ユキオンナが粉雪に乗せて飛ばしたビキニの下の部分を受け取って足を生やし、ビーチパラソルの下で通信機のボタンを押す。
智和からの連絡だった。
《ニンギョ、今どこにいる? ……ニンギョ? もしもし? もしもし?》
「あ、ごめん、足生やしてたから声出てなかったね。今は食べ放題の海だけど?」
《そうか、じゃ、ニンギョじゃないか……。人間が沢山いる所に現れそうな海の妖怪に心当たりは無いか?》
「うーん、海の妖怪で積極的に人間に会いたがるなんて多分ボクくらいだろうし……君達は違うよねー!?」
ニンギョが海に向かって叫ぶと、海面を漂うヌリカベと、その上でスイカを飲み込むガキが通り過ぎた。
《わかった。もし何か思い出したりしたら連絡してくれ。あ、それと、結月があのレジャーシート欲しいって》
「ホント!? 嬉しいな!! おけおけおっけー! 用意しとくよ!」
通信を終え、アコヤガイ型の蓋を閉じる音が軽やかに聞こえる。
「あのレジャーシート?」
「そうそうそう! 人間の結月ちゃんが欲しいって言ってくれるの嬉しいなー!」
「もっと沢山の人間と仲良くなれたらいいんですけど……」
「きっとなれるよ。地球をこんなに暑くしちゃったのも人間だけど、人間はそれを反省して、なんとか元に戻すために頑張って考えてる」
「私達はそれを信じて、人間達を保護するために動いてる」
「ボク達と比べたら弱い生き物だもん、守ってあげなきゃ。人間にとっては、そうめんを茹でるだけでも重労働らしいよ」
「頑張って働いてると、ガラスの天井っていうのにぶつかっちゃうって聞いたことあります!」
「それは危ないわね……。ガラスなんて、妖怪なら簡単に突き破れるけど、人間だったら大怪我しちゃう」
「うん。だからボク達は、人間を信じて見守って…」
「守るために、時には戦う!」
「同じ地球に生まれた仲間ですから、一緒に生きていける日はきっと来ます。泳ぎましょう!」
人間に似た3つの足跡が砂浜から海へ連なっていく。
再び関東某所の海水浴場。
智和は通信を切り、結月はレジャーシートが貰えると聞いて跳びはねている。
ヨーカイジャーは手分けして妖怪を探してみることにした。
グレモリーを警戒して2人組で行動。
拓実と武士はゴツゴツした岩が並ぶ磯を探索。
ヤドカリを見つけて身近な自然の逞しさを感じたりするものの、妖怪らしき生物は見つからない。
二人は雑談を挟みながら妖怪探しを続ける。
「しかし間近で見てるとけっこうヤバいよな」
「わかるわかる。そういうものでござる」
「周りのそういう目線もわかった上であのカッコしてるんだろうから、こっちから何も言わないけどさ」
「うむ。あっちから何か言ってこなければそれで良い」
「自分からあのカッコしといて何か言ってきたりしないところがうちの女子達のいい所だな」
「うむ。それがNEW KAWAIIというやつでござろう」
「二人でかき氷買いに行った時とか特にヤバかった」
「わかるわかる。そういうものでござる」
そうこう話しながら歩いていると、岩場に近い海面から黒髪ショートヘアの女が顔を出しているのが見えた。
「何だあの人?」
「泳ぐなら普通は砂浜の辺りであろうが……」
「海女さんか何かかな?」
女は足鰭の付いた手で手招きする。
「呼んでる?」
「行ってみるか……」
二人が近付くと、女は水中から、足鰭が付いた手で牡蠣を差し出してきた。
「え、くれるの?」
「新鮮な生牡蠣は美味でござる。ここはご相伴に預かろう」
それぞれ1つずつ牡蠣を受け取る。
「武士、醤油持ってる?」
「侍とはいえ、突然牡蠣を薦められる状況を想定して生きてはおらぬ」
水中の女が醤油を差し出してきた。
「あ、ありがとう。牡蠣だけじゃなく醤油まで!」
「かたじけない」
牡蠣に醤油をかける。
「いただきまーす!」
殻を滑らせ身を口に入れる。
濃厚な旨味と磯の香りが口いっぱいに広がった直後、二人は力無く倒れ込み海に落ちた。
「よし! 次は……」
女は呟いて海に潜る。
海水浴客が多い砂浜を探索する智和と勝。
勝の足元に四つ折りの紙を掴んだカニが歩いてきた。
勝にはそのカニがただのカニではなく、バケガニと同族の妖怪の子供であることがすぐにわかった。
勝が紙を受け取り、開いてみると、そこには次の文が書いてあった。
〈赤い海パンの男と青い褌の男は預かった。返してほしくばこの場所まで来い〉
その文の下には先程拓実と武士が海に落ちた場所から更に沖に行った所に○印が付いた地図が描いてある。
「赤い海パンの男はいっぱいいるかもしれないけど、青い褌の男は宇宙に1人しかいないよな?」
「ああ。お前にこの手紙を渡したのはどんな奴だった?」
カニはジェスチャーで「人間のメスに似た妖怪。俺はコレを人間のオスに似た妖怪に渡して来いって言われて魚の切り身もらっただけ」と伝える。
「手紙の主は俺達の中に妖怪がいることを知っている……」
「ヨーカイジャーは妖怪の中では有名だからな。……ってことはこれ書いたのって妖怪?」
結月と千影も合流し、ヨーカイジャー4人は地図の○印の場所が見える磯までやってきて、勝の頭に乗せてきたカニを逃がす。
○印の場所へ行くにはかなり沖へ出なければならない。
「さて、影も形も見えないとなると、相手は水中か」
「オイラも何も感じない。深いとこまで潜ってんのかな?」
結月の脳裏に妖怪との悲しい戦いの記憶が甦る。
「この前のヌラリヒョンみたいに、戦わなきゃいけない?」
「場合によってはな」
俯く結月を千影が後ろからそっと抱きしめる。
「ちょっとちょっと千影ちゃん、それ、いつもよりドキドキしちゃう……」
「俺は変身すれば長老の特性を受け継いで水中でも呼吸できるし会話もできる」
「私も変身してニンギョの能力カード使えば同じく水中で呼吸できるし会話もできるはず」
「千影ちゃんがもらったほうのカードってそんな能力なんだ」
「結月のは『#2』って書いてあったけど、同じ妖怪でも違う能力のカードが出ることもあるみたいだね」
「オイラは子供の姿の時は1時間くらいしか息止めてられなかったけど、今はもっと止められるかもしれない」
「人間と比べたら1時間でもすごいからねー。じゃああたしだけ日本の大地でお留守番?」
「日本の大地とはダイナミックに主語がデカいけど、結月はグレモリーが何かやらかさないか見張りに行ってくれ」
「わかった。何かやらかしそうだったら連絡するー」
「やらかす前にやっつけちゃったほうがいいんじゃね?」
「今日のあいつが海水浴だけしててくれるならそのほうがいい。下手に刺激して戦闘になったら周りの海水浴客に危険が及ぶ。それに俺達はまだ、あのバトルフォーメーションとかいうフザケてるのに強い形態の攻略法を見つけ出していない……」
この先の動きが決まったところで、智和、千影、勝が変身。
更にイエローがニンギョの能力カードを発動。
イエローの下半身が黄色い尾鰭に変化した。
「千影ちゃんヤバい……似合いすぎてる……」
「ありがと。この前試してみて気に入っちゃった!」
グリーン、イエロー、シルバーは海に飛び込み、結月はグレモリーがいる砂浜へ向かう。
グリーンはカエル泳ぎより速いカッパ泳ぎ。
イエローは尾鰭を動かしニンギョ泳ぎ。
シルバーは特にこれといった特徴が無い謂わばザシキワラシ泳ぎ。
地図の○が付いていた地点に到着すると、ウェットスーツを着た両手両足が足鰭になっている黒髪ショートヘアーの女、そして二人一緒に大きな泡のような物の中で眠っている拓実と武士が見えた。
「いた! あれ妖怪?」
イエローが指をさす。
シルバーは息を止めていてしゃべれないので大きめに頷く。
「来たわね、ヨーカイジャー!」
「ヒトに似た体の手足に鰭……お前はトモカヅキだな!」
「そう、私は潜水妖怪トモカヅキ!」
「トモカヅキ……智和……キ?」
「あー…言われて初めて気が付いた。確かにトモカヅ、キだな。俺はヨーカイグリーン・河村智和。名前が似てるよしみで、そいつら返してくれないか?」
「っていうか生きてるんでしょうね?」
シルバーも抗議する気持ちを拳を突き出して表現する。
「こいつらは寝てるだけ。返してほしければ、妖怪刑務所に収監されている、ガシャドクロさんを釈放しなさい!」
「ガシャドクロだと!?」
「ガシャドクロ? そいつも妖怪?」
「ああ。江戸時代にテロを起こそうとして妖怪治安部隊と戦って捕まった、人類保護反対派の過激派妖怪だ」
シルバーも妖怪向けの歴史漫画で読んだガシャドクロのことを思い出し頷く。
「妖怪にもテロリストなんているんだ。それであんた、なんでそんな奴を釈放してほしいの?」
「人間の環境破壊をやめさせて、美しい海の自然を守るためよ!」
グリーンが頭を押さえる。
「そうか……それは申し訳ない。人間が環境を破壊してきたのは事実だ。だが、人間はそれを反省して、何とか元に戻そうと努力してるんだ。それを信じて、人間を守る活動に協力してくれている妖怪もいる」
シルバーは自分を指さしトモカヅキにアピールする。
「だから頼む、そいつら返してくれ。テロリストに頼らなくても、人間達に環境保護を訴える方法はある。だから……」
「そんなこと言ってられないの!!」
トモカヅキの叫びが海水を伝いヨーカイジャー達の聴覚を震わせる。
「ガシャドクロさんに指揮を執って頂いて、人間達に思い知らせてやらないと、今こうしている間にも、人間達は壊れた原子力発電所から汚染水を海に放出し続けているんだから!!!」
水中でも呼吸できるグリーンとイエローが顔を見合わせ溜息をつく。
「何!? あなた達!? こっちは真剣に話してるのに、何その態度!? 人質がいるって忘れたの!?」
状況を掴めないシルバーが両者の顔を見比べる。
「あー、勝もわかってないか」
「ヨーカイシルバー! あなた妖怪でしょ!? 海に汚染水をまき散らす生き物の味方なんかやめて!」
シルバーはトモカヅキを指さし、「汚染水ってどういうこと?」という質問を伝えたがっているジェスチャーをする。
「えっとねぇ、壊れた原子力発電所から放出されてるのは汚染水じゃないの。詳しくは智和が説明してくれる」
「丸投げか。するけどさ。説明するけどさ。いいかよく聞けトモカヅキ! ついでに勝! 海に放出されてるのは汚染水じゃない、処理水だ!」
「しょり……すい?」
トモカヅキは首を傾げる。
「汚染水ってのはよくわかってない奴らが勝手に言い出した間違った呼び方で、正しくは処理水」
「それ……汚染水とどう違うの!? 原子力発電所から放出された水なら、放射能っていう、ものすごく環境に悪い物が入ってるんでしょ!?」
「確かに放射能が入ってなくはないが、自然界に出しても問題ないくらい薄められて放出してる」
「ゑ……」
トモカヅキは体を横に倒し暫し漂ったあと戻ってきた。
「でででででででも、放射能入ってることは入ってるんでしょ?」
「自然界に自然にある放射能よりもだいぶ少ない放射能がな」
「ゑゑゑゑゑゑゑゑ、待って待って待って、自然界に自然にある放射能? 人間が放出する以外に、自然界に放射能が存在する理由なんてある!?」
「人間どころかこの地球に生物すらいなかった時代から、自然界に放射能が全く無かった時代なんて無かった」
「ゑゑゑゑゑゑゑゑ……」
トモカヅキは海中で直立して横回転する。
「あんな感じのアザラシが見られる水族館がどこかにあるんだっけ? いつか結月と見に行きたい。で、アザラシさん?」
「違う私はトモカヅキ…」
「あんたその汚染水って、どこで誰から聞いたの?」
「ネットのまとめ動画で……」
グリーンとイエローも直立して横回転する。
「トモカヅキ、お前に、人間達の間で旧石器時代から語り伝えられている名言を教えてやる。『嘘を嘘と見抜けない奴にインターネットを使う資格は無い!!』」
「旧石器時代…………そんな時代からインターネットがあったの!?」
「あるわけねえだろそういうとこだぞ!!!」
「ゑゑゑゑゑゑゑゑ……」
トモカヅキはまた暫し漂い戻ってくる。
「いやいや信じない! 本当は汚染水なのに処理水とか都合いいこと言って! 人間の言うことなんか信じない!!!」
「でもそのまとめ動画作ったのも人間でしょ?」
トモカヅキは口を開けて固まった。
「なんかかわいそうになってきたね」
「うーん、しょうがねえなあ。そいつら返して、当分ネットは見ないと約束するなら今回だけは許してやる……って多分聞こえてねえなどうしよう」
その時、智和のムゲンブレスの着信音が鳴り響いた。
結月からの通信。
≪大変! グレモリーが悪魔を呼んで! その悪魔が! あ! あ!≫
「よし! とにかく1人でできる範囲で、無理せず何とかしといてくれ! すぐ行く!」
≪わかった!!!!≫
通信を切る。
「というわけだから、行くわ俺達」
拓実と武士が入っている泡のような物をシルバーが押し、ヨーカイジャー達は地上へと向かう。
トモカヅキは口を開けて固まったまま。
泡のような物はシルバーに押されて海面上の空気に触れると同時に破裂。
海に投げ出された拓実と武士はもがきながら目を覚ました。
磯に辿り着き、グリーンが事情を話す。
「汚染水かぁ。俺もそれ一時期信じちまってたんだよな」
「人間にもそのような誤解をしている者は多い。奴が反省しているなら
拙者は許してやってもよい」
「汚染水じゃなくて処理水っていうのは理解してくれたと思うが、反省してるのかどうかはよくわからなかった。とにかく今は悪魔をなんとかするぞ!」
拓実と武士も変身。
悪魔が現れたという海水浴場へ走る。
一方その頃、海水浴場では人々が悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。
海上を飛び回る悪魔バカースラ。
鳥の「鵜」を思わせる頭部と翼、腕は無く、丸みを帯びた赤い人形に黒い菱形の腹掛けが付いているような胴体、串に刺さったみたらし団子のような足。
ピンクのムゲンシューターによる銃撃を避けながら、頭部だけ大きくし逃げ遅れた人々を飲み込む。
水着のままのグレモリーの側に着陸、飲み込んだ十数人の人々を吐き出し積み重ねる。
「うーん、この中に妖怪ちゃんはいないわね。次!」
「ウ!」
バカースラは飛び立ちまた頭部だけ大きくして人々を飲み込もうとするが、割って入ったピンクにムゲンソードで嘴を弾かれ上空へ後退。
「始末しちゃいなさい」
グレモリーは戦いを遠目に見ながら、積み重ねられた人々にラクダ型メカに鎖でぶら下げていた冠を翳す。
弱々しく息をする人々の頭から黒い煙のようなデビルギーが立ち上ぼり、冠に吸収されていく。
そこへ駆けつけたヨーカイジャー達。
グレモリーを銃撃するがコンテンポラリーダンスのような動きでかわされる。
「水着でそれやると妙に芸術的に見える」
レッドの声を聞いたグレモリーはもう一度を同じ動きを再現する。
「別にやらなくてもいいけどさ」
「結月、一人で頑張った!」
「うん!」
イエローに頭を撫でられ、ピンクは膝を曲げ伸ばしして喜びを表現する。
「誰が呼んだか旅烏 鼻高々にてんつくてん 天に代わって只今参上! 空の勇者、ヨーカイレッド!」
「誰が言ったか川流れ 流れるどころか掻き分けて 登って飛び出せナイアガラ! 水の戦士、ヨーカイグリーン!」
「誰が言ったか猫かぶり 花も恥じらうJK3 嘘はいらない夢見る乙女! 獣のアイドル、ヨーカイピンク!」
「誰に言われどカマわない イタチごっこにピリオド刻み 腹を切らずに悪を斬る! 風の剣士、ヨーカイブルー!」
「誰を染めるか狐色 こんこん今夜も手鞠歌 お目にかけましょ万華鏡 幻の賢者、ヨーカイイエロー!」
「誰もオイラを止められねえ 当たれば八卦の大予言 爆走疾風ギンギラギン! 閃光の覇者、ヨーカイシルバー!」
「夢も現も守るが仏 夢幻戦隊!」
「ヨーカイジャー!!!!」
「ウーッ!!」
バカースラは砂浜に降り立ち、口からマクワウリのような物体を吐き出す。
その物体は空中で弾け、中から10体のジャミリアーが姿を現した。
「ジャミジャミ!」
ジャミリアー達は剣を振り上げながらリズミカルに足を踏み鳴らす。
しかし今日の戦場は砂浜なのであまり音が出ない。
「行くぞ!」
「オウ!」
グリーンの掛け声でヨーカイジャー達が走り出す。
ブルーの鍛え抜かれた足腰には足場の悪さも関係ない。
剣を構え迫りくるジャミリアーをブライブレードで1体、また1体と斬り捨て前へ進む。
ピンクも多少足を砂に沈ませながらも持ち前の身軽さでジャミリアー達の剣をかわしスキャットクロウの切り裂き攻撃を食らわしながらブルーに続く。
4体のジャミリアー達の足元の砂が蟻地獄のように沈み始めた。
「ジャミ!」
「ジャミジャミ!」
「ジャミー!!」
ジャミリアー達は慌てふためき、脱出しようとして互いにぶつかり転びまた慌てふためく。
そこへ蟻地獄をものともせず走ってきたグリーン。
倒れもがくジャミリアー2体のボディに連続でガチコンハンマーを叩き込み爆散させ、それを見たもう1体がより激しくもがいているところへもう一撃振り下ろしまた爆散させる。
「ジャミ……? ジャミ!!」
蟻地獄に残るあと1体がようやく異常に気付き、蟻地獄に見えていた足場を剣でつつき、簡単に脱出できると判断したがもう遅い。
蟻地獄の幻を出していたイエローに電撃を纏ったコンコンボーで殴られ爆散。
ピンクとブルーがグレモリーと積み重ねられた人間達の近くに到達。
「水着姿素敵だから今日はこのまま戦ってほしいなー」
「安心して、水着より素敵な姿になってあげる。グレモリー・バトルフォ…」
その時、グレモリーは砂浜に横たわり手を振るトモカヅキが目に入りそちらへ走る。
「気をつけてください!! 乳房が零れ出そうです2回目!!」
「素敵な妖怪ちゃん! やっぱりいたのね!」
トモカヅキはグレモリーに牡蠣と醤油を差し出す。
「あら? これ食べていいの?」
グレモリーは牡蠣に醤油をかけ、身を口の中に滑り込ませる。
濃厚な旨味と磯の香りが口いっぱいに広がった直後、グレモリーは力無く倒れ込み寝息を立て始めた。
「よかった! 悪魔にも効いた!」
「お主はさっきの!」
「ごめんなさい! 私、ヨーカイジャーを人質にすればガシャドクロさんを釈放してもらえると思って、人間に人気の海水浴場をネットで調べて…」
「それでこの海に潜んでいたのを人間に見られて目撃情報が出ていた、ということでござるか。もうよい、お主がグレモリーを眠らせてくれたおかげで、人間達が助かったのだ」
ピンクがスナカケババアの能力で、グレモリーとラクダ型メカをネコマタンとヌリカベの砂像に埋める。
駆け付けた妖怪治安維持部隊のメンバーが、積み重ねられた人間達を担いで手当てできる場所へ運ぶ。
ネネコガッパが3人、蚕の成虫を擬人化したような白蚕妖怪オシラサマも3人、そしてナマハゲが6人一度に担ぐ。
「悪い子はいねえがああああああああ!!!!!」
他方では不機嫌そうなオイワと上機嫌そうなツララオンナが避難誘導をしている。
「私達が水着の意味ある?」
「ここで水着じゃないほうが不自然っしょ! それに解放的で楽しー!」
「そう? で、隊長は水着じゃないんですかー?」
「あ? オレはカッパだぞ? 泳ぐのに水着なんか着ねえから持ってねえよ!」
レッドとシルバーが能力カードで青空を飛びバカースラを追う。
シルバーは以前よりイッタンモメンの能力を使いこなし、安定した飛行からオボロバルカンを装備し連射。
バカースラは頭を大きくして大口を開け、弾丸を全て飲み込み、逆に吐き出す。
「うわうわうわうわうわあああああ!!!!!」
レッドとシルバーは返ってきた弾丸を滅茶苦茶な方向に飛び回り避ける。
「飛び道具が飲み込まれるなら……」
レッドがフェザーガントレットを装備しバカースラに向かう。
バカースラはまた頭を大きくして大口を開ける。
「このまま突っ込む!!!」
「ウ!?」
バカースラは口に飛び込んできそうな勢いのレッドに焦り、慌てて口を閉じる。
「じゃあ普通に、殴る!」
「ウウウ!?」
レッドはバカースラの頭を殴りつけ海面に叩き落とす。
「智和ー! そっち行ったぞー!」
「おお! 任せろ!」
グリーンは必殺カードを発動。
「必殺妖技・激流上手投!」
グリーンの周りを渦状の水流が走る。
中心に立つグリーンの動きに合わせ、水流がバカースラと残りの2体のジャミリアーを飲み込み空中へ巻き上げる。
「よーし、オイラが!」
シルバーが装備カードと必殺カードを同時発動。
激流に流され空へ上ってきたバカースラとジャミリアー達にブルブラスターを向ける。
「必殺妖技 猛牛大砲・全力発射!!」
トリガーを引くと銀色に輝く大きな光弾が発射され3体の敵を直撃。
「ウ…ウ……嘘だッ!」
爆散。
「『ウ!』以外も言えたのか……」
砂浜のピンクが作った砂像から少し離れた所からグレモリーとラクダ型メカが顔を出した。
「デビル デビレバ デビルトキ カモンデーモン デビデビレ 最後の一花、咲かせてごらんなさい」
埋まった状態での投げキッスにより放たれた唇型のエネルギー体が、砂浜に落ちていたバカースラの残骸に接触。
残骸は巨大なバカースラの姿となりヨーカイジャーを見下ろす。
「ウッウウウーッ!!」
人々の避難が完了した海水浴場。
トモカヅキはオイワに連行され安全に「お話」ができる場所へ。
ヨーカイジャー達はそれぞれの召喚カードをムゲンブレスとムゲンライザーにセットする。
「サモン、パートナーズ!」
妖怪の里。
「修行の森」から武闘妖怪カラステングが腕組みをしながら飛び立ち、赤い光になって高速移動を開始。
「河童ヶ沼」の底から長老妖怪メガガッパーが水飛沫を上げながら浮かび上がり、緑の光になって高速移動を開始。
「妖怪電気街」のステージのモニターに「きんきゅーしゅつどー」の文字が表示され、ステージ上の偶像妖怪ネコマタンがそれを見て敬礼、客席の妖怪達が振るサイリウムに見送られながらピンクの光になって高速移動を開始。
「試し斬りの竹林」で瞑想していた斬空妖怪カマイタチが空を見上げ、青い光になって高速移動を開始。
「妖怪稲荷神社」の神殿の扉が開き、奥から幻惑妖怪キュービルンが「お座り」のポーズのまま前進、その足元から機械的なカタパルトが伸び、どこかから響いてきた「five,four,three,two,one,zero!」というカウントダウンでキュービルンが「お座り」のポーズのまま空高く射出され、黄色い光になって高速移動を開始。
「さわやか草原」を走る予言妖怪ブルクダン、並走する爆走妖怪オボログルマ、上空に疾風妖怪イッタンモメン、3体同時に高く飛び上がり銀色とオレンジ色と紺色の光になって高速移動を開始。
ヨーカイジャーの前に8つの光が降り立つと同時に巨大な妖怪の姿を表し、ヨーカイジャーの前に6体のパートナー妖怪とその仲間2体が並び立った。
パートナー妖怪達は目からビームを出しヨーカイジャーをコクピットに転送する。
「いくぜ、夢幻合体!」
「いくぜ、夢幻合体!」
レッドとシルバーが合体カードを発動。
巨大妖怪達が宙に浮き上がり変形を始める。
カラステングの両腕がスライドして背中に回り、両足は折り畳まれる。
メガガッパーの両腕が引っ込み、甲羅が上にスライドして体の下半分が2本の足の形状になったところでカラステングの体の下に合体して「下半身」となる。
ネコマタンの尾と後ろ足が折り畳まれ、前足は爪が出た状態で頭に被さるようにスライドし、全体的に鋭い爪の付いた腕といった形状になりカラステングの左腕部分に合体。
カマイタチの刃物状の尾が外れ、後ろ足が折り畳まれ、鎌の付いた前足は頭に被さるようにスライドし、鎌の間に刃物状の尾が収まり全体的に鋭い剣の付いた腕といった形状になりカラステングの右腕部分に合体。
キュービルンの体が前部と後部で半分に分離、前部は中心にキツネの顔が付いたプロテクターといった形状に変形しカラステングの胸に合体、後部は九本のキツネの尾が付いたプロテクターといった形状に変形しカラステングの背中に合体。
最後にカラステングの下顎が大きく開き、中から人型の顔が姿を表した。
レッド以外の4人もカラステングのコクピットに転送され、ヨーカイジャー達から見て左から、ピンク、イエロー、レッド、グリーン、ブルーの順に席に着いた。
「完成、合体巨人・ムゲンオー!!」
5人声を揃えてその名を叫ぶ。
ムゲンオーは右手の夢幻斬空剣を斜めに掲げてポーズを決める。
ブルクダンの四肢と尻尾が折り畳まれながら体全体が直立、胴体下半分がスライドして2本に分かれて「足」になり、首から上の頭部が真っ直ぐに前を向く。
オボログルマの胴体前部が伸び、全体的にタイヤとガトリング砲の付いた腕といった形状になりブルクダンの左腕部分に合体。
イッタンモメンの尾が折りたたまれ、胴体前部が伸び、全体的に左右両側に鋭いカッターの付いた腕といった形状になりブルクダンの右腕部分に合体。
最後にブルクダンの首が回転扉のように回転、中から人型の顔が姿を表した。
「完成、合体巨人・ムゲンショーグン!!」
シルバーがその名を叫ぶ。
ムゲンショーグンは両腕の武器を交互に力強く前に突き出し、銀色の光を放ちながら腕を組んでポーズを決める。
並び立つ合体巨人。
羽を広げ威嚇する巨大バカースラに鋭く光る右手を構える。
「ウーッ!!」
巨大バカースラは砂を巻き上げながら飛び上がり、ムゲンオーに突進すると見せかけて旋回し海に飛び込んだ。
「追うぞ!」
「って、ムゲンオーって水中戦いけるのか?」
〔忘れたか! ムゲンオーを足として支えとる妖怪がワシじゃということを!!〕
「そうだった! 足全部カッパだった!!」
「ムゲンショーグンも、よくオイラと妖怪の里の海で遊んでた3体の合体だから大丈夫だと思う!」
〔モォ~!〕
「頑張るって!」
「よし行くぞ!!」
ムゲンオーとムゲンショーグンも海に飛び込む。
合体巨人達が海底に降り立ち、コクピットの中でピンクが驚かせてしまった魚達に「ごめんね」のジェスチャーをするが外からは見えない。
海中の気配を探る合体巨人達の背中を高速で掠める巨大な嘴。
「うわああああっ!!!!」
衝撃はコクピット内に伝わり、ダメージと水流が足元をふらつかせる。
巨大バカースラはUターンから再び嘴攻撃。
元々海に住む妖怪であるムゲンショーグンの右腕を振るい弾こうとするが勢いを殺せず逆に右腕を弾かれ吹っ飛び海底に背中を付ける。
〔やるぞ智和! カッパのプライドに懸けて!〕
「もちろんです! しかし水中での機動力は奴のほうが上……」
「こうなったら…」
ムゲンショーグンが両腕で海底を叩いた勢いで立ち上がり、コクピットの中のシルバーが換装カードを発動させる。
「本日の運試し。ガシャット・ガジェット!」
シルバーの背後のモニターにカードのパックが輪になって並んでいる映像が映し出され、画面内のパックの輪が回転。
シルバーが天に手を翳すと回転が止まり、パックが開封され中から実物が存在しないカマイタチの換装カードが出てくる映像が映し出される。
「え? カマイタチ?」
〔ビビーッ!!〕
ムゲンオーの右腕のカマイタチとムゲンショーグンの左腕のオボログルマが分離し、そのままカマイタチがムゲンショーグンの左腕として合体した。
「なんと、カマイタチが!!」
「こんなのもアリなのかー!?」
〔モォ~!〕
「え、左腕が動かない!?」
左腕のカマイタチからいつもの鋭い眼光が感じられず、シルバーが操縦桿を前後させても左腕だけが動く気配を見せない。
戸惑うムゲンショーグンとシルバーに巨大バカースラの嘴攻撃が迫る。
ムゲンオーは海底を蹴り水中ジャンプでムゲンショーグンを飛び越え、右足を突き出し勢いを付け巨大バカースラの顔面に水中飛び蹴りを食らわす。
「ウーッ!!!」
巨大バカースラは翼で水を搔き後退。
「さては、これも名前を付けねば動かないのではござらぬか?」
「そうか、カマイタチはいつもムゲンオーとムゲンビルダーの基本の右腕として合体するが、ムゲンショーグンに合体する場合は追加装備扱いなのか」
「じゃ、名前付けなきゃね。名前といえば?」
「はいあたし! えっと、ムゲンショーグンソード? でもいつも切り裂き系の腕付いてるよね? でもあれは剣じゃなくてチョップ……でもでも…………お!」
ピンクが手を「ポン!」と叩く。
「ムゲンショーグンダブルセイバー!!」
「いいね!」
シルバーが跳び上がりながら姿勢を正し座り直す。
「完成・ムゲンショーグンダブルセイバー!!」
左腕のカマイタチに鋭い眼光が戻り、ムゲンショーグンダブルセイバーは煌めく両腕を構えポーズを決める。
「いくぞおおおおお!!!」
ムゲンショーグンダブルセイバーが高速回転。
竜巻の如き水流の渦を纏い巨大バカースラに迫る。
「ウーーーーーッ!!!」
巨大バカースラは逃れようと泳ぎだすが渦に引き寄せられ、そのまま渦に巻き込まれムゲンショーグンダブルセイバーの回転に連動し海面に向けて押し上げられる。
〔ブヒブヒ!〕
ムゲンショーグンから分離していたオボログルマがムゲンオーのコクピットに向かってアピール。
オボログルマの体が光に包まれ、その光は1つ集中してムゲンオーのコクピットに飛び込み、ピンクの目の前でオボログルマの換装カードとなった。
「あ……そっか、オボログルマは基本左腕だから、カードはあたしのところに来るんだ」
ピンクは換装カードをムゲンブレスに入れ叫ぶ。
「名前はもうシンプルに、ムゲンオーガトリング!!」
オボログルマがタイヤとガトリング砲の付いた腕に変形し、ムゲンオーの左腕として合体。
ムゲンオーガトリングは左腕を斜めに構えてポーズを決め、頼れるカッパの足で海面へ向け泳ぎだす。
「ウーーーーーーッ!!!」
渦に押し出され海上へ投げ出された巨大バカースラ。
その背中にムゲンオーガトリングが左腕からの弾丸を連射。
体勢を変え弾丸を飲み込む余裕も無く、空中で巨大バカースラの背中にダメージが蓄積されていく。
その時、ムゲンショーグンダブルセイバーのコクピット内が再び光に包まれ、その光が集約してシルバーの目の前で新たなカードの形になる。
「これは……新しい必殺技!!」
シルバーがそのカードを発動させると、ムゲンショーグンダブルセイバーの全身の妖力が両腕に集中し、更に回転力を増してその巨体を一気に海上へ飛び出させる。
「必殺大妖技・疾風魔裂旋!!!!!」
2つの刃による超回転の勢いで空中の巨大バカースラを一直線に切り裂く。
「ウリイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!」
爆散。
「うよっしゃああああああああああああああああああ!!!!!」
ムゲンオーガトリングとムゲンショーグンダブルセイバーは、空中で互いの右腕と左腕を合わせて掲げポーズを決める。
地上ではグレモリーとラクダ型メカが巨大戦を見ながら砂から脱出していた。
「妖怪ちゃんと合体巨人ちゃん達。見たいものは見られた…」
グレモリーは砂まみれの水着姿でラクダ型メカに跨り走り去る。
戦いが終わり、夕焼けの海を見つめる変身解除したヨーカイジャーと合体巨人達。
「海水浴に来たら眠らされて悪魔と戦ってた件…………ラノベのタイトルみたいな一日だった」
「我らは古より伝わる教え、『知らない人から食べ物をもらってはいけません』を今一度思い出さねばならぬ」
「『海水浴場に迷い込んだゾウアザラシが大暴れした』という情報操作が既に行われている」
「ゾウアザラシか。悪魔よりは可愛いかもな、飛ばないし」
「せっかくの海水浴だったのに戦いになっちゃった。でもでも! あたしは見たいものは見られた…」
結月は千影の首から下に熱い視線を送る。
「こらこらこら、そんなにガン見されると困っちゃうでしょ…」
「あー、オイラ腹減ったよー!」
「そういえば海に来てからかき氷しか食べてなかったね」
「俺と武士と、ついでにグレモリーは他の物も食ったけどな」
「焼きそばとか買おうにもみんな避難しちまったし……帰るか!」
「千影ちゃん、夏の間にまた来よう! プールでもいいよ!」
「とにかく水着がいいんだね、わかった」
ヨーカイジャー達は合体巨人に乗り込み、オレンジ色の空へ飛び立つ。
トモカヅキは妖怪の里での保護観察処分となり、許可が出るまでインターネットを見ないことを条件に、妖怪刑務所への収監を見送られた。
数日後、妖怪の里・妖怪電気街。
キュービルンが普通のキツネくらいの大きさになって歩いている。
キュービルンは時々こうして、人間の街を真似て作られた街並みを眺めたり、特設ステージで行われるネコマタンのライブを見に行ったりしている。
と、街の一画に人だかりならぬ妖怪だかりができているのが見えた。
近付いてみると、そこではトモカヅキが何やら叫びながら妖怪達にチラシを配っていた。
「あ、キュービルン! 聞いて! 昔人間が作った遺跡に書かれていた古代文章が解読されて、なんと! 今から一ヶ月後に月が降ってきて地球が滅亡しちゃうことがわかったの!!」
〔コン? コンコココココン!!!〕
「違う違う。言われた通りネットは見てないわ。でも、この本に書いてあったの!!」
トモカヅキが見せたのは、表紙に「驚愕の真実!幻のツチノコの正体はサイボーグだった!!」等の文字が並ぶ人間の出版社が発行しているオカルト雑誌。
「皆さん! 食料の備蓄と避難場所の確認を!!!」
リアルに地球の平和を守り続けているキュービルンは、「地球が滅亡する状況でどこに避難場所があるの?」などというツッコミをする気にもならず、トモカヅキと妖怪だかりに背を向け穏やかな散歩道に戻る。
【to be continue……】
本編を読んだ後は「ヨーカイジャー悪魔データベース」で、登場した悪魔の情報をチェックしよう!
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その他の情報は作者Instagram「 @satoruyoukaidaisuki 」とX(旧Twitter)「@shousetuyokai」をご覧ください