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episode:19 悪魔の野球場

この作品は天道暁によるオリジナルのスーパー戦隊作品です。現在放送されているスーパー戦隊シリーズを制作・放送している各団体とは一切関係ありません。


オープニングテーマ「your kind!」


https://ncode.syosetu.com/n7284ka/1/

7月某日。

期末テストを乗り越えれば夏休みという学校全体がそこはかとなく浮足立っているように思えるこの時期、結月は華麗な3回転ターンを決めながら教室に入ってきて、どこかから聞こえてきた「ミュージカル!?」という声にスカートの両端を持ったお辞儀で応える。


と、いつも自分が座っている席の後ろで、悪魔がいれば大量のデビルギーを回収されてしまいそうな重々しい空気が渦巻いているのに気付いた。


そこに座っているのは、先日結月と一緒にいた青海人魚(あおみ にーな)こと足を生やしたニンギョを目撃し友達になってもらえたことを喜んだ田中由香。


結月はいつも通り由香の前の席に座り、バッグから猫の写真の下敷きを取り出して自分の顔を扇ぎ始めた。


「触れてくれないの!?!?!?」


「あ、触れたほうがいいのかいけないのかわかんなかったから……じゃあ触れるね。どうしたの?」


「………………ほっといてよ」


結月は由香の頭を下敷きで思いっきり擦って静電気を発生させる。


「冗談冗談冗談冗談あーーーーーー!!」


下敷きを離すと由香の髪の毛が派手に逆立った。


「……野球部が甲子園に行くから、私ら吹奏楽部が応援に行かされるの」


「あー、あの野球場で演奏するやつ?」


「うん。こっちも大会あるから練習しなきゃいけないのに、野球部のために余計な曲まで練習させられて。直射日光で楽器も傷むし」


「でもテレビに映れるじゃん」


「映すなら炎天下で汗だくでやらされてる姿より、ホールのステージでかっこよく吹いてる姿を映してほしい! でも基本、テレビでやらないでしょ吹奏楽の大会」


「うん……」


「なのに他の部活の応援のために練習する曲増やされて! 私ら夏中練習練習練習練習炎天下で演奏炎天下で演奏炎天下で演奏練習練習炎天下で演奏!!! 結月ちゃんが美人のお友達さん達と浴衣で夏祭りとか花火大会とか楽しんでる時も! 結月ちゃんが美人のお友達さん達とキャンプとか行って朝日が昇る絶景をバックにダンス動画なんか撮ってバズってる時も! 結月ちゃんがクーラーの効いたリビングでフルーツタワーとか摘みながら美人のお友達さん達に夏休みの宿題教えてもらってる時も! 結月ちゃんがプール付きの豪華客船で美人のお友達さん達とトロピカルジュースとか飲んで優雅なクルージングなんか楽しんでる時も!」


「あたしの友達のこと石油王か何かと思ってる?」


由香は全身の力が抜けて机に顔を埋める。


「せめてうちの野球部がさっさと負けてくれたら残りの夏は自分達の練習に専念できるんだけど……。私の夏を返せー!!!!!」


「うーん確かに、野球部だけ応援してもらってる気はしちゃうな……」


結月は下敷きで由香の頭頂部を扇ぐ。



「夢幻戦隊ヨーカイジャー」


episode:19 「悪魔の野球場」



午後3時、都内某所の公園。


公園のグラウンドで勝が近所の小学生5人と鬼ごっこをしている。


小学生達は最初、いきなり「オイラも混ぜてくれよ!」と笑顔で叫んできた外見年齢20歳ほどの男に戸惑ったが、その笑顔の屈託の無さと、飛んでいるコガネムシを素手で捕まえる技術と度胸、そして今時一人称が「オイラ」な大人への興味から、勝を仲間に入れた。


遊びに加わってしまえばさすがは精神年齢10歳の333歳児、すぐに小学生達と打ち解け、勝が鬼のときは2回タッチしないと鬼が交代しないというハンデを設けた上で楽しく鬼ごっこに参加できた。


奇声を上げながら逃げる少年に勝が1回目のタッチ。

2回目のタッチを避けられ、勝も負けじと奇声を発しながら追いかけていると、小学生達が突然逃げる足と奇声を止めた。


「ん? どした?」


「あれ」


少年が指さす方を見ると、野球のユニフォームを着た高校生の集団が談笑しながらグラウンドに入ってきていた。


「近くの高校の野球部の人達……」


「いつも野球やるからどけって言うんだ」


「ここはみんなの公園で、野球優先のルールとか無いのに」


「そっかー」


勝は小走りで高校生達に近付く。


「なあ、お前らも一緒に遊ぼうぜ」


「は? 俺ら練しゅ℃÷≠%√ю」


活舌悪くぼそっと言うので最後のほうが聞き取れなかった。


「何て?」


「俺ら練習するんで、出てってもらえますか?」


「あ、練習するんでって言ったのか。だったらさ、俺らも一緒に野球やらせてくれよ?」


「は? 何で関係ないひ№€☆±∑」


「え?」


「何で関係ない人達入れなきゃいけないんすか?」


「もうちょっとしっかりしゃべってくれないとわかんねえよ」


活舌悪くしゃべる高校生の後ろから、目つきの鋭いキャプテンらしき高校生が前に出てきた。


「俺らいつもここで練習してんすよ。邪魔しないでもらえますか?」


「でもここ、みんなの公園で、野球優先のルール無ぇんだろ? じゃあ、先に遊んでたオイラ達が出ていくのおかしくね?」


「オイラって何すかフザケてんすか。公園のルールに無くても、普通子供の遊びより野球優先でしょ?」


「んなの初めて聞いたぞ」


「俺ら真剣にやってるんで。遊びでやってるんじゃないんで」


「でもここ、オイラ達が先に遊んでたんだぞ。なぁ?」


勝が振り向くと、小学生達が少し間を開けて頷く。


「お前らいつもここで野球やってんだろ? 今日くらいいいじゃん」


「いつもそいつら譲ってくれるんで」


「それはお前らが恐いからじゃね?」


「とにかくどいてもらえますか? 野球優先が常識なんで」


「なんで?」


「野球日本じゅ¶πξΔ∽Ё」


「だからお前何言ってるかわかんねえから」


「こいつ言いたかったのは、野球は日本中で人気あるってことだと思います」


活舌悪くしゃべる高校生が頷く。


「そりゃオイラも野球やったことあるし、楽しいの知ってるけどさ、人気あるから先に遊んでる奴らがどかなきゃいけないっておかしくね? そんなんじゃ、ここ使えるお前らが楽しくても、他のみんなが楽しくないじゃん」


「楽しいとか関係ないんで。俺ら練習しなきゃいけないんで早くどいてくれないと通報しますよ?」


「通報? 誰も犯罪とかしてないのに警察が来て何すんだ?」


「お兄さん大人なのに高校生相手に恥ずかしくないんすか?」


「え、オイラ大人に見える!?」


「なんで嬉しそうなんすか」


その時、激しい地響きと共に地面が揺れ始めた。


「みんなこっちだ!!」


勝は足が固まる小学生達の背中を押してグラウンドの真ん中に誘導する。


「お前らも!」


バラバラの方向を向いていた高校生達が一斉に勝を見て、ふらつく足でグラウンドの真ん中へ走る。


「ここでじっとしてろ!」


勝は広い場所に集まった少年達を確認し、全速力で公園を駆け出していく。


小学生達は揺れをものともせず走っていく勝の姿に数秒目を奪われたが、すぐに避難訓練を思い出し腕で頭を守りながらしゃがみ込む。

それに気付いた高校生達も同じようにしゃがみ込む。



勝がいた公園の数㎞先。

市街地のビルやマンション、商店といったいくつもの建物が砂埃を巻き上げながら地面を滑るように移動する。

逃げ惑う人々の悲鳴と足音をかき消す轟音と共に、それらの建物は一定の面積の平地を中心とした楕円形の軌道を描く。


その平地の更に中心にいる何者かが禍々しい光を放つ両手を振り動かす毎に、建物は衝突と合体を繰り返し何かを形作っていく。


建物を操る何者かは「DEVILS(デビルズ)」という赤いロゴが入った黒い野球のユニフォームと赤い「D]の文字が刻まれた黒い野球帽を身に着けた、鳥のトキに似た紅白の顔をした悪魔。


「ジャミジャミ!」


同じく黒いユニフォームと野球帽を身に着けたジャミリアーが手押し車に乗せてきた緑色の草を、悪魔は高速の田植えのような動きで中心の平地全体に植え付ける。


「ジャミジャミ!」


更に別のジャミリアーが運んできた白い正方形の板3枚と互角形の板1枚を適切な位置に設置し、口から大量の米粒のような物を吐き出し草の上に定着させて線を描く。


線を描き終わった悪魔は出来上がったそれを見渡し、セミの声が止んだ夏の空に向かって野太い声で叫ぶ。


「できたぞおおおおおおお!!!!! これが俺達の、野球場だああああああああああああ!!!!!!!」


そこへ、完成した野球場の入り口を通ってやってきたデモンダイム幹部達。

ベルゼブルとグレモリー、そしてグレモリーが乗っているラクダ型メカも、トキ顔の悪魔と同じユニフォームと野球帽を身に着けている。


「ベルゼブル様にグレモリー様! ご覧ください!」


「Ha~! こいつは見事なもんだなハルファス!」


「は! 勿体なきお言葉!」


トキ顔の悪魔・ハルファスと5体のジャミリアーは野球帽を取って幹部達に一礼する。


「ここでヤキュウとかいうのをやるのね?」


「はい! グレモリー様、ユニフォームがよくお似合いです!」


グレモリーはラクダ型メカから芝生に降りて髪をかき上げる。



ハルファスが造った野球場の周りには、はぐれた家族や友人を探す者、怪我をした足を引きずりながらこの異様な場所から逃れようとする者、野球場にスマホのカメラを向ける等、老若男女様々な人間達で溢れ返っていた。


駆け付けた勝はムゲンライザーで智和に連絡。


≪情報はもう入ってる。あいつら派手にやりやがって……。とにかく、みんなに連絡して俺も行く。それまでそこで見張っててくれ≫


「わかった!」


通信を切ると、野球場の中から悪魔達の楽しそうな声が聞こえてきた。


「そ~れもう一球!」


バットにボールが当たる音。


「当たりましたわ~!」


「グレモリー様逆です! あっち回りに走るんです!」


「そうでしたの~?」


「YO! 初めての野球で逆走! でも本人めちゃ楽しそう! オイシイと思ったのが真相? それマジお前らしい発想!」


「あらバレちゃいましたの~?」


「ベルゼブル様のラップ! 生で聞けて感動です!」


「HAHAHAHAHAHA!」


「あははははははっ!」


「ジャミジャミジャミ~!」


「ハッハッハッハッハ~!」


「次俺様だな! 手加減はいらないZE!」


「わかってますよ~!」


「頑張って~!」


「ジャミジャミ~!」



(え? 中で野球やってる? そのためにこんなモン作ったの?)


などと思った勝が辺りを見渡してみると、心なしか周りの人間が減っているような気がした。


「あれ? もっと人間いなかったっけ……?」


と、また野球場の中から声が聞こえる。


「おっ、お前らもやるか?」


「は……はい!」


「いいZEいいZE!」


「来る者拒まず、ですわ~!」


中から聞こえる楽しそうな声に数人の人間の声が加わった。

それに誘われるようにまた1人、また1人と、外にいた人間達が野球場の中へ入っていく。

その中には、先程公園にいた野球部の高校生達の姿もあった。


「お……おい待て!」


勝が駆け寄りキャプテンらしき少年の肩を掴むが振り払われる。


「公園のグラウンドより広そうだし、俺らこっちで練習します」


高校生達は駆け足で野球場に入り、中から聞こえる声に加わる。


「おー! 若そうな人間がいっぱい来たな!」


「バ……バケモノ!!」


「一緒に野球やりますわよ!」


「き……きれいなお姉さん!!」


「プレイボール!」


「ウオオオオオオオオオオオ!!」


中から聞こえる声は更に活気に溢れ、外では親を探し泣き叫ぶ子供の声、家を壊された者達の嘆き、消防車や救急車のサイレン、そして中にいる者達への罵声。


「なんだよ、こんな大変なことになってるのに……」


「中にいる人達、野球してるの!?」


人々の頭から黒い煙状のデビルギーが立ち上ぼり、野球場に吸い込まれるように入っていく。


勝の視界に入る人間ほぼ全てがデビルギーを放出している。


「これが狙いか!」


勝も野球場に駆け込む。

中に入ってみると、コンクリートむき出しの部分には元の建物の面影が残っている所もあるが、それ以外は普通の野球場のように見える。


勝はスタンドの柵に身を隠しながらグラウンドを見下ろす。


グラウンドからは外にまで響く楽しげな声と、高校生がボールを打ち上げた金属音。


「ナイスショットー!」


「お姉さんそれゴルフです」


「ごるふ?」


汗を流しバットを振りボールを追う人間達の頭からもデビルギーが立ち上ぼり、それらは外から入ってくるデビルギーと共にハルファスが掲げている手の平サイズの米俵のような物体に吸収されていく。


「あんな楽しそうな奴らにも負の感情が……?」


「あら来てくださったのシルバーちゃん!!」


グレモリーがグラウンドから手を振る。


「見つかった!」


「YO! 俺様と色かぶりの銀色! てめえも野球やるか?」


「やらねえ! 色かぶりはオイラも思ってたけど! ってかなんで楽しそうに野球やってる奴らからデビルギーが出てるんだ?」


「貴様がヨーカイシルバーか! それはこのハルファス様が説明してやる」


「あら、ヨーカイジャーにわざわざ説明してあげますの?」


「見られちまったら隠す意味も無いし、知られて支障が出るような作戦でもないでしょう」


「それに、妖怪であるヤツに人間ってモンを教えてやるいい機会だ」


「それもそうね」


「よく聞け! ここにいる人間どもは、みんな野球が大好きだ。だからみんな野球がやりたくて入ってきたんだ」


「とか言って、本当は洗脳とかしてるんだろ?」


「野球場に仕込んだ俺の魔力で、多少、外に漏れる雰囲気が普通よりも楽しそうに感じられるようにしてはあるが、それでも元々野球好きの奴らじゃなきゃあ、こんな得体の知れない所に入ってきたりはしない。そしてこいつらは、外にいる奴らが何を思っているか全く気付いていないわけじゃない。それでもこいつらは、ここへ入ってきて俺達と野球をやっている。なぜだかわかるか?」


「……それはさすがに、洗脳だろ?」


「俺の魔力の影響も多少はある。だがそれも、誰でもブッ壊れた街の真ん中で野球を楽しめるようにしてしまえるほどの魔力じゃない。こいつらは今この状況で、大好きな野球を心から楽しんでるんだよ!!」


「さあ、次はワタクシ達の攻撃ですわよ!!」


「ウオオオオオオオオオオオ!!!」


声を張り上げる人々の頭からまた大量のデビルギーが立ち上ぼり、また米俵状の物体に吸収されていく。


勝は柵を握る手を震わせながら、守備位置に移動する人々の笑顔を瞳に映す。



その時、夏の日差しに照りつけられた野球場に爽やかで涼しげな声が響き渡った。


挿絵(By みてみん)


「みなさーん! 冷たいドリンクはいかがですかー?」


「コーラにサイダー、麦茶に烏龍茶、熱中症対策にピッタリのスポーツドリンクも、今なら無料で差し上げまーす!」


スタンド後方の出入口付近で、ピンクと黄色の売り子衣装を着た結月と千影が紙カップのドリンクを持ってサイダーのように弾ける笑顔で叫んでいる。


それを目にした人間達は、一斉に出入口に向かって走りだした。



「おいおいおい! 待てお前ら!」


「あれヨーカイジャーのピンクと黄色じゃね? なんだあのcoolでfancyでsweetyな格好は」


「人間ども、もしかして喉が渇いてましたの?」


「まさか、この程度の運動、この程度の暑さでですか?」


「ワタクシ達にとっては『この程度』でも、下等で脆弱で矮小な人間どもにとっては、相当喉が渇く運動量と暑さだったんですわ。そこにあんな可愛い子達がドリンクあげるーって来たら……」



「ドリンクはこちらでーす!」


結月と千影に導かれるままに、人間達は列を成して野球場の外へ。


「おい待て野球……」


ハルファスが追いかけようと踏み出したところで、出入口と逆方向からヨーカイジャー初期メンバー5人がグラウンドに飛び込み軽い足音で着地。


「あ? あ? あ? あああ?」


ハルファスが誰もいなくなった出入口と飛び込んできたピンク、イエローを交互に指差す。


「ベルゼブル様、ピンクと黄色、こっちにいますけど……」


「つーことはさっきのは、黄色が作った幻だな?」


「そ。私の幻は声も出せる」


イエローが腰に手を当て胸を張り、ピンクが跳びはねながら拍手。


レッドがスタンドの勝に手招きする。


「勝ー!」


「うん!」


勝はムゲンライザーに変身(チェンジ)カードを入れ、ジャンプと同時に腰のムゲンドライバーにセット。


「妖怪変化!」


着地と同時にヨーカイシルバーに変身完了。


グリーンがムゲンブレスで外にいる妖怪治安維持部隊隊長のネネコガッパに連絡。


「そっちはどうだ?」


≪今出てきた連中も安全な場所に誘導してる。外のことはオレ達に任せて思いっきり戦え!≫


「ああ。いつも助かる」


≪バッ……バッキャロー!! 別におめぇのためにやってるわけじゃねえんだからな!!!≫


ムゲンブレスからナマハゲが「悪い子はいねえがあああああああああ!!!!!」と叫びながら瓦礫をどかし人間を救助する音も聞こえてきた。

グリーンは通信を切り悪魔達に目を向ける。



「誰が呼んだか旅烏 鼻高々にてんつくてん 天に代わって只今参上! 空の勇者、ヨーカイレッド!」


「誰が言ったか川流れ 流れるどころか掻き分けて 登って飛び出せナイアガラ! 水の戦士、ヨーカイグリーン!」


「誰が言ったか猫かぶり 花も恥じらうJK3 嘘はいらない夢見る乙女! 獣のアイドル、ヨーカイピンク!」


「誰に言われどカマわない イタチごっこにピリオド刻み 腹を切らずに悪を斬る! 風の剣士、ヨーカイブルー!」


「誰を染めるか狐色 こんこん今夜も手鞠歌 お目にかけましょ万華鏡 幻の賢者、ヨーカイイエロー!」


「誰もオイラを止められねえ! 当たるも八卦の大予言! 爆走疾風ギンギラギン! 閃光の覇者、ヨーカイシルバー!」


「夢も現も守るが仏 夢幻(むげん)戦隊!」


「ヨーカイジャー!!!!」



「いくぞ!!」


「待て!!!」


悪魔達に向かって走り出そうとしたヨーカイジャーに、ハルファスがボールを持って突き出す。


「ヨーカイジャー、ここは平和的に野球で勝負しないか?」


「野球で?」


「そう。お前らは戦いより、お互い傷付かない方法で解決するほうが好きだろ? 野球は9対9でするものだ。こっちはもう揃ってるから、お前らはあと3匹揃え……」


ムゲンシューターとオボロバルカンによる一斉射撃。


「うわうわうわうわうわうわうわうわうわ!!!!!!!!」


悪魔達は不意の攻撃を文字通り右往左往の不細工な動きでギリギリかわす。

俯せに倒れていたハルファスが起き上がりながら抗議。


「いいいいいいいいきなり何しやがる!?!?」


以下、ヨーカイジャーがいつもの名乗り順でコメント。


「散々ブッ壊しといてなーにが『平和的に』だ!!」


「この野球場を造るために建物が動かされたせいで何人下じきになったと思ってる!!」


「お互い傷付かない方法って言うけど、人も街もいっぱい傷付いてるよね?」


「スポーツとは健全な肉体と健全な精神を育むもの。されどお主らが育んでおるのは、デビルギーだけでござろう!」


「他に迷惑かけてまでやるスポーツなんて、私達がやりたいわけないでしょ?」


「野球は本当は楽しいのに、みんなを悲しませてやる野球なんか、絶対楽しくない!!」



ハルファスは激しく首を横に振る。


「いやいやいやいやいやいや、普通こういうとき、『うよっしゃあああ!! 野球でもなんでもやってやるぜー!!!!』とか言って、メンバー揃えて、プレイボール! ってなるだろ?」


ムゲンシューターとオボロバルカンによる一斉射撃2回目。


「あがががががががががががががが!!!!!!」


悪魔達はまた不細工な動きでギリギリかわす。


「じゃ……じゃ……じゃあ……ジャミリアー! アレ持って来い!」


「ジャミ!」


1体のジャミリアーがベンチ裏から9人分のユニフォームが掛かったキャスター付きのハンガーラックを押してきた。


ユニフォームには「ヨーカイジャー」の英語表記のロゴが入っており、9着中6着がメンバーカラー、残りの3着は白。


「ホラ、こういうの用意してるんだぞ。どうだピンク? 可愛いだろ?」


「可愛いー! みんなの色のあるんだ!」


「だろ? 可愛いだろ? 野球やるならこれを着られるんだぞ?」


必殺妖技(ひっさつようぎ)肉球謝肉祭(にくきゅーかーにばる)!!」


悪魔達の頭上から無数の肉球型エネルギー弾が降り注ぐ。

悪魔達はまたまた不細工な動きでギリギリかわすが、ジャミリアー2体は避けきれず爆散。

ついでにヨーカイジャー用ユニフォームも爆散。


「あー、メンバー減っちまった!! ユニフォームもあー!! ピンク! 可愛いの着たくないのか!?」


「可愛いのは好き。でもそれとこれとは別!」


ハルファスは激しく上半身を横に振る。


「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、人間って、野球好きだろ? 特に『ナツヤスミ』とかいう時期には、みんなで若い人間どもが野球やってるの見て盛り上がるんだろ?」


以下、ヨーカイジャーがいつもの名乗り順でコメント。


「人間みんなが野球好きだと思うなよ? それに、夏休みの若い人間の野球って高校野球のことか? あれぶっちゃけ、好きな人は好きだけど、嫌いな人は、お前らにとってのヨーカイジャーくらい大嫌いだぞ」


「まあ、熱い青春の象徴みたいに思ってるのは好きな人だけだな。野球部の奴らは高確率で他の部活を馬鹿にしてる。テレビとかで持ち上げられるからか、野球が一番偉いみたいな感覚持ってて、大人になってもそれを引き摺ってる。現役JKとしてはどうだ?」


「吹奏楽部の友達が、自分達の大会も近いのに野球部の応援のために炎天下で演奏させられるって怒ってた。なんか世の中全体野球優先で、迷惑してる人もいるって偉い人達は気付いてないのかな?」


「高校時代、野球部の練習試合のために剣道部の部室を待機室に使われた。野球部の顧問に抗議すると、『学校としては剣道より野球に力を入れざるを得ない』などと言われた。野球部の者の『同じ棒振ってるならお前らも野球やれば?』という言葉とにやけた顔を、拙者は高校野球シーズンの度に思い出す。あのような特権意識を持つ者を生み出す高校野球の在り方、見直さねばなるまい」


「私んとこは女子校で野球部無かったけど、バイト先の人とか、いろんな人達の話聞いてると、野球部に爽やかなイメージ持てないなー。それと、親戚に誰にでもまず『野球はどこファンだ?』って聞いて、野球見ないんですって言われたら『一体何を楽しみに生きてるんだ!?』みたいな勢いで驚くおじさんいるけど、うざい」


「オイラ、こう見えても昭和時代とか平成時代の最初の頃のこととか知ってるんだ。野球中継って、他のテレビ番組を遅らせたり中止にしたりしてまで放送するからイメージ悪いけど、今みたいに配信で後から見られるとか無かった時代は、今より被害がデカかった。それで野球に悪いイメージ持ったまま大人になっちまった人間、いっぱいいるみたいだぞ。高校野球がやたらとプッシュされる関西地方なんか、日曜朝にやってるシリーズ番組の最終回近くにそれをやられるから、関西に住んでるそのシリーズのファンはいまだに野球中継嫌いで、高校野球は特に大嫌いらしいぞ」


ハルファスはブルーが話している辺りから小刻みに肩を震わせていた。


「そうか……よくわかった……だったら仕方ねえ!!」


ハルファスがユニフォームを脱ぎ捨てた。

露になった胴体は石油ストーブ、腕は長い笹団子、足はシャチホコのような姿勢のニシキゴイに似ていて、左腰には先程の手の平サイズの米俵のような物体、右腰には金属の皿のような物体が付いている。


「食らえ!!」


胴体がオレンジ色に光り、ヨーカイジャー達に向けて熱線を放つ。


「うわああああああああ!!!!!」


「こいつ普通に戦えるのかよ!!」


ヨーカイジャーは高熱に苦しみながらも3回目の一斉射撃。


幹部達とジャミリアーはそれを不細工ではないジャンプや平行移動等でかわし、ハルファスは熱線により銃撃を相殺。


スキーのストックのような物を生成して両手に持ち、続いて生成した盥舟のような物に飛び乗り地面から数cm浮いた状態でヨーカイジャーの陣営に突進。


ヨーカイジャーはこれを6方向へのジャンプでかわすが、ハルファスは流れるようなストック捌きで方向転換、ピンクに的を絞り突っ込んでくる。


「えー!? さっきの怒ってるー!?」


ピンクはハルファスに背を向け走る。



「あなた達を倒すため、ワタクシは更に強く美しく変わる。グレモリー・バトルフォーメーション!!」


グレモリーは背部を開いたラクダ型メカに飛び込みアーマーを纏うように合体。

視覚的には野球のユニフォームを着たラクダ型メカが2本足で直立しているように見える


「またそれか!!」


ムゲンソードを構え迎え撃つグリーンとブルー。


グリーンが回し蹴りをムゲンソードで受け止める。

右足で踏みしめた芝生の下の地面にヒビが入る。


そこへブルーが右から斬りかかるがグレモリーは直ぐ様グリーンのムゲンソードから足を離し一歩踏み込んでパンチを繰り出す。


ブルーは姿勢を低くしてパンチをかわし、そのまま前足のリーチの内側に踏み込み首を狙って突きを放つ。


グレモリーは後ろに仰け反って突きをかわし、仰向け状態から前足で芝生に立ちブルーを後ろ足で挟み、カポエラを思わせる回転からブルーを壁に向かって投げ飛ばす。


グリーンが受け止めようと走るが投げられた勢いには追い付けない。


「かくなる上は……」


ブルーは激突する直前にコナキジジイの能力(スキル)カードを発動。

全身が壁にめり込んだが石化によりダメージはゼロ。


「そのまま化石になってしまったら面白いわね」


「その前に発掘してやる!」


グリーンがムゲンソードで壁を削ると、石化したブルーが人型の窪みを残して壁から転げ落ちた。


「発掘されるなら野球場の壁よりチョコの中からが良かったでござる」


「あー、あるなそういうお菓子……」



バットを振り上げ威嚇するジャミリアー3体に、レッドのムゲンシューターとシルバーのオボロバルカンによる銃撃を浴びせる。


ジャミリアー3体はバットを自分達の足の上に落としながら爆散。


「野球部員がバットで威嚇しちゃだめだろー!!」


「ジャミリアーは野球部員じゃねえYO!」


ベルゼブルが羽音を立てながら高速飛行右ストレート。


レッドとシルバーは前転と後転でこれをかわし、旋回して晴天に重なったベルゼブルに銃口を向ける。

連射した銃撃が全てかわされたのを見て、それぞれカラステングとイッタンモメンの能力(スキル)カードを発動。


翼を生やしたレッドは真っ直ぐにベルゼブルに向かい連続パンチを打ち合う。


宙に浮き上がったシルバーは明後日の方向へ飛んでいくが元は家電量販店の入口に設置されていた物らしい巨大モニターに足を着け、ちょうど映っていたグレモリーによる頭皮のマッサージを受けるベルゼブルの映像を蹴り砕きながらミサイルの如く飛び出し、空中でレッドと打ち合うベルゼブルの背中に頭から激突。


咄嗟に距離を取ったレッドの視界の中でシルバーとベルゼブルはそれぞれ芝生へ落下。


ベルゼブルは背中を、シルバーは足を押さえながら立ち上がる。


「痛っ…………たぁ…………、砕けたモニターでガリってなった」


「だ~~~から頭あああああああああ!!!!!!」


走るピンク。

後ろから飛んでくる米粒状の弾丸は研ぎ澄まされた感覚により避けることができるが、「体育はダンスだけ得意」というその体に残された体力にいずれは限界が来る。


振り返り反撃のチャンスを狙おうにも高速で迫る盥舟スキーと米粒弾丸の併せ技に隙は見えない。


逃げ回るうちに背後の気配の変化を感じて目をやると、ハルファスの胴体がオレンジ色に光っていた。


「熱いのが来る!!」


その時、イエローが乗ったバイクサイズのライジュウが眩しく光り輝く電撃を纏っての体当たりでハルファスを真横へ吹っ飛ばした。


「ぶっ……!?」


ハルファスは盥舟から投げ出され、全身を駆け巡る電撃に苦しみながら芝生に叩き付けられる。


「ぐああああああ!!!!!」


膝に手をつき息を整えるピンクの前で、ライジュウを駆るイエローがブレーキを掛け手を伸ばす。


「お嬢さん、乗ってかない?」


「も~~~、千影ちゃん大好き!!」


イエローとピンクはライジュウに二人乗り。

スーツ越しに密着する肌で互いのぬくもりを感じながら走り出す。


「おのれ……!!」


ハルファスは立ち上がり、正面から迫る二人乗りバイク妖怪に向け熱線を放つ。


イエローのハンドル捌きに応えライジュウがジャンプ、同時にピンクもジャンプして空中でスキャットクロウを装備。


熱線をかわしたライジュウがそのまま角度を変え、電撃を纏った体当たりを空中から繰り出し等ハルファスの胴体を直撃。


「負けるかああああああああ!!!!」


ハルファスは電撃に耐えながらライジュウのボディを抱え込み、ゼロ距離での熱線を放つべく魔力を込める。


ハルファスの胴体がオレンジ色に光り始めたその時、ハルファスの脳天をピンクのスキャットクロウが貫いた。


「うぎゃあああああ!!!!!」


ピンクは全身のバネで倒立ジャンプ。

イエローの後ろに飛び乗り再びぬくもりを感じながら背後からの断末魔を聞く。


「奴の電撃が俺の……足よりちょっと上の所で…………これがほんとの…………コシヒカ………」


爆散。


ブレーキを掛け、イエローとピンクが爆炎をバックにハイタッチ。



背中の痛みが引いたベルゼブルが、レッドの跳び蹴りをかわして飛び上がり、ハルファスの残骸の上空に移動して先が髑髏型のマイクを生成する。


「俺様はもうちょっとユニフォーム着とくYO! デビル デビレバ デビルトキ カモンデーモン デビデビレ 最後のバイブス、アゲてこうZE!!」


ベルゼブルの目から発射されたビームを浴びた残骸が一つになり、巨大なハルファスの姿となりヨーカイジャーを見下ろす。


「ラスボス参上!!」


「嘘つけー!」


「サモン、パートナーズ!!!!!!」



妖怪の里。



「春夏秋冬山・南エリア」で木々の間を歩いていた伝説妖怪ゲキリンダーが空を見上げ、天を駆け上がりながら金色の光になって高速移動を開始。



「河童ヶ沼」の底から長老妖怪メガガッパーが水飛沫を上げながら浮かび上がり、緑の光になって高速移動を開始。



「妖怪電気街」のステージのモニターに「きんきゅーしゅつどー」の文字が表示され、ステージ上の偶像妖怪ネコマタンがそれを見て敬礼、客席の妖怪達が振るサイリウムに見送られながらピンクの光になって高速移動を開始。


「試し斬りの竹林」で瞑想していた斬空妖怪カマイタチが空を見上げ、青い光になって高速移動を開始。



「妖怪稲荷神社」の神殿の扉が開き、奥から幻惑妖怪キュービルンが「お座り」のポーズのまま前進、その足元から機械的なカタパルトが伸び、どこかから響いてきた「five,four,three,two,one,zero!」というカウントダウンでキュービルンが「お座り」のポーズのまま空高く射出………………されない。


振り返り、カタパルトを前足でトントンしてみる。

反応が無い。


と、思ったら突然射出され後ろ向きのまま黄色い光になって高速移動を開始。


「さわやか草原」を走る予言妖怪ブルクダン、並走する爆走妖怪オボログルマ、上空に疾風妖怪イッタンモメン、3体同時に高く飛び上がり銀色とオレンジ色と紺色の光になって高速移動を開始。


ヨーカイジャーの前に8つの光が降り立つと同時に巨大な妖怪の姿を表し、ヨーカイジャーの前に6体のパートナー妖怪とその仲間2体が並び立った。


「キュービルンなんで後ろ向きなの?」


〔コン…………〕


キュービルンが向きを改めたところで、パートナー妖怪達は目からビームを出しヨーカイジャーをコクピットに転送する。


「いくぜ、夢幻(むげん)合体!!」



レッドがムゲンブレスに合体(ユナイト)カードを入れると、5体のパートナー妖怪達が宙に浮き上がり変形を始める。



ゲキリンダーの両前足と尻尾が外れ別次元へ転送され、後ろ足が背中側へ折り畳まれ、体全体が垂直に起き上がり首が体内に引っ込むようにして合体に適度な長さになる。



メガガッパーの両腕が引っ込み、甲羅が上にスライドして体の下半分が2本の足の形状になったところでゲキリンダーの体の下に合体して「下半身」となる。


ネコマタンの尾と後ろ足が折り畳まれ、前足は爪が出た状態で頭に被さるようにスライドし、全体的に鋭い爪の付いた腕といった形状になりゲキリンダーの左腕部分に合体。


カマイタチの刃物状の尾が外れ、後ろ足が折り畳まれ、鎌の付いた前足は頭に被さるようにスライドし、鎌の間に刃物状の尾が収まり全体的に鋭い剣の付いた腕といった形状になりゲキリンダーの右腕部分に合体。


キュービルンの体が前部と後部で半分に分離、前部は中心にキツネの顔が付いたプロテクターといった形状に変形しゲキリンダーの胸に合体、後部は九本のキツネの尾が付いたプロテクターといった形状に変形しゲキリンダーの背中に合体。


最後にゲキリンダーの首が回転扉のように回転、中から人型の顔が姿を表した。


レッド以外の4人もゲキリンダーのコクピットに転送され、ヨーカイジャー達から見て左から、ピンク、イエロー、レッド、グリーン、ブルーの順に席に着いた。


「完成、合体巨人・ムゲンビルダー!!」


5人声を揃えてその名を叫ぶ。


ムゲンビルダーは足を高く上げて振り下ろし、歌舞伎の見栄を切る動きでポーズを決める。



「こっちも夢幻(むげん)合体!!」


シルバーがムゲンライザーにカードを入れ、ムゲンドライバーにセットすると、3体の妖怪達の体が宙に浮き、変形を始める。



ブルクダンの四肢と尻尾が折り畳まれながら体全体が直立、胴体下半分がスライドして2本に分かれて「足」になり、首から上の頭部が真っ直ぐに前を向く。


オボログルマの胴体前部が伸び、全体的にタイヤとガトリング砲の付いた腕といった形状になりブルクダンの左腕部分に合体。


イッタンモメンの尾が折りたたまれ、胴体前部が伸び、全体的に左右両側に鋭いカッターの付いた腕といった形状になりブルクダンの右腕部分に合体。


最後にブルクダンの首が回転扉のように回転、中から人型の顔が姿を表した。



「完成、合体巨人・ムゲンショーグン!!」


シルバーがその名を叫ぶ。


ムゲンショーグンは両腕の武器を交互に力強く前に突き出し、銀色の光を放ちながら腕を組んでポーズを決める。



巨大ハルファスが口から米粒弾を発射。


ムゲンビルダーがクロノジャベリンを装備、回転させ米粒弾を弾く。

その陰からムゲンショーグンがガトリングを連射。

これを胴体に食らった巨大ハルファスは米粒弾を止め3歩後退。


「ぐッ…………だったら、これならどうだ!?」


巨大ハルファスの両手が禍々しい光を放つと、野球場を構成していた建物がバラバラになって浮き上がり、合体巨人達の周囲を高速で飛び回り始める。

それらはコンクリートの渦の中に捕らえた合体巨人達にランダムに飛び掛かり、ムゲンビルダーの金色のボディとムゲンショーグンの銀色のボディを抉り火花を散らす。


その衝撃はコクピット内のヨーカイジャー達にも伝わる。


「うわああああああああああ!!!」


〔正面からの攻撃ならクロノジャベリンで防げたが……みんな耐えてくれ!〕


「お前らもな!」


〔お気遣い感謝する!〕


〔モォ~!!〕



巨大ハルファスがほくそ笑み、頭の中で勝利のファンファーレが聞こえ始めた頃、足元から何者かの声が聞こえてくることに気付いた。


「やめてくださーい!!!!」


それは例の野球部の高校生達の声だった。


「なんだ、さっきの人間どもか」


「もうやめてください!!!!」


「野球場で攻撃するのをやめてください!!!!!!」


勝には滑舌悪くしゃべっていた高校生も普通にしゃべっている。


「一緒に楽しく野球したこと、思い出してください!!!!」


「あなたも野球を愛する者なら、大好きな野球を穢すようなことはやめてください!!!!!!!!」


「は? 俺別に野球好きじゃないけど?」


「ゑ?」


「ゑ?」


「ゑ?」


コクピット内のヨーカイジャー達も思わず、


「ゑ?」


「人間どもの負の感情を煽るのに野球が使えそうだから、利用しただけだけど?」


「で……でも野球、楽しかったですよね?」


「楽しかったか楽しくなかったかで言えば楽しかったけど、人間どものスポーツなら、どっちかというとスキーのほうが好きーだな」


「あ~!」


コクピット内のグリーンが大きく頷く。


「どうりであいつ、ユニフォーム脱いだら野球のカケラも無い姿してると思った」


「あ~!」


ピンクが真似して大きく頷く。


「阿波おどりで攻撃してくる悪魔は、阿波おどりの人の笠みたいなの被ってたもんね!」


「つまり奴も拙者達と同じく……」



「別に野球、好きじゃねえぞ?」


それを聞いた高校生達は180°向きを変え、ジョギングのような走り方で去っていった。


そうしている間にもコンクリート攻撃は続き、合体巨人達にはダメージが蓄積されていた。


「高校生達の言葉に思わず攻撃を緩めて……とか無ぇのかよ!!」


「あいつ別に野球好きじゃなかったからな!!」


「どうすりゃいいんだよー!!」


「みんな気付いてない? 私は気付いてる」


「何?」


「ずっとチャンスを伺ってたの…………もう1体の巨大妖怪が!!」


〔ブンブン!!〕


バイクサイズのライジュウが大ジャンプ、元の大きさに戻りながら巨大ハルファスの背中に体当たり。


「うわあああああああああああ!!!!!」


巨大ハルファスは思わず転倒。

両手の光が消え、コンクリートは全て地面に落ちた。


「よし……いけるかゲキリンダー!?」


〔ややきつい!〕


「お前らは!?」


〔モォ~!!〕


〔ブヒブヒ!!〕


〔ブオォォォォン!!〕


「よっしゃさすがの持久力!!」



シルバーがムゲンライザーに必殺フィニッシュカードを入れ、ムゲンドライバーにセットすると、ムゲンショーグンの全身を3色の光が駆け巡り始める。


必殺大妖技(ひっさつだいようぎ)銀輝魔砕轟ライジングギャラクシー!!!!!」


ムゲンショーグンが高速移動しながら威力を増したガトリングを連射、起き上がり際の巨大ハルファスは弾丸のダメージで動きを止め、そこへ妖力を込めた右手による下から上へ打ち上げるチョップ、空高く飛ばされた巨大ハルファスが落下してくるのに合わせ、ムゲンショーグンが大ジャンプ、光り輝く頭の角で巨大ハルファスのボディを貫く。


「お前らに塩は…………送らない!!!!」


爆散。


「うよっしゃああああああああああ!!!!!!」


ムゲンビルダーはクロノジャベリンを振り回し、天に掲げてポーズを決める。


ムゲンショーグンは両手を挙げ全身で喜びを表現する。


ライジュウは2体の傍らでシブくエンジン音のような鳴き声を発する。


〔ブンブン……〕


「やっぱり勝負は、拳かラップでつけるに限るZE !」


ベルゼブルはユニフォームを脱ぎ捨てて飛び去った。


グレモリーはいつの間にかいつもの緑色のドレスに着替えていた。


腰に結び付けている冠からは色々な物を出し入れできるので、そこに着替えを仕舞ってあったのだろう。


「ワタクシは妖怪ちゃん達を見られたら何でもいい……」


グレモリーもラクダ型メカに乗って走り去った。




戦い終わって帰り道。

ムゲンビルダー、ムゲンショーグン、ライジュウが並んで空を行く。


コクピット内ではヨーカイジャー達が変身解除して寛いでいる。


智和がいつもの事後処理の連絡。

「行き過ぎた野球好きの社長が仕切る建設会社が街を破壊して野球場を造り、そこへ市民を入れて野球をやったが酷い突貫工事だったためすぐに壊れた」という記憶操作及び情報操作がされることになった。


「また野球のイメージが悪くなるな」


「これが一番自然な情報操作だ。ここからどうすれば野球を本来あるべき国民に愛されるスポーツにできるのか。それを考えるのは、俺達の仕事じゃない」


「そっかー……」


夏の夕方、日差しだけ見ればまだ昼間。

金色と銀色に反射する光を見送る街に、セミの声が戻ってきた。



数日後、高校の音楽室。

吹奏楽部が野球部の応援のための曲を練習している。


ドアが開き結月が、続いて足を生やしたニンギョが入ってくると、由香のサックスを含むいくつかの楽器から妙に高い音が出た。


人魚(にーな)ちゃん!?」


人魚(にーな)ことニンギョは結月に頼まれ、差し入れの海の幸を持って吹奏楽部を励ましに来た。


先生に確認したら生物は駄目と言われたので、比較的腐りにくそうな物を焼いた状態で持ってきた。


由香は隣の部員の肩を叩きながら、入ってきた美女は自分の友達だと早口で説明している。


ニンギョは荷物を置き、足が生えた状態ではしゃべれないので吹奏楽部員達にジェスチャーで気持ちを伝える。


それを見た吹奏楽部員達は声を揃えて、



「マサチューセッツ工科大学?」



【to be continue……】


本編を読んだ後は「ヨーカイジャー悪魔データベース」で、登場した悪魔の情報をチェックしよう!

https://ncode.syosetu.com/n9246jz/20


公開中のデジタルコンテンツ、その他の情報は作者Instagram「 @satoruyoukaidaisuki 」とX(旧Twitter)「@shousetuyokai」をご覧ください

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