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17/22

episode:17 共に生きること

この作品は天道暁によるオリジナルのスーパー戦隊作品です。現在放送されているスーパー戦隊シリーズを制作・放送している各団体とは一切関係ありません。


オープニングテーマ「your kind!」


https://ncode.syosetu.com/n7284ka/1/

妖怪の里・試し斬りの竹林。


朝から武士は竹刀で、パートナーのカマイタチは両手の鎌で、並んで素振り。


「やはりこうして、共に鍛錬に汗を流すのはいいものでござるな!」


〔ビビーッ!〕


そこへ若竹の間を通り抜けながら勝が歩いてきた。


「おお勝! お主も一緒にやるか?」


「いやー、実はオイラが鍛えたいのは、体じゃなくて心のほうなんだ」


「心?」


「うん。オイラ、急に体だけ大人になったから、大人の振る舞いっていうの? そういうのわかんなくてさ。ここに武士が来てるって聞いたから、教えてもらえないかと思って」


「大人の振る舞いでござるか……。拙者から見て、拓実と智和はそれぞれ、大人の男として理想的な生き方をしていると思うぞ。拓実は高収入の仕事をしているわけではないが、自分の手に入る範囲のものを楽しみ、また誰よりも進んで他人のために動くことができる。智和は常に激務に追われているが、それを生き甲斐とし、皆から慕われる立派なリーダーとしてヨーカイジャーを纏めている。彼らの生き方を見て学べば、勝も立派な大人の男になれるだろう」


「そっかー。でもそれ言ったら、オイラは武士も理想的な生き方をしてると思うな。自分が好きなことを極めるために、今だってすごい努力してて、それで他の人間達を守ったり、楽しませたりできるんだから」


「ほう……それは自分では気づかなんだ」


武士が笹の間から覗く空を見上げる。


〔ビビーッ!〕


「カマイタチもそう思うってさ」


「そうでござるか?」


〔ビッ!〕


「ならばますます、お主や結月の模範となれるような、立派な大人であらねばならんのう!」


武士はまた素振りを始める。

竹刀が空気を斬る音が、先程よりも軽快に聞こえる。


「ならば拓実や智和、そして拙者の、良いと思う所は真似をして、そう思わないところは真似をしない。そうすればお主も、立派な大人の男になれるだろう」


「そっかー。じゃあ、拓実の丼ものばっかり食べてる所とか、智和の女心がわかってない所とか、武士の悪魔を倒すためなら死ぬかもしれない技を使う所を真似すればいいんだな!」


「それは全部、真似する必要無い所でござる」


その時、武士のムゲンブレスの着信音が鳴る。

智和からの通信。


「どうした? 勝もここにおるぞ」


≪じゃあちょうど良かった。今、悪魔が子供達に……≫


「襲い掛かっておるのか!?」


≪いや……その逆。悪魔が子供達に襲われてる≫


「ゑ?」

「ゑ?」

〔ビ?〕


人間1人、妖怪2体、全員の目が点になった。



夢幻(むげん)戦隊ヨーカイジャー」


episode:17「共に生きること」



某所の住宅地。

ヨーカイジャー秘密基地への緊急連絡を終えた密偵妖怪エージェント66(シックスティシックス)β(ベータ)は郵便ポストの陰から歩き出し、ランドセルを背負った小学生男子3人から石を投げられている悪魔に近付く。


その悪魔はアメリカザリガニのような頭部と両手のハサミ、雛人形のお内裏様のような服装、ハサミの付いていない4対のネギのような脚が生え、足袋を履いた一番後ろの1対の脚で立っている。


「ひえ~~~!!! やめてぇ~~~~!!!」


悪魔はハサミで顔を庇いながらうずくまる。


「バケモノ!」


「怪獣!」


「特定外来種!」


生き物に詳しそうな子もいる。


「こらこら君達、ザリガニをいじめると竜宮城に連れていかれるわよ」


突然現れた黒服ポニーテールの美女に小学生男子達は一瞬呼吸を止めるがすぐに発言の中のおかしな点に気付く。


「竜宮城? それザリガニじゃなくてカメじゃね?」


「それに竜宮城って海だけど、ザリガニって池とか田んぼとかに住んでるんだよな?」


「しかも竜宮城っていい所だし、連れていってもらえるなら嬉しいよな?」


エージェント66βは腰を曲げて小学生達に目線を合わせ、重々しい口調で話す。


挿絵(By みてみん)


「知らないの? 竜宮城に連れていかれた男が最後どうなったか」


「おじいさんになった……」


「いや、でもアレ、玉手箱開けなきゃいいんだろ?」


「いいえ、開けなくても玉手箱は、時間が経つと爆発するの」


「は?」


「ん?」


「彼氏いますか?」


「もしも浦島太郎が玉手箱を開けなかったら、玉手箱に仕掛けられた時限装置が発動し、一週間後に玉手箱は大爆発! 白い煙が村中……いいえ、世界中に広がり、生きとし生けるもの全てが歳を取り、人や獣は老いさらばえ、植物は枯れ果て、建造物は劣化、文明は崩壊、やがて地球は死の星に成り果てる。更に煙は大気圏を漏れ出し……」


煙が木星まで浸食し始めた頃にはもう小学生達の後ろ姿が学校に向けて歩き始めていた。


エージェント66βは黒服のポケットからスパイ妖怪七つ道具の一つ「板状小型通信機~Docodemo Cyborg2025~」、つまり普通のスマートフォンを取り出し、妖怪情報統括部に小学生達の記憶操作を依頼、続いてヨーカイジャーに悪魔を連れて落合う場所を連絡。


「名前は?」


「ベリトです…」


「ついてきて」


「は…はい……」


ベリトを連れて郵便ポストや自動販売機等の影に身を隠しながら移動を開始した。



十数分後、人気ひとけの無い寂れた神社。

学校に行っている結月を除いたヨーカイジャー5人が到着、その視界にエージェント66βの長い首で縛られたベリトの姿が飛び込んだ。


拓実が指を指し叫ぶ。


「あー! ロクロク……」


「エージェント66βよ。智和以外は初めましてよね」


智和が拓実に、


「めんどくさいけどコードネームで呼んでやってくれ」


と囁いてからエージェント66βの方へ向き直る。


「ご苦労。ここまでの状況を詳しく説明してくれ」


エージェント66βは、尾行していたベリトが小学生に見つかってしまってから今までの経緯を説明する。


「……というわけで小学生達は、竜宮城の話に恐れをなして去って行ったわ。記憶操作は要請済みよ」


「小学生達が恐れをなしたのは竜宮城ではなくお前自身だろうけどそこも含めて記憶操作してもらえるから大丈夫だろう」


「それでこのベリト、弱すぎて他の悪魔達からいじめられてデモンダイムから逃げてきたって言うんだけど、信用できるかどうかわからないし、一応こうして拘束しておいたの」


「そうだな、俺達が来たし……」


後方の仲間達がファイティングポーズを取る。


「逃げる意思があるならとっくにその首を振りほどくか引きちぎるかしてるだろうし、一旦解放していいんじゃないか?」


「そうね。逃げない?」


「はい!」


「じゃ……」


エージェント66βはベリトに巻き付いていた長い首をほどいて縮め、見た目だけでは普通の人間と見分けがつかない姿になった。

拘束が解けたベリトは前のめりに倒れこみ、千影は緊張が解けた笑顔で前に出る。


「へぇ~、あなたといい、ニンギョといい、ウシオンナといい、人間に似た女の子妖怪って美人が多いんだね」


「ありがとう。千影ちゃんよね、あなたも素敵よ。ニンギョとは友達で、任務が無い日はよく一緒に遊んでるの。それでこいつ、調べたけどジャミリアーカプセルやデビルギー容器は持ってなかった」


「僕、ジャミリアーにまでいじめられるんで、カプセル持ってないんです。そんなだからデビルギー集めも嫌になって、容器は捨ててきちゃいました……」


「なんかオイラ、かわいそうになってきた。こいつ妖怪の……」


勝が「妖怪の里で匿ってやらねえか?」と言おうとしたのを察した智和が、ポケットから取り出したコンビニの黒糖饅頭で口を塞ぐ。

信用できるかどうかわからない悪魔の前で、妖怪達が拠点としている場所の存在を示唆するような発言をしてはいけない。


智和は別のポケットから、街の監視カメラで撮られたベルゼブルとグレモリーの映像のスクリーンショットをプリントアウトした物を取り出し、ベリトの足元に放り投げた。


「踏めるか?」


「やや、これはかつて隠れキリシタンを炙り出すため行われたという、一昔前までは『踏み絵』、今は『絵踏み』と呼ばれるものでござるな?」


「歴史的には良くない目的でやられたことだけど、相手が相手だ。踏んでみろ?」


「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」


ベリトは凄まじい勢いで足元のスクリーンショットを何度も何度も踏みつける。


「てめえら散々殴る蹴る砂に埋めるしやがってコンニャロー!!! チェケラって何だよ意味わかんねーよ!!!!!」


「あーわかったわかった」


「オラオラ! メカばっか乗ってねえで自分で歩けやコンニャロコンニャロコンニャロ!!!!!」


「わかったわかったもういいもういい!」


智和がスクリーンショットを取り上げると、ベリトは足を止め全身で呼吸を整える。

それを見た拓実は、バイトの面接に落ち続けていた頃、圧迫面接を仕掛けてきた某所の面接官を妄想の中で逆に圧迫面接でぼろ雑巾のようになるまでこき下ろしてやったことを思い出した。


「智和、とりあえずこいつの言うこと信じてやってもいいんじゃね? こいつの今のコンニャロコンニャロに本気っぽさを感じた」


「うーん、そうだな。監視をつけてどこか人目に付かない所で保護、ってとこか」


智和はムゲンブレスで一族の人間に連絡。

ベリトは河村一族所有の土地で厳重な監視のもと保護、落ち着いたら悪魔の情報を話させる等させる、ということで話が纏まった。



関東某所、山の中腹に位置する森に囲まれた沼。

カラステングのコクピットで移動してきた一同。

目からビームで降ろされ、エージェント66βは再びベリトを拘束していた首を解く。


ここは河村一族の私有地なので妖怪や悪魔の存在を知っている関係者以外は入ってこない。

事前の連絡により、周囲に複数の監視カメラが設置されている。

長時間活動できる体力があり、変身前でも一般人よりは強い武士と勝が監視役に任命され、青いテントと銀色のテント、飲み水や食料等が支給された。


「いろいろと用意してもらえて、かたじけない」


「オイラ達の色のテントまであるなんて!」


「俺の一族は心配性だから常に色々な物を準備している。いいかベリト、ここで大人しく、一般の人間達に見つからないように生きていくんだ」


「はい! 頑張ります!」


ベリトはハサミをぴったり体にくっつけて「きをつけ」の体勢で返事する。

監視役の二人を残し、他の者はひとまず解散。

拓実はカラステングに送られ自宅最寄り駅近くの人気の無い空き地に降りる。

歩き慣れた道を行き、牛丼屋に入って食券を買ったところで気付いた。


「あー!!! 「6(ろく)」「6(ろく)」「β()」ってことか!!!!!」



その夜、飯盒炊爨で炊いた米とレトルトカレーを食べ終えた武士と勝が、沼から目を離さないよう注意しながら腰を下ろして寛ぐ。


「米が高くなっている今、これだけ食わせてもらえるのはありがたい」


「そういやあのザリガニ何食うんだろ。おーい、腹減ってないかー?」


「お構いなくー!」


ベリトが水面からハサミだけ出して返事する。


「キャンプ楽しいけど、ずっとじゃないんだろ?」


「あやつが本当に信用できると証明されれば、監視カメラがあれば充分として我らの任は解かれるだろう」


「ここでずっと大人しく暮らせることができることがわかれば、ってことが。まあオイラは当分平気だけどな。ここ山ん中だけど電波入るし」


勝はポケットからムゲンライザーを取り出し、画面をタップしてスマホゲームを起動させた。


「ほう、それは普通のスマホとしても使えるのか」


「うん。12時間に1回タダでカード引けるから、今やっとかないともったいないんだよ」


「そのくらいなら問題なかろう。あやつに何か動きがあればすぐにわかる。のぉ?」


「はいー!」


ベリトがまた水面からハサミだけ出して返事する。


「んじゃ!」


ムゲンライザーの画面上にカードが入ったパックが輪になって並ぶ。

その輪をスワイプして回転させ、1つのパックを選び開封する。


「うーん、まあまあかな」


「お、それは結月もやっているやつでござるな」


「うん、この前対戦して勝った」


「そうか、JKとザシキワラシがスマホゲームで対戦とは、面白い時代になったものだ」


そうこうするうちに夜も更け、どこかから謎の鳥の鳴き声が聞こえてきた。


「ホホー、ホーホー、ホホー、ホーホー」


「監視中じゃなかったらあいつの正体を確かめに行くのにな……」


「田舎の夜ならよく鳴いておる奴だ。正体を確かめる機会はまたやって来るだろう。それより少し休め。拙者なら、例えうたた寝していまったとしても、奴に動きがあればすぐに飛び起きることができる」


「悪魔の気配で飛び起きるのは多分オイラもできるけど、せっかく銀色のテント用意してもらえたんだしな。ちょっと寝てくる。おーい、大人しくしてろよー!」


「はーい! おやすみなさーい!」


ベリトは今度は水面から上半身を出してハサミを振って返事する。


「それじゃ、僕もそろそろおやすみさせていただきます」


「うむ、夢の中でお主をいじめた悪魔に思う存分仕返ししてやれ」


「はい、そうさせていただきますー」


勝は銀色のテントの中へ、ベリトは沼の底へ。

武士は夜風に吹かれながら水面に広がる波紋を眺める。



翌朝6時、武士のムゲンブレスと勝のムゲンライザーの着信音が鳴り響く。

沼の畔で寝入ってしまっていた武士は文字通り飛び起き、勝は寝言を言いながらテントから飛び出してきた。


「ザリガニー! 仇は討ったぞー!!」


「お主が仕返ししてどうする」


ムゲンブレスの通話ボタンを押すと智和の声。


≪ベリトは!?≫


「ベリトは……」


武士が沼のほうを見ると、ベリトが何やら申し訳なさそうな空気を発しながら水面から上半身を出した。


「おはようございます……」


「ここにおるが?」


≪深夜3時頃、麓の農家の畑に巨大なザリガニが現れて野菜を食い荒らしたって噂になってる!≫


「なんと!?」


「おいザリガニ! ここで大人しくしてろって言ったろ!!」


「ごめんなさい、お腹が空いて、沼の生き物全部食べちゃって、それでも足りなくてつい……」


「すまぬ、我らは寝てしまっても、悪魔が動く気配があればすぐに飛び起きられるものと思っておったが……」


≪俺もそう思ってお前らに頼んだんだが…………とにかく、仲間と喧嘩して血まみれになった熊が体力を回復するために畑を荒らしに来たっていう情報操作が行われる予定だから、引き続き注意して、監視に当たってくれ≫


「承知した」


「ごめんな」


≪あんまり気にするな。ベリトの食べる量を把握してなかった俺や一族の人間にも非はある。ベリトー?≫


「はい!」


≪何をどれくらい食う?≫


「はい、食べ物と呼べる物なら何でも、1日50㎏ぐらい……」


≪50㎏か……。なんとか手配するから、もう勝手に抜け出したりするなよ?≫


「はい! もうしません!」


通信が終わると、ベリトが沼から出てぬかるんだ地面に土下座する。


「申し訳ありません!!!」


「まあまあまあ、もうしないならそれでいいから!」


(おもて)を上げい! と、日常生活で言える機会が少ないので言ってみたが、沢山食うのはお主の本能、それをこちらが把握できずひもじい思いをさせてしまったのはすまなんだ。だがこれからは、このようなことになってしまう前に相談してくれ」


「おやすみのところを起こしてしまうのは申し訳ないと思いまして……」


「大丈夫大丈夫、オイラだったら夜中に起きても、用事が済んだらまたすぐ寝られるから!」


その日、トラックで50㎏の食糧が届けられ、ベリトの希望により沼の底に沈められた。

武士が監視を続けながらできるトレーニングを開発する、勝が葉っぱで作ったお面をベリトに見せる等して楽しく過ごし、また夜が更けてきた。


「ホホー、ホーホー、ホホー、ホーホー」


「信用してもらえるようになったら、一緒にあいつの正体確かめに行こうか?」


「いいですね! 気になりますもんねあの鳴き声!」


「うむ。そのためにも今宵は、大人しく過ごすのだぞ」


「はい! おやすみなさい!」



翌朝6時、またしても鳴り響く着信音。


テントで目覚めた勝がムゲンライザーの通話ボタンを押す。


「もう食べられないよ~」


≪それ寝ながら言うやつ!! それよりベリトは?≫


「え、また!?」


≪まただ!≫


勝がテントから出て叫ぶ。


「ザリガニー!!」


「はい……」


ベリトが昨日より更に申し訳なさそうな空気を発しながら水面から上半身を出した。


≪民家に侵入して食べ物を盗んだな?≫


「はい……」


≪しかもまた見られたな!?≫


「ごめんなさい!!!」


ベリトは沼から飛び出してぬかるんだ地面に頭が埋まる勢いで土下座する。


「50㎏の食糧があっただろう?」


「慣れない環境のせいか、普段よりエネルギーを消費してしまうみたいで、それで普段よりお腹が空いてしまって……」


「それでまた村に降りて?」


「はい、ごめんなさい……」


武士はベリトに(おもて)を上げさせず、しゃがんで目線を合わせて話す。


「良いか? 腹が減ってしまうのは仕方がない。だがそれでも、人間の食糧を奪ったり、姿を見られて怖がらせたりしてはいけない」


「え、そうなんですか!?」


ベリトは埋まっていた頭を上げる。


「あっちゃー、悪魔はそっからわかんないのか」


「はい……。ここにいなければいけない決まりを破ってしまったから怒られたのかと思ってたんですけど……」


「ふむ……。ならば今覚えろ。人間の社会では、食べ物を手に入れるにはそれなりの手続きが必要となる。それはゆっくり教えてやるから、とにかく人間から物を奪ってはいけない、見られてはいけない、怖がらせてはいけない、迷惑をかけてはいけない、傷付けてはいけない、それだけは覚えろ。自分の生きてきた社会とは別の社会で生きていくことが許されるのは、その社会の決まりを守り、元々住んでいた者達に迷惑をかけずに過ごすことの出来る者だけだ。もしまた、お主が人間に迷惑をかけるようなことがあれば、拙者達はお主と戦わなければならなくなるだろう。できることなら、いじめられて逃げてきたというお主と戦いたくはない。良いな? ここで生きていきたくば、ここの決まりを守れ」


「……はい、わかりました。今後一切、人間に迷惑をかけたりはしません!」


ベリトはまたぬかるみに頭を埋めた。



妖怪の里・ヨーカイジャー秘密基地、中央指令室。


情報操作完了の確認を終えた智和は、沼の周りのカメラから送られてきた映像を再生してみる。

監視初日の夜の映像を早回しで見る。

妙な違和感に首を傾げ、2日目夜の映像も見てみると、初日夜の映像と同じ違和感を覚えた。

智和は室内を数分歩き回って立ち止まり、ムゲンブレスでどこかへ連絡する。



再び森に囲まれた沼。

昨日より多めの食糧を運んできたトラックからエージェント66βが降りてきて、辺りの地面を見回し始めた。


「おお、ロクロクビ。どうかしたか?」


返事が無い。


「ロクロクビ?」


やはり返事が無い。


「そいつコードネームで呼ばないと返事しないよ。おーい、エージェント66β!」


エージェント66βはポニーテールを揺らしながら振り向く。


「あら、お疲れ様。監視任務、頑張ってくれてるのね」


「めんどくせー! ニンギョとユキオンナは普通にロクロクビちゃんって呼んでるじゃん!」


「あの子達はすぐ忘れてそう呼ぶからもう諦めたわ。ところでこの辺に、おはぎのキーホルダー落ちてなかった?」


「おはぎのキーホルダー? 食品サンプルのようなやつでござるか?」


「そうそう、そういうリアルなやつ。気付いたら無くなってて、もしかしたら一昨日ここに来たとき落としたかもって」


「あんこ? きなこ?」


「あんこ。きなこも美味しいけど、どちらかといえばあんこのほうが好き」


「オイラも!」


「あんこといえば……この前小豆3妖怪に小豆要素一切無いケーキを作らせてしまった故、彼らが本当に作りたい小豆の菓子を頼みに行かねばと思っておったのだ」


「アズキアライ達ね。あの子達のおはぎは絶品なのよ」


そこでベリトが沼の淵から身を乗り出す。


「あのー、さっきからおっしゃってる、おはぎってどんな食べ物ですか?」


「え!?」


エージェント66βが一瞬で走り寄り、ベリトの体を両手で掴んで激しく揺さぶる。


「あなたおはぎを! おはぎを! おはぎを食べたことないの!? あの甘くて! とろけそうな!! 実際とろけた妖怪もいるとかいないとか!! そんなおはぎを食べたことないの!!?」


「うぎゃぶげぼぎょっ!?」


揺さぶられるベリトは目を回し、エージェント66βは武士と勝の二人がかりで引き離される。


「落ち着け落ち着け!」


「お主、キーホルダーを探しに来たのでござろう!?」


「そうだった。地面を探しても無かったから……もしかしたら沼の中かも?」


エージェント66βは首を伸ばし、息を吸い込んで沼の中に顔を突っ込む。

数十秒後、水面からきらめく水しぶきを纏いながら顔を出しポニーテールを振り乱す。


「さてはこやつ、ヴィジュアルにこだわるタイプか?」


エージェント66βは首を縮め、水分をさっと手で払う。


「無かったわ。別の所で落としたのかも。それじゃヨーカイジャー、これからも応援してるから」


挿絵(By みてみん)


ウインクして颯爽とトラックに乗り去っていく。


それを見送る妖怪と侍と悪魔。


「すごい『いい女風』に去ってったけどさ」


「軽い嵐を起こしていくおなごでござるな」


「妖怪ってみんなあんな感じなんですか?」


「うーん、うん!」


「いや、お主も妖怪でござろう?」


「うーん、うん!」


その日は武士による人間社会で生きていくための講義が行われたり、学校が終わった時間の結月がネコマタンに乗って来て、ベリトと一緒に写真を撮ったり、勝とスマホゲームで対戦して30分ほど過ごして帰っていったり、等のことがあって夜、またあの鳴き声が聞こえる時間。


「ホホー、ホーホー、ホホー、ホーホー」


ベリトにもう一切外に出るなと念を押し、監視役の二人は交代で5時間ずつ寝ることにして、静かに迎えた翌朝6時。

着信音が鳴り響くことは無かった。


「ザリガニー! やればできるじゃん!」


「あ……はい、昨日はお腹が空きませんでした」


「食糧を増やしてもらったからのう。この調子で大人しくしておるのだぞ?」


「はい、頑張ります」


この日、12時を過ぎてもベリト用の食糧は届かず、勝が昨夜から作っていたソーセージの燻製を分けてやる等していた。

そして午後4時過ぎ、上空にステルスモードのゲキリンダーがやってきて、目からビームでヨーカイジャー4人を沼の傍に降ろした。


「おーみんな!」


「智和、ベリトの食糧が届かんのだがどうなっておる?」


「監視お疲れ。食糧はもういいんだ。妖怪変化!」


4人が変身、沼から上半身を出しているベリトをムゲンシューターで銃撃。


「おい! いきなり何すんだ!!」


「勝、我々も変身でござる!」


「え!?」


「見ろ、ベリトは弱くていじめられていたと言っていたが、今の攻撃を避けもせず、ハサミを交差して受け止めた」


「ザリガニ……?」


「あ……ごめんなさい、この程度の攻撃、避けるまでもなかったんで」


ベリトは面倒臭そうに沼から上がる。


「どうしてわかった?」


「ザリガニ!?」


グリーンがムゲンシューターを構えたままここまでの経緯を話し始める。


「お前が麓の村へ降りた夜の監視映像を見ても、お前が沼から出た姿は映っていなかった。それで、姿を消す技を使っているのか、それとも……と思って、ロクロクビに発信機を付けに行ってもらった」


「発信機!?」


ベリトが首の回る範囲の自分の体を見回すが、ベリトが見つけるより先に結月が発信機の場所を言い当てる。


「背中の真ん中のちょっと下のトコ!」


「何ッ!?」


ネギ型の足で探ってみると、確かに背中の真ん中のちょっと下のトコに小さなボタン型の装置が付けられていた。


「あたしがソレ外されてないか見に来たの! 一緒に写真撮るときにチラッとね!」


結月は両手を腰に当てて胸を張る。


「クッソ!!」


ベリトは発信機を地面に叩きつけて踏み潰す。


「ロクロクビには発信機のついでに沼の中も確認してもらったが、水中から穴を掘って外へ出たような形跡は無かったそうだ」


勝はベリトとグリーンの顔を交互に見る。


「ってことは、おはぎのキーホルダー落としたっていうのは嘘だったの?」


「おはぎ? キーホルダーでも落としたことにして行ってきてくれとは言ったけど、あいつおはぎなんて言ったのか。なんでわざわざそんなクセ強くするんだろ」


「そうか! おはぎ食べたことないの!?とか言いながら僕を揺さぶったときに発信機を!」


「はぁ、上手いことやったんだな、クセは強いけど。で、その発信機でわかったんだが、お前が麓に降りた夜、お前は沼から移動していなかった」


「え、どういうこと?」


「つまり、麓で畑や民家を荒らしたのは、見た目が似てる別の奴だった。と、思って昨日の夜、高校生の結月以外のヨーカイジャー3人と、ロクロクビや治安維持部隊の妖怪で手分けして、麓の村のいろんな所で張り込んでたんだ」


「そしたら私の所が大当たり。あんたによく似たおっきなザリガニが出たから、不法侵入直前に幻術で作った偽の家に誘導して、そこでやっつけちゃった」


「さっすが千影ちゃん、賢い&強い!」


「結月もバレないように発信機確認した偉い偉い!」


イエローがピンクの頭を撫で、ピンクが足をばたつかせて泥を飛ばす。


「おのれ、人間ごときが小癪な真似を……」


「ザリガニ! なんでだよ! 全部嘘だったのかよ!」


「わざとお前らに見つかるような行動を取り、狙い通りお前らに僕を保護させ、ここで大人しくしながら分身体にデビルギーを集めさせてた。この方法なら長く安全にデビルギー集めができると思ったんだけどなー」


「必死に謝ってたのも?」


「これのことか?」


ベリトはぬかるみに頭を埋めて土下座する。


「ごめんなさい! 全部演技でした!」


「一緒に謎の鳴き声の正体、確かめに行こうって言ったじゃないか!」


「それはサタン様がお目覚めになった後、暇があれば行ってみなくもないかな。その頃お前は生きてないだろうけど」


レッドがベリトを指さして叫ぶ。


「お前、写真踏んづけたことベルゼブルとグレモリーに言いつけるぞ!」


「その点は問題ない。僕が作戦をお話ししたとき、ベルゼブル様はこうおっしゃっていた。『そいつは面白ぇ作戦だ。もし俺様やグレモリーの写真を踏まされるようなことがあったら、遠慮なく踏めYO! チェケラって何だよ意味わかんねーよ!とか、メカばっか乗ってねえで自分で歩け!とか言いながら踏めば、もっと奴らを信用させることができるだろうZE!』」


グリーンがマスクの奥で舌打ちする。


「絵踏みが読まれてたか……」


「お主、一宿一飯どころではない量の食べ物を世話になっておきながら、それを無下にするとは不届き千万!」


「ほんとはあんな大量の食べ物、食べようと思えば食べられるけど、別に食べなくても生きていける。村に行く口実を作るために大量の食糧が必要なように見せかけてただけで、僕はそこら辺の草でも食べてりゃそれで充分なんだよ!」


「デビルギー容器とジャミリアーカプセルが無いのは?」


「分身体は体内にデビルギーを溜められるから、容器は必要無い。そしてジャミリアーも……」


木々の彼方から迫る多数の足音。


「こいつらがいるから必要無い!」


四方から現れたベリトに似たザリガニ型の分身体20体が沼とヨーカイジャー達を取り囲む。


「こんなにいやがったか……」


「ザリガニは1匹いたら20匹はいるっていうもんね!」


「それ別のやつ……」


「許さねえ……妖怪変化!」


勝と武士も変身。


「誰が呼んだか旅烏 鼻高々にてんつくてん 天に代わって只今参上! 空の勇者、ヨーカイレッド!」


「誰が言ったか川流れ 流れるどころか掻き分けて 登って飛び出せナイアガラ! 水の戦士、ヨーカイグリーン!」


「誰が言ったか猫かぶり 花も恥じらうJK3 嘘はいらない夢見る乙女! 獣のアイドル、ヨーカイピンク!」


「誰に言われどカマわない イタチごっこにピリオド刻み 腹を切らずに悪を斬る! 風の剣士、ヨーカイブルー!」


「誰を染めるか狐色 こんこん今夜も手鞠歌 お目にかけましょ万華鏡 幻の賢者、ヨーカイイエロー!」


「誰もオイラを止められねえ! 当たるも八卦の大予言! 爆走疾風ギンギラギン! 閃光の覇者、ヨーカイシルバー!」



「夢も現も守るが仏 夢幻(むげん)戦隊!」


「ヨーカイジャー!!!!」


6人で叫んだ直後、シルバーがムゲンライザーを3枚開きのスマートフォンの形に開き、3枚のカードをセットする。


「オボログルマとイッタンモメンにもらったカード、使ってみよう!」


「いいな! 勝くんの3枚同時に発動できるの?」


「うん! いっくぞおおおおおおおお!!!!!」


ムゲンライザーを畳み、腰のムゲンドライバーにセットすると、シルバーの足がローラースケートのように変化し、右手にイッタンモメンが「く」の字に曲がった形の武器・モメンカッターを、左手にオボログルマ型のバルカン砲・オボロバルカンが装備された。


ローラースケート状の足はぬかるんだ地面をものともせず高速で走り出す。

分身体の群れにオボロバルカンを連射しながら接近。

モメンカッターの斬撃でハサミの防御を弾き、分身体7体のボディを切り裂きながら駆け抜ける。

切り裂かれた分身体は火花を散らしながら倒れ、爆散。


それを遠目に見ながらレッドが呟く。


「あいつの勢いは止まらねえな」


駆け抜けたシルバーは、慌てふためく残りの分身体の間を両腕を振り回しながら走り続ける。


「止まり方わかんねえええええええええええ!!!!!!!!!!」


「あいつの勢いは止まらねえな!!」


「どけどけどけどけええええええ!!!!!!」


叫びながらシルバーがベリト本体に迫る。


「来るな来るな来るな!!」


ベリトは両手のハサミからクレヨン型のミサイルを左右3発ずつ発射。


「無理無理無理無理!!!!!!」


シルバーはモメンカッターを振り回してミサイルを全て弾き飛ばす。

弾き飛ばされたミサイルはランダムに戦場を飛び、敵味方無差別に襲い掛かる。


「うわうわうわうわー!!!」


「もうめちゃくちゃだよぉー!!」


ヨーカイジャー達は喚きながらもそれらをギリギリでかわし、分身体3体がそれらを食らい地面を転げ回る。


止まれないシルバーの勢いはそのままベリトに向かう。

ベリトはそれに背を向けて走り出す。


「来るなっつってんだろー!!!!」


「行きたくて行ってない! でも止まらないから! 止まらないなら!」


シルバーは止まれない勢いのまま地面を蹴りベリトの背に飛び付く。


「こうしてやる!」


「うぎゃああああああ!!!」


ベリトが足を滑らせ、両者そのまま坂道を転がっていく。


「あいつら、1体1で決着つけに行ったか……」


「違うと思う。俺達もいくぞ!」


グリーンの合図で初期メンバー5人も走り出す。



「ハサミにはハサミだ!」


レッドがムゲンブレスにバケガニの能力(スキル)カードを入れると、右手が巨大なハサミに変化し、転げ回りから起き上がろうとしていた分身体3体を叩き潰す。


「からの~」


巨大なハサミを初使用の時より重さに慣れた腕の筋肉で水平に振り抜く。


分身体2体が振り抜かれたハサミから逃れるため沼に頭から飛び込む。

と、飛び込んだポーズのまま動けなくなる。


「沼にハマると抜け出せないぞ?」


ネネコガッパの能力(スキル)カードで液状化し沼に潜んでいたグリーンが、飛び込んだ分身体2体の頭に纏わり付いて動きを封じる。


「そのままそのまま!!」


2体の分身体はそのままレッドの巨大なハサミに挟まれ爆散。


「智和さっき上手いこと言ってなかったー?」


「上手くハマったろ?」



ブルーは3体の分身体のハサミ攻撃をブライブレードでいなしながら距離を取り、ムゲンブレスにカマイタチの必殺(フィニッシュ)カードを入れる。


必殺妖技(ひっさつようぎ)斬空一閃(ざんくういっせん)!」


ぬかるんだ地面を深く踏み込み、駆け抜けると同時に振り抜き分身体3体を一瞬で切り捨て爆散させる。


「共に生きてゆけるのは、ルールを守れる者だけだ……」



ピンクとイエロー、背中合わせで5体の分身体に囲まれる。


「こういうの、ちょっとドキドキするね」


「うん、結月と一緒だから」


「もうっ、いつも嬉しいこといってくれるんだから……」


ピンクはムゲンブレスにニンギョの能力(スキル)カード#2を入れる。

ピンクの体に一瞬、ニンギョの姿を模した妖力が重なり、ピンクの口から涼しげな潮風のような歌声が溢れ出す。


「ねんねんねこねこ ねんねこりん ゆったりねこねこ おやすみよ♪


ねんねんねこねこ ねんねこりん ゆめのなかでも ねんねこりん♪」


5体の分身体は一斉に倒れていびきをかく。


「よっし! やっぱり歌えばだいたい解決するよね千影ちゃ……」


「くー……」


イエローも静かな寝息を立てて眠っていた。


「あ……」


大きな声を出せば分身体達も起きてしまうかもしれない。


「えーっと…………えい!」


「びゃあ!!」


イエローは5㎝飛び上がりながら目を覚ました。


「今触ったの誰!?」


「あたし……」


「じゃあいいや」


「いいの?」


「うん」


「いいんだ……」



坂を転げ落ちたシルバーとベリトは頭から地面に突き刺さっていた。

シルバーは腕の力で頭を引っこ抜く。


「痛っ………………たぁ…………………………、高速移動使いこなせてないな、練習しなきゃ」


やはり精神的な痛みだけで頭は痛くないらしい。

足はいつの間にか元に戻っていた。


シルバーが落ちている武器を拾っている間にベリトも地面から頭を引っこ抜いて脱出、バックジャンプで距離を取り、両手のハサミを開いてミサイルを撃つ構え。


「死ね!!!」


「生きる!!!」


シルバーはオボロバルカンを連射、数撃って当たった数発でハサミの発射口を潰すと同時に2つの武器を消してムゲンライザーに装備(アームズ)カードと必殺(フィニッシュ)カードを入れ、ムゲンドライバーにセットするとブルブラスターが現れ、シルバーが掴むとその妖力がブルブラスターに集中し銀色に光り輝く。



同じ頃、ピンクが眠らせた分身体5体の前にレッドグリーンブルーも集合。

5人の武器を合体させたムゲンバズーカをレッドが構え、グリーンとイエローがレッドの肩を、ブルーがグリーンの背中を、ピンクがイエローの背中を支える。


「うおおりゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


わざといつもより大声で叫んだレッドの声に分身体5体が起き上がる。


レッドがトリガーを引くと、5色の光が表面を駆け回る球形のエネルギー弾が発生、轟音と共に撃ち出され1ヶ所に集まった分身体を直撃。



必殺妖技(ひっさつようぎ) 猛牛大砲(ブルブラスター)全力発射(ファイナルシュート)!!」


シルバーもダメージにふらつくベリト本体に向けてトリガーを引く。

銀色に輝く大きな光弾が発射されベリトを直撃。


「なんか僕達…………ダサい………………!」


本体と分身体、同時に爆散。


「うよっしゃあああああああああああ!!!!!!!!!!!」


「いいいいいいいやったああああああああああああああ!!!!!!!!」


レッドとシルバー、同時に腕を振り上げ叫ぶ。



その時、大きな蝿のような羽音と共にベルゼブルが飛んできた。


「面白ぇ作戦だと思ったんだが、バレちまったか……」


ベルゼブルは地上からのブルブラスターの光弾を避けながら、先が髑髏の形になったマイクを生成し呪文を唱える。


「デビル デビレバ デビルトキ カモンデーモン デビデビレ 最後のバイブス、上げてこうZE!!」


ベルゼブルが目からビームを発射。


それがベリトの残骸に当たると、残骸は巨大なベリトの姿となり、坂の下に集合したヨーカイジャー達を見下ろす。


「パワフル全開!!」



「よし、ゲキリンダーは近くにいるから、俺はポーズだけで…」


「サモン、パートナーズ!!!!」


6人全員で叫ぶ。


妖怪の里。


「河童ヶ沼」の底から長老妖怪メガガッパーが水飛沫を上げながら浮かび上がり、緑の光になって高速移動を開始。


「妖怪電気街」のステージのモニターに「きんきゅーしゅつどー」の文字が表示され、ステージ上の偶像妖怪ネコマタンがそれを見て敬礼、客席の妖怪達が振るサイリウムに見送られながらピンクの光になって高速移動を開始。


「試し斬りの竹林」で瞑想していた斬空妖怪カマイタチが空を見上げ、青い光になって高速移動を開始。


「妖怪稲荷神社」の神殿の扉が開き、奥から幻惑妖怪キュービルンが「お座り」のポーズのまま前進、その足元から機械的なカタパルトが伸び、どこかから響いてきた「five,four,three,two,one,zero!」というカウントダウンでキュービルンが「お座り」のポーズのまま空高く射出され、黄色い光になって高速移動を開始。


「さわやか草原」を走る予言妖怪ブルクダン、並走する爆走妖怪オボログルマ、上空に疾風妖怪イッタンモメン、3体同時に高く飛び上がり銀色とオレンジ色と紺色の光になって高速移動を開始。


ゲキリンダーの周りに7つの光が降り立つと同時に巨大な妖怪の姿を表し、ヨーカイジャーの前に6体のパートナー妖怪とその仲間2体が並び立った。

パートナー妖怪達は目からビームを出しヨーカイジャーをコクピットに転送する。


「よーし、合体いくぜ!」


〔その前に、ベルゼブルと言ったな? 俺は君に言いたいことがある〕


「何だキンキラ? 聞いてやるYO!」


ベルゼブルはゲキリンダーの目線の高さまで飛び上がる。


〔君は最も巨大化魔法を極めた悪魔だと聞いている。俺達妖怪は、例え時を戻したとしても失われた命を取り戻すことはできない。だが君達悪魔は、倒された仲間の命を巨大化させてまで利用する。それは生命というものに対する冒涜ではないのか?〕


「HA! 利用するだァ!? テメエらの感覚で決めつけてんじゃねえYO! 俺様達はサタン様復活のために、文字通り全てを懸けてデビルギーを集めてる。そのために使える命は、限界の先まで使い切る。そういう覚悟でやってんだ! そうだろブラザー?」


「イエー!!!!」


巨大ベリトが両腕のハサミを振り上げて叫ぶ。


〔そうか……よくわかった。拓実!〕


「うん……。夢幻合体!!」


レッドがムゲンブレスに合体(ユナイト)カードを入れると、5体のパートナー妖怪達が宙に浮き上がり変形を始める。


ゲキリンダーの両前足と尻尾が外れ別次元へ転送され、後ろ足が背中側へ折り畳まれ、体全体が垂直に起き上がり首が体内に引っ込むようにして合体に適度な長さになる。


メガガッパーの両腕が引っ込み、甲羅が上にスライドして体の下半分が2本の足の形状になったところでゲキリンダーの体の下に合体して「下半身」となる。


ネコマタンの尾と後ろ足が折り畳まれ、前足は爪が出た状態で頭に被さるようにスライドし、全体的に鋭い爪の付いた腕といった形状になりゲキリンダーの左腕部分に合体。


カマイタチの刃物状の尾が外れ、後ろ足が折り畳まれ、鎌の付いた前足は頭に被さるようにスライドし、鎌の間に刃物状の尾が収まり全体的に鋭い剣の付いた腕といった形状になりゲキリンダーの右腕部分に合体。


キュービルンの体が前部と後部で半分に分離、前部は中心にキツネの顔が付いたプロテクターといった形状に変形しゲキリンダーの胸に合体、後部は九本のキツネの尾が付いたプロテクターといった形状に変形しゲキリンダーの背中に合体。


最後にゲキリンダーの首が回転扉のように回転、中から人型の顔が姿を表した。


「完成、合体巨人・ムゲンビルダー!!」


5人声を揃えてその名を叫ぶ。


ムゲンビルダーは足を高く上げて振り下ろし、歌舞伎の見栄を切る動きでポーズを決める。



「オイラ達もいくぜ、夢幻合体!」


シルバーがムゲンライザーにカードを入れ、ムゲンドライバーにセットすると、3体の妖怪達の体が宙に浮き、変形を始める。


ブルクダンの四肢と尻尾が折り畳まれながら体全体が直立、胴体下半分がスライドして2本に分かれて「足」になり、首から上の頭部が真っ直ぐに前を向く。


オボログルマの胴体前部が伸び、全体的にタイヤとガトリング砲の付いた腕といった形状になりブルクダンの左腕部分に合体。


イッタンモメンの尾が折りたたまれ、胴体前部が伸び、全体的に左右両側に鋭いカッターの付いた腕といった形状になりブルクダンの右腕部分に合体。


最後にブルクダンの首が回転扉のように回転、中から人型の顔が姿を表した。


「完成、合体巨人・ムゲンショーグン!!」


シルバーがその名を叫ぶ。


ムゲンショーグンは両腕の武器を交互に力強く前に突き出し、銀色の光を放ちながら腕を組んでポーズを決める。


巨大ベリトの前に並び立ち、太陽の光を反射し眩い光を放つムゲンビルダーとムゲンショーグン。


〔金と銀の合体巨人、悪くないだろう〕



「うわー! 2体がかりで僕をいじめる気か!!」


「さっきまでそっちのほうが多かったろ!!」


コクピットからレッドのツッコミが響く。


「だったらまた多くなってやる!!」


巨大ベリトがネギのような6本の脚で丸い煎餅のような物を1枚ずつ生成し、それらを放り投げると、6体の巨大な分身体に変化した。


「また増えやがった!」


「でもさっきのより少ないね?」


イエローが首を傾げる。


「そうか! 一度に出せる分身の数は限られてるんだな? 巨大化する前にいた沢山の分身は、何回かに分けて出したんだろ?」


グリーンの指摘に巨大ベリトは一瞬目を逸らし、ハサミで合体巨人達を指差し分身体達をけしかける。


ムゲンビルダーは左手に薙刀状の武器・クロノジャベリンを装備。

右手の剣と共に振るい、分身体3体によるハサミ攻撃を捌いていく。


ムゲンショーグンは左手のガトリングを連射。

巨大ベリトと分身体3体はハサミをクロスさせて防御しながら接近。

ムゲンショーグンはこれを右手のチョップと左手のガトリングで捌こうとするが、左手のほうがイマイチ上手く機能せずハサミ攻撃を数発ボディに食らう。


「うわああああああ!!!! ……ムゲンショーグンにも、接近戦用の武器がもう1つあったら……」


その時、ムゲンショーグンのコクピット内全体が光に包まれ、その光が集約してシルバーの目の前で1枚のカードになった。


「これは……」


ムゲンショーグンは回転しながらガトリングを連射して周囲の敵を遠ざける。

その隙にシルバーがカードを掴み、発動させると、シルバーの背後の壁に液晶画面のような物が出現し、カードのパックが輪になって並んでいる映像が映し出された。


「そうか……そういうことか!!」


シルバーはその、最近ハマっているスマホゲームに似た画面を見て、発動した能力を瞬時に理解しカードに書かれていた言葉にアレンジを加えて叫ぶ。


「本日の運試し。ガシャット・ガジェット!」


画面内のパックの輪が回転。

シルバーが天に手を翳すと回転が止まり、パックが開封され中からライジュウの換装(ジョイント)カードと同じデザインのカードが出てくる映像が映し出される。



妖怪の里。


「ドキドキサーキット」で開催されているタイヤの付いた妖怪達のレースで、電撃妖怪ライジュウが1位でゴールを駆け抜けると同時にジャンプ、黄緑色の光になって高速移動を開始。


黄緑色の光はムゲンショーグンの側に降り立ちライジュウの姿に戻る。

それを目にしたイエローがコクピット内で立ち上がる。


「あー、ライジュウ!!」


ライジュウは宙に浮き上がり変形を開始。


タイヤが胴体の中に格納され、角が伸びて真っ直ぐ前に倒れて槍のようになる。


ムゲンショーグンの左腕のオボログルマが外れ、槍の付いた腕の形になったライジュウが代わりに左腕に合体する。


「完成、ムゲンショーグンスピアー!!」


ムゲンショーグンスピアーは左腕を斜めに掲げてポーズを決める。


それを目にしたレッドが叫ぶ。


「すげえ! こんなことできるんだ!」


イエローがふっと息を吐いて席に着く。


「私のバイク貸してあげるんだから、しっかり決めなさい!」


「もっちろん!!」


ムゲンショーグンは再び襲ってきたハサミを右手のチョップと左手の槍で払いのけ、電撃を纏った槍の一撃で分身体の1体を貫き爆散させる。



「見事、将軍の名に恥じぬ槍捌きでござる!」


「俺達もやるぞ!!」


レッドが必殺フィニッシュカードをムゲンブレスに入れると、ムゲンビルダーの全身を5色の光が駆け巡り始める。


そして技の名前を5人で叫ぶ。


必殺大妖技ひっさつだいようぎ時空魔討撃ゲキリンブレイカー!!!!!」


眩い黄金の輝きを放つ軌道を描き、高速で駆け抜けながら分身体3体を連続で時計の「9時30分」の形に切り裂く。


切り裂かれた分身体は同時に倒れ爆散。



ムゲンショーグンのコクピット内が再び光に包まれ、その光が集約してシルバーの目の前で新たなカードの形になる。

それはレッドが所持しているのと同じライジュウの必殺フィニッシュカード。


シルバーがそのカードを発動させると、ムゲンショーグンスピアーの全身の妖力が左腕の槍に集中し、凄まじい電光を放ち始める。


必殺大妖技ひっさつだいようぎ電撃魔貫雷ライトニングアクセル!!!!!」


電撃を纏った槍を突き出し超加速、稲妻の如きスピードで分身体2体と巨大ベリトを貫く。


貫かれた穴を中心に分身体と巨大ベリトの全身を電撃が駆け巡る。


「海を……見てみたかった…………」


爆散。


「うよっしゃああああああああ!!!!!!」


ムゲンビルダーはクロノジャベリンを振り回し、天に掲げてポーズを決める。


ムゲンショーグンスピアーは両手を挙げ全身で喜びを表現する。


オボログルマはウイリー走行状態での高速スピンで勝利を祝う。



戦いが終わり、変身解除してキャンプの後片付けをするヨーカイジャー。

それを見守る2体の合体巨人とオボログルマ。


「うーん、ザリガニはあんな奴だったけど、オイラやっぱり、悪魔と友達になるの、諦めたくないな」


「こうして人間と妖怪が友達になれておるのだ。悪魔の中にも、我らとわかり合える者がおるやもしれぬ。だが、ルールを守ろうとせず、こちらの安全や生命を脅かす者に容赦はせん。それが、我らヨーカイジャーでござる」


拓実の頭の中に、ベルゼブルがゲキリンダーに語った言葉が反響する。


「悪魔の中にも、わかり合える奴がいるかもしれない…………か。そういやゲキリンダー、ここに来たいって言ってたの、ベルゼブルに一言言ってやりたかったから?」


〔それもあるが……〕


そこへエージェント66βが山道を登ってやってきた。


「お疲れ様、ヨーカイジャー。今日も大活躍だったわね!」


〔おおお! ロクロ……じゃなくてエージェント66β!!〕


「ゲキリンダー久しぶりー!」


エージェント66βはムゲンビルダーに笑顔で手を振る。


「えええ!? もしかしてもしかして!!」


結月が満面の笑みでムゲンビルダーを見る。


〔エージェント66β、君は相変わらず美しい。君と俺の、美しい者繋がり、そして長い首繋がり! その繋がりを更に強く繋げ、一緒にビッグな夢を描かないか?〕


エージェント66βは首を伸ばして拍手する。


「それは素敵ね! でも私、全然ビッグじゃないから、ムゲンビルダーの腕にも足にもプロテクターにもなれそうにないわね。お互い、自分の得意なことで人類保護に貢献できるよう頑張りましょう!」


〔……と、このように、俺が59番目の告白をした時も有耶無耶にされた〕


「あー、うん、ドンマイ!」


結月はキャンプの後片付けに戻る。


後片付けが終わり、帰路に着く一同。


平和が戻った山に、いつも通りの夕焼けと、いつも通りの夜が来て、いつも通りの鳴き声が星空を渡る。


「ホホー、ホーホー、ホホー、ホーホー」



【to be continue……】

本編を読んだ後は「ヨーカイジャー悪魔データベース」で、登場した悪魔の情報をチェックしよう!


https://ncode.syosetu.com/n9246jz/18


公開中のデジタルコンテンツ、その他の情報は作者Instagram「 @satoruyoukaidaisuki 」とX(旧Twitter)「@shousetuyokai」をご覧ください

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