episode:12 沈め!悪魔の軍艦
この作品は天道暁によるオリジナルのスーパー戦隊作品です。現在放送されているスーパー戦隊シリーズを制作・放送している各団体とは一切関係ありません。
オープニングテーマ「your kind!」
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「びゅびゅーん!」
妖怪の里・妖怪大病院。
その上空を、紺色のミニスカワンピース、白いベルト、赤いヘルメット、黒髪ショートヘアー、妖力で作り出したジェットパック状の物体「856M0」を背負って飛ぶ、飛翔妖怪テンニョが通り過ぎる。
少なくともこの瞬間、この空だけは平和。
東棟・巨大妖怪用病棟109号室に、レヴィアタンの巨大軍艦バジマとの戦いで傷付いたカラステングが入院している。
そこをゲキリンダーが訪れ、巨大妖怪用ベッドの傍らにお見舞いのフルーツ籠を置いた。
〔マルメロ、ピタンガ、ポーポー、サポジラ、マツブサ、フェイジョア〕
〔知ってるフルーツが1個も無ぇ! でもサンキュー、後で食うぜ〕
〔しかし本当に時を戻して治さなくてもいいのか?〕
〔できればその力、使いたくねえんだろ? それに疲れるみたいだし〕
〔長らく使っていなかったから余計にな〕
〔長老にこの機会に休む練習をしろとかも言われたし〕
〔休む練習か。いつ終わるかもわからない戦いだ、それも悪くないだろう〕
〔ところで、拓実もいるだろ?〕
「あー、うん……」
ゲキリンダーのコクピットの拓実が息を零すような返事をした。
〔普通に入るとずっと巨大ベッドを見上げることになって首を痛めると受付で言われて、それで俺のコクピットに乗せた〕
〔どうした? 入院してる俺が言うのもアレだけど、元気無ぇな?〕
「うん……実は、何ていうか、怖いこと考えちまって」
〔怖いこと?〕
「あの、ムゲンオーでも勝てなかった巨大軍艦。あれ使ったら、悪魔は人類なんて簡単に皆殺しにできそうだよな?」
〔ああ、あの強さは俺の体に痛いほど叩き込まれたぜ〕
〔だが、ムゲンビルダーがそんなことはさせない〕
「それは頼もしい。けど、悪魔は全力でやれば人類を滅ぼせるのに、それをやらないのは人類からデビルギーを回収するためだろ?」
〔人類が絶滅しちまったら、デビルギーを集められなくてボスを復活させられなくなるからな〕
「って、ことはさ、俺達人類は、悪魔に生かされてるのかな」
拓実は無意識に操縦桿を握りしめる。
〔その発想は……〕
〔無かったな〕
「なんか俺達って、すげえ小っちゃいよな。でかい妖怪の中に入らなきゃ、悪魔と戦うことも、友達の見舞いも満足にできなくて」
〔それは別に、悪いことではないだろう。君達より小さい、スネコスリやスナカケババアのような妖怪もいるが、誰かに生かされているわけではないだろう?〕
〔お前らを生かしてるのは、悪魔でも妖怪でもなく、お前ら自身だ。俺達はちょっと手伝ってるだけだぜ。それに見舞いなら、例えゲキリンダーがいなかったとしても、首痛めてでも来てくれただろ?〕
「まあな。首は痛めないように湿布薬とか用意して来るだろうけど」
〔妖怪用ので良ければここで買えるだろう〕
「ある意味使ってみたい。けど、人類から妖怪に何かしてやれてることってあるのかな」
〔あるぜ。例えば俺達妖怪が使ってる言葉、これ昔の妖怪が人間が使ってるのを聞いて便利だから使い始めたのが始まりらしいぜ〕
「そうだったの!? お前らがヒト語しゃべってるの、何の疑問も持たずに聞いてたけど……」
〔君達が俺達に言葉をくれた。妖怪と人間は、持ちつ持たれつと考えてイイ!〕
〔一緒にいて楽しいってのも、『持ちつ持たれつ』の一つだって言えるかもな〕
〔辛い別れもあったが、それは一緒にいた時間が楽しかったからだと、君達ヨーカイジャーと出会ってから思えるようになった。カラステング、君達はいいパートナーを選んだな。それは自慢しても悪くないだろう〕
〔ああ、お前らは自慢のパートナー人間だ。そんなお前らが、悪魔に生かされてるなんてこと絶対にない〕
「そっか……」
その時、牛柄のナース服を着た看護妖怪ウシオンナが病室に入ってきた。
「カラステングさーん、検診のお時間……あーゲキリンダー!!!」
「…………もしかして、この子にも何番目かにコクった?」
〔36番目だ〕
「前半だな」
「夢幻戦隊ヨーカイジャー」
episode:12 「沈め!悪魔の軍艦」
どこかの時空の秘密の場所に存在する、悪魔帝国デモンダイム。
その中心にそびえ立つ悪魔の本拠地サタンパレスの地下格納庫。
鈍く黒光りする巨大戦艦を見上げるレヴィアタン。
前回とどめを刺す途中でエネルギー切れを起こした反省を踏まえ、出撃前に完璧に整備した。
そこへラクダ型メカに乗ってやってきたグレモリー。
「ベヒモスちゃんといい、またこんな大きなのをゲートに通して、デビルギーを消費してサタン様の復活を遅らせて。筋肉の詰まった頭でも、もう少しお考えになって行動したらいかが?」
「貴様こそもっと真面目にやれ。噂によれば人間どもや妖怪どもと一緒になって、制服撮影会とかいうものに参加していたらしいじゃないか」
「せいふくさつえいかい? 何のことだかさっぱりわかりませんわ」
制服撮影会が気になる人は作者のインスタグラムを確認してほしい。
「だいたい貴様は『妖怪ちゃん激萌えですわ~!』などとほざくのをやめて本気を出せば、あのピンクの奴くらいなら簡単に捻り潰せるはずだろう?」
「あら、ヨーカイジャーの中でピンクが一番弱いとお思いですの?」
「ピンクが一番小さく、技も荒い。あれよりもっと弱い奴がいるとでもいうのか」
「さあ。それがわからないあなたは、どんなに大きなおもちゃを使っても、ヨーカイジャーには勝てませんわ」
「何とでもほざいていろ。ヨーカイジャーの中で誰が一番強かろうが弱かろうが関係ない。この巨大軍艦バジマで、新しい合体巨人もろとも全員纏めて消し飛ばしてくれるわ」
そう嘯くとレヴィアタンはバジマに乗り込んでいった。
グレモリーは薄い笑みを浮かべ、ラクダ型メカの足で格納庫の出口に向かう。
「どうぞお好きになさって。あなたの代わりなんて、いくらでもいるのだから……」
所変わって、妖怪の里・食べ放題の海。
尾鰭妖怪ニンギョが海面から顔を出すと、砂浜にブライブレードを構えたヨーカイブルー、それに対峙するカシャ、その上空から見守るカマイタチが見えた。
ヨーカイブルーはコナキジジイの能力カードをムゲンブレスに入れ、自分の体を石化させる。
カシャは石化したブルーに向かって火球を発射。
石化したブルーは炎に包まれ激しく燃え上がる。
「ちょいちょいちょちょいちょちょちょいちょい!!!!!!」
ニンギョが猛スピードで海面を滑り大きなシャコガイの殻でブルーに海水をかけて消火する。
ブルーは石化を解除し、体に付いた塩を払う。
「武士くん自分の体で石焼き芋でも作る気なの!? 危ないし季節外れだし!!」
「石焼き芋か。それもいずれ試してはみたいがそうではなく、レヴィアタンを倒すための特訓でござる」
「レヴィアタン……。ヌリカベから聞いてるよ、大変だったんだよね」
「うむ……」
技を破られたあの時からずっと、ブルーはそのことを考えない日は無かった。
それに加えて、先日の巨大戦での敗北。
「手強い奴だ。普通の戦い方では、勝つのは難しい。よって普通ではない戦い方を考え、その特訓をしておったのだ。一応、安全のため水の近くでやろうと思い、この場所を使わせてもらったのでござる」
「そうだったんだー。でもあんまり危ないことはやめてよね」
「悪魔と戦うこと自体が危ないことでござる。その使命を果たすためには、このような特訓も時には必要となる。拙者の読み通り、石化の能力を使えば今の大きさの火球の熱にはなんとか耐えられる。この調子で続けていけば、必ずレヴィアタンを斬り、我らヨーカイジャーの未来をも切り開くことができるだろう」
「そっかー。頑張ってるんだね」
「うむ。拙者の体が火球に耐え切れなくなりそうな時は、カマイタチが拙者を海に投げ込んでくれるので心配はいらぬ」
〔ビビーッ!〕
空中のカマイタチが素早く海へ放り投げるジェスチャーを見せる。
「なら安心して、ボクはボクにできることでヨーカイジャーに協力するよ。特訓の疲れが取れる美味しい料理とかどうかな?」
「それはありがたいが、おぬしの肉ならいらんぞ?」
「大丈夫、美味しいから!」
「カマイタチ、カシャ、続きはあっちでやろう」
「え?」
ブルー、カマイタチ、カシャが立ち去り、ニンギョが足を生やして追いかける。
透明化して海面から見ていたヌリカベが、殻の修復の続きをするため海底に戻っていった。
こうして微生物以外誰もいなくなった砂浜に、エンジン音に似た妖怪の鳴き声が響く。
〔ブーンブンブンブーン!〕
バイクサイズのライジュウに乗ってきた千影、後ろに座り背中に抱き付く結月。
千影は狐耳が付いた黄色いヘルメット、結月は猫耳が付いたピンクのヘルメットを被っている。
見晴らしの良い所でブレーキを掛け、人間二人がヘルメットを取る。
ヘルメットはそれぞれマスコットサイズのキュービルンとネコマタンの姿に戻り、結月が2体の頭を撫でる。
「やっぱり潮風浴びながら走るの気持ちいい! 錆びないバイクなのもありがたいし」
〔ブンブン!〕
「千影ちゃんに乗せてもらうの大好き。風がヒュンヒュンするのも、景色がどんどん変わってくのも、千影ちゃんがあったかいのも大好き」
「最後の大好きが一番感情こもってたね」
千影は結月の頭に額をくっつける。
結月はネコマタンを抱きしめながら足をばたつかせる。
「でも、あたし達が悪魔にやられたら、こういうのも無くなっちゃうのかな……」
「こんな素敵な景色も、こんな楽しい時間もね」
「ヨーカイジャーが悪魔にやられていなくなっちゃったら、妖怪の里も悪魔に壊されちゃうの?」
〔ニャー……〕
ネコマタンは俯いて2本の尻尾を丸める。
キュービルンが妖力で文字列を作り出す。
〔あくまが いまより すきほうだい できるようになったら ここが みつかってしまうのも じかんのもんだい〕
「そっか……。じゃあますますあたし達、負けられないね」
「うん。守るために戦えるのが、私達の悪魔と違うところ。だから絶対、ヨーカイジャーは悪魔より強くなれる」
〔ニャニャー!〕
ネコマタンの2本の尻尾がまっすぐになる。
キュービルンはまた文字列を作る。
〔ようかいのさとも まもってくれるの?〕
「もちろん。こんなに安全に気持ちよく走れる場所、他に無いから」
「あたしのことは?」
「肉球謝肉祭とかできる人、守ってあげる必要ある?」
「だよね!」
千影が2体のマスコット妖怪ごと結月を抱きしめる。
結月は足をばたつかせ頭を振る。
「もっかい走る?」
「うん!」
妖怪達が化けたヘルメットを被り、二人はまたライジュウに乗って走り出す。
妖怪の里・河童ヶ沼。
北岸で先程の特訓を続けるブルー、カシャ。
上空から見守るカマイタチ、安全のため新たに見守りに加わったユキオトコ。
東岸でネネコガッパに説教されて不満げなニンギョ。
南岸からそれらを眺める智和。
沼中央から顔を出すメガガッパー。
〔無茶な特訓じゃのう。あれで本当にレヴィアタンを倒せれば良いが……〕
「武士は意味の無いことをする男ではありません。ヨーカイジャーには意味の無いことに意味を持たせることができる男と女もいて、それでバランスが取れています」
〔なるほどのぉ。本当に、ヨーカイジャーを作って良かった〕
「そうですね。あのメンバーがいれば、倒れてもまた立ち上がり、平和を守ることができるはずです」
〔それもあるが、智和にもやっと、人間の友達ができた……〕
「いやいやいやいやいや、俺別に今まで学校で孤立してたこととか無かったし、人間の友達もいましたし」
〔そうか? でも休み時間にみんなでドッヂボールしたり……〕
「してました。学校の俺なんて見たことないでしょ?」
〔放課後にみんなでカラオケに行ったり……〕
「それは他のみんなよりは少なかったけど行ったことあります」
〔部活もやっておらんかったし……〕
「一族の使命のための訓練がありましたからね。でも別に後悔とかしてませんよ」
〔女の子とデートとか……〕
東岸のネネコガッパが素早く南岸を見る。
「それは無かったですけど……」
ネネコガッパは両手に顎を置いて見ていたニンギョを追いかけ走っていく。
〔しかしここまで互いを認め合えた友達はいなかったんじゃないか?〕
「それは……そうかもしれません。事情を知ってる一族や傘下の企業の人間以外とは、妖怪の話をしたり、一緒に問題に立ち向かったりはできなかったし、そういうの共有できる仲間ができたのは、やっぱりありがたいって気がします」
石化したブルーが炎に包まれる時間が長くなってきている。
何かを掴めそうな感覚が、離れて見ている智和にも伝わってくる。
そんな時、智和のムゲンブレスの着信音が鳴り響いた。
「……わかった、待ってろ」
〔来たか!?〕
「来ました、軍艦です」
〔よし、ヨーカイジャーみんなでゲキリンダーに乗って行って、後からワシらを召喚してくれ。他の連中はともかく、ワシは召喚された時以外は飛べんからのォ……〕
「いえ、合体していきましょう。ちょうどヨーカイジャー5人全員妖怪の里にいますし、里から飛び立つムゲンビルダーをみんなで見送れば、里の妖怪達の士気も高まるでしょう。合体形態での移動はバラバラで移動するよりエネルギーを消費しますが、この状況下で里のみんなに勇気を与えることに繋がるなら、パフォーマンスじみたこともたまには必要かと」
〔うむ……ならば合体して行くとしよう〕
一度負けた相手との戦いを前にして、メガガッパーの声には不思議な喜びが混じっていた。
「武士ー! 出動だー! 特訓終わり! 火を消せー! ……いや別に沼に放り込まなくてもあああああああああああ! その上凍らせなくてもちょいちょいちょちょちょいちょちょちょいちょい!」
智和はヨーカイグリーンに変身し凍った対岸へ高速で泳いでいく。
河童ヶ沼の前に集まったパートナー妖怪達。
ゲキリンダーのコクピットの中に変身後のヨーカイジャー5人。
見送りに来た里の妖怪達。
その中には、召喚に備え待機するサポーター妖怪達と、カラステングもいる。
「それじゃあ珍しいシチュエーションで、合体!!」
レッドがムゲンブレスに合体カードを入れると、5体のパートナー妖怪達が宙に浮き上がり変形を始める。
ゲキリンダーの両前足と尻尾が外れ別次元へ転送され、後ろ足が背中側へ折り畳まれ、体全体が垂直に起き上がり首が体内に引っ込むようにして合体に適度な長さになる。
メガガッパーの両腕が引っ込み、甲羅が上にスライドして体の下半分が2本の足の形状になったところでゲキリンダーの体の下に合体して「下半身」となる。
ネコマタンの尾と後ろ足が折り畳まれ、前足は爪が出た状態で頭に被さるようにスライドし、全体的に鋭い爪の付いた腕といった形状になりゲキリンダーの左腕部分に合体。
カマイタチの刃物状の尾が外れ、後ろ足が折り畳まれ、鎌の付いた前足は頭に被さるようにスライドし、鎌の間に刃物状の尾が収まり全体的に鋭い剣の付いた腕といった形状になりゲキリンダーの右腕部分に合体。
キュービルンの体が前部と後部で半分に分離、前部は中心にキツネの顔が付いたプロテクターといった形状に変形しゲキリンダーの胸に合体、後部は九本のキツネの尾が付いたプロテクターといった形状に変形しゲキリンダーの背中に合体。
最後にゲキリンダーの首が回転扉のように回転、中から人型の顔が姿を表した。
「完成、合体巨人・ムゲンビルダー!!」
5人声を揃えてその名を叫ぶ。
ムゲンビルダーは足を高く上げて振り下ろし、歌舞伎の見栄を切る動きでポーズを決める。
〔ムゲンビルダー! 俺やヌリカベの分までブチかましてきてくれー!〕
〔任せろ。その間ウシオンナをよろしくな!〕
不意に名前を叫ばれたウシオンナは顔を隠すが服の模様のせいでほぼ意味が無い。
「ヌリカベちゃん待っててねー!」
ヌリカベは触角を大きく振ってコクピットに応援の気持ちを送る。
〔バウバウバウ!〕
コクピットのブルーと右腕のカマイタチはカシャの声に瞳の奥に強い意志を滾らせ頷く。
「動ける奴らは召喚する可能性あるからな!」
〔ウホウホ!〕
「帰ってまだ元気残ってたらまた走ろうねー!」
〔ブンブン!〕
「ボク達、離れてても一緒に戦ってるつもりで応援してるから! ヨーカイジャーの帰る場所には、いつでもボク達がいるからねー!」
「びゅびゅーん!!」
「ふごふごー!」
「みんなありがとう! 行ってくるぜ!!!」
レッドが気合いを込めて操縦桿を引くと、ムゲンビルダーは青く澄みきった妖怪の里の空へ飛び立った。
巻き起こる風に髪を靡かせる者、吹き飛ばされないよう掴まりながら見送る者、日頃鍛えた足腰で踏ん張りながらピンクのサイリウムを振り回す者達……
全ての思いを金色のボディに背負い、ムゲンビルダーは巨大軍艦の待つ空へ向けて加速する。
空の亀裂から現れ、無機質に黒く光る頑強な機体。
レヴィアタンが操る巨大軍艦バジマが関東某所の空を進行しながら地上を砲撃する。
火花が散り、ビルは崩れ、悲鳴と足音が街を埋め尽くす。
「さあ出て来いヨーカイジャー!」
船橋のコントロール室から高らかに叫ぶレヴィアタン。
機体後部の砲台が向きを変え、逃げ惑う人々に次なる砲撃が向けられようとしたその時、太陽光を反射した、軍艦バジマの黒光りとは真逆の眩いばかりの黄金の輝きがレヴィアタンの目を眩ました。
「誰が呼んだか旅烏 鼻高々にてんつくてん 天に代わって只今参上! 空の勇者、ヨーカイレッド!」
妖怪の里を飛び出した勢いそのままに、ムゲンビルダーの力強い高速飛行が軍艦バジマを攻撃の射程に捉える。
「誰が言ったか川流れ 流れるどころか掻き分けて 登って飛び出せナイアガラ! 水の戦士、ヨーカイグリーン!」
急上昇から右足を斜めに繰り出し、軍艦バジマの機体上部に急降下からの飛び蹴りを食らわす。
「うわあああああああ!!!!!!」
衝撃は内部のレヴィアタンに伝わり、その屈強な足腰をぐらつかせる。
「誰が言ったか猫かぶり 花も恥じらうJK3 嘘はいらない夢見る乙女! 獣のアイドル、ヨーカイピンク!」
その隙を見逃さず、左手の爪での引っ掻き攻撃で黒光りする機体に火花を散らす。
「誰に言われどカマわない イタチごっこにピリオド刻み 腹を切らずに悪を斬る! 風の剣士、ヨーカイブルー!」
続けて右手の夢幻斬空剣で同じ箇所に斬撃を食らわし、更に大きな火花を散らした後、機体を蹴って太陽を背にして高く飛ぶ。
「おのれヨーカイジャー!!!!」
レヴィアタンは眩い輝きに目を焼かれそうになりながらも、抉り取るように視界を確保し高度を上げたムゲンビルダーに主砲の照準を合わせる。
「撃てえええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
空を震わせる凄まじい号音と共に撃ちだされるエネルギー波がムゲンビルダーを直撃、したかに見えたがエネルギー波はムゲンビルダーをすり抜け何も破壊する物の無い虚空の彼方へ。
「????????」
戸惑うレヴィアタンの視界の後方にもう1体の、否、この世にたった1体だけの本物のムゲンビルダー。
主砲の砲撃を受けたのは、合体しているキュービルンの力で生み出した幻影のムゲンビルダーだった。
「誰を染めるか狐色 こんこん今夜も手鞠歌 お目にかけましょ万華鏡 幻の賢者、ヨーカイイエロー!」
「小癪な真似を!!!!」
重鈍な機体が後方のムゲンビルダーを迎え撃たんと向きを変える。
ムゲンビルダーは異空間から呼び出したパーツを合体させ、薙刀状の武器・クロノジャベリンを左手に装備。
それを風車のように回転させ、主砲以外の砲台から連射された砲撃を全て弾き飛ばす。
「夢も現も守るが仏 夢幻戦隊!」
「ヨーカイジャー!!!!」
ムゲンビルダーは空中でクロノジャベリンを構えてポーズを決める。
「……なるほど、それが新しい合体巨人か。パワーは悪くないが、スピードはむしろ前の巨人のほうが速かったんじゃないか?」
「あんだけ攻撃食らっといてよく言うぜ」
「こちらの油断が無ければ不意打ちを食らうことも無かったはず」
「なら油断して幻影にすごいのぶっ放したあんたがダメダメなのよ」
〔パワーのムゲンビルダー、スピードのムゲンオー、みんな違ってみんなイイ!〕
「そんな余裕ぶっていていいのか? よく考えてみろ、ここで戦うことが、貴様らにとってどういうことなのか……」
レヴィアタンの言葉から滲み出た嫌な気配がグリーンの視線を地上に向けさせる。
そこには、へし折れたビルの真下で母親を探し泣き叫ぶ少女がいた。
鉄骨が剝き出しになったビルからコンクリートの塊が崩れ落ち、泣き叫ぶ少女の頭上へ向けて落下していく。
「危ない!」
救出に向かいたくも上空高くからでは間に合わないと思われたその時……
「悪い子はいねえがああああああああああ!!!!!!!」
クワガタムシのような角が生えた赤鬼が蓑を着たような妖怪・厄祓妖怪ナマハゲが拳でコンクリートの塊を粉微塵に砕き散らした。
呆然とする少女を、金髪にホッキョウギツネのような耳が生え、白いシャツにデニムのショートパンツという出で立ちの妖怪・氷槍妖怪ツララオンナが抱きかかえる。
「ちょりーっす。おじょーちゃんケガ無い? いっしょにおかーさん探そ! あ、みなさーん! あの光ってるかわいいおねーちゃんがいるほうに、慌てず急いで逃げてくださーい!」
ツララオンナが言うおねーちゃんとは、軍服を着た黒髪ショートヘア、右目に眼帯、額にチョウチンアンコウのような先が光る触角が生えた妖怪・発光妖怪オイワ。
「この任務、果たさでおくべきか! 皆さん安全な避難経路はこちらです!」
グリーンのムゲンブレスにネネコガッパからの通信が入る。
《ヨーカイジャー! 地上のことはオレたち妖怪治安維持部隊に任せて、おめえらは思いっきり戦ってくれ!》
「ああ……いつもありがとう。今日はいつも以上にありがとう!」
《バッ……バカ! そういうのは帰ってからにしろよ!!!》
通信が切れた。
「治安維持部隊って今までネネコガッパしか知らなかったけど、あんなに頼りになる奴らだったんだな」
「そう、ヨーカイジャーができる前から、ずっと人間を陰から守ってきた。治安維持部隊だけじゃない、みんなが、俺達人間を守ってくれていた」
「しからば今度は、拙者達の番でござる」
「そういうことだ。いくぞ!」
「オウ!!!」
決意も新たに軍艦バジマに向かい身構えるヨーカイジャーとムゲンビルダー。
軍艦の中のレヴィアタンは腕組みしながら、どこにあるかもよくわからない鼻で笑う。
「フン、貴様ら妖怪はなぜそうまでして、放っておけば勝手に絶滅していくような下等生物どもを守ろうとするのだ」
〔人間は妖怪や悪魔とは違う強さと美しさを持っている。そんな人間達が、君達のエゴで苦しめられているのが我慢ならないのさ〕
「ならば妖怪が人間を保護することもまた、妖怪のエゴと言えるのではないか? それに、我々悪魔もまた、人間や妖怪と同じ自然の一部。我々の活動により人間が苦しむのも、死ぬのも、自然の摂理ではないか。貴様ら妖怪のどこに、それを邪魔する権利があると言うのだ?」
〔それは……〕
ゲキリンダーの軽口が重く閉じられかけたその隙間に、コクピット内のレッドがさらに軽い口を滑り込ませる。
「あー、それ! 人間にも似たようなこと言う奴いるんだよなー。『人間が野生動物を保護することもまた、人間のエゴと言えるのではないか?』とか、『人間も自然の一部だから人間による自然破壊も自然の摂理』とか。そういうのって要するに、『自然保護めんどくさいから好き勝手に生きさせてくれー!』をカッコつけて言ってるだけなんだよね。しかもほとんどの人が中学2年生くらいまでで卒業しちゃうような、大人になってから思い出したら恥ずかしさで顔面爆発しそうになるタイプのカッコつけかた」
「中学2年生……というと確か、14年程度しか生きていない人間のことではないか! おのれ馬鹿にしおって!!」
「馬鹿にしてんのはそっちだろーが! いくぜムゲンビルダー!!」
〔悪魔をも思考停止させるその口八丁、悪くないだろう〕
ムゲンビルダーはクロノジャベリンを構え、砲撃に備える。
〔とはいえ、何度か攻撃を加えることはできたが、決定的なダメージを与えるには至らなかったようだ。このまま戦い続けて消耗したところにあの物凄いエネルギー波を撃たれれば、クロノジャベリンでも防ぎきれないだろう〕
「スピードではムゲンビルダーに勝るムゲンオーが避けきれなかったものを、ムゲンビルダーが避けきれない可能性は高い……」
「幻影作って騙し討ちも、何度も通用する手じゃないしね……」
「拙者に考えがある!」
いつも以上に張りのあるブルーの声。
「もしかして、あの特訓してたやつか」
「左様。まずはこれだ」
ブルーはムゲンブレスにカシャの召喚カードを入れる。
「サモン、サポーターズ!!」
妖怪の里・妖怪電気店街の巨大モニターでムゲンビルダーの戦いを見守っていた妖怪達。
その群衆の後方に並んでいる巨大妖怪の中のカシャが空を見上げて飛び上がり、紅色の光になって高速移動を開始。
再びクロノジャベリンを回転させ砲撃を防ぐムゲンビルダーの隣に紅色の光が到着、カシャの姿に戻り火球を連射。
バジマの砲撃と相殺され辺りが白い煙に包まれる。
その隙に距離を取り、ブルーがムゲンブレスにカシャの換装カードを入れる。
するとカシャの前後全ての足が折り畳まれ、下顎が大きく開いて首の下に付いた状態でロックされ、喉の奥から銃身のような物が伸びて出てくる。
ムゲンビルダーの右腕のカマイタチが外れ、銃の付いた腕の形になったカシャが代わりに右腕に合体する。
「完成、ムゲンビルダーマグナム!!」
5人全員で叫ぶ声と共に、銃を翳してポーズを決める。
〔なるほどこれがマグナム、悪くないだろう〕
「炎なら軍艦を溶かせるってことか?」
「炎だけでは奴は倒せぬ。マグナムの火球に拙者の剣を加えるのだ」
「どうやって?」
「拙者がマグナムの銃口に入り、カシャの能力カードとカマイタチの必殺カードを発動させ、必殺妖技・業火一閃の体勢に入る」
「え、まさかマグナムで武士君を撃ち出せってこと!?」
「いかにも!」
「ここまで聞いて『何言ってんだこいつ』って感想しか出てこないんだが」
「悪魔も燃やせる火力ってわかってる?」
「わかっておる。そこでコナキジジイの能力カードだ」
「そうか、石化してカシャの火球を食らう特訓は……」
「その技を完成させるためであった!」
煙が晴れ、視界を取り戻したバジマが再び砲撃を開始。
ムゲンビルダーマグナムは火球を連射するが、撃ち出される弾数はあちらが上で、火球を潜り抜けクロノジャベリンでも弾ききれなかった数発が命中、金色のボディに傷を付け、コクピットに伝わる振動がヨーカイジャー達に先日の敗北を思い起こさせる。
バジマに向かった火球は砲撃に威力をかき消され、黒い機体を微かに焦がすのみ。
〔不意打ちが成功しなければこんなものか……〕
「だから奴の予想外の攻撃を叩き込んでやるのでござる」
「さっき俺が見ていた特訓では、確かに石化すればカシャの火球に耐えられていたが……」
「そうであろう? 拙者がマグナムに入り、準備ができ次第、カマイタチに合図をさせる。そうしたら拓実、炎熱魔燃弾を撃ってくれ」
「いやいやいやよりによって必殺大妖技かよ! んな命懸けの攻撃、責任持てねえよ!」
「心配いらぬ。命を捨てるような攻撃であれば、その責任を仲間に負わせたりはせぬ。いつも言っておろう? 『腹を切らずに悪を斬る』、それが令和の武士道でござる」
「そうか…………お前の命と武士道、俺達が預かった!」
「かたじけない!」
話している間もバジマの砲撃は続いている。
ムゲンビルダーマグナムはまたクロノジャベリンを回転させ防御に徹している。
「ゲキリンダー、拙者だけ外へ出してくれ!」
〔無茶な作戦でもその信頼があれば成功できるだろう!〕
ムゲンビルダーマグナムは目から自分の右肩に向けてビームを発射。
ブルーは日頃の鍛錬により獲得した脚力と握力を駆使して、砲撃による振動に耐えながら右腕を移動、マグナムの銃口に入る。
ブライブレードを装備し、カシャの能力カードとカマイタチの必殺カードを発動させ、刀身に青い輝きと紅蓮の炎を宿す。
そしてコナキジジイの能力カードを発動する直前にカマイタチに叫ぶ。
「カマイタチ頼む!」
〔ビビビーッ!!〕
カマイタチはムゲンビルダーマグナムのコクピットまで響くように叫び両手の鎌を打ち鳴らす。
「よし……いくぜ!」
レッドはムゲンブレスにカシャの必殺カードを入れる。
ピンクが考えた新しい技の名前が耳打ち伝言ゲームによってコクピットにいる全員に伝わる。
レヴィアタンはヨーカイジャーの作戦が聞こえてはいないが、何かを仕掛けてきそうな雰囲気は察知し、主砲のエネルギーをチャージし始めていた。
「何を企んでいるかは知らんが、全て吹き飛ばしてしまえば問題ない。撃てええええええええええ!!!!!」
「いくぜ武士……!!」
「必殺大妖技・炎熱武士道魔燃弾!!!!!」
技の名前はコクピットの全員で叫ぶ。
バジマの主砲のエネルギー波と、ブライブレードを構えたブルーを押し出す火球連打が正面からぶつかり合う。
妖怪の力と霧崎一刀流の妙技を合わせた切れ味が、エネルギー波を切り裂きバジマの船橋に迫っていく。
石化していてもさすがに必殺大妖技の熱量は平気とは言えない。
だが、技を破られたあの日から磨き上げてきた技と積み上げてきた思いがまさに今、己の武士道への誓いを成就させんと刀と心に力を与える。
「レヴィアタン、必ず貴様を……斬る!」
窓を突き破り、コントロール室のレヴィアタンを避ける隙も防ぐ余裕も与えないまま炎を纏ったブライブレードに火球の威力と勢いを乗せて一閃のもとに切り捨てる。
「イーーーーーーーーーヤアアアアアアアァッ!!!!!!!」
「ば…………ば………馬鹿な…………この私が…………」
巨大軍艦バジマは燃える刀傷を起点に爆発、崩壊していく。
勝利の確信、どころではない。
ブルーはバジマを切り裂いた技の勢いのまま飛び続けている。
「武士!!!」
「あのままじゃ……」
「危ない!」
〔少しだけ、時を戻そう!〕
ムゲンビルダーマグナムの体が金色の光に包まれ、同じ色の光に包まれたブルーの時間が少しだけ戻り後退する。
その隙にカマイタチがブルーの前方に回り込み、再び時が進み飛んできたブルーを両手の鎌の切れない部分で挟むように受け止めた。
「はぁ~、良かった!」
安堵し姿勢を崩すメンバー達にイエローが叫ぶ。
「まだ油断しないで! ラクダ女が来るかもしれない!」
「そうか! 緑の変態が巨大化させに来るかもしれないのか!!」
レヴィアタンは僅かに残った魔力で落下速度を緩めながら巨大化に使うカプセルを取り出し自分の胸に当てる。
「フッ……緑の変態ラクダ女には最初から期待していない……」
その目には崩壊していく自慢の巨大軍艦と、眩しい輝きを放つ敵の合体巨人が映る。
「デビル デビレバ…………デビルトキ………… カモンデーモン…………デ………………」
呪文を言い終わる前に力尽き、人々が避難を終えた地表に激突、爆散。
「やった……んだよな?」
〔そのようだ〕
「うよっしゃああああああああああ!!!!!!」
喜びに沸くコクピット内。
カマイタチの手に乗って戻ってきたブルーと手を振り合う。
被害は甚大、目撃者は多数。
これから向き合わなければならない相手は、悪魔だけではないかもしれない。
だが、レヴィアタンと巨大軍艦バジマの脅威は去った。
今はただ、熱い絆と武士道で掴み取った勝利の喜びを噛みしめるヨーカイジャーと妖怪達だった。
【to be continue……】