episode:10 赤羽、墜ちる時
この作品は天道暁によるオリジナルのスーパー戦隊作品です。現在放送されているスーパー戦隊シリーズを制作・放送している各団体とは一切関係ありません。
オープニングテーマ「your kind!」
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春の日差し、駅前広場のベンチ、イチゴとホイップクリームのクレープ、結月と千影。
「千影ちゃんって、カレー好き?」
「うーん、好きでも嫌いでもないかな」
「じゃあクリームシチューは?」
「好き!」
「じゃあ今度作ってあげる! 最近料理練習してて、美味しくできるようになったら一番に千影ちゃんに食べてもらいたいの」
「それ嬉しい。すごい楽しみにしてるね」
「すごい楽しみにされたら困る。普通に楽しみにして!」
「わかった、普通にすごい楽しみにする」
「なんか変だなー」
「ねぇ知ってる? お肉とジャガイモとタマネギとニンジンを煮込んで、あと何を入れるかでカレーにもシチューにも肉じゃがにも豚汁にもなれる状態のことを、ゲームに出てくるいろんな姿になれるキャラクターに例えた呼び方があるみたい」
「それ聞いたことある。でもあたし達的には『ムゲンオー』って言いたくない?」
「あー、腕を付け替えたらマグナムにもシールドにもナックルにもスピアーにもなれるもんね。両腕付け替えたらSWATにも」
「うん。まさに料理の、ムゲンオーやー!」
「じゃあ結月もムゲンオーだね。これから何にだってなれるでしょ?」
「でもあたしは何になっても、千影ちゃんとずっと一緒にいたい」
「うん、ずっと一緒にいよう」
千影は結月の口元に付いたクリームをそっとハンカチで拭く。
「夢幻戦隊ヨーカイジャー」
episode:10 「赤羽、墜ちる時」
某所の雑居ビルにある「餌澱学習塾」。
そこに通う学生達は皆、学校の成績は上がるが勉強のこと以外何も考えない冷たい性格になってしまうという。
悪魔の関与を疑い調査を開始した妖怪諜報部だったが、その雑居ビルは妙にセキュリティが強固で妖怪ですら侵入が難しい。
そこで、現役JKの結月と変装すれば高校生に見えなくはない拓実が潜入調査を行うこととなった。
潜入調査のため結月が猫と天狗に関係のある歴史上の人物を調べて考えた偽名は、結月が「夏目茉莉」、拓実が「鞍馬義経」。
「俺の名前かっこよすぎねえ?」
「まあまあ、今だけだしいいんじゃない?」
拓実はコスプレ用の学生服と黒淵伊達眼鏡でそれっぽく変装。
結月は最強JKの誇りであるらしいツンテールを封印し黒髪ストレートに。
ピンク淵伊達眼鏡と本物の制服で学級委員長風に変装。
千影にいつもとは別の可愛さだと抱き締められテンションが上がったまま潜入調査へ。
教室真ん中の列、一番後ろの席。
同時に体験入塾に申し込んだからか隣同士の席に座ることが出来た。
拓実と結月は教室に入った瞬間から、その空間に満ちた違和感に気付いていた。
周りの高校生達は授業が始まる前から真っ直ぐに前だけを見て話もしない。
青春真っ盛りの学生が20人以上いるのに人の気配がしない。
結月は隣の女子に話しかける。
「ねえねえ、新しくできたクレープ屋さん知ってる?」
拓実は隣の男子に話しかける。
「なあなあ、俺昨日カレー丼食いに行った帰りに何を踏んだと思う? ヒントは犬!」
それぞれ高校生女子と男子なら必ず反応を示すはずの話題を振ってみたがどちらも微動だにしない。
二人は目配せして更に大きくなった違和感を共有する。
そうしているうちに講師が教室に入ってきた。
細身で長身の20代後半~30代前半くらいに見えるスーツを着た男性。
鋭い目付きから蛇のような印象を受ける。
「それでは授業を始めます」
講師の抑揚の無い声から始まった数学の授業。
講師は一方的にしゃべりながらホワイトボードに数式を書き続け、周りの生徒達は機械のようにペンを動かしノートを取る。
皆、集中して授業を受けているようだが誰も質問などをしようとはしない。
「拓……じゃなくて義経君、わかる?」
「高校卒業してから真っ先に頭からサヨナラした学習内容は数学だった。しかしそれにしてもこれは何が何やらわかんなすぎる」
「あたしもただでさえ数学苦手なんだけど……みんなは理解できてるのかな……?」
この調子の授業が30分続いた後、ホワイトボードの端にくっついていたリンゴ型のデジタル時計からアラーム音が鳴った。
講師は音を止め、教室に入ってから初めて笑顔を見せた。
「さあ皆さん、今日も集中力を上げるためのおやつの時間です」
「やったー!!!!」
結月は思わず立ち上がったが周りの冷静さを見て叫び声をフェードアウトさせながら座った。
講師は教室を出て、すぐに籠一杯のリンゴを持って戻ってきた。
各生徒に1個ずつ配られるリンゴ。
赤々として瑞々しく、いかにも新鮮で美味しそう。
「いただきま……」
「待った!」
大口を開けた結月を拓実が制する。
周りを見ると、生徒達は配られたリンゴを貪るように齧り続けていた。
「何かおかしい」
「でも、美味しそう……」
「……だな。赤い。赤ってのが、いい……」
2時間後、二人は他の生徒達と共に雑居ビルから出て来た。
外で隠れて待機していた智和武士千影が駆け寄る。
「どうだった?」
「ここは素晴らしい所でした」
「次のテストで学年1位は間違いないでしょう」
「は?」
いつものキャラクターとは違いすぎる平坦な丁寧語。
「どいて下さい、僕達は帰って今日の復習と明日の予習をしなければなりません」
「良い成績を取って良い大学に入って良い会社に就職しなければ良い将来はやってきません」
二人は仲間達の間を肩をぶつけながら通り抜けて全く同じ足取りで歩いていく。
「どうしたんだ……」
「結月ー!!」
千影の声にさえ振り向きもしない。
「やはりこの塾、何かあるのでござるな」
「お前らちょっと待て!」
智和が声を掛けても肩を叩いてもやはり振り向きもしない。
「こうなったら……」
千影が大きく息を吸い込み、腹筋に力を込める。
「結月ー! また一緒にクレープ食べに行こう! あの、薄い皮で包んでるやつ!!」
「薄い……?」
結月の足が止まった。
「あの平べったい生地で包んでるやつ!!」
「平べったい……?」
「苺はちょっと小さかったけど、美味しかったよねー!?」
「小さかった……?」
結月がすごい勢いで走って戻ってきた。
「誰の胸が薄くて平べったくて小さくてバナナスライスみたいだって!?」
「全部クレープの話だしバナナスライスは言ってないけど結月おかえり!!」
千影が結月を抱き締めて顔を胸にうずめる。
「ほわわわわ千影ちゃん大胆……ってあれ? ここはどこ? あたしは最強JK……」
「よかった……」
「なるほどそれなら拓実も……」
智和も大きく息を吸い込み腹筋に力を込める。
「うわああああああああああああああ助けてくれえええええええええええええええ!!!!!?」
拓実がすごい勢いで走って戻ってきた。
「どうした!?」
「拓実もおかえり! さすがに俺は抱き締めないけど」
「ここはどこ? 私は実際には昨日何も踏んでいません……」
「言葉の意味はよくわからぬが、とにかく二人とも無事で何よりでござる」
「そうだリンゴ! リンゴ食ってからなんかおかしくなったんだ!」
「うんうん! 周りのみんな勉強マシーンみたいだったんだけど、先生がリンゴ配ったらみんな野獣みたいな食べ方して、あたし達も食べちゃって……」
「その先生とリンゴが怪しいな。それなら……」
翌日。
智和に作戦を授けられた拓実と結月が再び餌澱学習塾を訪れる。
鞄を机のフックに掛け、気合いの眼差しでホワイトボードを見つめる。
講師が入ってきた。
「それでは授業を始めます」
また抑揚の無い声から始まる授業。
30分後、昨日と同じようにおやつの時間だと講師が教室を出て、籠一杯のリンゴを持って戻ってきた。
「今だ!」
〔コン!〕
〔ニャー!〕
拓実の鞄からマスコットサイズになったキュービルンが、結月の鞄から同じくマスコットサイズになったネコマタンが飛び出し、籠に体当たりしてリンゴを床に散らばらせた。
「妖怪!?」
講師がふらつきながら思わず声に出した。
「先生、質問でーす」
拓実が手を挙げる。
「こいつら普通の人間には見えない状態のはずなのに、なんで先生には見えるんですかー?」
結月が指で伊達眼鏡をクイッとする。
「もしかして先生ってー、悪魔だったりしちゃいます?」
講師はマスコットサイズの妖怪達から目を逸らす。
「き……君達、授業妨害だ! みんな、こいつらみんなの勉強を邪魔するつもりだ! 捕まえろ!」
生徒達が一斉に拓実と結月に鋭い目を向ける。
二人が生徒達に注意を向けた隙に講師は教室を走り出た。
追いかけようと走り出した二人は生徒達に囲まれ足を止められる。
「どうしよう……」
「こいつらを傷付けるわけには……」
その時、ネコマタンが二人の頭を小突いてしゃがませ、キュービルンが幻の拓実と結月を作り出した。
生徒達が幻に捻り寄っている隙に、本物の拓実と結月はほふく前進で、キュービルンとネコマタンはその背中に乗って教室を出た。
雑居ビルを出て逃走する講師。
今日も外で待っていた智和武士千影がそれを追う。
講師が常人を越えた脚力で壊れた遊具が並ぶ「立ち入り禁止」の看板が立てられた寂れた公園に逃げ込んだところで、本来の大きさに戻って飛んできたキュービルンとネコマタンから飛び降りてきたレッドとピンクが行く手を阻む。
後から追い付いてきた智和武士千影も変身して退路を塞ぐ。
「やはりあなた達が噂のヨーカイジャー。私は生徒達に頭が良くなるリンゴを食べさせてやっているだけなのに、なぜ邪魔をするのです?」
講師が笑い混じりに語尾を上げる。
「頭が良くなっても、クレープの話にも、男子ならみんな大好きなアレの話にも、反応できなくなっちまったら幸せにはなれない!」
「周りの人達が悲しくなって、デビルギー出しちゃうんでしょ!? そんなことになる人がいっぱいいたら……あたしも悲しい!」
イエローが大きく頷く。
「ほう……他者の幸せや悲しみがそんなに気になりますか。つくづくあなた達は非効率的な生き方をする生物だと思いますよ」
そう言った講師の姿がみるみるうちに変化していく。
ヘビのような頭部、冬景色を彷彿とさせる黒地に白の模様が入った胴体、ニホンザルを思わせる腕、右腰にはニンニクのような物が、左腰には手の平サイズのマグロの模型のような物が付いており、背中には三味線を背負っている。
「改めまして、私は悪魔帝国デモンダイムから参りました、悪魔サマエル。以後、お見知り置きを」
サマエルは胸に手を当ててお辞儀する。
「ご、ご丁寧にどーもどーも。あたし達は……」
「誰が呼んだか旅烏 鼻高々にてんつくてん 天に代わって只今参上! 空の勇者、ヨーカイレッド!」
「誰が言ったか川流れ 流れるどころか掻き分けて 登って飛び出せナイアガラ! 水の戦士、ヨーカイグリーン!」
「誰が言ったか猫かぶり 花も恥じらうJK3 嘘はいらない夢見る乙女! 獣のアイドル、ヨーカイピンク!」
「誰に言われどカマわない イタチごっこにピリオド刻み 腹を切らずに悪を斬る! 風の剣士、ヨーカイブルー!」
「誰を染めるか狐色 こんこん今夜も手鞠歌 お目にかけましょ万華鏡 幻の賢者、ヨーカイイエロー!」
「夢も現も守るが仏 夢幻戦隊!」
「ヨーカイジャー!!!!」
「こちらこそご丁寧にどーもどーも。尤も名乗りあったところで、あなた達は今ここで死ぬことになるのですけどね!」
サマエルは右腰のニンニクのような物を取り外し、
「けっぱれ、ジャミリアー!」
と叫びながら放り投げる。
ニンニクのような物は空中で弾け、7体の使い魔ジャミリアーが姿を現した。
「ジャミジャミ!」
ジャミリアー達は剣を振りながらリズミカルに足を踏み鳴らす。
「いくぞ!」
両者一斉に走り出す。
グリーンがユキオトコの能力カードをムゲンブレスに差し込むと、グリーンの体が冷気に包まれる。
更にメガッパーの必殺カードを差し込むと、グリーンの周りをいくつもの氷塊を含んだ渦状の水流が発生し、中心に立つグリーンの動きに合わせて3体のジャミリアーを飲み込んでいく。
ジャミリアー達は氷塊をぶつけられながら空中へ巻き上げられ、そのまま地面に叩き付けられて爆散。
「名付けて、必殺妖技・流氷上手投げ!」
「智和君、ユキオトコのカード貸してー!」
「ん?」
グリーンが投げたカードをピンクがキャッチ、ムゲンブレスに差し込むと、ピンクの体が冷気に包まれる。
「これですごい綺麗な技ができると思う!」
ピンクがムゲンブレスにネコマタンの必殺カードを入れると、無数の煌びやかなピンク色の光の粒がホタルのようにピンクの周りを飛び回り、同時にジャミリアー達の上空から美しい雪の結晶のような物が降り始める。
光の粒はピンクの周りから離れ、ジャミリアー達の上空へ飛びながら粒ひとつひとつが大きくなりネコの肉球の形になっていく。
「必殺妖技・肉球雪祭!」
ピンクが叫ぶと、無数のネコの肉球型のエネルギー体が敵に降り注ぐ……と思われたが、肉球達は急に方向転換し、いつの間にか出来ていたコタツ型のエネルギー体に潜り込んでガタガタ震えだした。
「ゑゑゑゑゑゑゑ!?」
「ネコはコタツで丸くなる、か。ネコマタン由来の妖力は冷気と相性が悪かったみたいだな」
「カードと刀は使いよう、というわけでござるな」
ブルーがコナキジジイの能力カードをムゲンブレスに差し込むと、ブルーの体が一瞬にして石化、後ろから切り掛かってきた2体のジャミリアーの剣では石化したブルーの体に歯が立たず、反動で剣を手放したところで石化を解除したブルーに振り向きざまに斬り捨てられ爆散。
「私もやってみよう」
イエローはキュービルンの装備カードでコンコンボーを装備、更にライジュウの能力カードを発動させるとコンコンボーの先が電撃に包まれ激しく光る。
「これは強そう!」
走りくるジャミリアーに電撃を帯びた突きを食らわし、反対方向から来たもう1体の顎を打ち上げ、ボディへ深く捻じ込んで電撃を流し爆散させる。
また襲ってきた1体はピンクに後ろからスキャットクロウで突き刺され爆散。
これでジャミリアー全撃破。
「うおおおおおおおおお!!!」
レッドがフェザーガントレットを装備してサマエルに向かって走る。
サマエルは右手を天に掲げ、バスケットボールサイズのリンゴのような物を作り出しレッドに投げる。
「なんだそんなもん!」
レッドはそれをかわすが、リンゴは地面にぶつかると爆発、爆風でレッドの足がふらつく。
「あっぶね爆発すんのかよ!」
「それそれおやつの時間ですよー!!」
サマエルは両手で次々にリンゴを作り出しレッドに投げる。
レッドは2発、3発、4発と爆発を避けるがなかなか前に進めない。
「任せろ!」
「今日はもうリンゴ見たくないっ!」
レッドの後ろから仲間4人がムゲンシューターで銃撃。
投げられたリンゴは空中で爆破されレッドには届かない。
「なッ……!?」
「いくぜ!」
レッドがムゲンブレスにカラステングの必殺カードを差し込み距離を詰める。
「必殺妖技・天狗百烈拳!」
赤く輝く拳で放たれる連続パンチがサマエルの体を深く抉る。
更に一歩踏み込み撃ち込まれた最後の一撃によりサマエルは後ろに大きく吹っ飛ばされ地面に激突。
「凍えそうな肉球見つめ泣いていました……」
爆散。
「うよっしゃああああああああああああああああ!!!!!!」
手を振る飛び跳ねる等して喜び合うヨーカイジャー達。
それを滑り台の上から見ていたグレモリー。
ラクダ型メカは滑り台の下。
「デビル デビレバ デビルトキ カモンデーモン デビデビレ 最後の一花、咲かせてごらんなさい」
滑り台を滑りながら投げキッスすると、唇型のエネルギー体がサマエルの残骸に向かって飛んでいく。
「なんか優雅で腹立つ!」
唇型のエネルギー体が残骸に当たると、残骸は巨大なサマエルの姿となりヨーカイジャー達を見下ろす。
「私だけの、巨大化スイッチ~♪」
「さあ呼んで! 妖怪ちゃん達を!!」
「ところで2回連続でおぬしが巨大化させたが、レヴィアタンはどうしておる?」
グレモリーは一瞬、口の端で笑みを浮かべ、
「早く呼んで!!」
また元の調子に戻る。
「あのデカさでまたリンゴ投げられたらやべえな」
「よし……!」
「サモン、パートナーズ!!!!」
妖怪の里。
「修行の森」から武闘妖怪カラステングが腕組みをしながら飛び立ち、赤い光になって高速移動を開始。
「河童ヶ沼」の底から長老妖怪メガガッパーが水飛沫を上げながら浮かび上がり、緑の光になって高速移動を開始。
「試し斬りの竹林」で瞑想していた斬空妖怪カマイタチが空を見上げ、青い光になって高速移動を開始。
ヨーカイジャー達の前に3つの光が降り立つと同時に巨大な妖怪の姿を表し、近くに待機していたネコマタンとキュービルンも加わって5体のパートナー妖怪達が並び立った。
5体の妖怪達は目からビームを出しそれぞれのパートナー人間をコクピットに転送。
「合体いくぜ!!」
レッドがムゲンブレスに合体カードを差し込むと、5体の妖怪達の体が宙に浮き、変形を始める。
カラステングの両腕がスライドして背中に回り、両足は折り畳まれる。
メガガッパーの両腕が引っ込み、甲羅が上にスライドして体の下半分が2本の足の形状になったところでカラステングの体の下に合体して「下半身」となる。
ネコマタンの尾と後ろ足が折り畳まれ、前足は爪が出た状態で頭に被さるようにスライドし、全体的に鋭い爪の付いたた腕といった形状になりカラステングの左腕部分に合体。
カマイタチの刃物状の尾が外れ、後ろ足が折り畳まれ、鎌の付いた前足は頭に被さるようにスライドし、鎌の間に刃物状の尾が収まり全体的に鋭い剣の付いた腕といった形状になりカラステングの右腕部分に合体。
キュービルンの体が前部と後部で半分に分離、前部は中心にキツネの顔が付いたプロテクターといった形状に変形しカラステングの胸に合体、後部は九本のキツネの尾が付いたプロテクターといった形状に変形しカラステングの背中に合体。
最後にカラステングの下顎が大きく開き、中から人型の顔が姿を表した。
レッド以外の4人もカラステングのコクピットに転送され、ヨーカイジャー達から見て左から、ピンク、イエロー、レッド、グリーン、ブルーの順に席に着いた。
「完成、合体巨人・ムゲンオー!!」
5人声を揃えてその名を叫ぶ。
ムゲンオーは右手の夢幻斬空剣を斜めに掲げてポーズを決める。
「さて今日は、塾では珍しい音楽の授業です」
巨大サマエルは背負っていた三味線を前面に回し、エレキギターのようにストラップで肩から掛けたまま魔力で生成した撥で軽快な音楽をかき鳴らす。
するとムゲンオーは音楽に乗せて両腕をまっすぐに上下させながらペンギンのような姿勢で歩き回るダンスを始める。
コクピット内のヨーカイジャー達も座ったまま上半身だけ同じ動きのダンスをする。
巨大サマエルが撥から手を放しても撥は自動的に弾き続ける。
右手でリンゴを1つ作り出し、それを離れて夢幻斬空剣を構えているムゲンオーに向かって投げる。
ムゲンオーはタイミングを合わせて飛んできたリンゴに夢幻斬空剣を突き刺し、リンゴ爆発。
「うわあああああああああっ!!!!」
衝撃がコクピット内にも伝わり激しく揺れる。
音楽に合わせてムゲンオーとサマエルが腕を上下させながら歩き回るダンス。
巨大サマエルが先程より距離を取ってまたリンゴを生成、ムゲンオーは踊りながら巨大サマエルに近付く。
「ダメだこりゃ!!」
「ぐはッ!?」
三味線を撥ごと夢幻斬空剣で貫き破壊。
音楽が止まり、衝撃で巨大サマエルは吹っ飛び背中を地面で強打、手から零れたリンゴ爆弾の爆発を自らの顔面で食らう。
「禁断の果実ッ!!!!?????」
「次いってみよう!」
レッドはムゲンオーの必殺カードをムゲンブレスに差し込む。
するとムゲンオーの全身を5色の光が駆け巡り始める。
壊れた三味線を杖代わりにして立ち上がる巨大サマエルに狙いを定め、夢幻斬空剣を構える。
「必殺大妖技 夢幻斬空剣・無限魔斬撃!!!!!」
高速移動から巨大サマエルの体を∞型に切り裂き駆け抜ける。
その剣の軌道は凄まじい光を放つ。
「また来週~~~~!!!」
爆散。
「うよっしゃああああああああああ!!!!!!」
ムゲンオーは剣を振りかざし勇ましいポーズを決める。
その様子をこれまでは頬を赤く染め恍惚の表情で見つめていたグレモリーだったが、今日はそれをいつもの半分くらいの時間に留めてラクダ型メカに乗り走り去っていった。
「やったね!」
「ツインテール封印した甲斐があったね」
「うん! でも明日からすぐ解禁!」
「なんか俺達絶好調じゃね?」
「しかれど油断は禁物でござる……とはいえ、ムゲンオーに、サポーター妖怪が4体。戦に臨む布陣が整ってまいったとも言える」
「合体巨人の誕生だけでも奇跡だったのに、まさかここまで……」
コクピット内でそれぞれ成長を喜び合い、事後処理のための連絡をしながら帰路に就こうとしたその時、上空を黒い稲妻のようなエネルギーが走り、空に亀裂が入った。
「あれは……」
グリーンは思い出した。
巨大妖怪ベヒモス出現の一報と共に送られてきた映像。
そこにも今目にしているような禍々しい空の亀裂が映されていた。
「何か来るぞ!!」
それは空の亀裂から巨大な姿を見せつけるかのように雄大に進み出てくる。
自然光を鈍く反射する黒く金属質な、ムゲンオーの10倍はあろうかと思われる頑強な機体。
機体後方に2つの砲門を備えた砲台が左右それぞれ1台ずつ、前方にも同じ仕様の砲台が左右それぞれ2台ずつ、機体後部から中心部にかけて伸びる主砲と思しき大型の砲台を備え、艦橋と思しき部分に備わった窓から威圧的な光が聞き覚えのある声と共に漏れ出してくる。
「フハハハハハハハハハハハハハ!!!!! 下等生物どもよ、我が巨大軍艦バジマの前に平伏すがいい!!」
「レヴィアタン!!」
「でけえモン出してきやがって!」
「それはお互い様だろう?」
「ムゲンオーそこまでデカくねえよ!」
「しかしあの巨大さは……」
「ああ、どう見ても強い。だけど!」
「やらねば、全てを壊されるのみ」
「だよねだよね」
「ちょっと帰りが遅くなりそう。送ってもらえるんでしょ?」
〔任しとけ!〕
「仕方ない……いくぞ!」
ムゲンオーは巨大軍艦バジマに向けて飛び立つ。
剣を構え、空を覆う黒光りする影に挑み掛からんとするが、砲台から連射される無数の弾幕に阻まれ防御姿勢を取る。
「撃て撃てえ!!!!」
高揚感の混じる声に皮肉を返す余裕も無く、ムゲンオー各部に砲撃のダメージが蓄積されていく。
コクピットのある顔の前で交差した腕、それでカバーしきれない胸、足、飛行能力を支える翼……
「……ヌリカベちゃん!!」
ピンクがヌリカベを召喚。
グレーの光がムゲンオーとバジマの間に割り込み、ヌリカベの姿を現しバリアを発生させる。
ムゲンオーへのダメージは防がれたかに見えたが、絶えることなく降り注ぐ砲撃により、バリアに少しずつヒビが入っていく。
壊れゆくバリアを目の前に、ヨーカイジャー達が対抗策を見い出せずにいる間、バジマの主砲には最大の攻撃に向けたエネルギーがチャージされていた。
「消し飛べええええええええ!!!!!!!」
主砲から空を震わせる凄まじい号音と共に撃ちだされるエネルギー波。
ひび割れたバリアは一瞬にして砕け散り、ヌリカベの殻だけがムゲンオーを守る壁となる。
しかしその殻にも少しずつ、重い破壊音と共にヒビが入り始める。
殻が砕ければ、殻よりも遥かに脆いヌリカベの本体が攻撃に晒される。
ムゲンオーは左手でヌリカベをエネルギー波の外へ弾き飛ばす。
直撃を食らい、高熱と衝撃がコクピット内にまで伝わりヨーカイジャー達を痛めつける。
ムゲンオーはその姿を保つことができず、5体の妖怪に分離させられ地上へ落下。
ヨーカイジャー達は外へ放り出され、地面に叩き付けられて変身解除。
「とどめだ……」
バジマの主砲に再びエネルギーがチャージされ始める。
カラステングが力の入らない自分の足に無理矢理地面を踏み締めさせ、地上を狙う主砲を見上げながら立ち上がる。
「カラステング……待て……」
〔俺が……やらなきゃ……〕
「待てよ……一人で……」
傷付いた翼を広げ、カラステングは飛び立つ。
「一人で……行くな……」
〔俺が……みんなを……!〕
「撃てえええええええええええ!!!!!!!!」
エネルギー波がカラステングを直撃。
が、それは先程とは違いすぐに収まった。
「エネルギー不足か、長年使っていなかったからかわからんが、今日はここまでのようだな。それでも煩いカラスを落とすには充分すぎるほどの力が出せたようだがな」
カラステングは背中から地上に落ち、目の光を失う。
バジマは空の亀裂へ、またその巨体を見せつけるかのようなゆっくりとした航行で帰っていく。
拓実はふらつく足でカラステングに歩み寄り、横たわった腕に触れ膝を落とす。
【to be continue……】
いつも応援ありがとうございます。作者は今、心身の不調が続いていて、バイトもできず、生活と創作が厳しい状況です。ヨーカイジャー達の活躍をこれからもお楽しみ頂くためにも、クラウドファンディングを開始する予定です。詳細が決まり次第SNSでお知らせします。応援してくれたら嬉しいです。ヒロインたちのメイド衣装コスプレ等もインスタ(@satoruyoukaidaisuki)に投稿しているので、ぜひ覗いてみて下さい。
本編を読んだ後は「ヨーカイジャー悪魔データベース」で、登場した悪魔の情報をチェックしよう!
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この作品に使われているイラストはxAIのGrokによって生成されました