episode:1 まさに妖怪変化!
この作品は天道暁によるオリジナルのスーパー戦隊作品です。現在放送されているスーパー戦隊シリーズを制作・放送している各団体とは一切関係ありません。
オープニングテーマ「your kind!」
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昔話じゃありません。
異世界話でもありません。
現代の、日本のどこかの秘密の場所に、妖怪達の里がありました。
え? そんなもの見たことないって?
あなたは自分が見たことのあるものが、この世の全てだと思っているのですか?
学校の机の奥の方から、いつ入れたのかも記憶に無い硬くなったパンが出てきたり、ちゃんと周りを確認しながら歩いていたつもりなのに足の小指をぶつけて痛い思いをしたり、そんな経験、あなたにもあるでしょう?
え?
無い?
本当に?
1回も?
いいでしょう、あなたのような人にこそ、見ていただくべきでしょう。
あなたがまだ、知らない世界のお話を。
なお、この先は皆様に、時には簡潔に分かりやすく、時には迫力ある描写を見せするために、丁寧語ではなくタメ口でお届けいたします旨を御容赦ください。
わかったかテメェら着いてこいやゴルアアアアアア!!!!!!
失礼、調子に乗りました。
それでは皆様、どうぞ最後までごゆっくり、しかし時にはテンション高く、不思議な不思議な物語をお楽しみくださいやがれゴルアアアアアア!!!!!!!!!!
日本のどこかの秘密の場所にある、妖怪達の里。
その日、長老妖怪メガガッパーを中心とした妖怪達により、人間と妖怪を繋ぐ使命を担う一族の末裔・河村智和を混じえての、極めて重要な会議が開かれていた。
「智和、今日来てもらったのは他でもない」
威厳溢れるその声の主、巨大な緑の体にダイナマイトでも傷付かない頑強な甲羅。
頭には伝承に聞く弱点とは何のことやら、これまたダイナマイトでも傷付かない皿状の器官を持つ、亀の甲より河童の甲、妖怪達の里の長・長老妖怪メガガッパーその人、否、その妖怪である。
「今、君達人類に、大変な危機が迫っておる。君達を脅かす恐るべき悪魔の集団、悪魔帝国デモンダイムが動き出したのじゃ」
「デモンダイム……」
青年・河村智和は眉をひそめる。
「妖怪諜報部の報告によれば、奴らの目的は人間達の負の感情から生まれるエネルギー・デビルギーを集め、奴らのボス・悪魔帝王サタンを復活させること」
「まさか、そのために人間を……」
「ああ、そこで涙に暮れておる潜入妖怪バケゾウリが、必死の思いで持ちかえってくれた情報によれば、奴らは人間を苦しめ、無理矢理に負の感情を起こさせ、デビルギーに変換して集めておる」
「そうか……。バケゾウリ、ありがとう」
智和はバケゾウリに暖かな微笑みを向ける。
「オラだけの手柄じゃねえだ!!」
バケゾウリは立ち上がる。
「オラの先輩……情報妖怪カサバケ先輩が……手に入れた情報をオラに託して、人間を襲うあいつらの群れに、飛び込んでいっただ……」
「そうか……。ありがとう、バケゾウリ!」
智和は深々と頭を下げ、そして天に向かって声を荒げる。
「ありがとおおおおおおおお!!!!!! カサバケええええええ!!!!!!」
その声は里中に響き渡った、かどうかはわからない。
だがその声は確かに、その場にいた全ての妖怪達の心に、強く、優しく、響き渡ったのだった。
「智和、君達人類は、長くてたったの100年程度しか生きられぬ上に、同族同士で殺し合い、自分達の住む環境を破壊する絶滅危惧種。故に我々妖怪は、古の時代より密かに君達人類の保護活動を行ってきた。じゃがその歴史の中でも、まさに最大の危機が今訪れた。よって我らは、我々妖怪の力を5人の勇気ある人間達に託し、デモンダイムから人類を保護する最強のチームを結成することとした。その名も……」
メガガッパーは、バケゾウリの頭を優しく撫でる、キメ細やかでいてどこか金属的にも見える、美しき黄色い身体に9本の尾を持つ妖怪に目配せする。
その美しき黄色の妖怪は、宙に向かって己の妖力をオーロラのごとく煌めかせた。
やがてその妖力は、勇ましさを体現する直線と、明るさと柔軟性を体現する曲線を組み合わせた、見事な文字列を浮かびあがらせた。
それこそ、人類と妖怪の未来を担う最強のチームを表す名前……
「夢幻戦隊、ヨーカイジャー!!!!」
使命感に燃える智和は、胸に沸き上がり今にも溢れ出さんとする思いをメガガッパーにぶつける。
「長老、あの『、』と『!!!!』も、チーム名の一部ですか?」
「ゑ? ゑーっと、キュービルン?」
「コン……?」
ちょっと間違えちゃった黄色い子・幻惑妖怪キュービルンは、文字列の「、」と「!!!!」を取り除いた。
「さ……さあ、今こそ結成の時じゃ!」
「夢幻戦隊ヨーカイジャー」
episode:1 「まさに妖怪変化!?」
所変わって、どこにでもある普通の路上。
20歳の青年・烏丸拓実は、何やら自分の顔写真が付いた紙を手に、軽い足取りを踊らせていた。
「いやあ、素晴らしい会社だった。俺が持って行った履歴書を返してくれるなんて。紙の部分にはもう、あの会社への志望動機とかが書いてあるから使えないけど、証明写真は剥がせばまた新しい履歴書に貼れるもんな。いやー、エコに関心のある素晴らしい会社だった。是非ともあそこで働きたかったぜコンチクショー!!」
拓実は履歴書を地面に叩き付けようとしたが、そこは薄っぺらい紙製品、空気抵抗と戯れながら何とも締まらないリズムで地面に不時着した。
「君、バイト探してるのか?」
街路樹の上から話しかけてきた、緑のジャケットを羽織った優しい笑顔の男。
皆様既にご存知の、河村智和。
「俺は怪しい者だよ」
「怪しい人が自ら怪しい者だよと名乗った! 逆に怪しさを微塵も感じさせない!!」
怪しい人こと智和は、街路樹から飛び降り太ももを摩りながら拓実に近付いた。
「なんで無理したんですか? というかあなたは誰ですか?」
「俺は河村智和」
「…………」
「…………」
「……いや名前じゃなくて」
「好きな食べ物はキュウリ!」
「聞いてません」
「スリーサイズは……」
「俺が男のスリーサイズなんか聞いて何の得があるんですかあなたは何をしている人なのかとかなぜ俺に声を掛けたのかとかそういうことを教えていただきたいんですよお」
「よし、合格だ!」
「は?」
智和は背後の空を一瞬振り向き、また話し始めた。
「こんなワケのわからない状況から逃げずにここまで食い付いてきた。まずは第一段階合格だ」
「そのワケのわからない状況を自ら作り出してる人に褒められてるみたいですごく嬉しいですけどあなた今どこ見たんですか? 何かいるんですか?」
「君、うちのグループ企業で働かないか?」
「内野グループ企業……?」
「多分何か勘違いしてるな?」
二人は30分ほど歩き、建設途中で親会社が倒産し放置されている人気の無い建設現場へとやってきた。
「ここが内野さんの職場なんですか?」
「やっぱり勘違いしてた。さっき河村と名乗っただろ。……えっとお、俺んとこのグループ企業で働かないか? って言ったの!」
「あー、そうだったんですね内山さん!」
「なんか別の人出てきたけど話を進めるぞ。……おーい、もう出てきていいぞー!」
智和は背後の空に向かって声を掛けた。
すると、それまで普通の人間には見えない状態になっていた、真っ赤なボディに鳥頭、シャープな目元にクールな嘴、空に重なる見上げるばかりの人型に、大胆不敵な翼の生えた、生物学の常識を片足跳びで飛び越えそうなそいつが腕組みしながら姿を現した。
「よぉ! 俺は武闘妖怪カラステング!」
「おお! 俺は烏丸拓実!」
「拓実! 調子はどうだい?」
「あー、バイトの面接落ちちゃってさー」
「さっき荒れてたよなー」
「そうなんだよってかあれ見てたんだ?」
「でかい独り言言ってたなー」
「そりゃでかい独り言も言いたくなるよ」
「待て待てお前ら普通に雑談すんな! 君、急にこんなデカいの出てきて恐くないのか?」
「だって、赤くてデカくてかっこいい奴はだいたいイイ奴だからな!」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。やっぱり俺の目に狂いは無かったみてえだな!」
智和は思った。
妖怪を見ても同じないどころか雑談までできてしまうこの度胸、確かにただ者ではないのかもしれない。
「それで俺は、こいつの世話係でもやればいいんですか?」
「いや、こいつはバイトとは直接関係なくて、こいつと一緒に、バイトよりもっとやってほしいことがあるんだ」
その時、智和の腕に付いているブレスレットが光りながら音を出し始めた。
「敵が現れたんですか!?」
「なんでわかった!?」
「いや、冗談だったんですけど……」
「冗談のつもりで言ったことが本当になることが、誰でも一生のうちに最低2回はあるという説がある」
「誰の説ですか?」
「俺の説だ」
智和がブレスレットに付いているボタンを押すと光と音が止まり、街を監視している妖怪からの通報の声が聞こえる。
≪○市○町○丁目にデモンダイムが現れました! 至急対応をお願いします!≫
「了解」
智和がボタンを押し通信を切る。
「マル市マル町マル丁目!?」
「んなこと言ってねえだろどんな耳してんだ。丁度いい、現場を見てもらおう。これを着けておいてくれ、『ムゲンブレス』だ」
智和は自分が着けているのと同じブレスレットを拓実に渡した。
拓実はムゲンブレスを腕に付けて色々な角度から眺めてみる。
「お兄さんのと同じ。男同士でペアルックなんて薄い本が厚くなりますね」
「アホなこと言ってないでこれも持っておいてくれ」
智和はカラステングの姿が描かれたカードを拓実に渡した。
「おおおお!! おーい、お前のカードだぞ!!」
「かっこいいだろ?」
「すげえかっこいい! これもしかしてレアカードか何かですか?」
「ああ、どこにも売ってない超レアカードだ。さあ、カラステングの手に乗って移動するぞ」
「赤くてデカくてかっこいい奴の手に!? 最高じゃねえか!!」
カラステングが手の平を差し出すと、拓実は智和より先に早足で飛び乗った。
「なるほど、確かにこいつなら……」
呟いて智和も乗る。
「それじゃカラステング、飛んでくれ」
「OK! カラステング航空、ステルスモードでテイクオフ!」
カラステングはまた普通の人間には見えない状態になる。
この場合、手の平に乗っている拓実と智和も一緒に普通の人間には見えなくなる。
そして地面を蹴り翼を羽ばたかせ、通報があった現場へ向けて飛び立った。
現場は建設現場から徒歩で行けば1時間、カラステング航空なら2分で着ける場所にあった。
カラステングは着陸し、拓実と智和をそっと地面に降ろした。
ステルスモードのカラステングから離れれば、拓実と智和は普通の人間からも見えるようになる。
拓実は道の端へ走り、ちょうど流れていたドブ川に向けて嘔吐した。
「カラステング、だから宙返りはやめとけって言ったんだよ。俺はもう慣れたから平気だけどさ……」
「わりぃわりぃ、あれやんねーと調子出なくってさー」
「まあ、あいつが正式なパートナーになればもっと乗り心地いい所で……って、大丈夫か?」
「はい、昼に食ったチーズ牛丼ほぼ全部出したらスッキリしました」
「そうか。実は俺今夜、牛丼にするか野菜炒めに牛肉ブッ込むかで迷ってたんだけど……」
「牛丼でキマリですね!!」
「お前がそう言うならそうなんだろう、お前ん中ではな。さて、現場はこの辺のはずだが」
「うわああああああああああああ!!!!!!」
拓実が悲鳴の聞こえた方へ走り出した。
「あー、ちょっ……」
智和はカラステングに笑みを向ける。
「やっぱりお前らお似合いだな。ステルスモードのまま待機しててくれ!」
「了解、ワクワクが止まんねー!」
智和も拓実が向かった方へ走り出した。
人気の無い路地裏、何やら異様な存在が郵便配達員の首を片手で絞めながら持ち上げている。
呻き声を上げる郵便配達員の頭からどす黒い煙のような物が立ち上ぼり、異様な存在が左腕にぶら下げているエコバッグのような物に吸収されていく。
「あんた、えらいぎょーさんデビルギー出してくれはんねんなー。おばちゃん助かるわー。このまま首の骨つぶれるくらいやったったら、もっとぎょーさん出してくれはんねやろなー」
中年女性のような声のこの異様な存在は、ほくそ笑む口の端から鋭い牙を覗かせる。
そこへ駆け付けた拓実と、少し遅れて駆け付けた智和。
「何だあいつ!?」
駆け付けた二人の目に映るその異様な存在──燃えるような目をギラつかせる豹のような顔、豹柄の体に大粒の球体が連なったようなネックレス、両手には猛獣を思わせる鋭い爪、足には猛獣を思わせる鋭い爪がはみ出している豹柄のサンダル、右手で郵便配達員の首を持って持ち上げ、左腕にエコバッグのような物をぶら下げ、そして頭はパンチパーマ。
「悪魔帝国デモンダイム……」
「悪魔!?」
「あら、えらいイケメンはんが二人も来てくれはったわー!」
「悪魔って関西弁なんですか?」
「悪魔達はみんなそれぞれの感覚を持って考え、地球の環境に適応するための姿と言動を取る。それがあいつの場合は、あれってわけだ」
悪魔は気絶した郵便配達員を放り出し、両手の平に力を込め、左右の手それぞれがいっぱいになる数の、色とりどりの小さな丸い粒を作り出した。
「あんたら飴ちゃん舐めるかー?」
悪魔はその粒を全て拓実と智和に向けて放り投げた。
本能的に体が動き直撃は免れた二人だったが、地面に落ちた粒が次々に小規模な爆発を起こし、細かく刻むように襲ってくる爆風が二人を後退りさせる。
「飴ちゃんは爆発なんかしない!!」
拓実が思わず叫んだ。
「アッハッハッハッハ! あんたツッコミ上手いなー! おばちゃんと一緒にM-1出ぇへんか?」
「悪魔がM-1とか言ってるんですけどお!?」
「奴なりに地球の環境に適応しようとした結果だ」
「あらッ! あら~おばちゃんもうトシやろか~ せっかく来てくれはったイケメンはん達に名前言うの忘れとったわ~!」
「俺、本物の大阪のおばちゃんに会ったこと無いんですけど、多分この悪魔ものすごく解像度高いみたいな気がします」
「おばちゃん、フラウロス言うねん、フラウロス。この、太陽の塔のお日さんみたいにメラメラした目ーがチャームポイントやで!」
「チャームポイント」の「ポ」の部分であのおばちゃん特有の手首のスナップを利かせた手の動きをした。
「そうかフラウロス……だったら俺の名前も教えてやろう」
智和はメガガッパーの姿が描かれたカードを取り出し、ムゲンブレスのスロットに差し込んだ。
「妖怪変化!」
そう叫びムゲンブレスを天に掲げた智和は、一瞬にして色鮮やかな緑の戦闘服を身に纏い、左腰のホルダーにはカラフルなデザインの剣を携え、頭にはカメの頑丈さとカッパの力強さを彷彿とさせる緑のフルフェイスマスクを装備した。
「誰が言ったか川流れ 流れるどころか掻き分けて 登って飛び出せナイアガラ! 水の戦士、ヨーカイグリーン!!」
「おおおおおおおおおおおお! かっこいいいいいいいいいい!!!!」
「イケメンはんが男前はんになりはったわ~!!」
拓実とフラウロスは並んで拍手する。
「仲良しか!!」
拓実は我に帰ってヨーカイグリーンの隣に戻る。
「それ、もしかして俺も……」
「あんた、えらい強なりはったん、おばちゃん見ただけでわかったで。あんたみたいな人いじめたったら、いっちばんぎょーさんデビルギー出してくれはるねん。そしたらおばちゃんそろそろ本気出さしてもらいますさかい、覚悟しいや?」
「へッ、今までも本気だったろ? 着いて来い!」
ヨーカイグリーンは走り出した。
「あんた、いけずせんといてぇな~!」
フラウロスは塀や屋根を飛び移りながらヨーカイグリーンを追い掛ける。
拓実は郵便配達員に息があることを確かめ、みるみる小さくなっていくヨーカイグリーンとフラウロスの背中を追い掛ける。
先程の路地裏より更に人気の無い場所にある空き地。
ヨーカイグリーンの計算通り、フラウロスをここまで誘導することができた。
「ムゲンソード!」
ヨーカイグリーンは左腰のホルダーから剣を抜き、フラウロスに斬りかかる。
フラウロスは両手の猛獣の如き爪で応戦。
剣と爪がぶつかり合い、火花を散らす。
「そのバッグ、下したほうが戦いやすいんじゃないか?」
「こん中には大事なデビルギーが入ってんねん。あんたおばちゃんらのこと詳しそうやし、わかっとって言うてはんねやろ? ほんまいけずやわ~」
フラウロスはバク転3回で間合いを取り、エコバッグのような物の側面にくっついていたたこ焼きのパックのような物を取り外し、
「いてもうたり(やっちまえ)、ジャミリアー!!」
と叫びながら放り投げた。
たこ焼きのパックのような物は空中で弾け、中から人間サイズの使い魔、ジャミリアーが5体現れた。
バケゾウリの話にあった「あいつらの群れ」というのも、このように悪魔によって召喚されたジャミリアーであろう。
「ジャミジャミ!」
ジャミリアー達は棍棒を振り、リズミカルに足を踏み鳴らす。
ヨーカイグリーンはムゲンソードを握り直し、迫り来るジャミリアー達の体を一太刀、また一太刀と斬りつけていく。
そして間合いを取ってムゲンソードを左腰のホルダーに仕舞い、右腰に付いているカードケースからカードを1枚取り出し、変身したときのカードが入っているのとは別のスロットに差し込んだ。
するとヨーカイグリーンの手に、緑色の大きな両手持ちハンマーが握られた。
「ガチコンハンマー!」
ヨーカイグリーンはメガガッパーに与えられた怪力でガチコンハンマーを振るい、ジャミリアーの顔面に1発、別のジャミリアーのボディに1発、また別のジャミリアーの背中と胸に連続で1発ずつ。
こうして瞬く間に3体のジャミリアーの背中を地面に着かせ、腰の引けた残り2体にねじり寄り始めたその時、
「ちょっと待ちい!」
フラウロスの声。
見ると、拓実がフラウロスの腕に首を絞められ捕らわれていた。
「ごめん……捕まった……」
「この兄ちゃんがどないなってもええのんか? 羊羹グリーンティー!」
「ヨーカイグリーンだ旨そうなセットにすな!! フラウロス、そいつを……」
離せと言いかけたが、拓実の手がカラステングのカードが入っているポケットに伸びていることに気付く。
「そうだ、やるんだ、俺がやったように!!」
拓実は苦痛に震える手をポケットに突っ込み、カードを取り出しムゲンブレスに入れた。
「よ……妖怪変化!」
すると拓実は一瞬にして色鮮やかな赤い戦闘服を身に纏い、右腰にはカードケース、左腰のホルダーにはムゲンソード、そして頭にはカラスの適応力と烏天狗の格闘能力を彷彿とさせる赤いフルフェイスマスクを装備した。
「あ……あんたもかい!?」
拓実は体の奥底から漲ってきた力でフラウロスの腕を振りほどき、自慢のチャームポイントがメラつく顔面に一発右ストレートをお見舞いした。
「いやああああああ!!」
フラウロスは足元を崩し数メートル地面を転がる。
「何なんあんた!?」
(何なん……? そうだ。そうだ俺は……)
「誰が呼んだか旅烏 鼻高々にてんつくてん 天に代わって只今参上! 空の勇者、ヨーカイレッド!」
「すげえなそれ今考えたのか?」
「いえ、郵便屋さんの息があるか確かめて、ここに走ってくる間に考えてました」
「郵便屋さんの……そうか、そんなことまでやってくれてたのか……。よし、お前は今からカラステングの正式なパートナーだ。それともう俺に敬語使わなくていいし、下の名前で呼んでくれていい」
「わかったぜ松五郎!!」
「だから別の人連れて来んなって」
「どっこいしょ」と立ち上がるフラウロスを横目に、グリーンはレッドに何か耳打ちする。
「え、そういうの俺が言っちゃっていいの?」
「お前の声で言ってくれたほうが気合い入りそうだからな」
「そっか、それじゃあ……」
フラウロスを中心に陣形を組み直す敵3体。
レッドとグリーンも、目の前の敵陣を見据え背筋を伸ばす。
「夢も現も守るが仏 夢幻戦隊!」
「ヨーカイジャー!!!!」
戦闘再開。
レッドはカードケースの中から絵柄に惹かれたカードを選び、ムゲンブレスのスロットに入れた。
するとレッドの右拳に、カラステングの羽根を思わせる装飾にも武装にも見える突起が左右に付いた籠手が装備された。
カードに書いてあった名前によるとそれは……
「フェザーガントレット!」
レッドはフラウロスに連続パンチを浴びせ、アッパーカットで空中へ吹っ飛ばした。
「おばちゃんいじめんといてぇなぁ~~~!」
2体のジャミリアーはグリーンに襲い掛からんと棍棒を振り上げ走りだす。
グリーンはガチコンハンマーで地面を殴る。と、衝撃波が走り2体のジャミリアーを吹き飛ばす。
さらにグリーンはムゲンブレスからガチコンハンマーの「装備カード」を抜き取り、新たに荒波を背に吠えるメガガッパーの姿が描かれた「必殺カード」をスロットに入れた。
尚、今後ムゲンブレスのカードを入れ替える場面では、戦闘描写のテンポを維持するためカードを抜き取る描写を省略させて頂くことを御容赦願う。
グリーンの周りを渦状の水流が走る。
中心に立つグリーンの動きに合わせ、水流が2体のジャミリアーを飲み込み空中へ巻き上げる。
「必殺妖技・激流上手投げ!」
妖力を含んだ激流に巻き上げられたジャミリアー達は空中で1回転、そのまま地面に叩き付けられ動かなくなった。
フラウロスが落下してくるまでの間にレッドは、赤く光る拳を繰り出すカラステングの姿が描かれた「必殺カード」をムゲンブレスのスロットに入れた。
それにより発動する技の名は……
「必殺妖技・天狗百烈拳!」
赤く光る両拳で繰り出す連続パンチ。
特にフェザーガントレットが装備された右拳はフラウロスの体を深く抉る。
反撃の隙もボケる余裕も与えぬまま殴り続け、カラステングの特性により研ぎ澄まされた感覚で見付けた一瞬のタイミングで深く踏み込み、ついに最後の一撃を繰り出した。
「うおおおりゃあああああ!!!!」
フラウロスは大きく吹っ飛び地面に叩き付けられ、ふらつく足で立ち上がるがすぐに力尽き後ろ向きに倒れる。
「ホンマにあんたら、いけずやわぁ~!!」
爆散。
フラウロスの残骸は地面に散らばったが、あの関西弁はもう聞こえない。
「うよっしゃああああああああ!!!!!!」
「初めての戦いでここまでやってくれるとはな。ところで、あれを見てくれ」
グリーンが指差す先。
フラウロスの残骸から黒い煙状のデビルギーが立ち上ぼり、灰色、白とみるみるうちに色が薄くなり、ついには無色透明になり何も見えなくなった。
「悪魔達はあのデビルギーという物を集めることを目的としているが、悪魔が持っている入れ物が壊れれば、ああしてすぐに気化して何の力も害も無い物になってしまう」
「悪魔を倒せば、被害に遭う人がいなくなるし、そのデビルギーってのを集められなくできるってわけか。で、悪魔はなんでそれ集めてるの?」
「それはこれから、じっくり説明してやるよ」
レッドとグリーンがそんな会話をしている頃、物陰に隠れた何者かが、黒と灰色に別れた手の平サイズの薬のカプセルのような物を手に、何やら呟いていた。
「デビル デビレバ デビルトキ カモンデーモン デビデビレ 最後のチャンスだ、全てを尽くせ……」
何者かは物陰からそのカプセルのような物をフラウロスの残骸に投げ込んだ。
すると残骸は一つに集まり、質量保存の法則を鼻で笑うように巨大なフラウロスの姿になってレッドとグリーンを見下ろした。
「あらイヤやわおばちゃんダイエットせな~!!」
「ななな何だこれは!?」
レッドはグリーンを見る。
「ななな何だこれは!?」
グリーンも横を見るが誰もいない。
「今そういうのいいから何が起きてるのか教えてくれよ!!」
「じゃなくて、俺もわからん。こんなことは初めてだ!」
「なんやヤイヤイ言うとったらおばちゃん踏み潰したるでぇ~!」
巨大な足がレッドとグリーンを踏み潰さんと振り上げられたその時、突然凄まじい衝撃が駆け抜け巨大フラウロスの体を吹っ飛ばした。
危機を免れたレッドとグリーン。
彼らには自分達を救った者の正体がすぐにわかった。
「カラステング! ありがとう! でもステルスモード解除して大丈夫か?」
「解除してないけど、お前にも見えるようになったんだぜ! でもこんなデカい奴出て来ちまったら、ステルスモードも何も意味無いんじゃね?」
「確かに、遠くのほうから悲鳴が聞こえる。でかい悪魔が人の目に入っちまったか」
グリーンは事後処理の大変さを予感し溜め息をつく。
「じゃあもうステルスモード解除していいよな? これちょっとだけだけど妖力使うから、全力で戦うなら解除しときたい」
「ああ、解除してもい……そうか!」
グリーンは勢いよくレッドに顔を向ける。
「何だ?」
「いいか、よく聞いてくれ。パートナーができた妖怪は、体内にコクピットのような器官ができる」
「じゃあ、カラステングにも?」
「そのはずだ」
「できてるぜ!」
カラステングは自分の頭を指差す。
「パートナーはそこに乗り込むことができるんだが、俺はそれを単なる移動手段のように考えていた。だがそれは本当は、こういう事態が起きた時のために、妖怪達に備わっている能力だったんだ!」
「そうか! だったら……」
吹っ飛ばされていた巨大フラウロスが立ち上がり、両手の爪を光らせながらカラステングに迫る。
「カラステング、乗せてくれ!!」
「よっしゃあ!! 確か長老の話によると……」
カラステングはステルスモードを解除すると同時に巨大フラウロスの爪を大ジャンプでかわし、地上のレッドとグリーンに向けて目からビームを発射する。
「こうするんだったよな!!」
そのビームを浴びたレッドとグリーンはカラステングの頭の中にあるコクピット状の器官の中に転送された。
「おおすげえ! こうなってるのか!」
レッドはコクピット内の景色と前方のモニター状の器官に映る巨大フラウロスに興奮する。
「1人乗りで智和もギリギリで乗れるくらいの広さを想像してたけど、けっこう広いな。これ5~6人くらい乗れるんじゃね?」
「お前やっとまともに名前呼んだな。でも、確かに広いな……」
メガガッパーのそれの5倍以上の広さを持つコクピットに、グリーンは“何か”を予感した。
レッドはコクピット前方中央にある座席状の器官に、グリーンはその自分達から見て右隣にできていた座席状の器官に座る。
「この操縦桿的なやつを握ればいいのか?」
「ああ、そうすれば後は、どうすればいいかわかるはずだ」
「よっしゃいくぜ!!!!」
レッドは操縦桿を握る。
いつもより力が湧いてくる気がするカラステングは巨大フラウロスの目の前に着地、パンチを繰り出すがギリギリかわされ間合いを取られた。
「飴ちゃん舐めや~!」
例の「飴ちゃん」ばら蒔き巨大バージョン。
「うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃああああああ!!!!」
レッドが気合いを入れながら操縦桿を操作。
カラステングは細かいジャブで「飴ちゃん」を全て弾き飛ばし、それらは全て巨大フラウロスに直撃してから爆発した。
「あだだだだだだだ!!!! …………飴ちゃん嫌いなん? パイン味のやつのほうがええのん?」
「だから飴ちゃんは爆発なんかしないっつってんだろ!!」
レッドが勢いよく操縦桿を引くと、カラステングは高速で踏み込み、巨大化する前にレッドが顔面右ストレートを食らわしたのと全く同じ箇所に顔面右ストレートを食らわした。
「そこアカンて~~~~!!!!」
フラウロスは大きく吹っ飛び地面に倒れる。
その時、コクピット内全体が光り輝き、その光はレッドの目の前に集まり、1枚のカードになった。
「これは……」
「新しいカード……! 使え!!」
「だよな!!」
レッドはムゲンブレスにそのカードを入れる。
するとカラステングの体は赤く光り輝き、立ち上がり始めた巨大フラウロスに向かって拳を突き出し体全体でドリル状に回転しながら超高速で突進する。
その動きを表すカラステングの姿が描かれたカードによって発動した技の名は……
「必殺妖技・飛翔回転拳!!!!!!!!!!」
パンチ、というよりカラステングの体全体が巨大フラウロスを貫いた。
「ちょっとでええから、勉強してぇな~~~~~~!!!!!!」
巨大フラウロス爆散。
カラステングは地面に降り立ち、コクピットのレッドと声を揃えて、
「よっしゃよっしゃあああああ!!!!」
と喜ぶ。
グリーンはムゲンブレスの通信機能で事後処理の指示を出す。
妖怪技術班、妖怪医療班、そして必要の範囲で人間達の記憶を操作する妖怪情報統括班等が、この後迅速に事後処理に動くこととなる。
「やれやれ、今回の事後処理は大変そうだ。妖怪達に相当の負担を掛けちまうことになるが、お前とカラステングの活躍が無かったら、それがもっと大変なことになっちまってた。よくやってくれたよ」
「何言ってんだ。それができたのも、智和が色々教えてくれたからだろ」
「だったら嬉しいんだがな。……さて、この後のことは妖怪の里でゆっくり話すことに……」
「よおおおおおおおおおかいのさとおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!?????????」
「だーびっくりしたー!」
「そこにはカラステングみたいなのがいっぱいいるの!? 智和のパートナーもいるの!?」
「ああ。みんなお前に会ったらどんな反応するかな」
「早く行こう! 今すぐ行こう!」
「わかったわかった。カラステング、まだ飛べるか?」
「いけるぜ!」
「じゃあ頼む」
「OK! カラステング航空、ステルスモードでテイクオフ!」
二人を乗せたカラステングは妖怪の里へ向けて飛び立った。
宙返りをしても、レッドが酔うことはなかった。
「今日飯食ってくか?」
「牛丼?」
「野菜炒め」
一方その頃、関東某所。
数十メートルの急な坂道を不敵な笑みを浮かべて見つめる、小柄で黒髪ツインテールの女子高生。
「はいぱーみらくるえくせれんとだーーーーっしゅ!!」
女子高生は坂道を駆け上がる。
煌めく汗、揺れるスカート、たなびくツインテール。
彼女は風と一つになり、坂道の半分くらいの所で疲れて普通に歩きだした。
【to be continue…】
本編を読んだ後は「ヨーカイジャー悪魔データベース」で、登場した悪魔の情報をチェックしよう!
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