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8/9

 彼女は、ココで曇る事無く生き生きとしている。

 お仕着せを身に纏い、侍女として、時には姉としてココで過ごしている。


 それなりだ、と言っていた料理は、味付けも香草も最低限だが十二分に美味い。

 そして洗濯も十分、それは掃除も。


 彼女は侍女としては既に十分に能力が有る。

 そして父親が危惧していた通り、伯爵家の者が訪れた際は直ぐにも好感を得ていた。


 やはり手放したくない。

 だからこそ、嫌味を言われようが何だろうが、ココにズルズルと滞在している。


「ご主人様、ご相談が有るのですが」


 珍しい。

 いや、コレは初めての事だ。


『構わない、何か有ったんだろうか』

「いえ、実は分からない事が有るのです」


『そうか、どんな問題だろうか』


「その、物語の後に、必ず。めでたしめでたし、と締めくくりの言葉が有るかと思うのですが」

『あぁ、そうだね』


「コレ、本当に、後に幸福になったとは思えない物語が多くてですね。それで、その、もしかして、めでたしめでたしとは。もしかすれば、私の知る言葉の意味とは」

『少し、確認がしたいんだが、例えばどの物語だろうか』


「灰かぶり姫です、貴族の礼儀作法を全く知らない筈ですのに。あ、いえ、表向きの行儀見習い等は出来てらっしゃるとは思うのですけど。その、内務、内政等を一切知らずに王妃になられたそうで」

『配下や家臣が、それだけ優秀、だけでは納得は難しいのだろうか』


「ですけど王族ですよ?」

『あぁ、相当に小さい国の事なんだよ』


「あ、成程。すみません、大変失礼致しました」

『いや、目の付け所は実に素晴らしいよ。君はこの屋敷の中だけで育ったんだ、国の大きさ、その違いに直ぐに目が向く事は殆ど無いだろう』


「ですけど、貴族の方は」

『私は最初から、大小様々な国が有り、その分だけ揉め事が有ると知っていた。けれどもし、君の様に育ったなら、君の様に疑問を持つ事は少し難しかったかも知れない』


「それは単に、無知だからでは?」

『いや、知識を生かす素地次第、だね』


「そこは、それはとても、難しい事では」

『あぁ、だからこその封建制度だった、真の王族になる血族が見定められる。コレからは、厳選される時代になる』


「庶民で助かりました、本当に。あ、お支え致しますね、全てをお捧げ致します」


 私が言いたい事を、先に言われてしまった。


 もう、いっそ貴族位を手放してしまおうか。

 何も、必ず私が継がなければいけない理由は無い。


 弟に譲り。

 私と彼女が支えれば良い。


『どうか私と結婚して欲しい』


「あの、もう婚約は」

『アレは無効になったが、再度婚約すれば良い』


「あ、えっと、私は庶民で」

『私は分家か何かになる、君の納得出来る位置に就く、何としてでも君を得たい』


「それは、侍女として」

『いや、君の夫として傍に居たい、爵位は弟に譲る』


「それはまた、随分と」

『弟も十分に優秀なんだ、だが君を誰かに譲りたくは無い』


 有能な者は、真に予備となる存在をしっかり育てる。

 いや、寧ろどちらもが予備。


 貴族なら、真に国を支えられる存在であるなら、誰であろうと徴用し生かすべき。


 けれど、それだけではもう私は生きられない。

 私は彼女の愛が欲しい。


 彼女に、私的に関わって欲しい。


「あ、妹から読み聞かせて貰った物語が有るんです」


『ほう』

「貴族が庶民の娘に惚れてしまう物語なんですけど」


 やはり、あの妹が肝か。




《条件は、以上ですわ》


 子供達が出した条件は、以下の通り。


 永続的にコチラ側の侍女を1人付ける事。

 定期的に様々な者に代筆させた手紙を出させる事。

 最低でも年に1度はコチラの家族に会わせる事。

 それとは別に待遇の確認の為にも、家族の誰かを年に1度は家に入れ会わせる事。

 降伏の赤紙が出されたなら、直ぐにもコチラへ引き渡す事。


「難しいのでしたら、遠慮して下さって構いませんよ」


 コレは暗黙の了解だった事を、改めて明文化したもの。


 育ってしまった子に、親が出来る事は限られてしまう。

 ましてや見初められたなら、下手に手出しは出来無い。


 だからこそ、交渉するしか無い。

 如何に子供が不幸にならずに済むかを模索し、最大限の努力をする。


 コレは当然の事。


『たった、コレだけで宜しいんですか』

《あら勿論、お姉様を口説き落とせて、且つお姉様が幸福である事が大前提ですわ》

「そうね、ふふふ」


『他に、君の要望は?』


「あの、出来れば貴族のままで」

『勿論、流石に庶民としての仕事を知らないからね』


「ですけど、爵位を落とされるのは」

《お姉様、意外と上って不便なのよ》

「そうね、敢えて下の方にいらっしゃる方も居るわ」


「そんな事が」

《そうなの、それに爵位なんてあくまで目安》

「その目安だけで、国の偉い方が仕事を振り分けていては、国が傾いてしまうわ?」

『まぁ、そうですね、大役を任される。その言葉は消えて無くなってしまいますから』


「ご主人様は、変わらずお国に貢献を」

『勿論、君に支えて貰えるなら、今以上に』

《あ、私達の前で口説く事も禁止してしまおうかしら》

「あら、それでは大事にしているかの判断が、難しくなってしまうわよ?」


《口では何とでも言えますもの、問題は行動ですわ》

「そうね、ふふふ」


 例えどんな政略結婚であれ、真っ当な親なら必ず願っているのです。


 どうか幸せに。

 どうぞ、ウチの子を大切に、と。




「あの、色々と家族が、条件をお付けしてしまい」

『いや、確かに今まではこうした事は暗黙の了解だった、けれど明文化は。いや、寧ろ必要な事なんだ』

《ですわね、コレからはコレが主流となるでしょう》

『そうですね、暗黙の了解には、時に便利で不便な側面が御座いますから』


 問題は、誰に不便か、誰に便利かだ。


 女性は安心を得てこそ子宝に恵まれる事が多い、とされている。

 子を成すには、ましてや育てるには、女性の協力が必須。


 コレからは厳選される世となる。

 女性にも選ぶ権利は当然存在するが、今までは、暗黙の了解により制限が科せられていた。


 だが、この明文化により。

 婚家での待遇は変わり、選び方の基準の1つとなる。


 どちらにも疚しさが無いなら、コレは受け入れて当然の事。


「あの、私の一体、何が」

『君の』

《あぁ、そう言えば暗黙の了解は他にも有るのですよ》

『ですね、無闇矢鱈に接触する事は、はしたない事なんですよ』


「あ、そうなのですね」


 こうした暗黙の了解は、なまじ道理が通っているから困るんだ。




《似た年の方、この際は上でも下でも構いませんが》

『男性に、こう、されたら思わずドキドキとしてしまいますよね』


 私は、以前の婚約者の方の。

 いえ、今でも婚約者の方のお屋敷に、今は雇われております。


 そして、はい、婚約もしております。


「多分、はい」

《つまりは、お体を使い籠絡する事と同じ》

『肌を見せ誘惑するも同義、毅然とした態度で逃げるか、避けねばならないんですよ』


「はい、まだまだ、私は侍女見習いですね」

《お作法は、ですけどそれ以外は、十分ですよ》

『ですね、貴族夫人は滅多にお料理をしませんし、庶民で寧ろ良いのです。アナタは侍女の才が有り、しかも可愛い』


《可愛げが満載》

『アナタは褒められて伸びる子』


《ですから沢山、褒められましょうね》

『はい、ご褒美』

「はい、ありがとうございます」


 ココではお給金とは別に、お菓子を頂けます。

 サクサクの甘じょっぱいパイです。


『私も褒めたいんだが』


 この、ムクれてらっしゃる?

 拗ねてた様なお顔をしてらっしゃる方が、婚約者でありご主人様です。


《構いませんよ》

『お触りしないなら』


《はい、ぐぬぬ》

『少しだけですよ、少しだけ』


 ご主人様は以前よりも近かったり、遠かったり。

 柔らかくなられたり、固い雰囲気になられます。


 どうやら、緊張なさっているんだそうで。


 黙ってらっしゃるかと思うと、不意に驚く程に褒めて下さったり。

 手を握られたり。


『出来るなら、君にいつか触れて欲しい』


「あの、ハグなら」

『同性か私以外は、それと家族以外は絶対にダメだ』


「あ、はい」

『そうだな、確かにそうだ。良ければ手を、置いてくれないか』


「はい」


 温かい。


『出来るなら、君が喜ぶ事は、何でもしたい』

「ありがとうございます」


『もし、ココや私に不満が出たなら、直ぐに言って欲しい』

「はい」


 何だか、初めてお会いした時のよう。


 立場はさして変わらない筈なのに。

 不思議ですね。


『君が、本当に好きなんだ』


 好意とは、つまりは性欲。

 だそうなんですが。


「あの、つまりは、抱きたいと言う事で宜しいでしょうか?」


『あぁ』


 俯いてしまわれたご主人様の真っ赤は、お恥ずかしいか、私が大好きだから。

 だそうで。


 お耳まで真っ赤でらっしゃると言う事は、それだけ大好きだ。

 と、受け取って良いのでしょうか。


 でも、あ、例の貴族と庶民の物語なんですが。

 結局は飽きられてしまい、悲恋となって終わっていたんですよね。


 私は、それは嫌です。


「私、飽きられない様に頑張りますね」

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こんにちは。キャラクターに魅力があると思うのですが… 誰の心理描写なのか、誰の台詞なのかが判り辛くて、話が進む度に読むのが面倒になっていってしまいました。とっても勿体無いと感じます。 主人公の家の…
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