2-18 植物状態(2)
「全然手がかかるんだから! 私がこうやって見てるのも、全部あなたのためなんだからね! ちゃんと言うことを聞かないと、次は何をしでかすか分からないんだから!」
「……」
僕はグッと堪え、もう反論しないことにした。
「それで、トイレに行っていいの?」
「いいわよ。ここで見てるからね!」
グラウシュミは僕の腕を掴んで離さない。
「転んだらどうする?」
「転んだら助けるの? いいから手を放して! 本当にまずいことになったら、そっちの責任だぞ! まったく、リリラアンナじゃないのに!」
「……」
彼女はようやく手を離した。
一気にトイレに駆け込んで、鍵をガチャンと閉めた。
怖すぎる……。
まだドキドキしながら、十遊秤からの手紙を開けた。
「捕虜が管理ミスで逃げた……?」
「もしかして、月系魔法の使い手に会った?」
「……くそっ。」
手紙を丸めて、一気に火をつけ、焼き尽くした。
「トイレに行くだけで、なんでこんなに時間かかるの?」
グラウシュミが、まるで犯人を追及するみたいな口調で言った。
「そんなの、こっちでどうにかできること?なんでそんな細かいとこまで管理するの?」
「じゃなきゃどうすんの?万が一転んだらどうする?ほかの何かあったらどうする?」
「いやいや、グラウシュミ。これは生理現象だ。」
僕はこめかみを押さえ、冷静に話そうとした。
「まさか、トイレの時間までルールを作りたいのか?」
「作ったらどう?」と、彼女は当たり前のように言った。
「ダラダラしてるから問題起きるなんで当然だよ!実際もう発生してるし、今はそれの処理で大変なの!」
「は?本気で言ってんのか?いっそドアの前でストップウォッチでも持ってろよ。」
「いいじゃない、それ!」彼女は驚くほど真剣に頷いた。
「今から脈を取って時間を計る!」
完全に負けた。
「……好きにしてくれ。」
「好きにしてって何?私のこと、うっとうしいって思ってる?」
グラウシュミが数歩詰め寄り、ムッとした顔で僕を睨みつけた。
「……干渉しすぎ。」
「干渉しすぎだって?こっちが大人しくしてれば、あんただってそこまで手をかけずに済んだでしょ!」
彼女は怒りながらも、どこか傷ついたような声で言った。
「私のこと、邪魔だと思ってるんでしょ?」
「……」
あぁ。
僕は天井を見上げた。
「頼むから、もう少し落ち着いて。ぼくはただ普通に生活したいだけだ。毎日監視しないでくれ。」
「普通の生活って、私の言うことを無視することなの?こんなに一生懸命やってるのに……全部あんたのためなんだから!」
「もういい!そんなの全然いらない!」
前世の記憶がまた少し揺れ動いた。
この口調、この言い回し……まさに――
「……明日は一寸だって目が離せないよ。ちょっとでも油断したら、すぐに何かやらかすんだから。」
この顔で、この言い方……それにしても……
……
「あなたがちゃんと聞き分けるようになるまで、ずっと見張っているから!」
「もう降参だ。」僕はソファにどさっと座り込み、「わかった。好きにして。」
「好きでやってるんじゃない!これはあんたのためなんだから!」とグラウシュミはさらに説教を続けた。「そのうち私の苦労が分かる日が来るわよ!」
ランシブはずっと小さな不満を口にしている。僕は頭を振り、すぐシステムに呼びかけた。
「システム」
「はい」
「記憶のロックをもう少し強化して。」
またその同じ生活に戻るのか……。
「ヴィーナ?」
夜中の12時に、グラウシュミが寝静まったタイミングで、僕はこっそりヴィーナを呼び出した。
「この手紙の内容を確認してから、十遊秤に届けて。その道、分かるよな?それから向こうでしばらく彼のサポートをして。手紙を届ける前に内容が漏れるなんてことは、絶対にあってはならない。」
「はい!その仕事は何度もやってきましたから、今回もきっと完璧にやれると思います。でも、主人はどうでしょうか。主人はもう、随分長い間そちらに行っていませんよね。」
「グラウシュミにほぼ監禁された。まあ、彼女が寝ている間なら外に出ることもできるけど、他にもやらなきゃいけない、緊急で重要なことがあるんだ。」
「主人は、捕らえた獣人の奴隷たちを解放することを指していますか?」
「ああ、それもその一つだ。効率よくやれば、一晩で三十人くらいは助け出せる。
でも、それだけじゃ全然足りない。感染症みたいなもので、感染経路だけじゃなく、感染源や感受性のある人たちにも対処しなきゃいけない。ヴィーナもその中の重要な一環だよ。」
その結果、クラス十二人のうち四人が長期病欠を取ることになった。
ラルシェニは先生に尋ねたことがあったが、答えは得られなかった。
「リツイベット、なんか変だと思わない?いつもと違う感じしない?」
「変?なんで?別に普通じゃん。」
「お願いだから気づいてよ!クラスの人、けっこうな人数が病欠で休んでるんだよ!全体の三分の一くらい!みんな急に病気になったみたいで、どう考えてもおかしいでしょ。」
「あっそ。それがどうしたの?あの人たちが休もうが、私には関係ないし、心配する必要もない。」
「でもさ、セリホくんも来てないのはちょっと気にならない?ねえ、覚えてるでしょ。前に『彼がもう少し裕福だったら、ちょっと気になるかも』って言ってたじゃない。今、彼が来てないこと、不思議だと思わないの?全然気にしないの?」
「まあ、確かにそんなこと言ったけどさ。それが彼の居場所を気にする理由にはならない。」
「じゃあ、最近どこかで彼を見たことない?学校の他の場所とか、校外とかさ。」
「ない。でもそう言われると、ちょっと気になってきた。彼って、理由もなく学校を休むタイプじゃないよね。」
「うんうん。しかもね、先生に聞きに行ったんだよ。そしたら『特に問題ない』って!こんな説明、納得できる?」
「先生だって状況を分かってないだけかもよ。本当に何も知らないのかもしれない。」
「でもさ、真相を探るべきじゃない?中学に入ったらもっといろんなことに直面するんだし、今クラスメイトの困りごとに無関心だったら、これからどうするのさ。」
「勝手に調べろという意味?私はやらない。どうせ空振りだし。」
「それは……!もしかしたら大きな秘密が隠されているかもしれない!」
「はいはい、信じる人なんかいるのかね。好きにしなよ、私は手伝わない。」
「ほんと、あんたのその性格、どうにかした方がいい。まあ、あんたの家柄的に、こういうこと言うのはおこがましいけど……」
「ふん、分かってるなら余計な口出ししないで。今日はもう話しかけないでよ。」
「……将来どうなるかは分からないけど。」
ラルシェニは最後の言葉を口に出さなかった。