2-17 潮行汐暮(1)
ヅラを投げ捨て、腰にぶら下げていた唐大刀を引き抜き、岩礁の後ろにいる謎の黒いフードの人物の頭めがけて斬りつけた。
黒いフードの人物は、まるで予知していたかのように素早く身をかわし、同時に斧を振り回して喉を狙ってきた。
唐大刀と斧の刃先がぶつかり、「カチン」という音が響いたが、黒いフードの攻撃は止まらず、次々と素早く斧を繰り出してくる。
「僕を甘く見ているようだな」
身をひねりながら攻撃をかわし、タイミングを見計らって反撃に転じる。唐大刀の刃先が黒いフードの喉を何度も狙うが、相手はそのたびに正確に防いできた。
「やっと隙が見えたか!」
チャンスが訪れた瞬間、黒いフードが身をかわしたその隙を突き、一気に足を振り上げて蹴りを放った。
だが、相手はすでにその動きを読んでおり、右足をつかんで勢いよく逆手で一撃を加えてきた。素早く後方に跳んでなんとかそれをかわしたものの、黒いフードはしつこく追撃してきて、さらに強く攻め立てる。
数十回に及ぶ激しい攻防の末、ついに相手の動きを捉えた。その瞬間、渾身の力を込めて一撃を叩き込み、黒いフードを追い詰める。
必死に攻撃を避けようともがく相手を逃さず、迷うことなく大きく足を振り抜き、反撃の隙を与えなかった。
しかし、黒いフードはそれを予測して避け、顔には余裕の笑みを浮かべていた。
「笑わせるな〜」
黒いフードはすでに岩礁の端まで追い詰められ、逃げ場もなく、斧も落ちていた。僕は一歩前に進み、相手の首に向けて突き進んだ——
「なんで魔法を使わないの〜?」
黒いフードをかぶった人物が突然顔を上げ、片方の顔を影で隠しながら、口角を吊り上げてニヤリと笑った。
次の瞬間、彼の手の中に氷の結晶が現れ、それが額を狙って突き出された。
驚いてすぐに数歩飛び退いた――まずい!
「それとも、もう魔法が封印されていることに〜気づいたか〜?」
彼はゆっくりと歩み寄りながら、得意げに笑った。
「強力な魔法使いのあ・な・たが、初めて魔法を使えないって、どう思う〜?」
「気持ち悪い!」
足に力を込め、勢いよく黒いフードの頭を斬りつけた。
しかし、彼は軽々と氷で攻撃を防いだ。
「面白いね〜。魔法なしでも刀の扱いはなかなかだ。でも、すぐに余の愛しき妹がビーチでスイカを見つけるだろうね〜」
「まだ言うか!」
横一文字から振りかぶり、再度その人物の頭を狙った。だが、彼は一瞬で姿を消し、背後に現れた。
「ほらほら、そんなことで終わりじゃないよね〜」
「まずい!」
僕は背後から感じた鋭い魔力に反応し、振り返った。
そこには、さっきの黒フードの男が放った氷槍が迫っていた。
同時に、前方からは別の氷刃が猛スピードで飛び込んでくる。
「挟み撃ちか……!」
咄嗟に刃を構え、迫りくる槍を振り払おうとするが、時間が足りない!
くっ! 僕は刀を振り上げ、迫る槍と刃を必死に弾き返す。
けれど、すべてを防ぎきることは不可能だった。
一瞬の判断で攻撃の流れを計算し、最小限のダメージで済む動きを導き出す。
左へ跳びながら刀を横に振り、正面の刃を一つ弾き飛ばす。
同時に、背後から迫る槍を肩をひねってかわす――だが、完全に避けきれたわけではなかった。
冷たく鋭い感覚が体を貫く。
さらに、もう一つの刃が腹を深々と切り裂き、鮮血が砂浜に飛び散った。
計算通りの動きで受け流したはずだったのに、最後の一撃が足に突き刺さる。
計算は間違っていなかった。だが、それでもこの数と速度には抗いきれなかった。
「おやおや、これが最善策ってわけかい~」
黒フードの男はゆっくりと歩み寄り、周囲の空気を凍りつかせるかのような冷気を放っていた。
僕は腹部の傷を手で押さえながら刀を握り直す。このままやられるわけにはいかない。
頭の中で必死に次の動きを考え、反撃の機を狙う。
――だが、体が動かない。
「さて、次はどこを狙ってほしい~? 腕~? 足~? それとも~心~臓~か~な~?」
「本当に面白いね~」
男は足を上げて僕を蹴りつける。
「君は~」
「くっ……!」
この精神圧迫魔法……!
こいつの魔法の能力は、僕のはるか上だ。それだけではない。何かしらの術式を使ったのか、魔力が完全に封じられている!
……まだ何かがある!
頭を抱え込むようにして、その違和感に集中した。
全身を覆う痛みの中で、微かに感じる「別の何か」。
それは、彼の力の影響だけではなかった。
まるで自分の内に埋め込まれた異物のように、冷たく脈打っている。
――システムが、痛い……?
「ありえない……」
声にならぬ呟きが喉から漏れる。
システムが悲鳴を上げている。
「こんなの……初めてだ……!」
だが次の瞬間、思考を突き刺すような痛みが走った。
何かが壊れる音が耳に響く。――いや、それは幻聴なのかもしれない。
黒フードの男はさらに近づき、冷たく僕の髪を掴むと、体の急所へ何度も激しく拳を叩き込んできた。
「次に会う時まで……」
彼の姿は青空の中で次第にぼやけていき、その一瞬、ある白い髪の人影が見えたような気がした。
そして彼は、僕をゴミのように砂浜へ投げ捨てる。
「そういえば~君の仲間たちのことも忘れてた~」
彼が何かを口にした気がしたが、意識は徐々に薄れ、世界は暗闇へと飲み込まれていった。
次に目を開けたとき、すでに夕方だった。
日差しは消えかけ、世界は静かに闇へと沈んでいく。
無力に指を伸ばし、今にも消えてしまいそうな陽を掴もうとする。
長い夜の始まりを照らすその光は、まるで激しい雨が止んだ後の空のように――わずかな悲しみと壮大さを、夕暮れに刻み込んでいた。
今、まさに潮が引く時が来た――
つまり、
「汐」。
足元がふらつきながらも、歩みを進める。
一歩ごとに、まるで刃を踏みしめるような痛みが走った。
魔法を発動しようとしたその瞬間、激しい痛みが頭の中に突き刺さるように広がる。
「うっ……!」
魔法を使う力が奪われた。
正確には――使おうと意識するだけで、痛みに支配され、何もできなくなるという「禁じられた状態」に陥っていたのだ。
いったい、いつ、どこで、何が起こり、なぜこんな状況に追い込まれたのか。
どこから始まったのか。どうして、こんな痛みに満ちた現実に閉じ込められているのか――。
わからない。まったく、わからない。