表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/115

2-17 潮行汐暮(1)

 ヅラを投げ捨て、腰にぶら下げていた唐大刀を引き抜き、岩礁の後ろにいる謎の黒いフードの人物の頭めがけて斬りつけた。

 黒いフードの人物は、まるで予知していたかのように素早く身をかわし、同時に斧を振り回して喉を狙ってきた。

 唐大刀と斧の刃先がぶつかり、「カチン」という音が響いたが、黒いフードの攻撃は止まらず、次々と素早く斧を繰り出してくる。

「僕を甘く見ているようだな」

 身をひねりながら攻撃をかわし、タイミングを見計らって反撃に転じる。唐大刀の刃先が黒いフードの喉を何度も狙うが、相手はそのたびに正確に防いできた。

「やっと隙が見えたか!」

 チャンスが訪れた瞬間、黒いフードが身をかわしたその隙を突き、一気に足を振り上げて蹴りを放った。

 だが、相手はすでにその動きを読んでおり、右足をつかんで勢いよく逆手で一撃を加えてきた。素早く後方に跳んでなんとかそれをかわしたものの、黒いフードはしつこく追撃してきて、さらに強く攻め立てる。

 数十回に及ぶ激しい攻防の末、ついに相手の動きを捉えた。その瞬間、渾身の力を込めて一撃を叩き込み、黒いフードを追い詰める。

 必死に攻撃を避けようともがく相手を逃さず、迷うことなく大きく足を振り抜き、反撃の隙を与えなかった。

 しかし、黒いフードはそれを予測して避け、顔には余裕の笑みを浮かべていた。

「笑わせるな〜」

 黒いフードはすでに岩礁の端まで追い詰められ、逃げ場もなく、斧も落ちていた。僕は一歩前に進み、相手の首に向けて突き進んだ——

「なんで魔法を使わないの〜?」

 黒いフードをかぶった人物が突然顔を上げ、片方の顔を影で隠しながら、口角を吊り上げてニヤリと笑った。

 次の瞬間、彼の手の中に氷の結晶が現れ、それが額を狙って突き出された。

 驚いてすぐに数歩飛び退いた――まずい!

「それとも、もう魔法が封印されていることに〜気づいたか〜?」

 彼はゆっくりと歩み寄りながら、得意げに笑った。

「強力な魔法使いのあ・な・たが、初めて魔法を使えないって、どう思う〜?」

「気持ち悪い!」

 足に力を込め、勢いよく黒いフードの頭を斬りつけた。

 しかし、彼は軽々と氷で攻撃を防いだ。

「面白いね〜。魔法なしでも刀の扱いはなかなかだ。でも、すぐに余の愛しき妹がビーチでスイカを見つけるだろうね〜」

「まだ言うか!」

 横一文字から振りかぶり、再度その人物の頭を狙った。だが、彼は一瞬で姿を消し、背後に現れた。

「ほらほら、そんなことで終わりじゃないよね〜」

「まずい!」

 僕は背後から感じた鋭い魔力に反応し、振り返った。

 そこには、さっきの黒フードの男が放った氷槍が迫っていた。

 同時に、前方からは別の氷刃が猛スピードで飛び込んでくる。

「挟み撃ちか……!」

 咄嗟に刃を構え、迫りくる槍を振り払おうとするが、時間が足りない!

 くっ! 僕は刀を振り上げ、迫る槍と刃を必死に弾き返す。

 けれど、すべてを防ぎきることは不可能だった。

 一瞬の判断で攻撃の流れを計算し、最小限のダメージで済む動きを導き出す。

 左へ跳びながら刀を横に振り、正面の刃を一つ弾き飛ばす。

 同時に、背後から迫る槍を肩をひねってかわす――だが、完全に避けきれたわけではなかった。

 冷たく鋭い感覚が体を貫く。

 さらに、もう一つの刃が腹を深々と切り裂き、鮮血が砂浜に飛び散った。

 計算通りの動きで受け流したはずだったのに、最後の一撃が足に突き刺さる。

 計算は間違っていなかった。だが、それでもこの数と速度には抗いきれなかった。

「おやおや、これが最善策ってわけかい~」

 黒フードの男はゆっくりと歩み寄り、周囲の空気を凍りつかせるかのような冷気を放っていた。

 僕は腹部の傷を手で押さえながら刀を握り直す。このままやられるわけにはいかない。

 頭の中で必死に次の動きを考え、反撃の機を狙う。

 ――だが、体が動かない。

「さて、次はどこを狙ってほしい~? 腕~? 足~? それとも~心~臓~か~な~?」

「本当に面白いね~」

 男は足を上げて僕を蹴りつける。

「君は~」

「くっ……!」

 この精神圧迫魔法……!

 こいつの魔法の能力は、僕のはるか上だ。それだけではない。何かしらの術式を使ったのか、魔力が完全に封じられている!

 ……まだ何かがある!

 頭を抱え込むようにして、その違和感に集中した。

 全身を覆う痛みの中で、微かに感じる「別の何か」。

 それは、彼の力の影響だけではなかった。

 まるで自分の内に埋め込まれた異物のように、冷たく脈打っている。

 ――システムが、痛い……?

「ありえない……」

 声にならぬ呟きが喉から漏れる。

 システムが悲鳴を上げている。

「こんなの……初めてだ……!」

 だが次の瞬間、思考を突き刺すような痛みが走った。

 何かが壊れる音が耳に響く。――いや、それは幻聴なのかもしれない。

 黒フードの男はさらに近づき、冷たく僕の髪を掴むと、体の急所へ何度も激しく拳を叩き込んできた。

「次に会う時まで……」

 彼の姿は青空の中で次第にぼやけていき、その一瞬、ある白い髪の人影が見えたような気がした。

 そして彼は、僕をゴミのように砂浜へ投げ捨てる。

「そういえば~君の仲間たちのことも忘れてた~」

 彼が何かを口にした気がしたが、意識は徐々に薄れ、世界は暗闇へと飲み込まれていった。

 次に目を開けたとき、すでに夕方だった。

 日差しは消えかけ、世界は静かに闇へと沈んでいく。

 無力に指を伸ばし、今にも消えてしまいそうな陽を掴もうとする。

 長い夜の始まりを照らすその光は、まるで激しい雨が止んだ後の空のように――わずかな悲しみと壮大さを、夕暮れに刻み込んでいた。

 今、まさに潮が引く時が来た――

 つまり、

「汐」。

 足元がふらつきながらも、歩みを進める。

 一歩ごとに、まるで刃を踏みしめるような痛みが走った。

 魔法を発動しようとしたその瞬間、激しい痛みが頭の中に突き刺さるように広がる。

「うっ……!」

 魔法を使う力が奪われた。

 正確には――使おうと意識するだけで、痛みに支配され、何もできなくなるという「禁じられた状態」に陥っていたのだ。

 いったい、いつ、どこで、何が起こり、なぜこんな状況に追い込まれたのか。

 どこから始まったのか。どうして、こんな痛みに満ちた現実に閉じ込められているのか――。

 わからない。まったく、わからない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ