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1-4 僕、精霊を仲間にする(2)

「ご心配なく、主人。この俺は強いですから。ちょっとだけ、腕前をご覧にいれましょうか。」

 ヴィーナはそう言うと、ぴょんと青い毛玉けだまのほうへ跳ねていった。

「待て!」

 っていうか、「この俺」ってどういう意味?

 青毛玉あおけだまは、システム図鑑に新しく登録された小型モンスターで、その学名もそのまま「青毛玉」。

 羊毛のようなふわふわした青い繊維に包まれた体をもち、つぶらな大きな瞳と、無邪気な表情が特徴だ。まるで毛玉がぴょこぴょこと跳ねているような見た目で、思わず触りたくなる可愛さを持っている。

 戦闘力はあまり高くないが、特筆すべきはその防御能力。

 攻撃を受けた瞬間、青毛玉はふっと丸まり、硬い青い球に早変わり、どんな攻撃も、ぷるんと弾き返してしまう。その様子は、まさに「天然の盾」。

 個体としては弱くても、集団になると話は別。複数が一斉に丸まり転がり始めたら、地形を変えるほどの勢いを持つこともある。

 そのため、「可愛いけど油断ならない」という認識がこの種には付きまとっている。

 僕が止める暇もなく、ヴィーナは突如攻撃を開始した。

 その身体はみるみる膨張し、ドロリとした酸性の粘液に包まれたかと思うと、凄まじい勢いで青毛玉に体当たりをかまった。

「早すぎるって!」

 青毛玉は反射的に防御姿勢を取ろうとしたが――遅かった。

 ヴィーナの攻撃は見た目以上に重く、粘液の一撃が青毛玉を貫通した。ひび割れが広がり、目に見えてHPが減っていく。

「予想した通りヤバイ……」

 青毛玉はあわてて足元の草をむさぼり回復しようとしたが、ヴィーナはそれを許さなかった。間髪入れず次の衝突を仕掛け、さらには高濃度の酸性液体を体から噴き出し、じわじわと青毛玉の体表を侵食し始めた。

 ふわふわとした青い毛がばさりと剥がれ落ちた。肌には焼け焦げた痕が赤黒く浮かび、逃げようと足掻く毛玉の体は、ヴィーナの粘ついた体にがっちりと絡み取られていた。

 逃げ場など、最初からなかった。

「必要があれば、精霊が危険にさらされた時点で収納することも可能ですし、決着がつく直前に呼び戻して攻撃を止めることもできます。」

 システムが不意に現れ、無機質な声で説明した。

「無理だろ!まだ契約してないから!ヴィーナ、やめろ!」

「……わかりました。主人がそう仰るなら。」

 ヴィーナは後退し、静かに僕の前に戻った。そして、こう言った。

「ご覧になりましたか、主人?これが俺様の圧倒的な力――つまり、勝利の証です!」

 なんだこいつ、過去の人から一体何学んできたの……?

「でも君、まだ正式な契約はしてないんだから。」

 僕は花系魔法で作ったペンと契約書を手に構えた。

「え、ええっ!?」

 そう――実は、ヴィーナとはまだ正式な契約を交わしていなかった。

 物理的に精霊を従わせることは、あくまで前提条件に過ぎない。本当の契約には、いくつかの決まりきったプロセスと儀式が必要だ。

 その中でも、最も重要なのは――「契約書に自らの意志で署名すること」。

 これは単なる形式ではない。心理的な準備を整えるための儀式であり、意識下に「自分はこの契約を受け入れた」という暗示を強く刻む行為でもある。

 かつての世界でも、書面にサインをすることが信頼と誠意の証だった。

 この世界でもそれは同じ。文字を刻む動作、紙の感触、視覚に映る契約の文面――

 そのすべてが、契約という行為に真実味と重みを与えるのだ。

 この正式な印が心に刻まれることで、契約は単なる取り決めではなく、魂と魂の絆として成立する。

 それによって、互いに対する信頼はより強固になり、裏切りや誤解の余地も限りなく少なくなる。

 契約書には、当然ながら古くから伝わる定型フォーマットがある。

 その名も――

「魂の契約」

 文面は以下のような形で始まる:

「魂の契約」

 甲(主人): セリホ・サニアス・ブルジョシュ・トレミ・アルサレグリ

 乙(精霊): (精霊自身の粘液)

 一:契約の約束

 1.甲と乙は、本契約の締結後、契約の規定を遵守し、それぞれの義務を果たすものとする

 2.甲は、乙の正当な権利を保護し、必要な支援および保護を提供するものとする。乙は、契約期間中、甲に忠誠を尽くし、その判断を尊重し、秘密保持義務を負うものとする。

 3.乙は、重要な場面において甲を支援し、精神的なサポートおよび実務的な支援を提供するものとする。

 4. 乙は自らの能力を最大限に活用し、甲に対して迅速かつ専門的なサービスを提供し、甲が困難に直面した場合、乙は積極的に提案を行い、危機の解決に協力するものとする。

 二:魂の烙印

 1.契約締結後、甲と乙はお互いに魂の烙印を刻み、精神的なつながりを確立するものとする。

 2.魂の烙印によって、両者はお互いの意識を感知し、エネルギーを交換することで支援および激励を行うものとする。

 3.乙は契約期間中、甲の意志に従い、そのリーダーシップを尊重し、契約関係を遵守するものとする。

 三:契約の義務と責任

 1. 甲は乙の正当な権利を保護し、成長と幸福を損なわないよう努めるものとする。

 2. 乙は甲に対して忠実に契約義務を履行し、甲の承諾なく独断で行動したり、秘密情報を漏洩してはならないものとする。

 3. 乙が本契約に違反した場合、甲は本契約に基づき乙に対して法的措置を講じることができるものとする。

 四:契約の終了と解除

 本契約は、両者が署名した時点から即時に発効し、いずれかが死亡した場合、または法的な理由により契約の履行が不可能となった場合を除き、本契約を終了することはできないものとする。

 五:争議の解決

 契約履行中に発生した争議は、友好的な協議を通じて解決するものとし、協議が不調に終わった場合には、甲の判断に従い、解決手続きを進めるものとする。

 署名欄

 甲(主人): セリホ・サニアス・ブルジョシュ・トレミ・アルサレグリア

 乙(精霊): (精霊自身の粘液)

 発効日: 契約締結より即時発効

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