1-4 僕、精霊を仲間にする(2)
文面は以下のような形で始まる:
「魂の契約」
甲(主人): セリホ・サニアス・ブルジョシュ・トレミ・アルサレグリ
乙(精霊): (精霊自身の粘液)
一:契約の約束
1.甲と乙は、本契約の締結後、契約の規定を遵守し、それぞれの義務を果たすものとする
2.甲は、乙の正当な権利を保護し、必要な支援および保護を提供するものとする。乙は、契約期間中、甲に忠誠を尽くし、その判断を尊重し、秘密保持義務を負うものとする。
3.乙は、重要な場面において甲を支援し、精神的なサポートおよび実務的な支援を提供するものとする。
4. 乙は自らの能力を最大限に活用し、甲に対して迅速かつ専門的なサービスを提供し、甲が困難に直面した場合、乙は積極的に提案を行い、危機の解決に協力するものとする。
二:魂の烙印
1.契約締結後、甲と乙はお互いに魂の烙印を刻み、精神的なつながりを確立するものとする。
2.魂の烙印によって、両者はお互いの意識を感知し、エネルギーを交換することで支援および激励を行うものとする。
3.乙は契約期間中、甲の意志に従い、そのリーダーシップを尊重し、契約関係を遵守するものとする。
三:契約の義務と責任
1. 甲は乙の正当な権利を保護し、成長と幸福を損なわないよう努めるものとする。
2. 乙は甲に対して忠実に契約義務を履行し、甲の承諾なく独断で行動したり、秘密情報を漏洩してはならないものとする。
3. 乙が本契約に違反した場合、甲は本契約に基づき乙に対して法的措置を講じることができるものとする。
四:契約の終了と解除
本契約は、両者が署名した時点から即時に発効し、いずれかが死亡した場合、または法的な理由により契約の履行が不可能となった場合を除き、本契約を終了することはできないものとする。
五:争議の解決
契約履行中に発生した争議は、友好的な協議を通じて解決するものとし、協議が不調に終わった場合には、甲の判断に従い、解決手続きを進めるものとする。
署名欄
甲(主人): セリホ・サニアス・ブルジョシュ・トレミ・アルサレグリア
乙(精霊): (精霊自身の粘液)
発効日: 契約締結より即時発効
紙上での契約が完了すると、次に――魂の烙印を刻む必要がある。
この烙印は、精神的な繋がりを確立し、契約期間中にお互いの意識を感じ取るためのものだ。
魂と魂を繋ぎ合わせることで、主と精霊は互いの力を高め合い、その絆は時間を経るごとにより強固なものへと変化していく。
形式としては儀式にすぎないかもしれない。
だが、ここには単なる力の交換以上の意味がある。
主と従者という関係性を、言葉ではなく魂で証明するということだ。
こうして眺めてみると……まるで君主と臣下の関係にも思えてくる。
だが、この世界においては「臣下の臣下は臣下ではない」――そんな曖昧さは通用しない。
精霊との契約は、絶対服従を前提とする。
一度契約が交わされれば、精霊は主人の意思に忠実に従い、
定めた規則さえ明確に示しておけば、勝手な行動は取れないようになっている。
裏切りも、背信もない。
なんにせよ、これはあとでやることリストにしっかり入れておこう……。
ふと視線を落とすと、あの青毛玉が、粘液でぐっしょり濡れながら地面でもがいていた。全身から湯気のように苦痛が立ち上っているのが見える。
彼のHPがじわじわと自然回復しているのを見て、なぜか心臓がチクチクしたので、僕は花系魔法を起動して、青毛玉を一気に全快させた。
「……行けよ。僕は引き留めないさ。さっきはその、色々と……僕の……」
少し目をそらしながらそう言った、その時だった。
ぴょんっ。
青毛玉が一歩、僕の方へ跳ねた。
――ばさっ。
音もなく契約書の上に着地し、そのまま契約書の署名欄に身体を押しつけるように横たわった。
……まさか、と思った次の瞬間。
「契約成立」の文字が浮かび上がった。
そして、魂の烙印が発動した。
青毛玉は瞬時に消え、謎めいたエネルギーとなって僕の手の中に流れ込んだ。
すでに勝利を確信していたヴィーナは目を丸くし、予想外の事態に動揺を隠せない。
「あれれ?」
「ご、ご主人様……」
「いや、待て? ちょっと違う、いや、別にいいけどさ!もう一度やり直せばいいし……。でも、本当に僕の精霊でいいのか?君けっこう強いし、その酸液にはいろいろ発見もあったし。雪系と花系を組み合わせて、水系魔法でpH値の調整を試してみるつもりなんだけど……ほんとに、それでいいのか?」
「はい、百万パーセントでそのつもりです!お願いです、どうか!」
「……どうやら、あいつもまだ全力を出していなかったのかもしれないな。やっぱり、この契約を望んでいたのかも……。この契約さえ結んでしまえば、もう僕の元から離れることはできない。」
と、そのとき。
「まるで英雄気取りだな。こいつはただ死にたかっただけだろうに。偶然貴殿に助けられただけ。自分を偉い人だと思ってるのか?」
冷たく、乾いた声でシステムが言い放った。
——え?なんだ、その刺々しい言い方は?
まさか……システム、嫉妬してるのか?
……ツンデレ?
「勝手にそんな妄想するな!」
システムが突然シャットダウンしてしまった。
……おい!
ヴィーナとの契約が無事(?)完了したあと、僕は改めて、今回の旅でもう一つの思わぬ収穫――青毛玉について考え始めた。
戦闘のダメージを肩代わりするという役割は確かに役に立つだけど、単体では能力を活かしきれないかもしれない。
とはいえ、そのふわふわとした手触りは驚くほど心地よく、ただ見ているだけで心が癒される。
表面は繊細で密度のある毛がびっしりと生えていて、ふわっふわ。手のひらに乗せるだけでほっとするし、視界の隅にいるだけで心が和らぐ。
思わずぎゅっと抱きしめて、そのふわふわの感触を確かめたくなる。
まるで雲のかけらをそのまま形にしたような、柔らかくて、あたたかい存在。
寒い冬の日には、これ以上ない心地よさを与えてくれそうだ――体だけじゃなく、心までぽかぽかにしてくれるような。
……いやいや、メインの使い方を忘れてた!青毛玉の主な機能は「雪(氷)系の魔法盾」だったはずだ。
僕には正直あまり必要ないけど……これ、女の子を喜ばせるにはうってつけじゃないか?
だって、普通の女の子って、イケメンとか美女とか、あとはふわふわ可愛いものが好きだろ?
もちろん、美人も大歓迎なはずだし!
女の子ってのは、世界の宝だから!
普通の女の子って、可愛いものを拒めるわけないじゃん?
……でも、それはあくまで「普通の」女の子の話。
世の中には触手とか獣とか、虫とか機械とか、肉体改造とか、人食いとか、まあ、いろいろな性癖が存在する。
でも――どんな性癖でも、僕ならきっと対応できるさ!全部拒否しない!って、何考えてんだ僕は!!
ふと横を見ると、さっきまでバトルしてたスライムと青毛玉が、なぜか仲良く丸くなって寄り添っている。
ついさっきまで酸の飛ばし合いしてたのに、今はぴったりくっついてる……?
……こりゃ、何か裏があるぞ! 絶対に!
「どうしたどうした? 何があったんだ?」
「貴殿の性癖です。」と、システムが冷静に答えた。
「性癖?」
「精霊と主人は、記憶を双方向に共有できます。もちろん、その通路を閉じることも可能ですが、開いたままにしておくと、双方に経験値ボーナスが発生しますので、デフォルトでは開いた状態となっています。」
なるほど、そういう仕組みか……デフォルトで共有されるのか……
「い、今のはなかったことにしろ!聞いてなかったことにしてくれ!何もなかった、いいな!何も!」
慌ててシステム画面を開き、共有をオフにするためにボタンを連打した。
青毛玉はヴィーナのそばでビクビクと縮こまっていたが、ヴィーナに軽く蹴られて、さらに小さく丸まってしまった。
「そんなに警戒する必要はないよ……僕ってそこまで恐ろしいわけじゃないし……人だって食べないから……」
「お忘れかもしれませんが、この青毛玉にはまだ名前を付けていません。」と、システムがヒントを出してきた。
「ああ、確かに。じゃあ……『ランシブ』にしようか……」
「ぴゅる!」と、ヴィーナが不満げに鳴き、急に満面の笑みを浮かべているランシブの上に飛び乗ると、全力で叩き始めた。
「ぴゅる!ぴゅるぴゅる!ぴゅるぴゅるぴゅるぴゅる!」
「ストーーップ!名前ってのはただ呼びやすくするための記号に過ぎないんだよ!全部!唯一無二なんだ!性別の方がまだ相対的なものなんだ!だから、やめろってば!!!!」