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2-13 最後の日(2)

「しかも、魔力がもうほとんど残ってないじゃない? こんなこと、今までなかったでしょ。」

「それは、確かに……」

「昨日何したかは知らないけど、ここでは魔法で補充することができないんだよ……はぁ。お願いだから、自分の体を使い捨てみたいに扱わないで。」

「そんなことしても……」

 大きなあくびがこぼれた。それは疲労への自然な反応であり、同時に心の諦めの表れでもあった。

 現実の潜在的な危機は、波のように絶えず押し寄せてくる。

 まるで終わることがないかのようであり、その一つ一つを防いだり排除したりすることは、限りなく難しかった。

「……言いたくないならいい。どうせ私の言うことなんて聞き流すんだろう。」

 グラウシュミは少し唇をかみしめた。

 一方、リリラアンナは軽やかに小さな曲を口ずさみながら、店内のスタッフに親しげに手を振った。

「すみませ~ん! まだどう呼んでいいのかわかりません~!」

「え? 私ですか? 私はコマンダと申します。」

 コマンダは少し戸惑いながらも、丁寧に自己紹介を続けた。

 リリラアンナの視線が自分に注がれているのを感じ、彼の姿勢はさらに真剣なものとなった。

「素晴らしいですね、コマンダさん。実は、このエリアの不動産状況を視察するために参りました。この場所に新たにチェーン店を開設することを検討しております。」

 リリラアンナの言葉に、コマンダは一瞬目を輝かせた。ビジネスチャンスをしっかりと捉えたことがわかる。

 突然、自己紹介をまだ行っていなかったことに気づき、コマンダは顔を赤らめながら続けて尋ねた。

「大変失礼いたしました。先ほどお名前をお伺いしそびれてしまいましたが、リリラアンナ様、苗字はどのようにお呼びすればよろしいでしょうか?」

「リリラアンナで結構です。長々しいことは必要ありません。」

 リリラアンナは少し自嘲気味に笑いながら言った。

 その笑顔の裏には、忙しさとストレスがにじみ出ているようにも感じられた。

「お話しできまして光栄でございます、リリラアンナ様。

 それでは、賃貸物件をご検討いただくにあたり、特に重視されている点やご希望がございましたら、ぜひお聞かせいただけますでしょうか。」

「まず最も重要なのは、安全面です。24時間のセキュリティが確保されていて、飲食業を展開するのに適した場所を探しています。」

「おっしゃるとおりでございます。こちらの商業用不動産はすべて、24時間体制の警備が整っており、繁華街に位置しているため人通りも非常に多く、周辺の住民や通行人の方々にも比較的親しまれやすい環境でございます。

 リリラアンナ様が新しい店舗をこちらにオープンなさるご予定でいらっしゃいますね?」

「はい。」

「かしこまりました、リリラアンナ様。こちらには、御社の安全要件を満たし、さらに立地条件も非常に優れた物件がいくつかございます。」

 コマンダは資料を取り出しながら話を続けた。

「例えば、この物件は商業街の中心部に位置しており、大型ショッピングセンターやオフィスビル、さらに住宅街が周囲に広がっているため、安定した集客が見込めます。また、施設内には十分な排煙システムと消防設備が整っており、飲食店の開設基準も満たしています。」

 コマンダは資料を一枚一枚リリラアンナに手渡しながら、熱心に説明を続けた。

「ご覧の通り、この物件は面積も適切で、天井の高さや空間のレイアウトも柔軟に対応可能です。そのため、リリラアンナ様のレストランブランドのコンセプトに合わせた内装デザインが実現できます。

 また、賃料につきましては複数のプランをご用意しており、チェーン店でのご入居には特別割引もございます。」

「でも、このエリアもいいと思います。あそこも悪くないですね。」

「はい、一般のお客様には確かにこちらのほうが適しているかと存じます。ただし、このエリア周辺には、私どもから詳細をお伝えできない危険要素がございますため、十分にご案内できないのが実情でございます。」

「そっか……。こちらでは、商業プランや安全管理が非常にしっかりしていることがよくわかります。」

「実際に物件の内外を見学したいのですが、手配は可能でしょうか?」

「もちろんです。本日の見学時間をすぐに手配いたします。見学後にさらに詳細なご質問があれば、何でもお答えいたします。」

 眠気に何度も襲われながら、僕は無意識に帰り道で拾った紅葉を手で弄びつつ、突如として起きた出来事をぼんやりと思い返していた。

「おい、死鬼! 起きろ! この二つ、どっちがいいと思う? 場所とか条件はほぼ同じで、どっちもコスパは高いんだけど……」

「え……僕に選べって? 知らんがな……不動産屋でもないし……どっちも同じに見える……」

 声にはまるで気力がなかった。夜更かしももう限界だった。魔法を大量に解析して対抗するのは頭を使いすぎるし、システムとの戦いはさらに消耗が激しかった。

 ……もう完全に老人になっちゃったな……

 ……

 僕らは今でも使われている下水道からひっそりと抜け出し、夕陽に染まる紅葉の山へと戻った。

 ファンレンカゴウをリリラアンナに任せるのは不安でしかなかったので、慎重に考えた末、デルガカナに託すことにした。

 さすがデルガカナ。景色を楽しむ時間をすべて省き、半日足らずで元の国に帰還した。

「お前、毎回デルガカナを連れていくのって、道に迷うのが怖いからじゃないのか?」

「これ言ったら、面白いと思った?」

 リリラアンナは僕を振り返りながら、勢いよく歩を進めた。

 その瞬間、ゴンッという鋭い音が響き、彼女の後頭部がカフェの前に立つ古いプラタナスの木に見事に激突した。

「いてっ、なんだこれ、クソ痛ぇ!」

「どうやら月は君にあまり優しくないようだな。」

「ふん! そうかもね! でもさっき、月光に導かれてる気がしたんだけど……。じゃあ、デルガカナ! 月ってなんで光るんだと思う?」

「デルガカナ、月が光る理由、分からない。」

 ……

「グラウシュミは?」

「月はね、夜道を歩く人たちを照らしたいって。」

「セリホは?」

「……あ?」

「なーにボケっとしてんだよ!」

「あぁ、えっと……月が光るのは反射の効果だ。

 簡単に言うと、昼間あんなに強い光を放つ恒星――つまり太陽の光が、夜になると月に届いて、その光が月の表面で反射されるんだ。月の表面は岩石や塵、土壌で構成されていて、反射率は地域によっておよそ7%から17%くらい変わる。それが地球に届いて……」

「もういい! 誰もそこまで聞いてないのに、なんで勝手に説明してんだよ……。それよりお前、大通りの真ん中で倒れ込んで寝るな! 余より眠たがりじゃねぇか!」

「これは……生理現象だ……」

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