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2-15 自往言述(2)

「いやいや、本当に知らないから。それより、これ危ないよ。彼に会ったことなんてないってば。」

 リリラアンナは僕が持つ刃にそっと手を添え、力を込めず押し下げる。

「もし、追跡魔法の結果――君と彼との間に何らかの関わりがあると示されていたら?」

 僕は刃をわずかに離しながらも、問いを重ねた。

「君、普段から月系魔法を研究してるよな? 部屋には魔導書が山のように積まれていた。『忘れた』なんて言わせないで。

 月系魔法には、魔法使用者だけでなく、その使用後に接触した人物まで追跡できる術式があることを――」

「それで、何であいつが僕に接触したって確信してる?」

 リリラアンナは全く動揺した様子もなく、逆に問い返してきた。

「それに、どうしてその魔法を知ってる?」

「今の君の反応だけで十分だ。それに、君も知ってるだろ? 僕は魔法の痕跡と理論さえあれば、そこから魔法を再現し、さらに応用まで利かせられる。」

「さすが、かつて花系最強の魔法師の子供だわ!」

 そう言うや否や、リリラアンナは刀身に指先を滑らせ――その瞬間、氷の層が白く輝きながら一気に広がった。

「やめてやめて。話し合おうよ、暴力反対! ほら、お前だって母親への感情、そんなに深くないんじゃ――」

「何言ってる。」

 僕は口元に笑みを浮かべ、小さな炎を指先に灯す。

 ぱちりと赤い光が弾け、刀身に張り付いていた氷が音を立てて一瞬で蒸発した。

「……どうやら、僕が来るのを予想してたみたいだな。詠唱もちゃんと準備してたんだろう?

 でも――『十ヶ月胎内に児を懐す、艱苦備えて極まりなし』。それは母親だ。」

「無詠唱魔法の腕も相変わらずだな、お前。さすがね。」

 リリラアンナは全く怯むことなく言葉を重ねる。

「私の魔法を直接消した上に、引用まで完璧。教科書に載ってるそのまんまの一文だよ。私ですらそこまで覚えてないねぇ。」

「褒めてもらえて光栄だ。」

「唐大刀を置けよ。今から、真面目な話を始めよう。」

「……ちょっとおかしいな。」僕は類唐大刀を置かなかった。

「いやいや、今回は冗談じゃない。もう、お互い元の世界から転生してきたってわかっただろ? なら、ほとんど同じ仲間じゃん。こんな時に君に嫌がらせするわけないだろ? 助け合って生き延びるのが一番だよ。」

 リリラアンナは身振りを交えながら、軽い調子で続けた。

「実はさ、君とチェスをやりたいんだよね!」

 そう言って口を尖らせた後、彼女はカップを取り、リラックスした様子で苦いコーヒーを一口。

「本当に、あの家族には全然感情なんてないんだよ! 全くない! 半分もない! 水で薄めた分もゼロ! だから毎日苦いコーヒーを飲んでるんだよ!」

「……分かる。」

 魔法の波動が落ち着いていくのを感じながら、僕は類唐大刀を背中に戻した。

「で、どうすんの? ヴィリアンに敬意を表すの?」

「いや、それも一つの原因だけど……まあいいや、話を戻す。」

 リリラアンナは椅子にもたれ、顎を手で支えながら続けた。

「お前を家に送った後、すぐに喫茶店の図書館に行ったんだ。月系魔法の吟唱をどう解析するか、ちょっと調べたくてさ。」

 視線が少し遠くなる。

「でも、その大事な部分を見てた時――突然、冷たい風が吹き抜けたんだ。背中がざわっとして、顔を上げたら……黒いフードをかぶった人間が、すぐ後ろに立ってた。手には斧。で、その刃が、まるでスイカ切るみたいに私に向かってきた。」

「スイカ切っちゃダメだよ。鉄っぽい味が混じるから。」

 僕は真顔で口を挟んだ。

「ちゃんとスイカの味を楽しみたいなら、棒で叩くか、投げて割るしかないよ。」

「……本当に刺さっちゃった。」

 リリラアンナは淡々と言った。

「でも、手に持ってた本が分厚くてさ。ちょうど胸に抱えて読んでたから、運よく死なずに済んだんだ。そいつは面白い動きをしてね――ちょっと後ろに下がって、書棚の方へ行った。」

「運がいいね。」

「その瞬間、逃げようと思ったんだけど……体が、動かなくなっちゃった。」

 リリラアンナまで、この魔法にかかったのか?

「それは月系の精神圧迫魔法だ。」

 僕は説明をした。

「動きを封じる類いの魔法で、精神力を魔法で増幅させ、相手に圧をかける。神経や筋肉の働きまで狂わせて、体を縛りつけるんだ。

 現実世界に例えるなら――見えない縄で全身をぐるぐるに締め上げられ、息をするのもやっとになる、そんな感覚だ。」

 僕は魔法がバレるのは少し心配だったから実演して見せることはしなかったが――口論になるのは止められなかった。

「まさか、これくらい分からないの?」

「月系魔法には合わないから、理論だけ見ても何がわかるの? 今は理解できるけど、あの時は本当に……圧迫感がすごかったんだ。

 まるで何か神秘的な力に縛られて、呼吸すらできなくなるみたいで……もう死ぬかと思った! 二度目の死なんてごめんだよ、お願い、やめて!」

「危険感? 酸素チューブ抜かれてないのに、呼吸できなくなるってどういう理屈?」

 僕はわざと首をかしげ、遠くを見た。

 視線の先――グラウシュミが海でぷくぷくと泡を吹いていた。

「見て、あれこそ危険だ。でも海岸近くにいるし、デルガカナもいるから……二人組で行動してるなら危険度は少し低いかな。」

 デルガカナも、なぜか隣でぷくぷくと泡を吹いていた。

「違う違う! 圧迫感だよ! 圧迫感って言ってるのがわかる?!」

 リリラアンナが椅子をきしませながら叫ぶ。

「……」

「そいつは――まるで私を試すように、ゆっくりと隣に歩み寄り、低く、不気味な声で囁いた――」

「『やあ~、妹さん~』」

 リリラアンナはその場面を思い出して、まだわずかに肩をすくめていた。

「本当に怖かった、ああ、神様〜〜でもなんでお前はその人が私と関係があるってわかるの?」

「じゃあ、なんで僕が魔法の使い方を見ただけで、その魔法を使えると思う?」

 僕は掌を上に向ける。そこから淡い光がふわりと広がった。

「月系の追跡魔法だ。試してみる? 君にかけて。」

 もちろん、実際にかけるつもりはない。

 彼女が魔法を許すはずもないことも、分かりきっている。

 けれど――こういう時は、ちょっとした演出くらいは必要だ。

「いやいやいやいやいや!」

 彼女は本気で首を横に振った。

「それ、全然わかんないよ、高級すぎる!! 原理を直接教えてくれ!」

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