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2-15 自往言述(1)

「イザカルス」国の没落した「アルサレグリア」家において、アルサレグリア奥様の死という事実は、牛や羊を屠るのと同じくらい珍しくもない出来事だった。

 贈り物の箱もありふれた造りで、書体もかつてクラスの女の子たちが練習帳に並べていたような平凡なもの。

 まるで「母親」という存在さえ、いくらでも代わりが利くもののように思えてしまうほどだ。

 ましてや平民の夫婦が亡くなることなど、もっと日常的だ。

 家族の中に平民がいて、その誰かが死ぬ——そんな出来事は、あまりにも当たり前すぎて、誰一人として立ち止まってはくれない。

 でも、そんな「よくあること」も、いくつも重なれば途端に「よくないこと」になる。

 書体はゴシック体に近い感じで、その使用時期と今の時間軸がまったく合っていなかった。

 僕とリリラアンナにとって、「ワルツィナイズ・ミロスラックフ」大陸は魔法とシステムが存在する完全な架空の異世界だけど、その歴史や後の発展は元の世界の西暦時代とぴったり対応している。

 地理もほぼ同じだ。

 聖除節は冬に行われるが、暖房のない地域では人が凍死するほど寒い。

 けれど、同じ冬でも場所によって雰囲気はまるで違う。

 そこは――南国だ。

 南国の冬といえば、やっぱりビーチだ。

 冬なのに、太陽は夏みたいにガンガン照りつけ、金色の光が辺りをぽかぽかと包み込む。

 海は夏ほど荒れていないが、そのぶん静かで深く、空や雲をそのまま鏡のように映し出していて、息を呑むほど美しかった。

 そんな中、リリラアンナが日傘をバッと広げ、全身で日光を浴びながらマッチをカチカチいじり、

「余さ~、莫辞遐ちゃん、マジで死ぬほど好きなんだよね~!」と、唐突に言い放った。

「今日さ、家にお客さんが来て、食事中に『好きなものは?』って聞かれたから、余、もう心臓バクバクで、超恥ずかしいのをこらえて『六現元』って答えたの。

 そしたら、全員の顔色が一瞬で真っ青になってさ!空気、秒速で氷点下!で、気まずさMAXをなんとかしようと、お客さんがこう言った。

『六現元?別にいいじゃん!キャラ可愛いし、私も好きだよ!でもさ、莫辞遐だけはガチで危ないよ。聞いた話だと、莫辞遐推しって24時間ずっと狂ってるらしいし、飯も食わないし、寝もしないんだって。青少年への影響、マジで国家レベルでヤバいでしょ!』

 それ聞いた余、もう限界突破して、涙ドバーッて噴き出して、嗚咽全開でこう叫んだ。

『……わ、私……莫辞遐が……世界で一番好きなんだもん!!』

 そしたらお客さん、目ひん剥いて、その場でテーブルをバッタンってひっくり返したんだ!うわあああ!どうしよう……余、もう人生詰んだのかな……!?」

「おっしゃる通り、未来なんてないです。」

 僕は彼女の隣に立ち、腰をかがめて視線を合わせた。

 その様子はまるで、教室のドアの陰からスマホを隠し持つ生徒をじっと見つめる担任の先生のようだった。

「おはよう。こんにちは。こんばんは。今は真夜中じゃないから、夜食はまだだ。」

「おはようどころか、ふざけんなよ! ビビるわ!」

 リリラアンナは思わず拳を振り上げ、僕の顔めがけて突っ込んできた。僕は軽く身をかわし、その拳をあっさりと避けた。

「久しぶりに会ったっていうのに、第一声が殴りかかりとはね、リリラアンナ。」

「この野郎!」

 リリラアンナは辺りを見回して人がいないのを確認すると、瞬時に普段の口調を捨て、共通語に切り替えた。

「どうせ私が恥かいてるの見て笑ってたんでしょ!」

「いやいや、何の恥だよ?こんなところまできたらもう隠さなくてもいいんじゃない?」

「な、何を隠すって……」

「あの長男、実はまだ生きてるんだろう?」

「えっ?グラウシュミ?」

「デルガカナ!君もここにいたのか!」

「デルガカナ、いる。デルガカナ、嬉しい!」

 グラウシュミが両親を失った悲しみから立ち直れるようにと、わざわざ聖除節の休みが始まって数日経った後に、彼女を訪ねに行き、海辺へ行って気分をリラックスさせることを提案した。

 チームの仲間たちと一緒なら少しは元気になれるかもしれない。それに、わざと「偶然に出会った」という雰囲気を作り出した。

「知るわけないでしょ。」リリラアンナが肩をすくめる。

「ていうかさ、なんで今日ウィッグなんて被ってきたの? 前に『やめろ! 近づくんじゃねぇ』って千回くらい言ってたくせに。結局、女装って一回か無限回かしかないってこと?」

「何言ってんだよ。今日はセリホじゃなく、グラウシュミの気分をほぐしてやるための世柳柳だ。」

 僕は少し声を落とし、「デルガカナには言わないけど、君はもう分かってるだろ? だから、次に口を開くときはよく考えて言え」と、ポニーテールに束ねた長い髪――ヅラ――を軽くかきあげながら付け加えた。

「……病気か。」

 リリラアンナは呆れたようにため息をつき、白い目を向けてきた。

「君だって同じでしょ?」

 僕は彼女の背後に回り、類唐大刀を首筋にそっと当てる。眉をひょいと上げ、低く問いかけた。

「あの長男の話、どうしてしないんだ?」

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