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2-14 月行花堕(1)

「アルサレグリア奥様、相変わらずお変わりなく~!いやいや、まさか彼女がこの魔法こそ突破口だって、その場で見抜いちゃうなんてさぁ……ほんっと、ただ者じゃないねぇ~!花系魔法をここまで極めたお方の目ってのは、やっぱり格が違うわ~!ああ~、余は感動で胸がいっぱいだよぉ~!

 でもさぁ、アルサレグリア奥様、あんたが彼女を選んじゃったとなるとねぇ……ほら、あの時と同じだよね~!だからさ、選択肢、もう一度だけ返してあげるわ~。ふふっ、どうするの~?ねぇ、どうするの~?」

 相手はひょいっと肩をすくめ、わざとらしく軽い調子で続けた。

「解決策は二つ!アルサレグリア奥様も、もう分かってるでしょ?

 ひとつは――彼女を殺しちゃうこと!この決断にはね、ガツンと腹を括らなきゃいけないけど……まあ、昔あなたが余をピシャッと拒んだときみたいにさ~~。

 もうひとつは――彼女にやられちゃうことですよ~。カチャッとね♪」

 アルサレグリア奥様は、そっと目を閉じて深呼吸をすると、静かに口を開いた。

「彼女のご両親は罪のない方々です。そして、私……未練がないとは言えません。でも、受け入れます。」

「罪のない方々?あははははっ!罪のない方々ですってぇ~?いやいやいや、甘すぎるって~!本気でそんなおとぎ話、信じてるのかぁ~?ああ~、可笑しすぎて、余、笑い死にしそうよ~~!

 彼らはねぇ、ブレランカイスニ家の分家なんだよ~?そう、分家!分家って言葉の意味、分かるよねぇ~?平民の地位に押しつけられて、しかも『指・定・消・去・対・象』!つまりさぁ、生き延びる余地なんて、これっぽっちもないわけよ~!

 ああ~、可哀想な貴女!何も知らされないまま、こんな真実を今さら突きつけられるなんてぇ~!ふふっ……もしかして、彼ら、自分たちの本当の身分を、貴女にすら隠してたんじゃなぁい~?いやぁ、さすがだねぇ。娘にすら真実を教えず、ここまで平然と隠し通すなんてさ~。まったく、素晴らしい演技力だこと~!」

「……」

「ああ、でも可哀想で愛らしいお嬢様~!そんなに美しくて純粋なお嬢様が、最後にこんな惨めで、無惨で、血も涙もない結末を迎えるなんてぇ~!余、胸が張り裂けそうだよぉ~!涙が止まらないよぉ~!

 でもねぇ~、余にはどうにもできないんだよぉ~。だってこれから――貴女の身体が、一片一片、切り刻まれていくのを、余は見届けるしかないんだから~!ああ、その感覚、どんな気分だろうねぇ~?皮膚が裂ける音、筋肉が切れる感触、骨が砕ける震え……その全部が、貴女の全身に響き渡るんだよぉ~!

 しかも、それをやるのは――あの『彼女』!そして、それを最後まで見届けるのは、他でもない貴女自身!ほらほらぁ~、彼女、道具まできっちり揃えてくれたんだよ~?包装用の紙も、紐も、ぜ~んぶ完璧に!きっと一片一片、愛情たっぷり込めて、丁寧に包んでくれることでしょうねぇ~!」

「……」

「でもねぇ~、お嬢様、まだひとつだけ選択肢が残ってるんだよぉ~。今すぐ――あの亭主様を殺せば、この地獄は終わるのさ~!ふふっ、どうする~?それとも、最後の最後まで切り刻まれながら、彼がここに現れるのを待つつもりかなぁ~?いやぁ~、楽しみだねぇ~!どっちを選んだって、最高に面白い結末が待ってるんだからさぁ~!」

「……」

「?!!!!!!!!!!!!

 言えよッ!!表明しろよッ!!!言えって言ってんだろッ!!!なんで言わねぇんだよッ!!!!ああああああッ!!!!!!余はただ――ただ貴女を救うだけなんだァァァァァ!!!!!!!!」

 ブレウッズの試合が今学期の実技課の期末試験だったので、生徒たちはもうすぐ冬休みに入る。

 しかし、試験が終わって冬休みになる前の最後の授業は絶対に欠席できないため、クラス全員が集まって王城からの詔書を聞いていた。

 その詔書は本来アシミリアン先生が読むはずだったのだが、先生はちらっと目を通しただけですぐに横に置き、風にメッセージを託してオレリアを呼んだ。

「代わりに読んで、オレリア。」

「分かった。」オレリアは声を張り直し、読み始めた。

「忠良なる臣民よ、

 聖除節の佳節近づくに際し、朕はこの佳き日に臨み、諸君とともに、我らが未来に深く関わる重大の課題を思惟せんと欲す。

 その課題とは、獣人の運命と、我が時代の進運との関係に外ならざるなり。

 獣人は古来この地に屹立し、その無比の力と原始の荒ぶる性とにより、永遠不滅の印象をこの国土に刻み来たり。彼らは強靭なる体質と無尽蔵の生命力とを誇り、本能の発する自然の壮大なる力を体現するものなり。その存在は、まこと尊くして、この地の人々の眼に映り、久しく深き敬意を寄せられたり。

 然るに、現状において彼らは、未だ人類の成し遂げたる高度なる思考の境地に至ること能わず、磨かざる原石の如き姿に留まり居るなり。

 その内に潜みし可能性は誠に偉大なれど、いまだ光を放ち出づるに至らず。此の現実、我らに試練を課し、また困難なる決断を迫るものなり。

 彼らの持つ圧倒的なる力と、時に惑ひを帯びたる眼差しとを朕見しとき、胸中には深き悲哀と共感の念と相交はり湧き起こるなり。

 文明の進運、国土の繁栄、加ふるに科学技術の発展は、我らが未来を築く礎たり。しかれども、これを成就せんがため、朕らは獣人の力をもって社会の発展を担はしむるの選択を、避け難く迫らるる境地に至れり。

 これ、朕が真意にあらず。時代の要請、朕らに課せられたる宿命の重責にして、まこと痛恨の策と謂ふべし。

 されど、獣人をして人類の進化と共生のための原動力たらしめ、その力を以て国土を開拓し、壮麗なる都市を築き上ぐることこそ、まさに時代の要請に応ずる大道なり。

 これ即ち生存の意義にして、また智慧の光を世に顕はす所以なり。

 加之、朕は獣人労働者の生命の安寧を確乎として保障し、その尊厳を終始護持せんと欲す。彼らに文明の恩沢を等しく享受するの機を与へ、また社会の一員として重きを担ふことを奨励せん。

 此の事業に因りて、獣人は時代の歯車を駆動する要の役を演じ、朕らと共に未来を建設すべきものなるべし。

 諸君の中には、或はこれに疑念を懐く者なきにしもあらず。

 されど、朕らが直面する未曾有の挑戦に鑑み、資源の有限と発展の必然とを思ふとき、獣人の力を社会の推進の原動と為すは、避け得ざる選択なり。

 これ即ち文明と未来とを探求せんとする、我らが時代の証にして、共に担ふべき課題なること疑ひなし。

 願はくは、諸君よ、この重責を共に荷ひ、艱難を克服し、新たなる未来を切り拓かんことを。

 また、この契機を以て、調和と共存の理想を追ひ求めんことを。

 いづれの日か、獣人と人類とが真に手を携へ、繁栄と平和とを共に築き上ぐる時の到来せんことを、朕は誠心より祈念するものなり。

 朕らが今日この選択を為すは、明日の存続を期するがためにして、目下の妥協は永遠の栄光と繁栄とを招来せんがためなり。

 忠良なる臣民よ、朕と歩を同じうし、この国土に調和と共生との美しき画巻を描き示すべし。

 1013年」

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