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2-13 最後の日

 女の子たちがそろそろ起きるだろうと思って、十遊秤から出て「プレジデンシャルスイート」への帰り道を歩いてた。

 突然、また背後から魔法の殺気を感じたんだけど、さっき五人の魔法使いと対峙したばっかりだから、なんだかよくわからない――「ブレイの森には魔法使いなんていない」って言ってたのに。

「やっぱり、彼は強い。」

 赤髪の女子が手をひと振りして、紅葉がふわっと落ちて、黒い道に赤がひときわ目立った。

「ん?」

 僕は振り返った。

 でも、その赤はすぐに地面に吸い込まれて消えちゃって、ただ空気が少し震えてるだけで、あの瞬間があったことを証明してる感じだった。

 この感じ、どこかで知ってるな……

 この、殺気。

 そして、どうやら、肝臓を目標にした殺意のような……

 ……

 ?!

 ……

 フォアグラ。

 どんな世界の貴族でも好きな食べ物って、やっぱり食感が豊かで、独特な風味があって、しかも体にもいいっていうのがポイントなんだ。それがフォアグラ。

 フォアグラはめちゃくちゃ柔らかくて、食感が濃厚で、クリーミーでナッツっぽい味が広がる。色は深い茶色か、少し淡い茶色で、表面が滑らかで、口の中でスッと溶ける感じ。

 食べるときは、薄切りにしたり、小さく切ったりして、パンやクラッカーと一緒に食べることが多いんだけど、その味が本当に濃くて、ちょっとだけで満足できるんだ。クリーミーでナッツのような香り、少し甘みがあって、口の中でとろける感じが超いい。

 でも、実は一番おいしい食べ方は、何も足さず、そのままフォアグラの味をシンプルに楽しむことなんだ。

 フォアグラはガチョウの肝臓なんだけど、実はそんなに心配することじゃないんだよ。ガチョウにとって肝臓がなくても普通に生きていけるから。

 フォアグラは美味しいけど、ガチョウが生きるためには必須の器官じゃない。フォアグラはガチョウの肝臓に含まれる脂肪細胞が増えてできるもので、特別に飼育されてフォアグラに加工されない限り、ガチョウの肝臓はそんなに太ったりしない。

 だから、ガチョウには肝臓がなくても大丈夫だけど、人間にとって肝臓はめちゃくちゃ大事なんだ。

 肝臓はほぼすべての代謝に関わってるし、解毒したり、タンパク質作ったり、エネルギーを貯めたり、血液の成分を調整したりと、めちゃくちゃ重要な役割を果たしてる。もし肝臓を完全に失ったら、生きていける可能性はほとんどない。だいたい数日から数週間しか持たないし、その間に肝臓の機能がなくなると、黄疸とか肝性脳症とか、命に関わる病気がすぐに進行してくるんだ。

 たとえ元の世界の医療技術で肝移植ができるとしても、実際に肝臓を移植するのはかなりリスクが高い。拒絶反応や感染、出血、手術後の合併症なんかが起こる可能性があるし、移植する臓器がどこから来るか、どれだけぴったり合うかが成功のカギになる。だから、肝臓の健康を守るのがどれだけ大事か、ってのは言うまでもない。

 それで、フォアグラの話に戻ると、実はガチョウの肝臓ってすごくひどい脂肪肝なんだ。ガチョウは餌をどんどん詰め込まれて、そのせいで肝臓が栄養過多になって、脂肪細胞が肝臓にどんどん溜まっていくんだ。結局、肝臓の中が脂肪でいっぱいになって、ほとんどが油の塊みたいな状態になっちゃう。

「今日の朝ごはんは~チャンチャン~!手軽な缶詰フォアグラだ~よ~!」

「え、これ、今日リリラアンナのDIY朝ごはん?缶詰フォアグラなんて、どこで売ってんの?見たことないけど。」

「そうそう~!この余は寝るのが一番の趣味だけど、料理ぐらいはね、まあまあできるよ~」

「うんうん、確かにね!驚くほどおいしい!」

「デルガカナ、どう?」

「デルガカナ、好き。」

「良かった!!」

「セリホは食べないの?」グラウシュミはいつも僕のこと心配してくれる。

「脂肪たっぷり、コレステロール満載、カロリーも……やっぱいいや」

「それなら出て行って自分で用意しろ!今日のは缶詰フォアグラとパンだけだ。まったくさ、こんな良いもん出して招待してやってんのに、調子乗るなよな!」

「え、そんなに恐ろしいの……?」グラウシュミ、パンを持って手を止めてちょっとびっくりした顔してる。「じゃあ、私は…」

「フォアグラは血を補うから、少しなら大丈夫。あんまり気にしないで。でも、毎日食べ過ぎて、高脂血症、高血圧、高血糖になって、ついでに心臓もちょっとやられちゃって、『助けて』とか泣きながら甘えてくるやつとか見てみたい。」

「セリホ、セリホ。昨日、夜、どこ、行った?」デルガカナは僕を軽く引っ張て聞いてた。

「昨日の夜? どこって……君たちと一緒にいたじゃん?ほら、みんな倒れるように寝て、誰かいびきかいてたし。」

「でも、セリホ、目のここ、黒い。」デルガカナは指差しながら、「セリホ、昨日、何、してた?」

「あー、これね……」こっそり魔法で体力をごまかしつつ。「昨日は寝てたよ、普通に。」

「デルガカナ、昨日、セリホ、見て、ない。」

「寝てたっつーの。」

「でも、セリホ、体から、違う。匂いが、する。……月みたい。」

「月とか登れるわけないでしょ……」疲れた声を出しながら、「それ月に行くとか、宇宙開発とか工学とか人体とか心理学とか地質調査とか、めっちゃ色々必要になるんだ。今のそんな知識あるわけないし……」

「天才。」リリラアンナは横で皮肉たっぷりにポツリと呟いた。「似ているな……彼女に。」

 今日の目標はお土産を少し持って帰ること。リリラアンナにとって、手ぶらで帰るのはさすがに気が引ける。

 そして、彼女は今、店の前で目を光らせながらつぶやく。

「ふむ……家賃ちょっと高いけど、それ以外は悪くないわね。ちょっと電話番号メモっとくか……」

 その間に、グラウシュミがこっそり僕を脇に引っ張る。

「何かあったの、グラウシュミ?」

「セリホ。君、昨日何してたの?」

「何もしてないっつの。」鬢髪を少し巻き上げながら、眠そう。

「でもさ、そのクマ、全然ごまかせてないからね。」グラウシュミは真剣な顔で、「それに、なんか……体から嫌な気配がするんだけど。」

「それはほんと、何もしてないってば……」

 リリラアンナの嗜眠が伝染ったのか、やたら眠い。

「何でも隠せばいいってもんじゃないよ。もしかして、月系魔法の使い手に会った?」

「そんなことない。何でそうなる?」

「理由は分からないけど……ただ、セリホから……何か危ない感じがするの。それって私が昔、子供の頃に体験したのと似てる気がして……この前の前聞いた時のことに繋がって……」

「本当に大丈夫だよ。」

「まあ、何言っても意味ないのかもしれないけど……でも、こういうことに関しては、私にも知る権利があると思う。」

「……」

「しかも、魔力がもうほとんど残ってないじゃない?こんなこと、今までなかったでしょ。」

「それは、確かに……」

「昨日何したかは知らないけど、でもここでは、魔法で補充することができない……はぁ。お願いだから、自分の体を使い捨てみたいに扱わないでよ。」

「そんなことしても……」

 大きなあくびをした。それは疲労への自然な反応であり、心の諦めの気持ちの表れでもあった。

 現実の潜在的な危機は波のように絶えず押し寄せ、まるで終わることのないようであり、一つ一つ防いだり排除したりすることが難しかった。

「……言いたくないならいいよ。どうせ私の言うことなんて、聞き流すんだろうし。」

 グラウシュミは少し唇をかみしめた。

 一方、リリラアンナは軽やかに小さな曲を口ずさみながら、店内のスタッフに親しみを込めて手を振った。

「すみません~、まだどう呼んでいいのかわかりません~!」

「え?私ですか?私はコマンダと申します。」

 コマンダは少し戸惑いながらも、丁寧に自己紹介を続けた。リリラアンナが注目しているのを感じ、彼の姿勢はさらに真剣なものとなった。

「素晴らしい、コマンダさん。実は、こちらのエリアの不動産状況を視察するために訪れます。この場所に新たにチェーン店を開設することを検討しています。」

 リリラアンナの言葉に、コマンダは一瞬目を輝かせた。ビジネスチャンスをしっかりと捉えたことがわかる。

 突然、自己紹介をまだ行っていなかったことに気づき、コマンダは顔を赤らめながら続けて尋ねた。

「申し訳ありません、先ほどお名前をお伺いするのを忘れておりましたが、リリラアンナ様、ご苗字はどのようにお呼びすればよろしいでしょうか?」

「リリラアンナで結構です。長々しいことは必要ありません。」

 リリラアンナは少し自嘲気味に笑いながら言った。

 その笑顔の裏には、忙しさとストレスがにじみ出ているようにも感じられた。

「お話しできて光栄です、リリラアンナ様。それでは、賃貸物件をご検討いただくにあたり、特にご重視されている点やご希望事項があれば、お聞かせいただけますか?」

 コマンダはリリラアンナのニーズをきちんと理解したいと考え、彼女の意見を聞く姿勢を強調した。

「まず最も重要なのは、安全面です。24時間のセキュリティが確保されていて、飲食業を展開するに適した場所を探しています。」

 リリラアンナの言葉には明確な意志が感じられ、コマンダはそのリクエストに確実に答えなければならないと感じた。

「おっしゃる通りです。こちらの商業用不動産はすべて、24時間体制の警備が整っており、繁華街に位置しているため、人通りも非常に多く、周辺の住民や通行人も比較的親しみやすい環境です。リリラアンナ様が新しい店舗をここにオープンするご予定ですね?」

 コマンダはリリラアンナが求める安全性と立地を兼ね備えた物件を提案できる自信を持っていた。

「はい、そうです!」

 リリラアンナは即答し、興奮したように言った。その表情から、彼女がどれほどこのプロジェクトに期待をかけているかが伝わってきた。

「承知しました、リリラアンナ様。こちらには、貴社の安全要件を満たし、且つ立地が非常に優れた物件がいくつかございます。」

 コマンダは資料を取り出しながら続けた。

「例えば、この物件は商業街の中心部に位置しており、大型ショッピングセンターやオフィスビル、さらに住宅街が周囲に広がっているため、安定した集客が見込まれます。また、施設内には十分な排煙システムと消防設備が整っており、飲食店の開設基準を満たしています。」

 資料を一枚一枚リリラアンナに手渡しながら、コマンダは熱心に説明を続けた。

「ご覧の通り、この物件は面積も適切で、天井の高さや空間のレイアウトも柔軟に対応可能ですので、リリラアンナ様のレストランブランドのコンセプトに合わせた内装デザインが可能です。また、賃料については、複数のプランを用意しており、チェーン店のご入居には特別な割引もご提供させていただきます。」

 資料の詳細に目を通しながら、コマンダはしっかりとリリラアンナの反応を確認していた。

「でも、このエリアもいいと思う。あそこも悪くないね。」

「ああ、一般のお客様におかれましては確かにこちらがよろしいかと存じます。ただし、こちらのエリアの周辺には、私どもとしましては詳細をお伝えできかねる危険な要素がございますため、あまりご案内差し上げられないのが実情でございます。」

「そっか。」

 リリラアンナは資料を受け取ると、ひとつひとつ詳細に目を通し、満足そうに頷いた。

「こちらでは商業プランや安全管理が非常にしっかりしていることがよくわかります。」

 その言葉に、コマンダはホッと胸を撫で下ろした。

「実際に物件内外を見学したいと思いますが、見学の手配は可能でしょうか?」

「もちろんです。今すぐに本日の見学の時間を手配いたします。見学後、さらに詳細なご質問があれば、何でもお答えいたします。」

 眠気が何度も襲ってくる中、僕は無意識に昨夜の帰り道で拾った紅葉を手で弄びながら、昨夜の突如として起きた出来事をぼんやりと思い返していた。

「おい、死鬼!起!き!ろ!この二つ、どっちがいいと思う?場所とか条件はほぼ同じで、どっちもコスパ高いんだけど……」

「え……僕に選べって?知らんがな……不動産屋でもないし……どっちも同じに見える……」

 声にはまるで気力がない。夜更かしはもう限界だ。魔法を大量に解析して対抗するのは頭を使いすぎるし、システムとの戦いはさらに消耗が激しい。

 ……

 もう完全に老人になっちゃったな……

 今でも使用されている下水道をひっそりと抜け出し、夕陽に染まる紅葉の山へと戻った。ファンレンカゴウ\をリリラアンナに任せるのは不安しかないので、慎重に考えた結果、デルガカナに託すことにした。

 さすがデルガカナ、景色を楽しむ時間を全て省き、半日足らずで元の国に帰還した。

「お前、毎回デルガカナを連れてくのって、道に迷うのが怖いのかな?」

「これ言うと、面白いのかな?」

 リリラアンナは僕を振り返りながら、勢いよく歩を進めた。その瞬間、ゴンッという鋭い音が響き、彼女の後頭部が見事にカフェの前に立つ古いプラタナスの木に激突した。

「いてっ、なんだこれ、クソ痛ぇ!」

「どうやら月は君にあまり優しくないようだな。」

「ふん!そうかもね!でもさっき、月光に導かれてる気がしたんだけど、じゃあ、デルガカナ!月ってなんで光るんだと思う?」

「デルガカナ、月が光る理由、分からない。」

 ……

「グラウシュミは?」

「月はね、夜道を歩く人たちを照らしたいって。」

「セリホは?」

「……あ?」

「なーにボケっとしてんだよ!」

「あぁ、えっと……月が光るのは、反射の効果だ。簡単に言うと、昼間あんなに強い光を放つ恒星、つまり太陽の光が、夜になると月に届いて、その光が月の表面で反射されるんだ。月の表面は岩石や塵、土壌で構成されていて、反射率は地域によって7%から17%くらい変わる。それが地球に届いて……」

「もういい!誰もそこまで聞いてないのになんで勝手に説明してんだよ……それよりお前、大通りの真ん中で倒れ込んで寝るな!余より眠たがりじゃねぇか!」

「これは……生理現象だ……」

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