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2-12 兆候初呈(2)

 もし今日寝ているこのボロボロの部屋を「プレジデンシャルスイート」だと呼ぶなら、工場労働者たちの住まいはトイレも同然だ。

 部屋は古くて狭く、レイアウトはぎゅうぎゅう詰め。

 窓は錆びついて通気性も最悪で、陽の光も新鮮な空気もほとんど入ってこない。

 室内は埃だらけで汚れもひどい。そんな狭い空間に一人ではなく、たいていは家族全員が押し込められて暮らしている。ベッドなどほとんどなく、床に寝るか、あるいは小さなベッドに無理やり身を寄せ合って眠るしかない。

 衛生設備もほとんど整っていないため、人々は街角で用を足すしかなく、そのせいで街全体が臭気に覆われ、病原菌も無数に繁殖している。

 こんな状況でも、さらにひどい環境で暮らしている人たちがいる。

 彼らは窓もなく、日光も差し込まない地下室に住まざるを得ない。そこではゴミや汚水が自由に流れ込み、腐敗して耐えがたい悪臭を放っている。

 地下室には空気の流れがまったくなく、臭気がこもりやすい。廃棄物や汚水はあちこちに溜まり、やがて害虫や病原菌の温床となって、さまざまな伝染病を広げていく。

 さらに、湿気と暗さが常にまとわりつき、リウマチや慢性病が人々を長く苦しめている。

「ほんと、湿気がひどいな。」

 今の状況は以前よりだいぶ良くなったとはいえ、それでもまだ多くの問題が残っている。

 地下室に足を踏み入れた瞬間、慣れきっているはずの不快感が一気に押し寄せてきた。花系魔法の防御ですら防ぎきれないほどの衝撃だった。

 鉄の檻ではない。だが、それよりもひどい。

 森が必ずしも自由の象徴ではないのと同じように。

 誰かが僕の横を通り過ぎ、鍵を回してドアを開ける。直後、嫌な顔をしながら麻袋を急いで引きずっていった。——中身は、おそらくリウマチで死んだ肉だろう。

 こんな病気はここでは本当にありふれていて、魔法で治すことなどほとんどできない。治療の機会も力もなく、仮に治したとしても、結局は再び苦しむだけなのだ。

 その人は悲しむ様子もまったく見せず、麻袋を外へ投げ捨てると、手を払ってさっさと用を済ませ、暗闇の中へと消えていった。

 見た目はただの静かな観察者にすぎないかもしれない。けれど、実際にはずっと魔法を使って、こっそり状況を変えようとしていた。ここでの悪い状況を放っておくなんて、どうしてもできなかったからだ。

 だが、個人の力など本当に小さいもので、世界全体にとってはほとんど意味を持たない。新しいものと古いものが入れ替わったところで、大きな影響があるわけではない。

 壊れたレンガが取り替えられるのと同じ、当たり前のことなのだ。

 世の中のすべてが、同じ冷酷な論理に従っているように思える。——使い捨ての機械が壊れれば、修理するより捨てる方が選ばれる。

 でも、それって……少し、悲しくない?

 地下室を離れた。何度も歩いた道を、変わらず進んでいると、突然、鋭い殺気が走った。

「……?」

 疑問が心に浮かぶより早く、長年の経験が反射的に身体を守りへと導く。

 防御を整えた瞬間、五つの黒い影が鬼のように四方から現れ、僕を囲んだ。

 全員が黒いフードに身を包み、ぴったりとした黒衣に顔を覆う布。露わになっているのは冷たい目だけで、その光だけが闇に浮かび上がっている。

 リーダーらしき人物が手を振ると、黒い風の刃が鋭く飛び、空気を裂く「ズズッ」という音が耳を刺した。

 僕は目を細め、慌てずに体を横へ素早く滑らせる。風の刃は裾をかすめて通り過ぎ、背後の壁にぶつかって土埃と小石を弾き飛ばした。

 その瞬間、他の二人が同時に動き出す。

 一人は掌から青白い氷の結晶を次々と放ち、流星のように降り注がせた。

 もう一人は呪文を唱え、地面から鋭い氷の突起を一気に突き出して、足元を貫こうとしてきた。

 体の中で魔力がうねるのを感じながら、足を地面に軽く踏みしめ、風の力でアイスの結晶をかわし、近くの家に絡みついている太い緑のツタを操って、一番近い二人に向かって一気に巻きつけた。

 その二人は驚いた顔をして必死に抵抗したが、ツタはますます強く締めつけ、やがて動けなくなり、ただ無駄に呻き声を上げるだけだった。さらに力を込めて絞ると、二人は意識を失って倒れた。

 残りの者たちはその様子を見て、次々に手を上げた。すると、このエリアの空に雪が舞い始め、急激に気温が下がり、冷たい気配が僕を包み込んだ。

 だが、この雪はただの雪ではなかった。それぞれの雪片が鋭い刃のように、魔力を帯びて降り注いできた。油断せず、僕は最も近い一人に向かって飛び込んだ。相手は、僕が雪を突破して近づくのを見て焦った表情を浮かべ、慌てて手を挙げ、いくつもの風刃を放った。

 それらを軽やかに避け、刀を抜き、刀背でその男の首筋を叩いた。男は呻き声を上げ、数歩よろめいたのち、地面に崩れ落ちた。

 同じ方法でもう一人を倒した後、最後の黒衣の男が僕の背後に回り込み、手に大きな氷の塊を作り出し、思い切り僕の後頭部めがけて投げつけてきた。

 しかし、長年の戦いの経験から、僕は背後の危険をすぐに察知した。すばやく腰を落とし、頭を低くすると、氷の塊は髪をかすめて飛び去り、隣の地面にぶつかって砕け散った。

 その勢いのまま、一気に体を滑らせるようにして男の足首を狙い、堂々と払うように蹴った。男は足元を崩され、バランスを失ってその場に倒れ込む。すぐさま前に飛び込み、片手で喉を押さえ、もう一方の手で軽く叩いた。こうして、五人全員を昏倒させた。

 やがて周囲は静まり返った。残っている魔力を鑑定してみると、彼らの魔力はほとんど残っておらず、ここに生きている意味すら薄いように感じられた。目を覚ます頃には完全に魔力が尽きているだろう。

 もはや獣人たちにとって脅威となることはない。

 それから、魔力を少し削りながら先の戦場を片付け終えた頃、背後から思いがけない声が聞こえた。

「恩人……?」

「秤?」

「恩人、また来てくれたんか……せやけど、この人らは……?」

「敵だ。ここに捕虜を収容できる場所はあるか? こいつらはさっき僕に不意打ちしてきたが、もう脅威はない。今は魔力も尽きているから、どこかで口を割らせられるといいんだが……」

「あるある。絶対に手を回すで。」

「ついでに、話したいことがある。」

「なんや、恩人?」

 僕は声をひそめて言った。

「ここには、ちょっと変わった魔法が広がっている。僕の理解を超えたもので、しかも最近は、その割合がどんどん増えている気がして……なんだか、あまり良くない予感がするんだ。」

「わかった。」彼はうなずいて、「ほんで、次は……」

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