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1-4 僕、精霊を仲間にする(1)

 そのとき、システムの画面に通知が浮かび上がる。

【判定結果:スライムは無傷】

【特性:火属性に対する魔法耐性が上昇】

 そうだ、忘れてた!スライムはほぼ水でできてるから、火には耐性がある!ふぅ、危なかった。

 でも、この火の魔法、威力はともかく見た目が派手で牽制には使えそうだな!

 ……ん? スライム、ちっちゃくなってない?

 てか、震えてる?え、ええ?!泣くなよ……!

「なんだこれ……」

 スライムを置いていこうか――そんな考えが頭をよぎった時、突然、スライムの体の内部に、不自然な影が浮かび上がる。

 それは……細く、鋭く、きらりと光る金属。

 ナイフだ。

「……え?」

 その刃先が、柔らかく揺れるスライム自分の身体へと向かっていく。

「やめろって!!」

 反射的に花系魔法を使って、蔓を伸ばし、ナイフを強引に弾き飛ばす。

 刃が転がり、スライムは小刻みに震えながら縮こまった。急いで手をかざし、回復魔法をかけて、淡い緑の光がそっとスライムを包み込んだ。

「ぴゅるぴゅる……ぴゅるぴゅるぴゅるぴゅる……」

「システム、翻訳頼む……え、ついてきたい?いや、無理だって……」

「ぴゅるぴゅるぴゅるぴゅる!」

「負けを認めるってことか?いいけど契約が必要……って、もう同意してるのか?抵抗もしないの?」

 スティヴァリの森、12時、日中。

 太陽の光が木の葉の間からちらちらと差し込み、草むらや背の高い木に柔らかい斑模様を描いていた。森の中はほのかに花と木の香りが漂い、そよ風が枝を揺らして「カサ……カサ……」と優しく葉擦れの音を奏でている。

「ぴゅる?」

「お腹が空いたのか?ああ、そういえば、君の食べ物の好み、まだ聞いてなかったな。」

「ぴゅるぴゅる……」

「ただの水でいいのか?それなら、向こうの川で飲めばいいんじゃない?」

 けれど、スライムはぷるぷると小さく震えながら、わずかに体を引っ込めた。

「……あれ?川の水、嫌いなのか?」

 仕方がない。

 僕は魔法で氷を作り出してみた。

 するとスライムがそれに飛び乗って、パクパクと食べ始め、「ぴゅるぴゅる!」と嬉しそうな声を上げた。

「……溶かして飲ませるつもりだったんだけど。」

 さて、精霊に名前をつけるのは、けっこう大事なことだ。

 名前はその精霊の「第一印象」を決定づけるものだから、「刺身」とか「スイカ」とか「ワンワン」なんて、適当には呼べない。

 だから僕は、スライム自身に名前を選ばせることにした。

「契約も結んだし、君はどんな名前がいい?」

 スライムは「ぴゅるぴゅる!」と元気よく鳴いた。

「……僕に任せるの?変な名前をつけられるかもしれないんだぞ?」

「ぴゅるぴゅるぴゅる!ぴゅるぴゅるぴゅるぴゅるぴゅるぴゅるぴゅる!」

 スライムは、意外にも真剣な様子で応えた。

 それから、少し頭を下げて、「ぴゅるぴゅるぴゅるぴゅる……ぴゅるぴゅる、ぴゅるぴゅる……」と、どこか寂しそうに鳴いた。

 その声は、はっきりと僕の心に届いた。

「どんな名前でもいいから……お願い、見捨てないで……」

「なるほど……過去に何があったんだ?」

「気づいたときには、見知らぬ場所にいて。湿っぽくて、暗くて……もう、うんざりするほどでした。そこに誰かが来ては、私をケージに閉じ込めては去っていって……毎日、やましい気持ちばかりで……」

 僕は黙って耳を傾け続けた。

「捨てられて……ひとりにされて……一度だけ、優しい人が私を救ってくれたんです。それなのに、またすぐに捨てられてしまって……私が弱すぎたから!全て私のせいです!!こんな私がこの世界に生き残って……意味が、ない……」

「……そうか。つらかったな……じゃあ、君の名前は――『ヴィーナ』だ。」

「『ヴィーナ』……はい、覚えました、主人。」

 精霊と主人の契約は絶対であり、一度契約を結べば、明確な主従関係が成立する。

 ただし、主人が死亡すると契約は無効となり、その後は精霊が従うことはない。

 この契約関係は、精霊と人間の間に限らず、人と人の間でも成立する。

 この世界では、そうした契約は比較的一般的なものだ。

 前世の歴史で言えば、ちょうどコロンブスが新大陸を発見する以前の時代で、契約という概念が重視されているのも、この世界の構造からすれば当然のことだ。

 この魔法の世界において、精霊との契約方法は大きく二つに分けられる。

 ひとつは、戦いの中で相手を限界まで追い詰め、力で服従させる方法。

 もうひとつは、精霊が自ら心を開き、進んで従おうとする方法である。

 もっとも、後者――精霊が自ら心を開いて従う方法――は、現実にはほとんど実現しない。

 どの世界でも「強者こそが支配する」という法則が深く根付いているからだ。

 精霊が心から服従するには、主人がそれにふさわしいだけの実力とリーダーシップを持っていなければならない。

 つまり、ただ力があるだけでは足りない。知恵と器量、そして信頼に足る人格が必要とされる。

 そうした自然な関係が築かれるまでの道のりは、決して短くはない。

 むしろ、多くの精霊にとっては、適切な主人に出会えること自体が奇跡に等しい。

 知恵ある精霊なら、価値のない主に縛られるくらいなら、迷わず逃げ出すだろう。

 ……だが、ヴィーナは少し特別だ。

「システム。」

「お待ちしておりました。ご質問は、『収復した精霊の扱い』についてでよろしいですね?精霊の管理方法、あるいは用途に関してでしょうか? もう少し詳しくお知らせいただければ、より的確な回答が可能です。」

「……なかなか賢いじゃないか。じゃあ、教えてくれ。」

「はい。収復した精霊は、持ち主の判断で『保管状態』にしておくことも可能です。必要なときに名前を呼ぶことで、精霊は自動的に召喚されます。また、常時身の回りに展開し、共に行動させることも可能です。」

「なるほど。日常生活では、呼んだときだけ出てきてもらうか?スライムを連れ歩いていたら、目立ちすぎて困るから。」

「あの……スライム一匹だけで戻るおつもりですか?」

「……今ちょっと煽ったろ?」

「いえ、決してそのような意図では。ただ――この新たに収復された『特殊個体』が、戦闘や支援でどれほど役立つか、一度試しておく価値はあるかと。」

「ふーん……理屈は分かる。でもな、もしヴィーナが死んだり、逆に相手を殺しちまったら?リスクのほうがデカいだろ?」

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