2-11 都会生活(2)
「工場で働くリスクを取る必要はないと思う。」
そう言いながら、空気を浄化する魔法の強度を上げた。
「厳しい監視員と、労働者から残りの価値を絞り取る資本家を相手にすることになったら、そこから抜け出すのはまるで虎口を逃れるようなものだ。
それに、こんな環境で攻撃魔法を使えば、内部で衝突が起きるだけでなく、国際問題に発展する可能性もある。ここにいる資本家は各国から来ているかもしれない。」
「そう。でも一番大事なのは、まだ使える下水道が見つかっていないことね。」リリラアンナが言った。
「分かった!」グラウシュミが手を挙げた。「工場に入らないなら、工場で働いている人たちに聞こう!」
「どういう意味?」
「工場で働いている人たちの労働状況を直接聞き取って、記録を取り、後で報告書にまとめて提出する、ということだ。」グラウシュミは慎重に言った。
「あの獣人たちはみんな痩せこけてるし、パンを少しあげてインタビューすれば問題ないでしょう?パンなら余ってるし。」
……
「もう来たのか。」アシミリアン先生は、どうやら予測していたようだった。
窓は開いていて、机の上にはブレウッズから届いた四枚の紙がきちんと並べられていた——灰の積もった紙だった。
「機械音が極めて大きく、常時騒音にさらされている。私たちと同年代と思われる獣人の子どもたちは、織機のそばに座り、大きな糸巻きから糸を引き出し、それを機械の小さな穴に通して再度巻き取りに巻き付ける作業を行っている。集中を欠くと糸が切れ、機械が停止するため、その際には監督から叱責を受け、時には暴力を振るわれることもある。
こうした作業を日々繰り返すことで、子どもたちの指は痛みやしびれを訴えているが、作業を中断することは許されない。周囲の子どもたちも疲労困憊し、苦痛の表情を浮かべ、指や手には傷やあざが確認される。作業は単調で過酷であり、労働環境はきわめて劣悪である。」
アシミリアン先生は次の報告書を手に取った。
「機械の隣に原材料を配置し、製品を回収するという作業は日常的である。しかしながら、その背後には常に重大な危険が潜んでいる!わずかな不注意で指が機械に挟まれ、瞬時に切断される事例が後を絶たない!
「……」
「工場内は、騒音と粉塵が混じり合い、ただ耳障りで不快なだけの空間であった。周囲の音は遮断され、労働者たちは耳を塞がれた哀れな人形のように動かされている。視界は粉塵で曇り、目は赤く腫れ上がり、痛みを訴える――もっとも、余が花系魔法を用いていなければ到底耐えられる場所ではないが。
そもそも、十二時間以上もの無休労働を課し、休憩すら認めぬ環境を『労働』と呼ぶこと自体、愚かしい、愚かすぎ!!二交代制による搾取など、劣悪を通り越して滑稽である。
空気中の綿埃と粉塵は、無意味に渦を巻き上げ、まるで我々を試すかのように目や鼻へと侵入する。咳やくしゃみは絶えず、衣服はすぐに汚れ、破れ、見るに堪えない有様になる。何もかもが無駄で、価値など欠片もない。この工場は「迷宮」などという大げさな表現すらも勿体なく、単なる低俗な牢獄にすぎない。~」
「……こんな報告書、読む時間すら惜しい。」
「…糸を、機械に、通して、布を、作る。
目が、ぼやけてきて、ずっと、立ってる、足も、痛い。工場は、重くて、悲しい、感じ。
大人たちは、黙って、働いて、誰も、話さない。
機械の音と、みんなの息の音だけ、聞こえる。
すごく、うるさくて、頭が、痛い。
笑うも、なく、ただ、ずっと、働いて、体と、心が、疲れて、しんどい。」
「最後に、もう一人の報告を確認してみよう。」
——「以下は、ブレウッズにおける生活の一側面に関する観察記録です。ここでは死すらも日常の一部として存在しており、その現実は極めて深刻です。
調査中、ある子供工員が突如として倒れる事例を確認しました。倒れる前に明確な予兆はなく、周囲で共に働いていた工員たちは作業を続け、特段の反応を示しませんでした。これは冷淡さによるものではなく、彼ら自身が過酷な環境に慣れ切り、異常を「日常」として受け入れざるを得なくなっていることを示していると考えられます。
倒れた子供工員は力なく運ばれ、やがて道路上に放置されました。その後、通りかかった馬車が何の躊躇もなくその身体を踏み越え、尊厳までもが奪われました。このように、街路には日々、苦しみの中で命を落とした労働者が打ち捨てられ、無数の無名の命が顧みられることなく消えていく現状があります。
観察者として、僕はその場で救助の可能性を理解していました。しかし、この劣悪な環境下で命を延命させても、再び非人道的な労働に従事させられることは避けられず、それは別の形の苦痛を意味します。街中でこうした「使い捨てられた命」が常態化している現実を前に、僕は深い苦悩と矛盾の中で判断を迫られました。無理に延命措置を講じるのではなく、むしろ彼に安らぎの解放が訪れることを願うしかありませんでした。この判断が正しいのかどうかは、今も答えを持ち得ていません。
根本的な要因は、支配階層の姿勢にあります。貴族たちは労働者を機械の一部のように扱い、人間性を無視し、生産性のみを追求しています。機械の安全や維持にすら関心を示さず、労働者は単なる消耗品として扱われています。長時間労働と命を軽視する姿勢のもと、労働者は過度の疲労と安全性の欠如にさらされ、まるで無機質な道具のように搾取されています。これが現場で確認された唯一の現実であり、あまりにも多くの人々がこの不正義の犠牲となっています。
このような状況に直面したとき、僕たちには別の選択肢があるはずです。特に子供たちに対して、これ以上の苦痛や過度の負担を課すことは決して許されません。彼らには教育と健全な生活環境を提供し、将来を切り開く機会を保障することが求められます。僕たちの責任は、子供たちが自らの夢を追い求められる社会を築くことです。
そのためには、まず労働環境の改善が急務です。労働者の身体と健康を守るため、安全管理体制を強化する必要があります。また、適切な休息時間と福利厚生を導入し、労働の負担を軽減することが不可欠です。特に、一日十二時間労働の二交代制は明らかな搾取であり、早急に是正されなければなりません。
しかし、最も重要なのは児童労働を廃止することです。すべての子供が教育を受け、子供としての権利を享受できる社会を実現することが不可欠です。
以上が、現地で得られた非公式な報告です。なお、今回の研修課題として、改めて公式な報告書を提出する予定です。」