2-10 工業都会(2)
森の川も真っ黒に汚れ、浮かぶゴミや廃棄物が目立つ。
高層ビルが金色に輝いている一方で、多くの獣人たちは低く湿った家や、暗く狭い地下室に暮らしているのだ。
周囲は汚れと散乱で荒れ果てていた。
壁には厚く積もった埃と汚れがこびりつき、窓ガラスにも層のように埃が重なって、光をほとんど通さない。
隠れた場所には、路上で物乞いをする獣人や、廃墟の中で眠る者たちの姿もあった。
絶え間なく響く機械の駆動音、電流のハム音、人々のざわめき。
それらが混ざり合い、空気中の汚染物質は呼吸器をむしばみ病気を引き起こし、途切れることのない騒音は人々の心をもすり減らしていく。
――これこそが、ブレウッズの本当の姿だ。
システムで鑑定するまでもない。目で見ただけで、その厳しさと困難はありありと感じ取れる。
システムは、僕が初めてここに来たとき、現状を忠実に報告してくれた:
「これは最良の時代であると同時に、最悪の時代でもございます。
これは賢明の時代であると同時に、愚昧の時代でもございます。
これは信頼の時代であると同時に、疑念の時代でもございます。
これは光の季節であると同時に、暗黒の季節でもございます。
これは希望の春であると同時に、失望の冬でもございます。
人々はすべてを持ちながら、同時に何も持たぬ状況にございます。
人々は天国への道を歩みながら、地獄の門へと向かっているのでございます。」
「おい、死鬼!さっさと話せ!早く死ぬつもりなら、グダグダ言う前に吐けよ!過去のことなんてどうでもいい!後片付けはきっちりやっとくからな!」
「君たち、花系魔法を全開にして来なさい。」
魔法の通信を切って、足元を見下ろした。
「まったく……」
「産業革命だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!」
リリラアンナ――このクソお笑いキャラは迷いもなくデルガカナをグラウシュミに投げ捨て、真っ先に突っ込んでいった。
結果、その光に真正面からぶつかり、視界が一瞬で真っ白になった。ブレーキも間に合わず、落ちかけたが――幸い、あのゴキブリみたいなしぶとい生命力のおかげで、なんとか危機を乗り越えた。
やっと視力が戻り、目をパッチリ開けた瞬間、正気が戻る。
「あ~クソ~!これ、第一次産業革命だ!!!あ!!歴史なんて何も覚えてなかったけど、ここで本物を見ちゃったよ!紡績機!足を解放する紡績機!!まさか、まさか、まさか!!本当に本物だ、間違いない、現実だ!
セスタンダル!!本当にクソだな!てめぇ死ね!!」
「まだ歴史のことを考えてる。ただのシミュレーションの記憶なのに。」
「当たり前だろ!さっき話してたじゃん?お前にあんな感じで軽く触られたら、頭が急にポンポン膨らんでさ。
あの高校時代の苦労した三年間――必死に覚えた本の知識を全然試験で活かせなかったあの痛みが!うわぁ!って蘇ってきて!もう止まらなくて!結局、落ちてくしかないんだよ、ああ、まじで……」
「ポジティブに考えて。テストがダメでも死ぬし、楽しんでも死ぬんだし、人間はどっちみち死ぬんだから。ステーキでもスイカでも、どうせ切られるなら……テストがダメでも、楽しみながら切り分けられたほうがいいでしょ?」
「ステーキ(莫辞遐)ね?だったら今すぐその場で自分を切って、ほら、やってみせてくれ。はい、ナイフ。」
グラウシュミはデルガカナを見守りながら、闇の中で少し探したあと、ようやくこちらにやって来た。日光に当たったとき、少し違和感を覚えたが、それは自然なことだった。
「…ううん。臭い。」デルガカナが目を覚ました。
「え?セリホ?どうして笑ってるの?」
「どうぞ。」魔法で鏡を取り出した。
「あ、……!誰がデルガカナに、こんな……」デルガカナの表情は赤く染まった。
「グラウシュミだ。」リリラアンナがすぐに言った。
「リリラアンナのお掛けて——」グラウシュミが答えた。
「え、えぇ……誰?一体誰だ!誰がデルガカナにそんなひどいことをしたの?教えて!あ、まさか君——」
「リリラアンナだよ。」グラウシュミは断言した。
「え?嘘つき!全然違う!余を信じて、絶対にグラウシュミだ。」デルガカナが言った。
「なんで私?他人の顔に落書きするタイプに見えるか?」
「間違っていて、間接的で、偽りで、俗っぽくて、主観的で、不完全で、平面的で、片手落ちで、孤立していて、話が全然関係なくて、何の痛みもない……こういう人が一番得意なのは、豚になりきって虎を食うことだ……」
「認めればいいのに、リリラアンナ!デルガカナは飛べるわけでもないし、君の手足を折るわけでもないだろう?今のデルガカナは、絶対に君にそんなことしないって。認めればいいのに……」
「え?え?デルガカナ、理解、できない……」デルガカナは泣きながら顔を揉み、真っ白な顔が水墨画のようにぼやけ、目の隅には紅い涙が混じっていた。
「デルガカナ、分からない……また、また……うう……みんなに、嫌われて……」
「へぇ?!」
「いや、これ……まずいまずい……」
「泣かないで、泣かないで、デルガカナ。顔が壊れたわけじゃないんだよ、ただのいたずらだから。ほんのちょっとした遊びだよ。
みんな君のことが大好きだから、こうやって少しからかってるだけなんだ。そして、君が悲しんでるのを見ると、僕たちも心配になる。だから、ほんの冗談くらいで泣かないで。」
僕は魔法を使ってデルガカナを元通りにした。
「ほら、すぐに元に戻ったね?ほらほら。」
「え……デルガカナ、本当に、嫌われて、ない?」
デルガカナの顔は元に戻ったものの、目はまだ涙で濡れていた。——これじゃ、魔法で復元したアイラインがまた崩れちゃう。
どうしよう、こんなことで泣かせるなんて本当にダメだな。
「ほんとうにそんなわけないよ。これは冗談だよ。仲のいい人じゃないと、こんな冗談言わないし……でも、ちょっとやりすぎたかも。うっかりして彼女たちから目を離しちゃって、そんなことになったんだ。ごめん。本当に。」
「……うん。デルガカナ、分かった。」デルガカナは涙を引っ込めた。
「デルガカナ、嫌われて、ない。」
「そうだよ。」
「でも、デルガカナ、ひとつ、問題、ある。」
「うん? なに?」
「ここは、どこ?あれ、おうち、じゃないの?どうして、あんなに、動くの?それに、どうして、道に、こんなに、大きなものが、いっぱい、ある?お花、とか、木、とか、ぜんぜん、見ない。それに、すごく、臭い。」
彼女は鼻を押さえた。
「ここは都会だ。」
僕は言った。
「本当のブレウッズへ、ようこそ。」