2-9 大学受験(4)
話に入れなかったデルガカナが、何か珍しいものを見つけたらしくグラウシュミを呼んだ。
「グラウシュミ、あの、渦、もしかして、あの、下水道?」
「どれどれ?」グラウシュミが身を乗り出す。「見えないけど、ここ地面じゃないの?」
「ほら、ほら、見て、あそこ。」
デルガカナがグラウシュミの服を引っ張った。
「あれ、か?」
「何?」
一瞬、僕とリリラアンナも思わず立ち上がった。
「君たち二人はそのままおしゃべりを続けてて。デルガカナとちょっと見てくる。」
グラウシュミはファンレンカゴウから飛び降りた。
「さて、デルガカナ、どこだ? あんまりよく見えないんだけど……」
「デルガカナ、案内する。」
デルガカナもファンレンカゴウから飛び降りる。
リリラアンナと視線を交わし、地面のこすれる音で目を覚ましたファンレンカゴウに待機するよう指示してから、僕らもそっと後を追った。
デルガカナはグラウシュミを山のふもとの平らな場所へ連れて行き、
「ここ、だ。グラウシュミ、ちょっと、ここに、立って。」
「え?いいけど。」
「じゃあ、デルガカナ、始め!」
そう言うと、デルガカナは僕が渡した刀を抜き、一気に跳び上がった。
刀は空中で瞬時に槍へと変形し、風系魔法を纏わせたデルガカナが、すごい勢いでグラウシュミの横へ叩きつけた。
「デルガカナ何してるの!?」
グラウシュミはすぐに飛びのいたが、槍は彼女が立っていた場所ではなく、少し横の地面に突き刺さった。
それでも衝撃はすさまじく、地面が大きく割れて、その下からきらきらと光る水面が現れた。
「デルガカナ、質問。デルガカナ、どうしたの?」
デルガカナは首をかしげ、手を振って槍を収め、それを再び刀の形に戻した。
「デルガカナ、ただ、入口を、見つけた、だけ……」
そして真顔になって続けた。
「デルガカナは、もう、みんなを、害したり、しない。」
「疑ってなんかいないよ!」
「みんな、デルガカナに、一人で、やらせて。だから、武器を、抜かないで……うっ!」
ファンレンカゴウが追いついたとき、デルガカナはすでに大きな鉄板の空き地を空気の中にさらけ出していた。
いわゆる「力こそ奇跡」というのはこういう単純なことだ。
別に僕たちが手伝いたくなかったわけではなく、デルガカナが自ら進んで僕たちを制止したのだ。
「この場所は、ぜんぶ、デルガカナに、任せて。デルガカナが、みんなの、ために、さっと、片付ける、から。」
たしかにファンレンカゴウのほうが、もっと速く掘れるかもしれない。
でも彼女の速度もなかなかのもので、あっという間に片付けてしまった。
「ほんとに、大丈夫。デルガカナは、小さい、ころから、ずっと、こういうことを、して、きた。だから、デルガカナに、任せて。ほんとに、それでいい!」
「なんか今日のデルガカナ、ちょっと変じゃない?」
リリラアンナを少し引き寄せて、「急に自分の力をアピールしてる感じがするけど、どうしたんだ?」
「まだ理由を聞くの?人情でも羅刹に食われちゃった?」
「羅刹はまだ生まれてないから、勝手に言わないで。トラブルを起こさないようにしなさい。」
「慈悲深く教えてあげるよ。
見てみな、この四人パーティー。お前はアタッカーで敵をどんどん倒す、余はダメージを受ける役、グラウシュミはヒーラー。じゃあデルガカナは?
一応サブアタッカーなのに、お前が目立ってるし、ダメージも受けられないし、回復もできない。普段は何もしないで、ご飯食べてるだけ?そりゃ、やる気なくすだろ。だから、少しくらいチャンスをあげなきゃ。」
「でも、それもちょっと……」
「これは完全に自発的にやってることだ、もう鑑定済み。でも根本的には、孤立したくないだけだ。」
「降りてきて、セリホ!」グラウシュミが呼んだ。
「さっき魔法であの変な臭いを追い払ったから、もう問題ないはずだよ。」
「いや、問題はこの荷物の山だ。」
山のように積み上がった荷物を指差す。
「余だって、ただ飯を食ってるだけじゃない。」
「じゃあ全部片付けてあげるよ、リリ。ついでにお土産を入れる空のスーツケースも用意してね。」
「頭を殴る気か!?バカヤロー!」
「体調が悪いなら、漢方薬でも飲んで整えたらどう?」
「余の記憶には、少し鍼灸の知識がある……」
「まさか雅語の授業で自習したの?」
下水道に入った。
「よくわかってるな。もしかして、お前もやったことある?」
「以前の経験から推測したの。」
グラウシュミが空気を浄化したけれど、臭いはまだ残っている。
壁にはキノコやツタが生えていて、ポタポタと水滴の落ちる音が絶えず響く。
ペンキも剥がれ落ち、湿気が空気に漂っている。
このしつこい湿気は、花系魔法では簡単に払えないけれど……
――炎なら、できる。
こんな悪環境では生命力を奪われることもあるけど、花系魔法はその力を戦いに変えられる!
たとえ水中の未知の生物と戦うことになったとしても――何を恐れる?
人生の本当の意味は「生きる」ことそのものにあるのだから!
さらに、この黄泉――そう、あの黄色い廃水の道で死ぬことはないとわかっているのなら、これは……!
「何を考えてるの?道に集中しなさい!」
そう言いながら、リリラアンナはこっそり呪文を唱え、氷の結晶を僕に投げつけてきた。
僕は慌てずに風の壁を作ってそれを防ぐ。
結晶が空中で止まった後、攻撃が失敗したと悟ったリリラアンナは、頬をふくらませ、風のように駆けてグラウシュミのもとへ寄っていった。
「グラウシュミ~」
「うん?」
「よーく探してみなよ、隅っこに貴重な宝箱があるかもしれないじゃん~」
リリラアンナがにやっと笑いながら言い、氷の塊を投げつける。結果、リリラアンナに HP-0.1 のダメージが入った。
「その宝箱、開けたら手は残るの?」
「開ける前に切っちゃえばいいんじゃない?ああ~!この平凡で絶望的な死に方、赤隕ウイルスが流行った時にパソコン壊れて直せない感じにそっくり~!だってナイルはインド半島にあるからねぇーー!」
「地理を選ばなくても、まず基礎の勉強くらいはしてこい。」
そう言って、軽くリリラアンナを小突いた。
その瞬間、リリラアンナはまるで演技のチャンスを逃すまいとするかのように、急に胸を押さえ、首を絞める仕草をし、口から泡を吹きながら、目を大きく見開いて天井を仰ぎ叫んだ。
「アアッ!心臓がッ!血が止まった!ガッ……!これで余は死んでしまうのだわ~!」
「演技うまくなったな……いや、さすがに大げさすぎない?」
「セリホ~!余はこれでお別れなのだわ!ああっ!!死ぬ、死ぬ、死ぬぅ!セリホ……お前……お前は……懸命に働きすぎても……絶対に……許さない……!」
「じゃあ本気で蹴るぞ。」
「お前マジで蹴ったのか?」
リリラアンナは腕にツルを巻きつけて空中にぶら下がり、空いている手で口の周りをぬぐいながら言った。
「もし手が速くなかったら、お前、今ごろ服を乾かさなきゃいけなかったぞ!!!」
「何言ってんだよ?君が下水道の近くで急にTポーズして歩こうとしたんだろ?」
「うるせぇ!デルガカナ!」
「呼んでも無駄だよ。単独じゃ証拠にはならないし。」
「間違ってる。資料があるから。」
「どこに?」
「頭の中に。」
「じゃ見せてみろ。」
「ちぇっ、賢い人にしか見えない。お前には無理だ!」
リリラアンナはそう言い終えると、再び「デルガカナ~!」と叫んだ。
しかし、誰も答えなかった。
「まさか、何かあったんじゃないか?遠くに行きすぎたのかな?」
「デルガカナが?絶対にない!」
リリラアンナは自信満々に言った。
「多分、隠し道で宝箱を見つけたんだろうね~」
「でも、魔法によって彼女は選ばれるんだ!」
グラウシュミが急に叫んだ。
「それって……血が減ってるってことか!?敵がいるの?!」